組織行動論とは
組織行動論とは、組織の中における、人の心理や行動を科学する学問です。
組織行動論とは、私達が働く時の感情―モチベーション、公平感、自己肯定感、有能感、あるいはストレスといった心の動きや、私たちの組織の中での具体的な行動―リーダーシップ、進取的行動、コミュニケーション、はたまた他者との衝突(コンフリクト)などを研究対象とします。
ふだん、ビジネスをしていて、組織行動論という言葉を聞くことは、全く無いのではないかと思います。しかし、実はこの組織行動論、経営学の中核理論分野のひとつです。経営学は大きく分ければ①商売をうまくやるための理論群(マーケティングや経営戦略論など)と、②人・モノ・カネ・情報といった資源を上手に編成し、組織を作り、組織を動かすための理論群(経営組織論、組織行動論、財務会計など)に分かれます。後者のほうの、資源を編成し、組織をつくり、組織を動かすにあたっての一つの基礎となるのが、組織行動論なのです。
(動画での解説はこちら。ご覧頂きながら解説を読むと理解度アップ!)
結局、事業というものは、どこまでいっても人がやるものなのです。最大限、自動化し、デジタルや機械の力を頼るのが経営のセオリーですが、最後には人の手によって運営されるものが事業です。
だとすれば、その人がどういう行動原理で組織の中で動いているかを知らなければ、上手に事業など営めないのです。
組織行動論は、20世紀の産業社会の進歩とともに発展してきた
組織行動論は、20世紀に大きな発展を遂げた学問です。その理由は、20世紀という時代が「企業の時代」だったからに他なりません。
人類の生活において、企業というものが当たり前に存在するようになったのは、実は本当にここ200年位のことなのです。もちろん、それまでにも企業はありましたが、それは一部の商人や国がやっていることでした。現代のように、当たり前のように就職し、人生の大半を企業に所属して過ごす…という暮らしぶりは、本当にこの20世紀、それも後半に入ってからなのです。
そんな、急速に発展した産業社会のなかで、人々は突如として企業のなかに放り込まれ、そこで生涯の賃金を得て、働き、生きるようになった。それは、大きな衝撃だったと思います。
だからこそ、そこで働くにあたっての心理や、よき働き方が、組織行動論として研究されるようになったのです。
組織行動論の分析視座
組織行動論では、3つのレベルの分析視座の、原因と結果の関係を探求していきます。
ミクロレベル
第一のレベルは、ミクロレベルです。組織の中の最も小さい単位…個人に焦点をあて、その心理状態や、能力状態、他者との関わり合いなどの原因が、どのような個人成果:生産性、イノベーティブネス、ストレスなどに結びつくのかを研究します。
メゾレベル
第2のレベルは、メゾレベルです。集団、ないしはチームや職場を対象とします。人間は社会的動物ですから、集団の中では固有の行動をします。リーダーシップや、信頼、友情、コミュニケーション、衝突(コンフリクト)、政治などです。それらの状態が、どのような集団レベルでの成果:集団としての生産性、イノベーティブネス、維持結束などに影響を与えるのかを問います。
マクロレベル
第3のレベルはマクロレベルで、組織全体のことを問います。組織の設計、権限移譲、制度やルール、あるいは組織文化といった組織全体の条件が、組織全体としての成果:売上、収益、生産性、イノベーションなどにどう作用するかを問います。
そして、組織行動論では、これら3つのレベルの間の相互作用をも研究するのです。こうして、現代までにたいへん緻密な研究が成されてきました。
組織行動論は、「恥知らずの折衷主義」な学際的分野である
事業組織の中での人間行動を探るため、組織行動論は、きわめて学際的な性質を帯びています。現代日本の組織行動研究の第一人者、服部泰宏先生(神戸大・APS「組織行動論」担当)は、そんなこの学問の性質を「恥知らずの折衷主義」であると言います。
数学や物理学などは、基本的に、純度の高い学問です。こうした科目は、リアリズムを捉えるよりも、実験室のような完全状態を作り出した中で、理論が実証されるかを問います。
一方で、社会をとらえようとする場合には、様々なその「純度の高い理論」を混ぜ合わせて、現場の状況に合わせて分析をするのです。学問としての純度、理論の美しさを損なうことを厭わずに、現場・現実をよく見ようとする立場のことを、恥知らずの折衷主義と呼ぶのです。
実際、組織行動論は、心理学、経済学、政治学、社会学、人類学など、使えそうなありとあらゆる理論を用いて、「組織の中の人」をリアルに描写しようとします。…それだけ、この学問は、人の生き方、働き方に対して心を寄せている科目だと言えるでしょう。
組織行動論は、私たちの「生きる」を科学する学問である
ところで、組織行動論は、21世紀に大きな転換を迎えている学問でもあります。
組織行動論が20世紀に大きな発展を遂げた背景には、正直なところ、組織の中の人々を「どう管理するか」という事情があったことが否めません。会社を経営する側が、そこに集った労働者たちがなかなか上手くは働いてくれない様子をみて、彼らの心をどうつかみ、同訓練して、どのように働かせれば会社が上手くいくのか…と悩んだからこそ、この科目は発展しました。ですから、この科目は、―そして経営学という科目は、20世紀において、「人々を支配するための学問」という側面があったのは事実なのです。
しかし、現代ではその役割を大きく変えて、組織行動論は私たちのために存在しています。
理由はどうあれ、私たちは「組織の中で、私たちはどう生き、何を感じ、どう働いているのか」の莫大な知識を獲得したのです。
人を支配するためではなく、自分自身の働くを善きものとするため、組織行動論は今日でも変わらず経営学の中心理論の一つとして、学ばれ、研究が続けられているのです。
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著者・監修者
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1982年生。経営学者/やさしいビジネススクール学長/YouTuber/東京大学 経済学博士
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専門は、経営戦略論・イノベーション・マネジメント、国際経営。
「アカデミーの力を社会に」をライフワークに据え、日本のビジネス力の底上げと、学術知による社会課題の解決を目指す。
「やさしいビジネススクール」を中心に、YouTube・研修・講演・コンサル・著作等で経営知識の普及に尽力中。
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神戸大学大学院修了後,滋賀大学経済学部,横浜国立大学経営学部を経て,現職。
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専門は組織行動論,人的資源管理論。人材の採用・評価,組織内における評判など,優秀な人材の特別扱いなど,組織における個人の「優秀さ」に関わる研究活動に従事。経営学と実践との関わり合いにも関心を持つ。
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