本日は、製品開発のためのプロジェクトマネジメントというお話をしていきたいと思います。
本日の講義内容
このイノベーション・マネジメントという科目について…マネジメント、っていう名前がついてますけれども、私はそんなに管理っていう感じの管理の話をしてなかったと思うんです。どうやったら、創造的に新しいものを見つけることができるか、どうやったら問題を発見することができるか、どうやったら製品をデザインできるのか、そういう物事を新しく始めるときのHow toの話が中心でした。
本日の話は、それを予算内にどう収めるかだとか、期間内にどう完成させるかっていうような、「管理」の側面の話です。
イノベーションのための取り組みとは、豊かなアイディアに基づいた創造のプロセスであると同時に、限られた予算、限られた期間内に実現するという、「プロジェクト」でもあるわけです。予算があって、期日が決まっていて、使える人員が決まっていて、その中で成果を出すことが求められる。となってくると、いつまででも発散して、おもろいことをやってればいいわけではなくて、管理という発想も絶対必要になってくるわけです。
とりわけ、この管理の力が生きてくるのは、予算が大きくなってくるフェーズ。すなわちこの製品開発というフェーズにこそ、管理の力が生きてくるわけです。そこまでは、豊かな発想、アイディアをどんどん出すでいいんですけども、製品開発フェーズから特にこの管理をするという力がとっても大切なわけです。
そんなわけで、この管理の仕方ということの基本を、今日はお話をしていきたいと思います。
管理の力
なぜ私がこんな管理の話を強調するかというと、世界のイノベーティブな会社というのは、管理の力に優れてる会社が多いんからなんです。たとえば任天堂という会社、任天堂という会社はもちろん新規の新しいゲームが作れることもさることながら、ポケットモンスター、ゼルダ、マリオ、ああいったゲームが何で消費者にすごく楽しいと思ってもらえるのかというと、「ストレスフリーだから」だって言うんですね。
丁寧な作り込み、バグが無い、ものとして品質がよく作られている。かつ、予算内できちっと収められていて、発売日を狙ってきちんと発売できるか。こうした、管理の力がしっかりできているから、そこにちょっとの創造性のエッセンスを加えると、ゼルダやマリオや、どうぶつの森のような豊かなゲームが出来上がってくるわけです。
トヨタの車も、新しい技術を入れながら、最新の製品をちゃんと世に送り出してきちんと受けられてるのは、やっぱり不良がないこと、きちんとコストを抑えられて安く収まっていること。管理の力なわけですよ。
あるいはですね、管理ってのはこういう側面でも大事なんですよ、本当に新しいWebのアプリケーションを作るITのアプリケーションを作るといったときであっても、例えばSlackやZoom、今日ではとっても広がっていますね。
こういったプロダクトが何で世によく普及しているのかといえば、誰よりも早く世に出せたからです。市場に早く出すことができたからというのも、これまた管理の力なんです。どんどんどんどんバグ潰しをしていったらどんどんどんどん予算と時間がかかってしまうし、あるいはたくさん機能を盛り込んでずっと完成がしなければ何でも完成が後回しになってしまったら、プロジェクトとしては失敗なわけです。
そんなわけで、製品サービスの開発活動というのは管理されなきゃいけないわけです。
QCD
プロジェクト管理といったときにあなたはプロジェクトリーダーとして何を管理しなきゃいけないのかといえば、こちらなんです。QCD、これはですね、生産管理とかもの作り、この製造業の方であれば多くの方がご存知の管理の三つのポイントになります。この三つをしっかり念頭に、QCD三つの物事がちゃんとできていれば、プロジェクトがきちんと円滑に回っていく。
QCDとはすなわち、Q「要求性能」、つまりクオリティをどこまでを求めるのかという基準を明確にしていくということ、第2には、C「コスト」、いくらまでの予算内に抑えるという予算の目安もしっかり作っておくということ、そして3点目、D「デリバリー」いつ世の中に出すのかというTime to Market、市場に出すタイミングということをきちんと決めておくこと、このQCDの三つをきちんと目標の数字を作っておいて、その中で物事を実現していくということが大切になってくるんです。
これこそが、マネジメント、プロジェクト管理ということになっていくわけです。
機能管理
では、クオリティを管理するためにはどうしたらいいのか。先ほども言いましたけれども、商品が結局お客さんにクレームなく不満なく買ってもらえるというのは不良がないこと、これに尽きます。必要な機能がちゃんと実装されていること、機能がちゃんと満たされていることです。
だとすると、機能については、「絶対にやらなきゃいけないこと」「可能ならやるべきこと」「やらなくてもいいこと」の区別をはっきりさせることが大切。全部が必要としてしまったら、開発コストがめちゃくちゃに跳ね上がってしまうし、いつまでたっても開発できないし、全てを完璧にしようと思ったら、もう何もかもが崩壊してしまう。
