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経営学者が解説。いま注目の「ラグジュアリー戦略」とは何か。

現在注目の、最新経営理論「ラグジュアリー」。かつては歴史と伝統ある会社が、長年の事業の中で偶発的に手にするものとされてきましたが、今日ではマネジメント可能なもの、意図的に生み出し、育てていくことが可能なものとして捉えられています。つまり、ラグジュアリーとは一定の再現性が保証された経営「理論」となりつつあるのです。

そこで本記事では、理論としてのラグジュアリーの概念と方法について、解説をしていきたいと思います!

目次

ラグジュアリー産業が、世界的に急成長している

あえて、ラグジュアリーとは何かを定義する前に、世界のラグジュアリー産業・企業のほうに注目してみることにしましょう。ひとまずは、ラグジュアリーとは奢侈品・高級品産業のことだ、というくらいに思っていて下さればOKです。

デロイトの調査によれば、2021年のラグジュアリー産業規模は、トップ100社で34兆円と試算されています。このうち、断トツトップなのがLVMH(ルイ・ヴィトン・モエ・ヘネシー)グループで、8兆円の売上高となります。エルメスが1兆2000億円、スウォッチグループが1兆円といった規模となります。LVMHは日本のソニーやパナソニックと同じ程度の規模、エルメスは任天堂と同じくらいの規模です。これらのブランドが、日本を代表する企業と同等規模の売上高を誇るようになっていることに、私たちは目を向けなければなりません。

それは、単にチャイナエフェクトなのではないか、と思われる方も少なくないかもしれません。確かに、中国の影響は大きくあります。しかし、その実態は、世界的な成長なのです。以下は、LVMHの2020年の売上高構成です。中国が大部分を占めるアジア・太平洋が38%と大きいのは事実ですが、米国や欧州も大きくあります。日本は7%という数字になっていますが、これは日本でも5000億円以上を売り上げていることを意味します。中国の市場も大きいけれども、世界的にラグジュアリーの市場は成長を続けてきたのです。

こうした文脈のなかで、世界がいまこぞって狙っているのがラグジュアリー市場なのです。日本はやはり…少し出遅れていることは認めざるを得ません。だからこそ、知識面でも早々にキャッチアップを果たさなければならないのです。

ラグジュアリー戦略とは

ルイ・ヴィトン・モエ・ヘネシー(LVMH)の年間売上高は今や8兆円に上ります。シャネルで2兆円、オメガ等を有するスウォッチグループで1兆円です。ラグジュアリーは既に世界の標準戦略のひとつになっています。

しかし、その内容は従来の経営理論を覆すものでもあります。「需要増加には、対応しない」。供給量を絞ることが、価格の上昇、ブランド価値の増大につながります。「ターゲットではない顧客にプロモーションする」。人々の憧れが価値をつくり、それがターゲット層の購買意欲を刺激します。総じて、入手が困難であり、憧れの存在になるようにプロデュースしていくことで、価値を高めていくのです。

他者との比較可能な「プレミアム」とは異なるというのがこの理論の鍵です。プレミアムは、あくまで機能や性能で説明のつく、他との比較の上での最上位です。そうした比較の外にある、プライスレスな存在がラグジュアリーなのです。

ラグジュアリーとは何か

では、ラグジュアリーとは、いったい何なのでしょうか。

ポイントは、単なる高級品とは違う、ということです。

正確には、高級さにも種類がある、ということです。顧客が競合他社よりも高い価値を当該ブランドの品に見出すときというのは、大きく分けて2通りのパターンがあります。

第一は、「説明がつく高価値」です。機能、品質でもって、こういう点が秀でているから、この価格がついている、というものです。こちらは、プレミアム、と呼ばれます。自動車のレクサスやBMWは、とても優れた品です。性能が優れていることに対して、顧客はお金を払っていますから、これはプレミアムの代表例です。

これに対し、説明がつかない、対象への憧れ、欲求といった感情が想起されるものが、ラグジュアリーです。どうしてこういう価格となるのか、品質や、信頼、機能といったものに要素分解できないもの。ただただ、憧れとか、夢、伝説、意味としか言いようのないものが、ラグジュアリーなのです。ハーレーダビットソンは、その一つの典型と言えます。ハーレーのバイクは、機能・技術でどこが秀でているというわけでもありません。時には、壊れることや、不便不都合があることすら、ユーザーにとっては愛着のポイントになります。なぜハーレーが好きなのか。それはもう、理由にはならないものなのです。

ラグジュアリーは、どう生み出されるのか

そんな、説明のつかない事象を、マネジメントできるのか、と思われたかもしれません。これまでの研究が明らかにしてきたのは、もちろん過去の歴史や運も作用するけれども、どういうマネジメントが為されたときにラグジュアリーとなるかは、ある程度法則性が存在しているということです。必ずラグジュアリー化に成功するわけではないが、おしなべてこういうマネジメントが求められる、は存在している。

そのおおよそのリストがこちらです。

歴史的資産からストーリーを構築する

自分たちがこれまで歩んできた道のりが、そのブランドに「説明のつかない憧れ、夢」を消費者に自覚させるための最重要資産です。この意味では、一定の歴史資産はラグジュアリーを創造するために必要不可欠です。近年、ラグジュアリー化が進んでいるアップルのiPhoneも、土台となるのは、スティーブ・ジョブズと同社が過去に積み上げてきたコンピュータ産業での革新の歴史が土台にあればこそです。

