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創業者シンドロームとは?経営学者が解説!

書いた人

著者 / 中川功一(やさしいビジネススクール学長・経営学者)
経歴 / 元大阪大学大学院 経済学研究科 准教授
専門 / 経営戦略論・イノベーション・マネジメント、国際経営
主著 / 感染症時代の経営学・戦略硬直化のスパイラル・他
▷ 中川功一 研究業績リスト
▷ 「やさビ」学長中川について
近況 /「アカデミーの力を社会に」を掲げ、誰もが気軽に学べる完全オンラインの「やさしいビジネススクール」創立。
経営学講義&時事解説をYouTube配信中!

創業者シンドローム、創業者症候群(Founder’s syndrome)は、主にNPO法人を対象とした研究の中で見出された概念ですが、創業者社長の一般企業にも通用する、とても重要な概念です。創業者の人格と組織のヴィジョンや事業活動とが一体不可分であるため、創業者の影響力が大きすぎて、ガバナンスや承継に問題を起こす現象のことです。日本では昔からワンマン社長の弊害という言葉で語られていた現象ですね。

NPO法人や、創業社長の会社などの、創業者理念と人格を中心としてヴィジョン・戦略・事業活動が組み立てられている組織には、以下のような特徴がみられます。

・創業者自身が、組織と一体化しているという感覚を抱いている。周りのメンバーも、同じように感じている。
・意思決定権限が、創業者に集中している。決定は迅速だが、その根拠は創業者しかわからない。
・理事会のメンバーも、創業者個人を応援している。
・メンバーは、実務上必要なことを、すべて創業者に聞かないと仕事を進められない。
・創業者に、メンバーの採用や、理事の変更、事業の方針など、あらゆる権限が集中している。

これが創業者シンドロームの「症状」ではありますが、必ずしも悪いことばかりではなく、良い面も存在しています。

目次

創業者シンドロームがもたらす「メリット」

創業者の熱意が組織を引っ張るエンジンになります。…というよりも、創業初期の会社はむしろ「創業者シンドローム」状態でなければ成長できないと言っていいでしょう。創業者が全てをきちんとコントロールできている状態で、全てに熱量と知恵を注げる状態でなければ、初期のベンチャーやNPOは成功することはできません。創業者の熱意が、メンバーを動かし、資金を集める手段となり、組織の基本的な文化を形作っていきます。

この意味で、事業開始の初期はさほど創業者シンドロームを気にする必要はないかもしれません。事業が十分に大きくなった後もこのままだとすれば、ガバナンス上の問題や成長の限界を迎えてしまうでしょうし、承継も難しくなりますが…。事業開始初期はそんなことを気にすることもなく、創業者がでしゃばることを懸念せずに精力的に活動すべきです。

創業者シンドロームが引き起こす問題

ガバナンス

第一の問題は、組織のガバナンスです。ガバナンスとは、統治機構のことです。組織が大きくなり、利害関係者が増えれば、組織が行うあらゆる行為・決定について「なぜこういう行為・決定をしたのか」という説明責任(アカウンタビリティ)が求められることになります。それはすなわち、「行為・決定」が十分に内部組織で吟味され、外部からそれが監査されることが必要だということでもあります

ですから、上場を控えるような規模にまで会社が成長するころには、取締役会や、執行役員、あるいは社外取締役といった組織での意思決定の仕組みが整えられることになりますし、会社の日頃の行為であっても、なぜそういう判断をしたのか、ドキュメントが残されるようになっていきます。監査の仕組みや、株主総会などの機能も充実されていくことになります。

NPO法人で問題となりやすいのは、NPO法人ではもともとこうした内外のガバナンスの機構が、株式会社にくらべてはるかに簡素であるためです。そのため、どれだけ大きく成長しても、創業者個人の影響力が多大なまま残ることになりやすいのです。

もちろん、株式会社でも同様の問題は発生します。カリスマ・ワンマン社長だからこそ成長できたとともに、その社長だけに依存する意思決定体制は、ガバナンスの観点からは非常に危うい状態なのです。

事業承継

創業者シンドロームが大きな問題となる第2の点は、事業承継です。カリスマ経営者の引退後は、どんな会社でも大きな困難に直面します。松下幸之助さんの後に松下電器産業を引っ張った方々は相当に大変な思いをしたでしょうし、孫正義や日本電産の永守さんも、後継者の発掘に大変に苦労をしています。NPO法人では、いっそう創業者個人の理念と事業活動とが不可分となっていることから、だれが引き継いでも求心力の低下が否めず、整備されていない意思決定メカニズムのもとで苦労することになります。

組織としての成長の限界

法人の成長の方向性や程度が、完全に創業者個人の能力に依存することになります。大規模な組織がつくれなかったり、他者に意思決定を権限移譲できないために、自分の目の届く範囲までしか、会社が成長できないことになるのです。

戦略がアドホック(場当たり的)にもなりがちです。閃いたらすぐに実行できる、という意味では良い事かもしれませんが、ある程度組織が大きくなってくると、戦略転換のために起こる混乱も大きくなります。また、創業者の判断が間違っていたときには、大きな失敗となり、取り返しのつかないことにもなりかねません。

対応策

こうした問題があるがゆえに、NPO法人でも、株式会社でも、創業者はある程度会社が育った段階から、属人的・個人的なマネジメントを改め、ガバナンスの機構を整備し、後継者&人材育成を重点化させていく必要があります。信頼のできるNo.2、社外取締役、監査機構などが備わっていけば、創業者シンドロームは解消されていきます。

それは同時に、創業者個人が自由にどうこうできるステージから法人が羽ばたくことを意味します。もはや、創業者のための会社ではなくなるのです(所有権としては50%超を握っていたとしても)。創業者はこのバランスを上手にとることが求められているのです。

関西大・横山恵子先生たちによる実証研究

日本でも、直近、創業者シンドロームに関する研究成果が出されました。横山恵子・小室達章・津田秀和(2022)「NPOにおける事業承継の規定要因」『日本経営学会誌』50, 17-30.です。特に事業承継問題に注目したうえで、創業者シンドロームの実在と、対策を論じています。

事業承継を行ったことのある日本のNPO組織280社から、承継前後で収益、スタッフ人数、モティベーション、ミッションの達成度合いなどがどう変化したかを分析したところ、創業者シンドロームが発生していた会社では、承継後に収益、モティベーション、ミッション達成度にマイナスの効果が出たことが明らかとなりました

この研究のすぐれたところは、解決策をも検証していることです。この研究からは、友好な対策として理事会で後継者育成が議論され、方向性を明確にしておくことで、承継後の収益、スタッフ人数、モティベーション、ミッション達成度に、創設者シンドロームがもたらすマイナスよりもより大きなプラス効果がもたらされることが明らかになっています

かくして、やはり大きな影響をもたらしていたことが実証的に明らかにもなっている創業者シンドローム。きちんと対策を打てば乗り越えられるものですから、ぜひ、ワンマンの体制を乗り越えてさらに成長と存続を期するならば、対策をしておいていただきたいと思います。

著者・監修者

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