更新日:7月11日
AIという産業革命時代に求められるスキルとは?【やさしい統計学特別編】
ビジネスパーソンのためのやさしい統計学「特別編」
※YouTubeにて各シリーズ連載中
今回は、ビジネスパーソンのためのやさしい統計学、特別編としまして、今回がいよいよ一連のシリーズの最終回になります。今回は、データサイエンスの最先端、AI。このAIについて、数学的な側面ではなく、社会科学の観点から、歴史上どういう意味を持っているのか、その歴史の分岐点にいる私達が、どういうふうにしてこれから先の時代を生き延びていけばいいのか?そんな話を最後にしておきたいと思います。
AIとは?
AIというのは、アーティフィシャルインテリジェンス、人工知能を意味する言葉です。このAIというもので、今私達の社会は確かに変わろうとしているわけです。
そのベースになってきているのが、これまで「やさしい統計学」で紹介してきた、回帰分析だとかベイズ更新だとかの様々な手法です。ータというものを読み解いて、正解を編み出していくのがこの統計分析であったとするなら、それを機械にものすごい精度、ものすごいスピードで実行させることによって、データをインプットされれば、たちどころに精度の高い正解を求めてくれるのがAIなのです。
今、道路は安全なのか?だとか、お客さんは商品買ってくれる意思があるのか?だとか、今この人は何を喋っているの?だとか。
私達が生活の中で発する、様々なデータを機械が読み取って、私達の暮らしのために機械が動いてくれる、そういう時代が訪れようとしているんです。
例えば、自動車の自動運転。自動運転とは数百、ひょっとしたら数千のAIというものの集合体なんですけれども、目の前に自動車がある?信号は何色?道はどういうふうになっている?歩行者がいるのか?そういった様々なことについて機械が逐一判定・判別をしていって、車の周りの状況というのを、つまびらかにする。
そしてその上で直進すべきなのか?左折すべきなのか?停止すべきなのか?どちらに向かうべきなのか?そういったことを機械が判定して、私達が運転をしなくても、代わりに判別して自動的に運転してくれるのが、自動運転のシステムなんです。
こんな調子で、機械が様々な情報を判別できるようになり、その命令を受け取ってロボットが私達の代わりに働いてくれるというなら、社会の多くの仕事を機械が担えるようになります。
かくして、AIは私達の社会を一変しようとしているのです。
技術革新の違い。2000年頃といま、何が違う?
ここで、とても大切なことがあります。このAIというのは人類の歴史における、何度かあった大きな分岐点の一つなんだということなんです。
2000年頃から、人類のイノベーションは確かに加速してきている。ですけども、2000年頃と今とでは、イノベーションの質って実は違うんです。これ、実は学者たちは認識していることなんですが、、ぜひ皆さんにも知っておいていただきたいことなんです。
2000年頃、例えばどういう商品があったかと言えば、iPodですね。もう若い人は知らないでしょうか笑。iPodというのは、iPhoneが出る前にアップルが作っていた音楽プレーヤーで、これがめちゃくちゃイケてた(古)から、Appleは大きく成長できたんです。そもそも、このiPodの発想で、携帯電話作っちゃおうぜ!っていうのがiPhone。
はたまた、この時代に大きな成功を収めた会社の一つが任天堂です。当時大ヒットしたのは、ニンテンドーwii。このモーションセンサーを使って人間の動作で遊ぶという新しいコンピューターゲームの未来を切り開いたのがwii。
また、2000年頃から、大きく成長した産業のひとつが、液晶ディスプレイです。
これらのイノベーションと、今起こっている、AIやロボットのイノベーションって、何が違うと思います?
これ、知っておいていい概念じゃないかと思うんです。実は、この先ほど挙げたiPodだとかwiiとかとAIとかの大きな違いというのは、同じく技術革新であっても・・・2000年代ぐらいの技術革新というのは、専用技術の革新だったんです。SPTという用語が使われるんですけども、スペシフィック・パーパス・テクノロジーのイノベーションだったのですね。
専用技術というのは、用途の決まっている技術。iPodは音楽を楽しむ。Wiiはモーションセンサーで遊ぶ。ディスプレイは画像を表示する。テクノロジーと用途とが完全に1対1関係になっているようなもの。
これに対してAIとかロボットは、ジェネラル・パーパス・テクノロジー、GPTというふうに言いまして、汎用技術という言い方をするんですね。
AIは、自動運転にも使えます。囲碁や将棋の勝ちパターンも提示できます。音声だって認識できます。顔認証もできます。様々な用途があるんです。
ロボットだってそうです。建設現場に、介護に、外食産業に、コンビニに、ショッピングモールに。いろんなロボットの用途が出てくる。
この区別が、めちゃくちゃ重要なんです。
過去の汎用技術革新とは
過去、人類史において、大きな汎用技術革新があったことというのは、実はたかだか4回ぐらいしかないんですね。今回が5回目ぐらいなんじゃないのか?というふうに歴史学者たちは言っているんですけれども、最初の1回目は何なのか。
最初は火の使用であろうと言われてます。火というものを使えるようになったことで、食品を焼けるようになった。生物も安全に食べられるようになった、あるいは燻して保存をするってこともできるし、木なんかを加工する、鉄なんかを加工する、高度な火力を使って様々なことができる。という形で、この火の発見と使用というのは、まさに汎用的用途に使える革新だった。
これは有史以前の話。
では有史以後はというと、長らく飛んで、2回目はイギリス産業革命。有史からカウントすると、これが第1回目の産業革命だとされます。工業機械の発明が中心。何か、物を作ったりするときに、機械というものを使う。作業の機械化です。
