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課題発見のための力「共感力」【イノベーションマネジメント3-1】

課題発見のための力「共感力」【イノベーションマネジメント3-1】

イノベーションマネジメント第3のテーマは「機会発見」というお話をしていきましょう。

目次

イノベーション

イノベーションというのは、社会課題の解決です。世の中にどういう問題があるか、その問題を発見してそれを創造的な方法で解決する。これがイノベーションであるとするなら、そこには二つのポイントがあることに皆さんお気づきになられたと思います。

社会課題とその解決方法の二つがマッチングしたときに、イノベーションが起こる。イノベーションがこの二つの橋渡しであるとするなら、このイノベーションの起点、機会を発見するということは、社会課題を認識すること、そしてその解決案を創発すること、この二つがイノベーションの規定になるわけです。

ここでのポイントは二つの要素のマッチングだってことです。社会課題とその解決案ということ。どっちかだけじゃ駄目だということ。よくあるのが、ポンッと何か「面白いことを閃いちゃった」という学生さんは多いんですよ。「いろいろ面白いものを閃いちゃいました!先生これどうですか」と。でも、これは違いますよね。大切なことは、そこに市場があるかどうかです。

でも、別にアイディアから入ってもいいんですよ。こういう面白いアイディアを閃いちゃいました、それをなんとか事業化したい!これで、いいじゃないですか。その人が何かしようという気分になったのなら、それが正解。何よりそのスピリッツはとても大切です。けれども、その面白いアイディアが、いかなる世の中の課題を解決するのか、これを考えない事には次のステップには進まないということなんです。

あるいは。理系の方、大学発技術を使って、イノベーションを目指すとか、企業の中で生み出された新しい技術でイノベーションするという状況。これも同じですね。先に技術やソリューションのかたちがあって、あとから「で、何をソリューションするのか」という形。世の中のどういう悩みをソリューションするのというのがわかんないけどソリューションあるということはあるわけですよね笑。うん、でも、それでいいんです。

技術ありきでも別に構わない。先に製品案ができちゃっていても、構わないわけです。

社会ニーズ

大切なことは、そのソリューション案、製品案、解決案がいかなる課題を解決するのか、この意味でイノベーション成功失敗はまさしく市場機会、市場ニーズ、こういったものがあるかどうか、私達はそれをですね広く社会ニーズという言い方をします。

社会、世の中で必要とされているもの、広く捉えれば全てはこの社会ニーズという言葉に包含されるので、世の中で必要とされているものという意味で、社会ニーズというような言い方をします。

で、この社会ニーズの発見方法なんですけども、これまでの研究ではそのときに、第1に大切になるものは共感能力であるということが明らかになっています。もろもろの様々なイノベーションスクールですとか、デザイン思考と呼ばれるものの中でも、この共感、これが大切だってことが、近年非常に強調される傾向にあります。

共感、英語で言ってエンパシーなんですけれども、これは、シンパシー・同情とは違う点がポイントです。かわいそうだな、あの人助けてあげたいな、この「同情」の気持ちというのは、まだ他人事。共感というのは、自分事です

共感というのは、人間の脳の機能であることがわかっております。他人の考えていること、感じていることを、自分自身はその本人ではないし、それを経験しているわけではないけれども、その人が今どう感じているのか、あるいはかつてどう感じたのか、未来においてどういうふうに感じるだろうか、そういうことをイマジネーションして自分事として理解できる能力、これを共感と言います。

これは私達の人間に備わってる脳の機能だというふうに言われています。いろんな生物種に共感の能力はあるんですけども、特にこの人という種を特徴づけるものが共感の能力。私達は人の痛みがわかったり人の喜びがわかるから、人類として群れを成すことができて繁栄することができた。この私達が社会生活をできている、集団というものを作れている、その根源にある脳の機能こそが共感だということが、近年明らかになっています。

従いまして、個人差はあるんですけれども、私達は人間誰しも、脳の機能として保有している力です。こういう共感能力っていうのはただでも、この人生経験の中で、自分がこういうことをすると相手は嫌がるよな、こういうことをすると相手は喜ぶよな、そういうのを学習的に経験していって、人の気持ちがわかるようになっていく、この経験で身に付くものが共感というものなんです。

共感がイノベーションにもたらす力

この共感の力を使っていけば、そこにある人々の痛み・悩み、どういうことをしたらその人が喜ぶのかということが手に取るようにわかっていく。ですからイノベーションを目指すときには、現場に行って、現場の人がどういうふうに悩んでいるのかどういう喜びを感じるのか、それをしっかり目の当たりにして、感じ取るってことが大切だと言われてるんです。ちゃんと感じられれば、その人の課題を解決するための正しい正解が見えるようになるし、またちゃんと感じ取ってくれれば、自分ごととして解決への使命感が湧いてくるわけです。

使命感が湧いてくるということ、その人の問題構造をより正確に理解できるということ、この2点において共感がイノベーションの時点で大切になってくるわけです。

ちょっと練習してみましょうか?

