「マトリックス組織」とは、組織運営の枠組みにおける用語です。
かつての組織構造は上から下へ、垂直な軸だけで構築されたものでしたが、マトリックス組織はその中に水平な要素を取り入れ、格子状の形態を備える特質があります。
部門同士の協力が円滑に進むため、業務の最適化が可能となりますが、反面、組織が複雑になるという欠点も浮上します。
マトリックス組織の効果的な機能を維持するには、垂直軸と水平軸の指揮命令系統が調和していることが不可欠です。
今回の記事では、マトリックス組織の特性から得られるメリットとデメリット、円滑な運用を保つためのポイントまでを解説していますので、組織内で導入する際の参考としてご活用ください。
マトリックス組織とは?
マトリックス組織とは、1960年代にNASAのアポロ計画において採用された組織の形式です。
この体制は、業務の要素を縦と横に組み合わせ、網の目のような構造を持ちます。
職能に基づく要素とエリアやプロジェクトに基づく要素が融合しており、これにより従来のピラミッド型の「上から下へ」の指揮命令系統とは一線を画します。
指揮命令系統が「上から下」と「横」の2つになるのが特徴です。
この組織体系では、従業員は複数の部署に属し、2人以上の上司を持つことになります。
その結果、新しいプロジェクトを開始する際には、既存のチームの再編成が不要となりました。
専門的なスキルや知識を持つ従業員を柔軟にプロジェクトにアサインできるため、効率的なプロジェクト運営が可能となるのです。
複数の目的を達成するための組織
マトリックス組織は、複数の指揮系統が存在し、状況に応じて柔軟に対応できる特性があります。
これは従来の単一の指揮系統とは異なり、複数の上司やチームとの連携によって、異なるプロジェクトや業務に適切に対応できるという利点があります。
さらに、この組織形態には他にも魅力が詰まっています。
各チームやプロジェクトが専門的な任務に集中し、同時に異なる方向性の目標を同時に追求できるため、多角的な成果を組織全体で生み出すことが可能です。
この総合的なアプローチにより、組織は多様な分野での成果を最大化することができるのです。
また、専門的な知識やスキルを持つ従業員が最適なプロジェクトに参加し、効率的な協力体制を築くことで、生産性を向上させることが期待されます。
これにより、少ない人員でもこれまでと同等かそれ以上の成果を生み出すことができます。
マトリックス組織は、多様な要素を結びつけることで組織全体の柔軟性と効率性を高める効果的な手段と言えるでしょう。
経営を管理する仕組み作りが大切
組織内で異なるチームやプロジェクトが組み合わさることによって、利害の調整が複雑化することがあります。
予算や人員の配置など、リソースの適切な配分が組織内で重要な決定要素となります。
競合する要求に対して公平な対応を実現するため、経営陣は各部門の要望や目標をバランス良く調整する必要があります。
また、従業員が複数の上司から指示を受ける場面もあるため、役割や権限の範囲を明確にすることが重要です。
これにより、従業員は適切な指導を受けつつも、業務に対する明確な方針を持つことができます。
チームやプロジェクト間で情報共有が不足すると、作業の効率が低下し、無駄が生じる可能性があります。
このため、マトリックス組織では情報の円滑な流れを確保する仕組みが重要です。
定期的な報告やコミュニケーションの場を設けることで、情報共有を促進します。
マトリックス組織は柔軟性と連携の重要性を強調するスタイルですが、効果的に機能させるには適切なコミュニケーションと緻密な経営管理が欠かせません。
経営陣は明確なビジョンを示し、意思決定のプロセスを整えることで、組織全体の方向性を確保します。
さらに、各部門やプロジェクト間での協力や情報共有を奨励することで、マトリックス組織のポテンシャルを最大限に引き出すことができるでしょう。
マトリックス組織の3つの種類
マトリックス組織は、3つの異なるタイプ、「バランス型」「ストロング型」「ウィーク型」が存在します。
これらのタイプは、プロジェクトのリーダーを選出する方法やその人の権限の程度に違いがあります。
ウィーク型
プロジェクトの推進は、プロジェクトのリーダーシップをなくし、各チームメンバーが自己判断で業務を進めることを基盤とします。
このアプローチにより、個々のクリエイティビティと自己責任が最大限に引き出されます。
特に迅速な対応が要求されるプロジェクトにおいては有効ですが、責任の所在が曖昧になるリスクも存在します。
