日本で一番最初に人事の最高責任者のコミュニティを作り、企画運営されてきました。
日経BP総研客員研究員、一般社団法人才知修養学舎代表理事、須東朋広先生にお越しいただきました。
須東先生、どうぞよろしくお願いします。
こちらこそ、よろしくお願いします。
須東先生、まずはこれまでの経歴など伺ってもよろしいでしょうか?
私が人事の関係に携わったのは、2003年に最高人事責任者のコミュニティを作るにあたりました。
最高人事責任者の機能と役割とは何か、ということですね。神戸大学の金井先生と、当時一橋大だった森島先生にご協力いただいて、CHOという現在のCHROを名付け、その本を書きました。それから約20年、この最高人事責任者のコミュニティを企画運営しています。よろしくお願いします。
この記事は、最高人事責任者【CHRO】とは何か。概念提唱者・須東朋広先生へのインタビュー!【シリーズ人的資本経営】を元にした人的資本経営と日本の組織変革に関する記事です。
さっそくですが、当時はCHOと言っていたんですね。この名前の変遷には何か意味があるのでしょうか?
それは、元々はCHROなんですけど、当時は、CFOやCIOなどの3文字だったので、それに合わせてCHOとしました。
名前が変わったからといって、その人事の最高責任者がやるべきことは、CHRO、つまり現在の形に変わらないということなんでしょうか?
そうですね。当時、2003年には大手製造メーカーがリストラを行い、その後どうするか、どう会社を作っていくか、という点でコミュニティを開始しました。いろいろと変遷してきた中で、現在では株主対応の話も多く上がってきており、機能や役割も変わってきています。
その変遷について詳しく伺いたいのですが、元々の人事最高責任者、CHROの役割は何で、近年ではそれがどう変わってきたのでしょうか?
言うとすれば、人事部長と執行役員人事部長、取締役人事部長という三つがあります。
これらは全て人事責任者でありますが、それぞれ昇格基準が会社により異なります。
人事部長は現在の会社の人事や労務等、組織で起こっている問題に対処できる人が適任です。
執行役員の人事部長となると、経営にも関与し、組合と社員の対立を解決できる人が適任です。
取締役人事部長となりますと、ビジネスの拡大や、企業価値の向上に貢献できる人が適任です。
それならば、この最高人事責任者CHROとは、社内的な人材のマネジメントだけでなく、それを経営戦略に結びつけ、企業価値の向上に繋げるという責任を担うということになるのでしょうか?
そうです。逆に言えば、取締役は経営者と社外取締役で構成される場合があります。その場合は執行役員になるかもしれませんが、企業価値を高め、ビジネスを拡大し、企業の市場価値を高める役割を持つ人はCHROやCHOという肩書が付いています。
それは、まさに企業の深願ではないでしょうか。
人を育てつつ企業価値を高めることは、理想的な状況だと思います。
具体的にどのような仕事の内容や手段を通じて、人材の育成と企業価値の向上は両立できるのでしょうか?
人材の育成と企業界の向上
基本的にはまず最初に、例えば企業の中長期経営計画というところで、人事政策や人材戦略をきちんと構築し、経営陣や株主から了承を得ることです。
その後、それを具体的に社内に展開していくわけですが、そのときに各事業部長と一緒に議論をして、各部門が何を具体的に行うかを決めていきます。
そこには、人事制度やダイバーシティ&インクルージョンなどが含まれてくるでしょう。
また、大きな部分としては、現在のリーダーの後継となる次のリーダーを持続可能にすること、そして次のリーダーをどう作り上げるか、どのような人を管理職に選ぶかも大きなポイントになります。
それは、現在言われている「戦略人事」の概念と同じものでしょうか?
そうですね。それは戦略人事というカテゴリーに入ると思います。ただ、戦略人事というと、人事管理が主体になるところですが、人的資本経営という概念を考えると、人が資本になるという視点が重要になります。人事戦略管理も重要なポイントではありますが、社員や社外の人々に向かって、「ウチの企業は素晴らしい」と、エンゲージメントを高めるような政策や、キャリア支援や働き方の改革などが必要になると思います。
とても興味深い点です。人事管理と人的資本経営というのは、根底の思考が異なるのでしょうか。私の理解が間違っていなければ、人事管理は管理側の視点が強い一方で、人的資本経営は人が主体になるのではないでしょうか。つまり、活躍する人が主体となり、それに伴い役割が転換するということでしょうか?
そうですね。これまでは企業が雇用者であるという形でしたが、現在は企業と社員が対等な関係であると考えられています。これまでは製品を作れば売れる時代で、管理することと技能を高めることが重要でした。しかし、現在は創造やイノベーションが重要なポイントとなっており、それには社員一人一人の創意工夫や自分ごと化するような状態が必要となります。そのため、人事管理と人的資本管理は異なると思います。
そのような変革を導いて、仕組みを整え、実行するのがCHROの役割という認識で良いでしょうか?
