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「承認欲求って、いいもの?悪いもの?」同志社大・太田肇先生第2回!【新シリーズ人的資本経営2】

中川先生のやさしいビジネス研究、特別講義シリーズ「人的資本経営」では、産学官それぞれから日本の第一人者の方々をお招きし、人的資本経営に関する現状や重要なキーワードについてお話を伺っていく予定です。

本日は第2回目、太田先生は、承認欲求や同調圧力など日本の社会組織の問題をずばり踏み込んで研究をされておられる第一人者でいらっしゃいます。

中川 功一

太田先生、どうぞよろしくお願いいたします。

太田 肇 先生

よろしくお願いいたします。

中川 功一

本日は、どういったお話をお伺わせていただけるのでしょうか?

太田 肇 先生

今日は最近話題になることの多い承認欲求、特に日本人特有の承認欲求が組織やマネジメントとどのように関係しているかについてお話ししていきます。

中川 功一

私もちょっと目立ちたがりなものでこの承認欲求が、どういうメリットデメリット両面あるのか、お伺いしたいです。
ぜひよろしくお願いいたします。

太田 肇 先生

それでは、お話を進めさせていただきます。

この記事は、「承認欲求って、いいもの?悪いもの?」同志社大・太田肇先生第2回!【新シリーズ人的資本経営2】を元にした人的資本経営と日本の組織変革に関する記事です。

目次

承認欲求最強説

最近、飲食店などでの不適切行為が承認欲求という言葉で悪い意味で使われることが増え、多くの人が承認欲求はそういうものだと捉えているようです。しかし、実際には承認欲求は極めて特殊な現れ方をしており、深い意味を持ち良い側面も備えています。今日はその点について見ていきたいと思います。

『嫌われる勇気』がベストセラーになった背景。

私は20年以上前から、人間の持つ承認欲求、特に働く場における承認要求の現れ方に注目しています。契約では自己実現要求や達成要求、社会的要求に注目されることが多いですが、承認要求はそれほど重要でないのでしょうか。私はそうではなく、むしろ承認要求は働く人にとって非常に重要だと考えています。

実際に企業で働くマネージャーに聞いても、現場で働いている人の多くは承認欲求によって動かされていると言われます。特に、数年前にベストセラーになった『嫌われる勇気』という本が、承認欲求を捨てるべきだと主張しています。それだけ多くの人が承認欲求に囚われていることの表れだと私は考えます。つまり、捨てようにも捨てられない現状があるわけです。

自己効力感、自己実現欲求、達成欲求、権力欲などと結びつく。

承認欲求が強力である理由の一つは、他のさまざまな欲求や感覚と結びついていることです。例えば、自己効力感や自分の能力に対する自信は、認められることで実感できるようになります。また、周りから認められることで、自己実現や達成感が得られるという側面もあります。さらに、他人からの承認が支配欲や権力欲を満たすこともあるため、承認欲求は見えにくい背後につながっています。

しかし、承認欲求は正体が見えない。 

意識調査を行っても、自分が承認欲求で動かされていることをあまり認めない人が多いです。特に研究者などは、自己実現や達成などの動機を主張することが多いです。しかし、実際には出世や名誉を求めることは普通に口にしません。そのため、意識調査の結果を素直に受け取り、自己実現や達成だと解釈することもあります。

そうした理由があって、承認欲求は強力であるにもかかわらず、これまで低評価されていました。そして、不適切な形で現れたものばかりが承認欲求だと捉えられてしまったのが現状です。

しかし、承認欲求を理解し、適切に対応することで、働く人たちのモチベーションを向上させたり、チームの協力を促進したりすることが可能です。承認欲求を無視するのではなく、その持つポテンシャルを活用して、働く場をより良いものにしていくことが重要です。