各プロジェクトは独自の意思決定力を持ち、部門長が管理を補佐するため、マトリクス構造は比較的弱いものになります。
ウィーク型のアプローチでは、メンバーのスキル向上とコミュニケーションの向上が重要な課題とされています。
このスタイルは、個々のメンバーの成長とチーム間の連携を促進するために、教育やトレーニングの強化が不可欠です。
組織内での知識共有と情報伝達がスムーズに行われることで、各プロジェクトがより高い成果を達成できる環境を整備することが求められます。
ストロング型
各プロジェクト内には、プロジェクト・マネジメントに特化した専門部署に属するプロジェクトマネージャーがチームを導く役割を果たします。
このアプローチは、業務の遂行を効率的に進め、メンバーの負担を軽減する利点があります。
特に複雑なプロジェクトに適していますが、専門部署を新たに設立する必要があります。
プロジェクトマネージャーは、ほぼ全ての意思決定権を保有し、素早い判断と的確な指導を行える立場です。
しかしながら、このアプローチではプロジェクトマネージャーに業務が集中する可能性があるため、彼らの育成とサポートが重要な課題とされています。
組織はプロジェクトマネージャーのスキル向上とリーダーシップの発展を支援することで、プロジェクトの成功と組織全体の成長を促進します。
バランス型
プロジェクトメンバーがプロジェクトの責任者を選出するアプローチが取られます。
プロジェクトマネージャーと部門長の権限は同等であり、ウィーク型とストロング型の中間に位置します。
これによって、プロジェクトの進捗状況が容易に把握され、意思決定も素早く行われることが期待されます。
しかしながら、バランス型では、複数の業務を同時に担当するリーダーが負担を感じることがあるかもしれません。
また、同等な権限を持つことから、プロジェクトマネージャーと部門長の意見や方針の対立が生じたり、メンバーが複数の上司から指示を受けることで混乱が生じる可能性もあります。
このアプローチでは、プロジェクトマネージャーと部門長の信頼関係を築くことが重要です。
定期的なコミュニケーションや協力を通じて、組織全体の方向性を確保し、円滑なプロジェクト遂行と組織の成功を実現するための取り組みが求められます。
プロジェクト型組織・機能型組織との違い
マトリックス組織は、プロジェクト型組織と機能型組織の良い側面を組み合わせた独自の組織形態です。
プロジェクト型組織はプロジェクトに焦点を当てる一方、機能型組織は特定の領域に専念します。
しかし、マトリックス組織は専門的なスキルと柔軟性の両方を持ち合わせています。
プロジェクト型組織
プロジェクト型組織は、個々のプロジェクトごとに一時的な組織が組まれます。
組織内外から人員が集められ、必要に応じて専門チームが編成されます。
この特徴により、業務に関連した専門知識を有する人々や興味を持つ人々が集まり、プロジェクトの成功に寄与します。
この組織形態は、コミュニケーションがスムーズであり、異なるバックグラウンドを持つメンバーが協力して業務を効果的に遂行する特性があります。
これにより、各人の専門性が最大限に引き出されると同時に、新たなアイディアや視点が融合され、革新的な成果が生まれる可能性があります。
マトリックス組織では複数の部門に所属しながら活動が続きますが、プロジェクト型組織ではプロジェクト完了後にはチームが解散します。
この一時的な性質により、プロジェクト毎に新たなチームが形成されるため、絶えず新しい経験と知識が得られます。
しかしながら、長期的なノウハウの蓄積は難しく、この側面を考慮した適切な組織運営が求められるでしょう。
機能型組織
機能型組織は、組織内の機能ごとに人事、販売、営業などの専門部署を設ける形態です。
それぞれの部署は独自の役割を果たし、自己完結的に業務を進めることができるため、情報の供給が円滑に行われる利点があります。
従業員は所属する部署において特定の役割を担当し、その分野の専門性を高めることが可能です。
しかしながら、他の部署との連携時に意思決定に時間がかかるという課題も存在します。
マトリックス組織は複数の要素で組織が構築されますが、機能型組織では各機能ごとに専門部署が独立して存在します。
マトリックス組織のメリット
マトリックス組織は、従来の縦の階層構造に加えて横の連携を取り入れることで、以下に示す多くの利点が生まれ、組織全体の生産性向上に寄与します。
具体的なメリットについて詳しく説明いたします。
新規事業の体制を組みやすい
従来の組織形態では、新しい事業を始める際には新たなチームを組織する必要がありました。
