著者 / 中川功一(やさしいビジネススクール学長・経営学者)
経歴 / 元大阪大学大学院 経済学研究科 准教授
専門 / 経営戦略論・イノベーション・マネジメント、国際経営
主著 / 感染症時代の経営学・戦略硬直化のスパイラル・他
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近況 /「アカデミーの力を社会に」を掲げ、誰もが気軽に学べる完全オンラインの「やさしいビジネススクール」創立。
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SPA、垂直統合
SPA、Vertical integration
関連ワード
・SPA(エスピーエー)は「製造小売業」と訳されます。製造を自社(ないしは協力工場)で持っている小売業、という意味です。事業の中心はあくまで小売ですが、製造を持っている場合に、この会社はSPA業態である、とかSPA型であるという言い方をします。
・SPAは、Speciality Store Retailer of Private Label Apparelの略。1986年、米大手のGAP会長が自社の業態について説明した言葉ですが、直訳しても別に「統合型ビジネス」のような意味にはなりません。つづりをみてお分かりの通り、もともとはアパレル産業固有の用語で、自前で生産まで行うアパレルブランドのことを指していました。今日では、SPA型の名前で、他の産業でも、製造小売りの統合モデル一般に用いる。
・経営学の用語では垂直統合(Vertical Integration)と呼びます。製造と販売を結合することで、効率性を高めたり、情報のフローを良くして製品開発に活かしたりするのです。製造を外注するOEMとは逆の発想の戦略となります。どちらが有効かは、その産業の状況によります。他社がみな小売だけでしたら製造を統合することに固有の強みが生じますし、他社がみな製造を持っているようでしたら、製造を外注することで他者との違いが作れるかもしれません。
製造を自ら行うことで他者にできない差別化やコストダウンを行う
SPAのメリット
無駄な在庫の削減
小売の現場で得られた販売データをリアルタイムに製造に反映させることで、売れ筋商品を効率的に生産し、在庫リスクを最小限に抑えます。
価格の抑制
在庫リスクの削減、物流の効率化により、低価格での商品提供が可能になります。
品質の向上
特定の製造企業と独占契約を結ぶことで、技術や品質の差別化を実現できます。
トレンドに左右されない安定経営: ファッションやトレンドに依存せず、高品質な商品を安定的に供給することで、安定した経営基盤を築くことができます。
これらのメリットを享受することで、SPA企業は、低価格と高品質を両立させ、持続的な成長を実現することができます。
- 製造・物流・小売の統合
- 販売データに基づいた生産管理
- 柔軟かつ強固な商品開発
ユニクロは、これらの条件を満たすことでSPAモデルを成功させた代表的な企業です。同社は、製造から小売までを一貫して管理することで、無駄を徹底的に排除し、低価格を実現しました。また、ベーシックなデザインで高品質な商品を開発することで、トレンドに左右されない安定した需要を獲得しています。さらに、世界各地に店舗を展開することで、グローバルなブランドとしての地位を確立しています。
しかし、SPAモデルの成功は、これらの条件を満たすことだけで保証されるわけではありません。市場環境の変化や競争の激化など、様々な要因によって左右されます。常に変化を察知し、柔軟に対応していくことが、SPA企業にとって重要となります。
SPAとD2Cの共通点と違う点
D2Cは、メーカーが自社で企画・製造した商品を、中間業者を介さずに消費者に直接販売することで、コスト削減や顧客との関係強化を目指している点は同様です。
ただし、SPAは、ユニクロのように大規模な事業展開を行うことが多い。一方、D2Cは、ニッチな市場をターゲットとした小規模なビジネスも多くあります。
また、垂直統合の範囲: SPAは、製造から販売まで全てのプロセスを自社で管理する。D2Cは、販売チャネルを自社で管理することに重点を置きます。
共通点はありつつも、「SPAは、効率性を重視」「D2Cは、顧客体験とブランド構築を重視」というイメージです。
勝ち筋を描くことが鍵
製造を統合することで、固有の競争上の強みが作れるかどうか、がこの戦略を採用するかどうか、成功するかどうかの鍵となるでしょう。
その戦略的効果は様々であり、どこに狙いを定めるかで形が変わってきます。たとえば、
ユニクロのSPAは、コストダウンのため。
ZARAのSPAは、市場ニーズを即時反映した製品をつくり、かつ物流を自前で行って消費地にすぐに届けるため。
同じSPA、同じファストファッションでも使っている理由は違うのです
この戦略を利用する際には、どうしてそうするのか、という戦略的理由をもっての実行が大切となります。
例:ニトリ
アパレル以外の業種でSPAによって成功した典型事例が家具のニトリです。1967年に創業したニトリは、北海道を代表する企業のひとつで家具やインテリアの小売店です。
それまでの家具業界では、製造と販売が分かれていましたが、自前の工場という生産設備を持ち、企画・製造・販売まで自社で管理できるのがニトリの強みです。自社工場で家具を大量生産することができるため「規模の経済」(大量生産により、製品ひとつあたりの生産コストが下がること)を実現し、安価で高品質の家具を販売することに成功しました。家具業界での典型的なSPAの例です。
ニトリはさらに物流までも統合しています。製造から店舗までの物流をもつほか、顧客の家までの物流も担います。これによって、他社よりも高効率な物流システムを構築でき、いっそうのコスト競争力を獲得しています。品質とコストの両面で突出しているニトリは、日本の家具業界で断トツ1位の55%の売上シェアを支えています。
著者・監修者
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1982年生。経営学者/やさしいビジネススクール学長/YouTuber/東京大学 経済学博士
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専門は、経営戦略論・イノベーション・マネジメント、国際経営。
「アカデミーの力を社会に」をライフワークに据え、日本のビジネス力の底上げと、学術知による社会課題の解決を目指す。
「やさしいビジネススクール」を中心に、YouTube・研修・講演・コンサル・著作等で経営知識の普及に尽力中。
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