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定義から学ぶ「リスキリング」。リカレント教育とはどう違うのか?【人的資本経営】藤本真先生(労働政策研究・研修機構 主任研究員)

目次

リスキリング(Re-Skilling)とは

中川 功一

リスキリングについて。

少し前まではリカレント教育と称されていました。この言葉について、改めて学ばせていただければと思います。よろしくお願いします。

リスキリングについてですね。

中川先生がおっしゃった通り、2020年前後にはリスキリングという概念は存在していましたが、その頃までは主にリカレント教育と呼ばれていました。

リカレント教育とは、簡単に言えば生涯教育のことで、学校教育を終えた後も、社会人としてリアルタイムで学び直すことを指します。

しかし、リカレント教育とリスキリングは、異なると考えています。

確かに学ぶことは同じですが、リスキリングは現在行っている仕事や将来行うかもしれない仕事に必要なスキルや知識を学ぶことを指します。これは、主に仕事に関わる内容であるため、「スキリング」という言葉が含まれています。

リカレント教育との違いは、リカレント教育が人生を豊かにするため、または仕事に役立つこともあるという側面があるのに対し、リスキリングはより仕事に特化し、仕事を通じて価値を生み出し、評価され、給与を得ることに焦点を当てています。リスキリングは特にスキルアップに重点を置いており、リカレント教育とは異なるものと考えられます。

しかし、スキルアップとリスキリングの区別は必ずしも明確ではないと思います。

日本においては、特にデジタルトランスフォーメーション(DX)を促進する文脈の中で、リスキリングが捉えられています。

これは新しいスキルを学ぶことと結びついており、リスキリングという概念を形成していると考えられます。

  • 新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること。
    ※働く人がこれまで身につけてきたスキルをさらに伸ばす「スキル・アップ」と区別され、未知の分野のスキルを身につけることとも定義される。
  • リカレントと比較して、「これからも価値創出し続けるために」「必要なスキル」を学ぶ、という点が強調される。近年はDX(デジタル・トランスフォーメーション)促進の文脈で、必要性が提唱されることが多い。

cf.リカレント(教育)
学校教育からいったん離れたあとも、それぞれのタイミングで学び直し、仕事で求められる能力を磨き続けていくこと。

この記事は、ちゃんと定義から学ぶ「リスキリング」。リカレント教育とはどう違うのか?藤本真先生(労働政策研究・研修機構 主任研究員)を元にした人的資本経営とキャリア自律に関する記事です。

中川 功一

そうすると、社会環境では、現在働いていて得られるOJTで習得されるスキルよりも、異なる種類のスキルが求められているということですね。

新しい種類のスキルを身につける必要があるという意味が、この言葉に込められているのでしょうか?

はい、中川先生のご指摘は非常に重要です。スキルアップとは、仕事の中で経験を積むことで達成されると一般的に考えられています。
しかし、リスキリングはそれとは異なり、新しい必要とされるスキルを仕事から離れた場所で学ぶことを強調していると思われます。

ただし、中川先生が指摘されたようなスキルアップとリスキリングの明確な違いを、実際に行っている人たちがどれほど意識しているかは不明です。また、これらを一緒に捉えていることもあります。

中川 功一

研究の観点から見ると、どちらでも良いということでしょうか?

区別は難しいですが、結局のところ、新たな何かを見つけて能力を開発し、仕事に貢献することが目的です。

これが既存のものであれ、新しいものであれ、個人にとっては新しい発見となる活動です。スキルアップもリスキリングも、内容としては大きく変わらないと思います。

しかし、社会や組織にとって新しいことである場合、それがリスキリングとして捉えられることがあります。例えば、企業内で新しいスキルを学ぶことがリスキリングとされることがあります。

