中川先生の優しいビジネス研究。今回は、共感力でオフィスの社会課題を発見し、解決策を考えてください、という話をします。これは、立命館大学の学生さんに出した今年度の授業の課題なんですけれども、学生諸君にフィードバックをしつつ、これをご覧の一般の皆さんはぜひ、このオフィスの社会課題を解決するようなイノベーションどういうものがあるのか、アイディア出しのトレーニングを一緒にやってもらえたら嬉しく思います。
学生諸君に出したお題は、オフィスで一人PCに向かっている人の写真を見てもらって、この絵を見て、共感の力を働かせて:この人自身になりきって、この人が仕事をしていく中でどういう課題があるだろうか、それを感じ取りつかみ取って解決するようなアイディアを出してください、というものです。
これが学生に出した課題です。皆さんもぜひちょっと考えてみてください。
アイディア出しのポイント
共感の力。これが今回のキーワードです。社会ニーズを発見するとき、デザイン思考に基づくやり方は、現場に共感すること。この力で大きなニーズを狙ってつかみ取ってくるということです。
どうしてこの共感が大切になるかというと、素直に現場の悩みにこたえることが大事だからです。ニーズをつかもうというときにひねり過ぎてしまうと、微妙なニーズ、あんまり大きくない市場を狙ってしまう。そこに素直にある問題を狙おうという意味で、その人自身になりきって、そこにある最大の課題を素直に感じ取ってくる必要がある。本人になりきって共感することで、なるべく大きめな、多くの人が感じるような課題というものをそこで発見してくるわけです。
ですが、これだけだとありきたりなビジネスになってしまいますね。大きいニーズというのは、それだけ多くの方が気づいているニーズだということです。ですからここでポイントになってくるのは、そこからさらに共感の力を使って、ニーズを煎じ詰めることです。
自分がこの人だったら、真に問題なのはどういうことで、自分だったらそれをどういうふうに解決したいか、どういうふうに自分はこの状況を変革するだろうか。あなたにしかない共感の力で、自分なりの課題定義をするわけです。
この課題がどういうふうに煎じ詰められ定義されるかによって、ビジネスアイディアというのは変わってくるわけです。
もう1回、ポイントを確認します。ここで、この観察の中からニーズをつかみ取りビジネスアイディアを出すとき、このときのポイントというのは、共感の力、しっかり共感をすることで、大きいニーズを掴む。共感しないで、なんとなくこの市場にこんなにはまるんちゃうの、ということをやってしまうと、対して大きくもない変なニーズを掴んで、変なビジネスアイディアになってしまう。
先ほどのオフィスの絵を見たときに、なんだか殺風景だなと、絵でも飾ろうかという形になったりとか、何かこの人きっと心が満たされてないでしょ、合コンでもしようか、と、こういう形になってしまう。そうではなくて、オフィスのこの状況がその人になりきると、この人はもちろん一生懸命仕事をしようと思っている、それを通じて社会に貢献、会社に貢献しながら自分も成長したい、それでお給料しっかりもらいたい、それを手助けしたいわけですね。
仕事を手助けするにはどういうものが活きるのだろうか、そんなふうに考えていく必要があるわけです。
そして第2のポイントとしては、この本質を煎じ詰める。この人の求めてるものって、究極的にこういうことだよねというのをグーッと煎じ詰めてあなただけのオリジナルな課題定義にしないと、ぼやっとした、多くの人と同じ答えになる。
どうも体の大きさに対して机があってない、椅子があっていない。机変えようか、椅子変えようかこういう話になってしまったりする。これも、もちろん重要な社会課題解決なんですけども、ごくごくありきたりな答えになってしまうわけです。それを回避するにも、この人の痛みの本質、この人にとってどういう解決案こそが求められているのか、それを、本人になりきって考えぬく必要があるわけです。
そんな中でも上手に課題を大きく掴み取って、それを煎じ詰めることを上手くやってくれた学生のアイディアを、今から四つほど紹介したいと思います。皆さんもですね、ぜひ考えてみて改めて考えてみてもらいたいと思います。
●学生のアイディアその1
まず、私が一番、上手かなあと思ったのは、学生さんが考えてくれたこんなアイディア。サブスクリプション型のマッサージサービス事業をやってみたらどうだろうか、というもの。オフィスで働く人たちは背中や肩や体中が痛くなってしまう。ここでこの学生がなかなか上手だったのは、それをエビデンスで裏付けを取ったこと。帝国データバンクさんの情報によりますと、今、整骨院やマッサージ店の売上高は右肩上がりでコロナ前まで成長してきた。これを見てみると、このオフィスの課題を、マッサージで直すというのは一つの答えとしてこれから大きく成長しうるのではないのかと。
でも、なかなかマッサージには気軽に行けないですよね。1回何千円もかかったりだとか、1回何十分もかかってしまうと、気軽には使えない。そこでオフィスにデリバリーというか、オフィスへ直接行ってやっちゃってもいいし、仕事場付近で帰り道なんかで5分10分ぐらいで体の状態を調整する、サブスクリプション型で毎日毎日安い値段で短い時間で通えるようなマッサージサービスだったら、マッサージ店にとっても増収になるだろうし、人々のこの体の課題ってのが解決するはずだと。