はい、その通りです。それが進行中であり、我々が議論している役員の多くが、そのことを念頭に置いて人事を行っています。
具体的には、現場で人事担当の役員が苦労している点やつまずきやすい点があれば、それについて教えていただけますか?
一つは、大きく言うと、会社で様々な施策を立案する際、現場がキーとなるということです。具体的には、部長や中間管理職、課長といった役職の方々が重要な役割を果たします。こうした役職の方々がきちんと方針を理解し、それを部下に伝達していく流れが非常に難しいのです
もう一つは、これまで社員は会社からの指示に従って仕事を行い、それが評価されてきました。しかし、これからは、企業の変革に対応するために、一人一人が自分自身で創意工夫を行い、企業の変革に貢献することが求められます。そうした状況で重要になるのが、キャリア自立です。つまり、自分の仕事を自立し、自分の人生を自立すること。これらが大きな課題で、企業文化をどう変えるかが根本問題となっています。
なるほど、そうすると、制度や仕組みを変えるのが基本的なCHROの役割であるとともに、本質的には企業文化を変革することが重要な仕事という認識で良いのでしょうか?
制度そのものより企業文化を変えてゆく
はい、そうです。制度やシステムも重要ですが、本来の目的は戦略を実現することです。そのためには、一人一人が企業文化について理解し、それを自分のものとし、それに従って行動することが最も重要です。一人一人の行動が変われば、企業文化が変わるのです。この視点を含めて、人事制度や人事管理システムを変更することが重要なのですが、問題は制度を変えることから始めるという運営がこれまで行われてきたため、経営者や経営陣からの評価が低いということです。
ありがとうございます。CHROは魅力的なポストで、これから社会的にも重要性が増してくると思います。そんなポストを目指す際に必要となるスキルや能力は何でしょうか?
CHROに求められる能力コンピテンシー
これについては、最近3年ほどで、人的資本経営の観点から変わってきました。基本的に、会社の人事部長からCHROになる割合は、約20%しかいないと言われています。残りの80%はどうなっているのでしょうか。外部から人事のプロフェッショナルとして、外資系企業等でキャリアを積んだ方々がCHROとして入社するパターンや、他の部門からの転職者、例えばCFOやCDO等が人事役員に異動するパターン、または子会社の社長が人事のトップになるといったパターンがあります。この傾向から見ると、ビジネス力や変革力といった能力がCHROには求められているのではないかと思います。
非常に納得のいく説明でした。人事専門家がそのまま人事の最高責任者になれるわけではなく、ビジネス全体の理解や現場の知識も必要だということですね。
そうですね。結局のところ、人事は会社のリーダーシップが重要で、CHROはCEOの思考を理解し、必要に応じてそれを変えることが求められます。CEOとのコミュニケーションを通じて、CEOの戦略を理解し、それに基づいて企業の変革を進めることが重要です。それを達成するためには、企業全体で個々の従業員が仕事とキャリアについて自立する必要があります。中間管理職や部門長などが、CEOの戦略を理解し、その下でビジネスを運営し、人材を育成することが非常に重要な要素であると思います。
「なぜ企業が変革できないか」などについては、ライブ講義でお話したいと思います。
須東先生、ありがとうございました。本日のお話は非常に勉強になりました。
どうもありがとうございました。
私たちのビジネススクールが主催する特別セミナーシリーズ「人的資本経営の最前線」には、須東先生も登壇されます。人的資本経営の実現、人材開発、組織開発、そしてCHROとして何が求められるのか、といった話を須東先生から直接聞ける機会です。興味のある方はぜひ参加ください。開催日は2023年8月8日20時からとなっています。皆さん、お待ちしております。
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無料ですので、須東先生の話をさらに聞きたい方は、ぜひご参加ください。
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著者・監修者
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1982年生。経営学者/やさしいビジネススクール学長/YouTuber/東京大学 経済学博士
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専門は、経営戦略論・イノベーション・マネジメント、国際経営。
「アカデミーの力を社会に」をライフワークに据え、日本のビジネス力の底上げと、学術知による社会課題の解決を目指す。
「やさしいビジネススクール」を中心に、YouTube・研修・講演・コンサル・著作等で経営知識の普及に尽力中。
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多摩大学大学院 経営情報学研究科 客員教授、日経BP 総合研究所 客員研究員、一般社団法人才知修養学舎 代表理事。
詳しい講師紹介はこちら website facebook Amazon
法政大学大学院政策創造学科博士後期課程満期退学。これからの企業人事責任者の在り方を研究する機関の立ち上げ、事務局長を経て、雇用キャリア政策を提言する研究所を立ち上げ・従事する。
現在は社団法人を立ち上げ組織におけるサイレントマイノリティの活かし方・活躍に向けた提言活動を行っている。
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