リスキリングの必要性についての認識

出所:連合総研(2023)「第45回勤労者短観」。首都圏・関西圏の2000人が回答。

リスキリングの必要性について、連合総研が行った調査によると、約半数の人が必要だと考えています。

正社員と非正社員での違いは約10ポイントです。また、従業員規模の大きい企業に勤める人ほど、その必要性を感じる傾向にあります。規模が大きい企業では約60%、小さい企業では約40%です。

職種によっても違いがあり、管理職や専門技術職が最も必要性を感じています。
一方で、技能労務職は約30%と管理職の半分程度です。

リスキリングの取組み

出所:パーソル総合研究所(2022)「リスキリングとアンラーニングについての定量調査」。

  • 2022年のパーソル総合研究所の調査によれば、新しいツールやスキル、知らない領域の知識などを学んだとする「一般的なリスキリング経験」のある人は3割前後、デジタル領域の新しい技術やデータ分析スキルなどを学んだとする「デジタル・リスキリング経験」のある人は2割程度。
  • 日頃から知らない領域の知識を新たに学び続けたり、専門性を広げ続けたりしているといった「リスキリング習慣」がある人は3割弱。

リスキリングに関する経験は、大体3割の人が持っているとされています。デジタル関連では約2割です。これらの数字から、リスキリングと能力開発が個別に捉えられていると思われます。

中川 功一

そうすると、実際の数字が示すことは、より多くの人が新しいスキルを習得しているのか、あるいは実際には新しいスキルを習得している人はもっと少ないのではないかということになるでしょうか?

必要性を感じる人が5割、リスキリングの習慣を持つ人が3割という数字は、これまでの能力開発やOJTを考慮すると、大きな差はないと思います。

新しいことを学ぶという経験は、個人にとっては新しいことであっても、社会的には必ずしも新しいことではないかもしれません。

たとえばデジタル技術やAIなどの最先端の分野に携わる人はさらに少ないでしょうし、企業や個人がそれらを学ぶ必要性を感じているかどうかも、必ずしもそうではないかもしれません。

中川 功一

私も様々な人に講演や研修を行う機会がありますが、多くの人は学びに対してモチベーションが低い傾向にあるように感じます。

藤本先生、これは日本固有の問題なのでしょうか。また、もしそうであれば、その理由は何だと思いますか?

私は以前、キャリア自律に関する動画でも述べましたが、日本では正社員として入社し、その時々に与えられる仕事を行い、良い成果を出せば、より責任のある仕事や裁量の大きな仕事が与えられ、それに伴い給与も増加することが基本です。これは、会社が与えた仕事を一生懸命にこなし、それによって会社内でのキャリアが向上し、待遇も良くなるということです。これは、新卒で入社したばかりの未経験者が、様々な新しい経験を積み、会社が指示する業務をこなすことで、処遇が良くなるということです。当然、仕事を行う中で学ぶ必要があります。例えば、OJTや階層別研修など、特に大きな会社では、会社がそれらを用意しており、従業員はそれに従って学ぶことができます。しかし、それを行わなくても、首が切られることや給与が下がることは基本的にはありません。
これは、中川先生がおっしゃった通り、モチベーションの低さ、あるいは必要とされない状況の起因になるかもしれません。いずれにせよ、会社や職場から離れて自ら何かを学ぼうというモチベーションが低いのだと思います。
私たちの研究機構が7年前に行った調査の再分析によると、上司の指導や条件、同僚の仕事の様子を見て自分の能力を開発することが重要だと考えられています。これに比べ、自ら本を読んだり研修を受けることの効果は比較的低いとされています。これは、能力や仕事に必要なことが身に付き、それを使って仕事をすることで処遇が上がるという状況が続いているため、自ら学ばないといけないという状況になることが少ないためだと思います。つまり、モチベーションを高め、自ら学ぶ意欲を持つことがあまりないのではないかと思います。