日本人の承認欲求

この承認欲求について、私は日本人特有のものがあると以前から考えていました。

欲求自体はどこの国の人でも同じですが、その現れ方が周りの環境が違うだけに、日本人特有の現れ方があるということです。この承認欲求についてマズローは、自尊の欲求と尊敬の欲求に分けています。自尊の欲求というのは、自分が価値ある存在だと自分で認めることです。しかし、それだけではなく、周りから尊敬されたいとか名誉が欲しいといったような欲求もあります。

特に日本人の場合には、自尊の欲求だけではなく、尊敬の欲求も共同体、つまり組織や集団の中で満たそうとする特徴があります。日本人が承認欲求を満たそうとする理由は、組織や会社が共同体的な性格を持っているからです。会社というのは、単に仕事をする場だけではなく、そこで人間関係ができて、生活を送る場でもあるわけです。つまり、生活全体と会社組織が深く関わっていることから、そこで認められることが非常に重要です。

「自尊の欲求」だけでなく、「尊敬の欲求」も共同体の内部で満たそうとする。

背景にある構造
①共同体型組織・社会
②タテ社会
(上司と部下、店と顧客、元請けと下請け・・・・・)

また、中根知枝さんのタテ社会論にあるように、共同体の中では縦の序列ができてきます。

例えば、上司と部下、店と客、元請けと下請けなど。

会社の中だけではなく、社会全体が縦の関係の中に位置付けられ、縦の関係が支配する構造になっているわけです。
そのため、承認欲求が特に上下関係で満たされようとする特徴があります。

特に、「偉い」という言葉はこの現象を象徴していると思います。偉いというのは、ただ権力や権限を持っているだけではなく、人格的な序列を表すものです。そこに日本人の承認欲求の現れ方の特徴があると考えています。

中川 功一

偉いという言葉は、権力だけでなく、人格的にも優れていることが尊敬の対象になるのですね?

太田 肇 先生

はい。そのため、出世競争が熾烈になるわけです。

中川 功一

なるほど、これはまた今日もまた一つ勉強になりました。本当に開眼の思いです。

承認欲求の功罪

このような特徴を持つ承認欲求ですが、承認欲求には良い面と悪い面の両方があります。この講義を通して、まず良い面について見ていきたいと思います。

功: 内発的モチベーション、自己効力感、評価・処遇に対する満足度を高める。

私は10年余り前から、企業や病院、学校、幼稚園、役所などで実際に承認をすることでどのような効果があるかということを実験してきました。その結果、いろいろなプラスの効果があることがわかってきました。

例えば、承認された人は内発的モチベーションが高まります。内発的モチベーションとは、外から得られる報酬ではなく、仕事そのものが楽しい、面白い、挑戦しがいがあるという内側から出てくるモチベーションです。

これが承認によって高まるということです。

また、認められることで自己効力感、つまり自分には物事を成し遂げる力があるという感覚が得られます。そうすると、何かに挑戦しようという意欲も湧いてきます。さらに、自分の評価や処遇に対する満足度も高まるという効果があります。

これらの効果があることが、実験によって確認されました。

罪:テレワーク導入をはじめ、組織・制度改革の足かせに。

一方でマイナスの面もあります。

例えば、テレワークがコロナ禍によって普及しましたが、テレワークを導入することで認められる機会が減るため、不安を感じる人が増えてきました。

また、組織改革の中で組織をフラット化、スリム化しようとすると、管理職のポストがなくなり、自分の偉さを示す機会が減ることから反対意見が出ることがあります。

さらに、様々な制度を変えて無駄をなくそうとしても、それが進まないことがあります。例えば、会議が非効率だから減らそうとすると、管理職にとってはその場が奪われることになるため、賛成しづらいのです。これらの事例からも、組織の改革が進まない足かせになっていることがわかります。

承認欲求の呪縛
→不適切な行為、ストレス、メンタルヘルスへの悪影響、成績の低下。

承認欲求とは、一度獲得するとそれを失うことを恐れる特徴があります。つまり、承認欲求に縛られてしまうわけです。これが、最近問題になっている不適切な行為に繋がっています。目立つために、不謹慎なことや不適切な行為を行ってしまうのです。例えば、仲間内で特定のキャラクターとして期待されるために、その期待に応えるために過激な行為を行ってしまうことがあります。