大切なことは、それをそのまま使うのではなく、取捨選択して、ストーリーを構築することです。自分たちが伝えたいメッセージに合致するように、歴史的事実を選び出していくのです。

他社との比較をしない、させない

比較の土俵に乗ってしまった瞬間に、ラグジュアリーは力を失います。機能面で、こちらのほうが秀でている、と評価され、それが購買に繋がってしまうのであれば、もはやラグジュアリーではなく、プレミアム。プレミアムから次のステージに進むためには、品質で秀でていることを、ことさらに強調しないことなのです。

ロレックスがとった戦略は特徴的です。実は、ロレックスは機械式時計としては「圧倒的に高品質・高機能」なのです。防水性能、日付表示、耐久性、正確性、クロノグラフ(ストップウォッチ)機能など、どれをとっても業界随一です。ロレックスは長年、そのための技術改良に時間を惜しまずやってきました。

しかし、ロレックスはこれを全く宣伝には使いません。「ロレックスがNo.1の時計である」ことが当たり前だからです。きちんと技術・品質でも優れた状態にしておきつつ、それを商品を売っていく上での訴求ポイントにはしない。ロレックスを身に着けるという意味性、ロレックスをつけるのは社会を変えていく優れた人だけである、というメッセージにこそ、力を入れているのです。

需要増に積極対応しない。顧客に媚びない。

短期間で稼ぎ切ろうとしないこと。需要が増えているのは、自社への憧れの高まりです。それを見ながら、堅実に、自分たちが作るべきものを安定的に生産し続ける姿勢が大切になります。

同じ理屈から、需要を増やそうと、顧客に媚びるような商品・サービスを行うこともしません。あくまで長期的に一貫したメッセージと事業活動を行うことで、長期的な需要創造を行うのです。

価格や流通で、買うことを難しくする。ターゲット以外に公告する

パリ本店に行かないと買えない。表参道にしかショップが無い。それが地域のブランドとも結びついて、憧れの感情を強めます。

ラグジュアリーも広告をうつこともします。しかし、それはあえてターゲット以外の顧客の目にも触れるところに向けてです。そのラグジュアリー品を買えない人々の羨望が、真のターゲット顧客の需要を生み出すのです。

本社や工場を移転しない

そこにある、ということが意味性を有する資産なので、コストダウンのために新興国に工場を移転する、という行動をしないことも、ラグジュアリー戦略の理論の中ではもはや常識となっています。

あらゆる商品・サービスに内在する”ラグジュアリー”

ラグジュアリーという現象それ自体は、あらゆる商品・サービスに内在しています。性能・機能に紐づかない、憧れや夢といった感情からくる、「●●でなければならない」「●●にしかない」という思い。それは身近にも少なくないはずです。iPhoneにも、Gショックにも、ニンテンドーSwitchにも、少年ジャンプにも、レッドブルにも。

この意味では、一般にラグジュアリー品と呼ばれるようなものでなくとも、ラグジュアリーの経営論理は応用可能です。また、企業全体がラグジュアリー化するのでなくても、一部商品・サービスや、企業活動の一部にラグジュアリー的側面を付け加えることも可能なのです。

そしてそれは、決して「顧客に機能で説明のつかないものを高値で売りつける」ことではありません。そうした意味性が商品・サービスに付与されることで、顧客は確かに、それが無い場合よりも高い価値を感じているのです。そうした心の部分での企業とのつながり、充足感をこそ求めているから、ラグジュアリー産業はいまこうして隆盛しているのです。

事例紹介

スウォッチグループ

■日本製のデジタル時計に市場を奪われるなか、スイス時計産業連合として復権を果たすために設立されたのがスウォッチグループです。オメガ、ロンジン、ハミルトン、ブレゲなどのブランドを擁しています。

■日本企業が機能とコストに磨きをかけ続けていくなかで、スウォッチグループは伝統と工芸を軸に毎年価格を上げていく戦略をとります。初めて月に行った時計オメガ、複雑機構を生み出した天才時計士ブレゲ…と歴史的事実からブランドストーリーを構築し、美麗な機械加工に意味性をもたせ、流通量の限られた特別な品として自分たちの機械式時計を生まれ変わらせたのです。

■その戦略は功を奏し、日本製時計が数量としては世界を席巻するなかでも、スウォッチグループは日本製の100倍近い価格で製品を届けて、時計産業の雄に返り咲いたのです。

ラグジュアリーについてもっと知りたければ

日本には2人のラグジュアリーの専門家がいます。長年、早稲田大学で教鞭をとっている長沢信也先生と、スイス出身、大阪大学で経営史を教えるピエール・イヴ・ドンゼ先生です。

長沢先生が翻訳されたラグジュアリー戦略は、この領域の基本教科書となっています。

ドンゼ先生の、2022年9月30日発売の新刊「ラグジュアリー産業:急成長の秘密」も、必読です。

そして、ラグジュアリー・ビジネスが日本で学べるのは、早稲田の長沢先生の講義か、大阪大学、そしてAPSでのドンゼ先生の講義だけです。

APSでは、8-9月開講で、ドンゼ先生による「ラグジュアリー・ビジネス」を、オンデマンド8回、ライブ4回の密度で提供しています!オンラインで、誰もが学べるかたちでラグジュアリーが学べるのはAPSだけです。ぜひ、興味を持たれましたら、APSで学んでくださいましたら嬉しく存じます!

APSのドンゼ先生講義、第1回を公開しています!

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