キャリア自律に関する動画でも述べましたが、日本では正社員として入社し、その時々に与えられる仕事を行い、良い成果を出せば、より責任のある仕事や裁量の大きな仕事が与えられ、それに伴い給与も増加することが基本です。これは、会社が与えた仕事を一生懸命にこなし、それによって会社内でのキャリアが向上し、待遇も良くなるということです。これは、新卒で入社したばかりの未経験者が、様々な新しい経験を積み、会社が指示する業務をこなすことで、処遇が良くなるということです。当然、仕事を行う中で学ぶ必要があります。例えば、OJTや階層別研修など、特に大きな会社では、会社がそれらを用意しており、従業員はそれに従って学ぶことができます。しかし、それを行わなくても、首が切られることや給与が下がることは基本的にはありません。
これは、中川先生がおっしゃった通り、モチベーションの低さ、あるいは必要とされない状況の起因になるかもしれません。いずれにせよ、会社や職場から離れて自ら何かを学ぼうというモチベーションが低いのだと思います。
私たちの研究機構が7年前に行った調査の再分析によると、上司の指導や助言、同僚の仕事の様子を見て自分の能力を開発することが重要だと考えられています。これに比べ、自ら本を読んだり研修を受けることの効果は比較的低いとされています。これは、能力や仕事に必要なことが身に付き、それを使って仕事をすることで処遇が上がるという状況が続いているため、自ら学ばないといけないという状況になることが少ないためだと思います。つまり、モチベーションを高め、自ら学ぶ意欲を持つことがあまりないのではないかと思います。

中川 功一

ありがとうございます。これは構造的な問題であり、心の問題や意識の問題ではないと思います。

これまでのキャリアがどのように形成されてきたか、企業が主体として個人の育成を担っていたという点が大きいと思いました。

リスキリングとキャリア自律の「セット化」

リスキリングの実施と従業員の「キャリア自律」とを「セット」にして進めようとする動き。

例:メーカーA社・・・社員が身につけるべき知識・スキルを体系的に定義したうえで、社内システム上で社員が自由に研修を受講できる仕組みを創るとともに、自分から学びなおそうという意欲を引き出す社内文化を醸成するべく、コーチング研修や1 on 1ミーティングの促進に取り組んでいる。

「人的資本経営」を提唱する「人材版伊藤レポート」の中でも、「個の自律・活性化」に向けた変化の必要性が強調される。

⇒能力開発の対象となる従業員の多様化(必ずしも経験の少ない若手従業員が能力開発の対象になるのではない)と、教育訓練の内容における多様化(これまでの成功につながった体験や知識のみを学ぶのでは不十分)から、個人の自主的な学びの必要性を上げている。

キャリア自律とリスキリングをセットにして進める動きが、特に大手企業を中心に見られます。

私が労使のヒアリング調査を行った結果、自主的に学ぶ雰囲気を作ることが多くの企業で目指されています。また、人的資本経営の観点からも、リスキリングの必要性が高まっていると感じています。

リスキリングを進めることによって、キャリア自律を促進しようという意識があるようです。

中川 功一

日本ではこれまで企業がキャリアや育成を担ってきたため、個人がリスキリングに積極的でない構造が形成されていますが、これは自然な流れだと思います。

藤本先生はこれにどのようにお考えですか?問題点はありますか?

現在の仕事やキャリアでリスキリングを進める際、個人が学びたい内容やキャリアパスを考慮して、それを実現する体制が企業にあるかどうかが重要です。
社内公募や自己申告制度が実施されている企業もありますが、それらが個人の望むキャリア実現に十分寄与しているかは疑問です。

企業が求めることに従って進めることが多く、従業員の自主性や能力開発に関する取り組みが企業内で十分に生かされているか、という問題があります。

結局、従業員側から見れば、自分がやりたい仕事ができるのか、それによって報酬が増えるのか、という疑問が残ります。

会社の都合を考慮した、形式的な自主性が強調されることが多く、リスキリングが形骸化する恐れがあります。

中川 功一

勉強になります。個人に自由度が与えられていても、それを受け入れる企業の体制が整っていなければ、形骸化してしまうということですね。

今日もありがとうございました。

ありがとうございました。

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