さらに調査をすると、学生にも同様の問題が見られます。高校や中学校の頃、先生や親に良い成績を取って褒められたことがあると、最初は嬉しくてやる気が出るものの、だんだんと親や教師のために頑張っているように感じ、大きなストレスになってしまいます。そして、その期待に応えなければならないというプレッシャーに押しつぶされることがあります。これは、学生だけでなく、オリンピック選手や野球選手など、注目される立場の人にも共通しています。期待されることで、プレッシャーに負けて本来の力を発揮できなくなることがよくあります。

このように、承認欲求は良い面だけでなく、悪い面もあることを知っておく必要があります。

中川 功一

承認欲求は一概に良いものでも悪いものでもなく、上手に付き合うべきものだということでしょう。どのように承認欲求と上手に付き合っていけばいいのか、そのあたりの知恵を共有できるとありがたいですね。

太田 肇 先生

そうですね。付き合い方次第だと思います。

中川 功一

どのように承認欲求と上手に付き合っていけばいいのか、そのあたりのお知恵の共有をお願いできますでしょうか?

太田 肇 先生

いくつかの提言をしたいと思います。

承認欲求とうまくつきあうには

① 承認欲求の棚上げ。

一つ目は、「承認欲求の棚上げ」という考え方です。

誰もが常に認められる必要はありません。自分が認められたいと感じる時だけ、その欲求にフォーカスし、それ以外の時間は承認欲求を棚上げして、仕事や学習に集中することが大切です。

人それぞれ、認められたい部分は異なりますので、自分が認められたい部分を見つけ、他の部分は周りの人を応援することで、皆で協力し合えるようになります。

②「もう一つの居場所」をつくる。

二つ目は、「別の世界がある」という考え方です。

一つの世界だけに固執し、その中で認められないと居場所がないと感じると、プレッシャーが大きくなります。しかし、別の世界を持つことで、一つの場で認められなくても、他の場で認められることがあれば、気持ちが楽になります。

例えば、仕事以外に副業や趣味を持ち、今の会社が一つのステップであり、将来的に独立すると考えると、相対的にプレッシャーが軽くなります。

③「降りる仕組み」をつくる。

三つ目は、期待に応えなければならないという気持ちが強くなると、大きなプレッシャーになり、メンタルヘルスを損なうことがあるため、期待を下げる仕組みがあると良いです。

例えば、最近では公立学校で、校長や教頭などの管理職が自発的に降格する制度が導入されています。これは良い制度だと思います。上から降格させられると、プライドが傷つき、周りからも評価されなくなりますが、自分から降格することで、そのような目で見られることはなく、いつでも無理なら一度降格して、力を回復して再挑戦することができます。

このような考え方を取り入れることが、承認欲求と上手く付き合うためには必要だと思います。

中川 功一

太田先生ありがとうございます。

今日の対談は、多くの視聴者の皆さんにとって新たな気づきが得られる内容だったと思います。承認欲求というものは、皆さんが認められたいと感じるもので、それに悩んでいる方や、メンタルに負担を感じている方もいらっしゃると思います。そんな方々の参考になればと思います。

中川 功一

大田先生、本当にありがとうございました。

太田 肇 先生

ありがとうございました。

優しいビジネススクール主催の特別セミナーシリーズ「人的資本権の最前線」では、大田肇先生による完全無料の特別講演が、2023年5月11日20時から開講となります。

皆さんが大田先生の話に感銘を受けたならば、ぜひ大田先生の講演会にご参加いただければ幸いです。

中川 功一

大田先生、本当にありがとうございました。

太田 肇 先生

ありがとうございました。

参考文献 

太田肇 『日本人の承認欲求 -テレワークがさらした深層-』新潮新書、2022年。
 同 『承認欲求の呪縛』新潮新書、2019年。
 同 『承認とモチベーション -実証されたその効果』同文舘出版、2011年。

著者・監修者

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