なるほどなと、この結局やっぱこの体の不調というのが問題であれば、それをマッサージで直す、そういう形があるんじゃないか、なかなか上手な煎じ詰め方だなあと思いました。
●学生のアイディアその2
それから第2に学生が考えてくれたアイディアとしてはですね、職場でミュージックプロジェクトなんですけれども、この音楽を流すっていうのはよくあるアイディアだったんですね。結構学生諸君も結構出してくれたんですけども、これをリクエスト形式にして、指定の時間に今日はドコドコ係の誰々さんがこの音楽をリクエストしてくれましたということで、それぞれの人が好きな音楽というものを紹介しながら、流してみるのはどうかというアイディアです。
それなら、会話が進むし、オフィスの空気も和やかになるでしょうと。単に音楽を聞いてリラックスしたり良い気分だったりする。それだけではなくて、コミュニケーションは大切だよねと、それによってコミュニケーションが発展して人々が職場でよく会話をするようになったら、結局この良き職場環境というものが解決策なんだから、音楽だけではなくて、コミュニティ全体を改善するというところまで考えたのが、なかなか面白いアイディアだなというふうに思いました。
●学生のアイディアその3
それから、パソコンを使うっていうのが結局本質的な問題だと、こういう問題の切り取り方をしてくれた学生もいました。
結局、この決まった四角い画面にこういう形でパソコンをするというのが、多様な人々がいるなかで画一的で問題となっている。人の体は千差万別だし、人が集中できたり人が仕事できる状況というのも千差万別なのに、もうパソコンの形が決まっているというのが問題なんではないのか、なかなか鋭いなと思いました。
そこで、スマートグラスにすれば、姿勢は自由だしそれでいろんな方向を向いていろんなやる姿勢で自分の楽な姿勢で仕事ができたら椅子とか机を解決するよりも、グラスで解決できるんじゃないのか、こちら側に注目したってのは面白いですね。
そうしますと、本当に場所を選ばなくてよくなってくるのであれば、何だろうか、ゆったりしたソファでもいいし電車の中でもいいかもしれないし、喫茶店でももちろんいいし、ワーケーションでもいいわけで、スマートグラスを利用したら、この場に縛られなくなってくる。これができたら、確かに大きい市場がありそうだなと思うので、ビジネスという目線で見たときに、これも大きな市場が取れそうだなというふうに私は感じました。
●学生のアイディアその4
それから最後に紹介しますね。学生が考えた四つ目の案としては、姿勢のケアというものをアドバイスしてくれるようなAIによる診断サービスです。
各机、各椅子にセンサーモニターをつけてその人の働いてる状態をチェックする。そしてそれをクラウド上でデータを集めて解析して、こういう状態がこの人にはいい仕事の仕方など、これを分析して出す。そしてその分析結果に基づいて、今あなたの体の状態問題あるんじゃないかな、こういう姿勢をとった方がいいんじゃないかな、そろそろセラピーを受けた方がいいんじゃないからこういったことをAIが診断して、支援、補助してくれる。
なるほどなと、これもこれでひと塊。いろんな会社さんにこういうシステムはどうですか、という形で提案するという形でビジネスの形を見据えたアイディアだなというふうに思いました。
最後に
さて、そんなわけで、同じくこの仕事中の姿勢とか体とかこういう点を皆さんは問題視したんですよね。仕事中の体と心の問題を重視したわけですけども、問題の煎じ詰め方によって答えが変わってくるっていうのが、皆さんおわかりいただけたでしょうか?
音楽なんじゃないかな。そういうふうに絞り込んで音楽を通じて場の解決をする。
マッサージができればいいんじゃないかな。マッサージで解決をする。
診断してほしいよね、AIで診断してあげる。
こんな感じで、それぞれの問題の煎じ詰め方、ここの部分でオリジナリティが出てくるわけです。このステップを飛ばしちゃいけないです。ばくっと大きなニーズを掴んだだけではありきたりになる。なのでイノベーションに大切なのは、ばくっと掴んだ上で、シュッと絞り込んで、あなただけの共感であなただけの答えを導く。こんなふうにして、今までにないサービスが生まれてくるわけです。
どうですかねこのオフィスの課題解決。これからの、大きな市場だと思いますので、皆さんもぜひ、自分なりの共感の力を使って、自分なりの課題の切り出し方をして、新しい市場、新しいマーケット、あなただけのユニークな方法で掴んでみてください。
著者・監修者
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1982年生。経営学者/やさしいビジネススクール学長/YouTuber/経済学博士/関東学院大学 特任教授/法政大学イノベーション・マネジメント研究センター 客員研究員
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専門は、経営戦略論・イノベーション・マネジメント、国際経営。
「アカデミーの力を社会に」をライフワークに据え、日本のビジネス力の底上げと、学術知による社会課題の解決を目指す。
「やさしいビジネススクール」を中心に、YouTube・研修・講演・コンサル・著作等で経営知識の普及に尽力中。
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