なので、プロジェクトマネージャーたるもの、これは絶対にやろう、そこにリソースを集中する。できなくてもよいものについては、できなかったときには、諦める。はたまた、最初から手をつけない。このメリハリをはっきりつけることが、プロジェクトマネージャーの鍵になってくるんです。
たとえば、iPhone。初代iPhoneは早く世に出すため、安く世に出すために、たくさんの品質を見切ったわけです。たとえば「バッテリーは1日ぐらい持てばいいよ。絵は綺麗じゃなくてもいい」。でも、こだわらなきゃいけないのは、操作感の気持ちよさ、アプリが何でもそこで動作するということ、音楽が気持ちよく聞けるということ、そういったことは絶対やんなきゃいけない。それをお客さん目線で必要不要の区別がはっきりついていたから、iPhoneというのは良い商品になった。そこがスティーブ・ジョブズの強さなわけです。
コスト管理
二番目はコスト。コスト管理は本当に大切です。ベンチャー企業でそれをやったら予算なんて本当に限りがあるわけですから、その限りある予算の中でやらなきゃあなたの会社は倒産。
新規事業プロジェクトだってそうで、大企業の中でも、予算は厳密に決まっている。そこをズルズル使ってしまうと終わりがなくなってしまう。物によって違いますけど、予算はちゃんとあって、予算内に抑えないことには、どれだけ良い商品を出しても、なかなかあなたの評価は高まらない。プロジェクトとしても成功とは言い切れなくなるわけです。
その意味でも、コストの管理、無駄遣いはとにかく避けようと、これについても何が必須で何が必須ではないのかという、その線引きをプロジェクトマネージャーがはっきり持ってることです。
やはりここでも、何に使うのかの目安を明確に持っていることが大切です。この件は必須だから予算を出す。しかし、この部分には予算はかける必要はない。それは不要な機能だから、不要な部分だからそこにはコストをかけない、と。コストも、何に使うか何に使わないかの目安をはっきりさせることが大切です。
その意味では、経験値がない人がやるのがイノベーションだから、どうしても予算配分は難しくなってしまう。そのときには、毎度毎度、現場から学習していくしかない。
毎回それを学習して調整をしていきながら、この件にはもうちょっとお金がかかりそうだな、じゃあここを削るかな、この細かい調整をやっていきながら、ひたすら予算を気にかける。つらいねえ。つらいんだけども、これがプロジェクトマネージャー、すなわちイノベーターがやるべき仕事のもう一つの側面なんです。その意味では、安く済ませられる所はとにかく安く済ます。安くやってあげてもいいよただでやってあげてもいいよ。なぜならあなたの製品が出たときにはうちの会社にもメリットがあるからね。そう言ってくれるような支援者さんやパートナーさんには甘えましょう。オープンソースで使えるものをどんどん利用しましょう、フリー素材をどんどん使いましょう、そういうところに無駄なお金をかけない。これが事業を成功させる秘訣なわけです。
デリバリー管理
そして3点目、デリバリーなんですけども、これはTime to Marketという言葉を覚えておいてください。
別にこの商品を悪く言うつもりはないんですけれども、皆さんこの赤の丸で書かれた、G+って何だかわかります。
これを見ている人で知ってる人は相当マニアです。何のマニアかってGoogleマニアです。これGoogle+って言うんですけど、どんなサービスか知ってますかね。何と、あのGoogleさんがSNSをやろうとしたことがあるんですよ。Facebookみたいなのをやろうとしたことあるんです。
でも、あのGoogleさんがですよ、いや私はYouTubeでもお世話になってるから下手な事は言えないけど、あのGoogleさんにしても、なんとこのSNSサービス大失敗しちゃったんです。何百億円もの赤字を出して。それはもう世の中にFacebookがありTwitterがあり、世の中にSNSが十分に出ていて、2番煎じだったからですよ。2番煎じのものは、今日ではなかなか受けない時代です。
あるいはこちら、サイクロン掃除機。これ、日系家電メーカーがすっごく良い技術で良いコストで作ったんですけども、でも皆さんこのサイクロン掃除機って言ったらまずダイソン思い浮かべますでしょ。安いのを買おうと思ったら中国製の安くて品質の良いやつがたくさんあるじゃないですか。いかに日本企業がいいものを作りましたって言ったって、誰もこの評価なんてしてくれない。サイクロン掃除機って最初に作ったのはダイソン、イノベーターはダイソンなわけですから。
というわけで今日では、後から出したって誰も評価してくれない時代。真似しただけの商品だ、って思われてしまうんです。この意味で言うと、今日ではやっぱり製品を出すスピードも重要なんです。もうイノベーターはハラハラです。一番が取れるかどうか。
そうなってくると、コスト、品質とともに、いつまでに出さなきゃいけない。これも同じく計画立てが大切なんです。