しかし、マトリックス組織では既存の部署から専門的な人材を選任することが可能です。
これにより、新しいチームを立ち上げる手間が省け、新規事業に取り組む際の障壁が低減します。
このアプローチによって、素早く新たなアイディアやビジネスチャンスに対応できるため、新規事業の立ち上げにおける機動力が向上します。
さらに、人事異動に伴うコストを削減できるため、リソースの効果的な活用が可能です。
異なる部署のメンバーを新しいプロジェクトに組み込むことで、既存のスキルや専門知識を最大限に活かすことができます。
これにより、リソースの浪費を抑えつつ、効率的なプロジェクト運営が実現できます。
これらの要因が組み合わさり、組織全体の生産性向上と新規事業の成功に寄与することが期待されます。
業務の効率化アップ
従来の組織構造では、異なる部署間の連携に時間がかかることがありました。
しかしながら、マトリックス組織は部門の枠を超えて様々な部門のメンバーが協力して業務を進めるため、円滑なコミュニケーションと連携が実現します。
これにより、異なる部署間での連携がスムーズに行える環境が築かれます。
また、マトリクス組織では、従業員個々が多岐にわたる業務に従事することがあります。
こうした状況は、各従業員が広範な業務に関与することで、全体の業務の流れや複雑さを理解しやすくなるという利点をもたらします。
このような環境下では、組織内での知識共有や学習の機会が増え、組織全体の能力向上につながるでしょう。
さらに、異なる部門のメンバーが協力し、多様な視点や専門知識を結集することにより、高品質な成果物を生み出すことができます。
異なるバックグラウンドを持つ専門家たちが協力することで、問題の解決策や新たなアイディアが浮かび上がり、革新的な成果が生み出されることでしょう。
トップマネジメントの負担軽減
マトリックス組織では、一般的には管理者やプロジェクトマネージャーにある程度の決定権が委ねられる傾向があります。
これにより、経営陣のマネジメント負担が軽減される効果があります。
さらに、メンバーに近い立場のマネージャーに決定権を付与することで、コミュニケーションが円滑に行われ、ストレスを軽減する一方、組織内の連携が強化されます。
経営陣は戦略的な意思決定やビジョン策定に注力することができ、組織全体の柔軟性も高まります。
これによって、組織は迅速な変化に適応しやすくなり、市場の変動や競争状況の変化に対して迅速な対応力を発揮することが可能になるでしょう。
マトリックス組織のデメリット
マトリックス組織における最大の特徴は、個々の従業員が複数の部門に所属し、異なる業務を兼任することです。
しかしながら、この特徴にはいくつかの欠点も存在します。
マトリックス組織を採用する際のデメリットについて詳しく解説します。
マネージャーのバランスを保つのが難しい
マトリックス組織における欠点の一つは、マネージャーのバランスを保持する難しさです。
マトリックス組織では、指示系統が二重化され、従業員は複数のマネージャーから指導を受けることがあります。
これによって、複数のマネージャーが存在することによる権限の調整が難しくなり、指示や情報共有の混乱が生じる可能性があります。
異なるマネージャーからの指導が異なる場合、従業員はどちらに従うべきか判断が難しくなり、業務の優先順位も曖昧になるかもしれません。
こうした状況において、従業員は板挟み状態に陥り、混乱やストレスを感じる可能性があります。
また、マネージャー同士の意見の対立や相違が業務に影響を及ぼす可能性も考慮されます。
マネージャー間の対立が解決されない限り、業務の進行が滞り、組織全体の運営に支障が生じる可能性があります。
このため、日常業務の中でマネージャー同士のコミュニケーションを強化し、意見の食い違いを最小限に抑える取り組みが重要です。
組織全体の利益を最優先に考え、互いの専門領域に精通した人材をマネージャーとして選出することも大切です。
人事評価が複雑になる
マトリックス組織では、各従業員がどのような業務を担当しているのか把握しにくくなるため、従来の人事評価制度の見直しが必要とされます。
異なる部門ごとに異なる目標が設定されることが一般的であり、組織が多様性を持つほど、人事評価の複雑さが増します。
さらに、複数のマネージャーからの評価によって、従業員の評価基準が異なる可能性も考慮されます。
こうした状況によって、従業員はどの基準で評価されるのかを理解しづらく、矛盾した評価を受けることで不安や不満を感じることがあります。