今までも、人間は道具を使うことがあった。畑を耕すのに鍬を使うだとか、稲を刈るのに鎌を使う、木を切るのに斧を使う、と専用用途だったわけです。様々な用途に汎用的に機械を導入していくようになったのが、産業革命です。このときはまだ動力は人力ですが、人間が操作をしていれば、機械が自動的に物を作ってくれるというのは、本当に大きなアイディアなんです。
そして、ほどなくして起こるのが、第2次産業革命(人類通算3回目の汎用技術革新)です。ここで、動力が、人力から機械に代わります。蒸気機関、電気、内燃機関。人類は、人力以上のエネルギーを算出することに成功するのです。
機械がエネルギーを生み出し、機械が加工する。この2種類の機械化が起こり、現代産業が形作られていきます。
そこからずっと時代が下って、20世紀に入って、第3次産業革命(通算4度目の汎用技術革新)が起こるんです。コンピュータの登場です。操作制御の機械化です。
衛星の軌道計算をしたり、打ち上げの計算をしたりとか、そういうようなことにも使えるし、財務経理ソフトというようなものにもできるし、表計算ソフトになるし、文章入力ソフトにもなるし、このコンピューターというものは何にでも使うことができます。
これらに続いて、都合5回目の汎用技術革新、第4次産業革命が、AIなんです。有史以後でわずかに4回目の産業革命が、いま、起こっている。
今、起こっているのは「産業革命」
かつて産業革命が起こった後には、私達の社会は本当に大きく様変わりしたんです。機械が労働者の手から仕事を奪い、機械が自動精算をするようになった・・・これが起こったわけですね。
その結果、私達の働き方ってガラリと変わるんです。第1次産業革命の当時は、機械打ち壊し運動なんてあったけど、悲しいかな、私たちはまだ働いてる。機械は、仕事を奪ってくれてない笑。
じつはこれが大切なところで、機械が仕事を代替することで、私たち人間が行う仕事の内容が変わってくるんです。
第1次・第2次産業革命ののち、人類の仕事は、加工作業から、ホワイトカラー労働とエンジニアリング中心になっていった。
コンピュータの登場からは、ソフトウェア・エンジニアリングが産業の花形となった。インターネット産業が隆盛した。
それでは、いま、AIが登場したら…何が起こるか、皆さんも想像がつくはずです。
なくなる仕事・必要になる仕事
だとすればです、今このAIというものが産業革命を起こしているのであるとすれば、私達はそれにどう対応しなければいけないのかといえば、これから、社会の変化に応じて、なくなる仕事と必要になる仕事がある、ということを認めないといけません。
今度どんな仕事がなくなるのかって世界中の有識者がやってるいろんなレポートが出されておりまして、これはそれなりにちゃんと見ておくべきだろう!と思います。AIができないのは何なのか?繰り返してない業務ですね、新しいことへの対応力、全く別のことを考えることをはたまた、人の心を癒すことを、人の肉体に働きかけること。
こういった分野は機械ではできないわけですね。
人のハートや体に訴えかける働き掛けるタイプの仕事か突発事象に対して、その場で判断をしながら行動するタイプの仕事、はたまたクリエイティブな仕事、こういったものが大切になってくると考えられています。
「AIを使う人」=重要
もう一つ重要なってくる仕事は・・・かつて機械と動力源が生まれて、そこから生まれてきた重要な仕事が、エンジニア。コンピュータが生まれて、SE。ならば、AIが生まれれば…当然、データサイエンティストが必須の仕事になります。
産業革命期の発明を振り返ってみよう!
ただしです!エンジニアだけが大切なんじゃないです、産業革命期にはたくさんの事業が生まれましたが、これらのものはどうやって生まれたんですか?と考えれば・・・皆さん、私の言ってる意味、わかりますよね。自動車事業、電力事業、電信電話事業。これらは、エンジニアさんがいれば生み出されるわけでないですね。
企業家がいたから。事業を起こそうという人がいたから、社会に普及していった。
必要になってくるのは、エンジニアさんと、企業家なのです。
これを使ってビジネスを起こそう!というマインドが、そういうもの持った人がエンジニアさんと組んだときに、それは事業として成立するわけなんです。
「AIを扱う人材」技術者と企業家
そんなわけで、このAIという第4次産業革命の時代の花形は、人のハートと身体にふれるしごと、AIのエンジニア、そして、企業家になるのです。
AIを使って何をする?エンジニアさんたちと組んで何をする?ということで、企業家さんの役割が、日増しに高まってきている。
そんなわけで、時代はイノベーションの時代に突入してきているわけなんです。
何もAIだけじゃない。このAIというものがもたらす、大きな社会構造、産業構造の転換の中で、様々な新しい事業が生まれ、そして他方で様々に要らなくなる仕事というものが生まれてくる。
その変革期において、あなたにひょっとしたら今一番必要な力というのは、新しい事業を創造し、それを経済的にも社会的にもサステイナブルに提案し社会に定着させていくという企業家のスキルかもしれません。
ぜひ、この時代の変曲点にいるんだということを皆さん理解いただいた上で、私からのこのメッセージを受けとめてもらえたらと願っております。
著者・監修者
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1982年生。経営学者/やさしいビジネススクール学長/YouTuber/東京大学 経済学博士
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専門は、経営戦略論・イノベーション・マネジメント、国際経営。
「アカデミーの力を社会に」をライフワークに据え、日本のビジネス力の底上げと、学術知による社会課題の解決を目指す。
「やさしいビジネススクール」を中心に、YouTube・研修・講演・コンサル・著作等で経営知識の普及に尽力中。
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