早いうちにいつ頃までにこれをやっている必要がある。次のタイミングで次の目安は半年後にこれができている必要がある。1年後に市場出荷だ。こうした計画性っていうのをしっかり立てて、その当初の予定から前のめりなのか後ろにいってるのかっていうことをやっぱりよくよく、チェックしないといけないわけです。
このときに役に立つのは、この授業でも言いましたね。開発プロセスを圧縮する術があるわけです。プロセスオーバーラップですよね。全部のプロセスをウォーターフォールで順番にやってったらめちゃくちゃ遅くなってしまうので、それらのプロセスを同時並行でやって圧縮して、短い期間でまとめる。プロセスオーバーラップはこのTime to Marketにも非常に効くということが、過去の研究でも明らかになっているということを付け加えておきたいと思います。
プロジェクト管理の必要性
もう皆さんおわかりですね、プロジェクト、管理されるべしなんですよ。もうねここを本当に勘違いする人が多すぎる。
特に大企業で新規事業をやろうという人は、どうしてもですねいろんなしがらみがあるんです。品質これぐらい満たさないといろいろ文句言われるような、製造部門から文句言われるかな、営業から文句言われるかな、そんなことを思いながらやってると、絶対このQCDが破綻する。プロジェクトマネージャーは頑としてそこで予算はここまで、TimetoMarketはこのタイミングで、品質はこれは満たすこれは満たさない。これを自分の中の線引、物差しとして持っておけるかどうかってのはめちゃくちゃ大切なんです。いずれかが未達になったとしても、あなたの商品サービスには大ダメージをこうむってしまうことになるわけです。
ただですよ、どうしたってプロジェクトやっていく中で、計画通りにはいかないわけです。そうなってきたときには何を見切るかなんですけども、まさにここでこそマネージャーの手腕の見せ所なんです。予算はオーバーしてでもいいものを作るべきなのか、それとも、機能や品質を見切ってでも早くに出すべきなのか、何を見切るべきなのかっていうのを、そこの判断をするのもあなたの腕前の見せ所になるわけです。
そんなわけでイノベーションっていうのは、アイディアの力、発想の力、創造の力、やり切るガッツ根性、だけじゃないんですね、管理の力も大切。もしあなたにその力が足りないなと思ったら、プロジェクトマネジメントに長けた管理ができる人っていうのをチームに招き入れるのも重要な方法かもしれません。
最後に
最後に、それでもなおどうしてもQCDに未達がでそうなときに、あなたはどう発想をすべきかというと、このときの発想、この後の講義でもお伝えするんですけど、アフォーダブルロスというアイディアがあります。受け入れ可能な損失、受け入れ可能な失敗という意味です。
誰に受け入れ可能かといえば、あなたを取り巻く周りの支援者さんやお客様です。ここの部分が失敗しても受け入れてもらえる、あなたには再起のチャンスがある、次があるのはどれか、再起を許してもらえるのはどこの点なのかっていうのを状況状況に応じて考えるわけです。
社内のプロジェクトだったとしたら、例えば狙ったほど売り上げがなかったかもしれないけれども、予算をきちんと予算内に収めた時間をちゃんと期日までに出せたっていうのが大切かもしれない。あるいはあなたがベンチャー企業であったとしたら、予算はちょっと超過しちゃったけれども、とにかく良い商品を作れたんだ、ユニークで素敵な商品だっていうのを出せたっていうことがあなたの次に繋がるかもしれない。それは本当に、ケースバイケースなんです。
あなたの周りを取り囲む人、あなたのチームメンバー、出資者さんお客さん、そういったものを幅広く見渡したときに、何をすれば次があるか何をしたら次はないのかということを考えながら、どこを見切るかを考える必要あります。
不良品のことを英語でレモンというんですけども、もしあなたがレモンを作ってしまったときには、それをレモネードにできるような工夫をしましょう。レモネードになるように必ず再起ができるように転びましょうね、立ち上がりやすい転び方をしましょうということは、イノベーション会話で非常によく言われることです。
まあともあれ、ともあれですよ、QCDが全部きちんと満たせることが一番なわけで、その意味でも、ぜひですねこのプロジェクトマネジメントという側面管理をするという側面も忘れずにイノベーションプロセスに臨んでもらえればと思っています。
著者・監修者
-
1982年生。経営学者/やさしいビジネススクール学長/YouTuber/東京大学 経済学博士
詳しい講師紹介はこちら website twitter facebook youtube tiktok researchmap J-Global Amazon
専門は、経営戦略論・イノベーション・マネジメント、国際経営。
「アカデミーの力を社会に」をライフワークに据え、日本のビジネス力の底上げと、学術知による社会課題の解決を目指す。
「やさしいビジネススクール」を中心に、YouTube・研修・講演・コンサル・著作等で経営知識の普及に尽力中。
コメント