また、各従業員のスキルや貢献度を正確に評価するため、評価者の負担も増大します。
従業員の業務内容や成果を的確に把握し、公平で適切な評価を行うことは難しい課題となります。
これらの課題に対処するためには、マトリックス組織に特化した人事評価制度を導入することが必要です。
従業員の業務内容や成果を明確に可視化する手段を確立し、公正さと透明性を保つ仕組みを構築することが求められます。
マトリックス組織を機能させるためのポイント
マトリックス組織は、二つの組織に属する組織構造を持ち、従来の組織構造よりも複雑化します。
この複雑性をうまく管理するために、以下の要点に注目する必要があります。
従業員にストレスが溜まらないようにする
従業員は2人の上司に対して報告や指示を受ける必要があるため、特にストレスを感じる可能性があります。
これにより、従来の組織構造に比べて対応しなければならない相手が増え、業務に対する不安や緊張が生じることが考えられます。
また、業務の分担が偏ることによって、不公平感が生じる可能性もあります。
こうした問題を解決するためには、従業員のケアと業務のバランスが重要です。
定期的なストレスチェックを実施し、従業員のストレス状態を把握することが必要です。
また、従業員に自身の意見や懸念を述べる場を提供することで、不満や不安を軽減できます。
さらに、適度な休息やリフレッシュの時間を確保することも大切です。
これらの取り組みによって、従業員のストレスを最小限に抑え、生産性やモチベーションの向上を図ることができます。
マネージャー間の連携と情報共有を徹底する
複数のマネージャーから指示を受ける状況では、指示内容が一致しない可能性があります。
指示の一貫性を確保するためにはマネージャー同士の情報共有が重要です。
マネージャー同士が協力し、定期的なミーティングやコミュニケーションの場を設けることで、異なるプロジェクトや部門の進捗状況や課題を共有しやすくなります。
一貫性のある指示と評価を提供するために、マネージャー同士は共通の基準を確立することが大切です。
密なコミュニケーションを通じて信頼関係を築くことで、異なるプロジェクトや部門の連携が強化され、従業員のモチベーションやパフォーマンスが向上するでしょう。
各プロジェクトの役割を明確にすることも重要です。
これにより、指示系統の混乱を防ぎ、業務を効果的に進行させることが可能です。
マネージャー同士の協力と連携を通じて、組織全体の運営が円滑になり、最終的な成果を最大限に引き出すことができるでしょう。
マトリックス組織で知識とスキルのレベルアップを!
マトリックス組織は、伝統的な職能別の部門とプロジェクトやエリアなどの横断的な部門を結びつける柔軟な組織形態です。
この組織形態は、新規事業の展開を円滑に進めることができ、業務の効率化にも寄与します。
以前は時間を要した他部署との連携も、マトリックス組織によってスムーズになります。
しかしながら、マトリクス組織にはマネージャーのバランスの維持や人事評価の複雑化といったデメリットも存在します。
従業員は複数の上司から指示を受けるため、組織の混乱やストレスのリスクが高まります。
マネージャー同士が連携し情報を共有することで、指示の不一致を防ぎ、組織全体のモチベーションや成果を向上させることができます。
マトリックス組織は異なる専門分野の交流を促進し、知識とスキルの向上を促すため、創造的な成果を生み出す可能性を秘めています。
組織内のポテンシャルを最大限に引き出すために、この組織形態を適切に活用しましょう。
著者・監修者
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1982年生。経営学者/やさしいビジネススクール学長/YouTuber/経済学博士/関東学院大学 特任教授/法政大学イノベーション・マネジメント研究センター 客員研究員
詳しい講師紹介はこちら website twitter facebook youtube tiktok researchmap J-Global Amazon
専門は、経営戦略論・イノベーション・マネジメント、国際経営。
「アカデミーの力を社会に」をライフワークに据え、日本のビジネス力の底上げと、学術知による社会課題の解決を目指す。
「やさしいビジネススクール」を中心に、YouTube・研修・講演・コンサル・著作等で経営知識の普及に尽力中。
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