こちら、これはインドのとても暖かい家庭の図なんですけども、お父さんがバイクを運転し、ここの膝、お父さんの膝もとに子供が座っていて、後ろに奥様が乗っていて、見てください。奥様の腕もとにはちっちゃい赤ちゃんまでいる、まぁ日本じゃ考えられない例ですよね。そう、日本じゃ考えられないけれども、私達の価値基準でその国の文化のことを否定するのは望ましくない。そんな状況でも、私達日本人が見ても、この状況をもっとよくしたり、この状況でどういう悲しいことが起こるのか。

共感の力をもってすれば文化の差を乗り越えて、そこにある課題に気が付くはずです。皆さんだったら、この状況にどういう課題を見出しますか。で、課題が見えたなら、皆さんはその課題を解決するいろんな手段が見えてくるはずです。

ここでは一つ、そのインドの中で行われたとっても効果的だったイノベーションを一つ紹介したいと思いますが、こんな問題点を発見した人がいます。

サリーがタイヤに巻き込まれるという問題ですね。サリーというのはこの女性が巻いている布で、インドの伝統的なお洋服ですね。これっていうのが、インドの女性が一般的に身に着けるものなんです。これ起きたら足を開いて座るというのは、とてもお行儀が悪く文化的に望ましいことではない、足を閉じないといけないから、さっきのスライド、もう1回ちょっと見てみましょうか。ご覧の通りなんですよ、横向きに座るんです。

足を股を開くというのはとてもお行儀が悪い、不道徳なことだと考えられているから横向きにすっと座るということが、現地での女性の望ましい座り方ということになる。ところがこうするとやっぱ不安定になるわけですよね。

そして実は本当にこのタイヤにサリーが巻き込まれるという悲しい事故がかつて起こっていたんです。これを防ぐために、女性が足を預ける座る側にサリーガードというもの、こちら、サリーを着用した、足を開かずに横向きに座ったときにサリーが巻き込まれないという、こんなのですね、あの鉄の棒をグイグイ曲げて作れば良くて現地でも実に安い価格で買えるんです。でもこれだけで現地の何千万人何億人の人たちの生活水準を確かに上げることができる。そこにある悲劇悲しみを取り除くことができるわけですよ。

その現地の文化に沿った形、社会慣習に沿った形、それを決して破壊せずに、皆さんはこのサリーガードというもので、現地の社会を少し良くすることができる。これがイノベーションですよ。

そしてこの規定になるのは、そこにある悲しみ、痛みということに感じ取れる共感の力なわけです。

共感の力を発揮するポイント

共感の力を発揮するときのポイントは、素直に感じ取ることです。イノベーションっていうと、面白いユニークなアイディアで実現するイメージがあるので、ツイストを入れるひねりを入れる、特殊なことをユニークなことをやろうっていう、そういう動機が働いちゃうじゃないですか。それやんなきゃ勝てないって思っちゃったりするかもしれない、でもそうじゃなくていいんです。

このフェーズは素直に感じ取ること。これにもちゃんと理由がある。何でなのかと言えば、変にひねったら、ひねればひねるだけマーケットが小さくなってしまう。マーケットが小さくなるということは、当然あなたの成功確率が減るわけで、あなたの経済的なリターンの可能性が減る。そしてそれ以上に重要なことには、救える命、救える魂、ハッピーにできる人を減らしてしまうわけです。

ですから、共感してくる部分は素直でいい。素直にそこにある大きな問題をつかむ。たくさんの人が悩んでいる問題を解決すれば、そっちの方が成功しやすくなる。それってすなわち、多くの人を助けることにも繋がるわけです。あなた自身が成功しやすくなって、多くの人を助けられるなら、大きいマーケットを狙った方がいい、大きな課題を掴んだ方がいいわけですから、だから共感の力を用いて、素直にそこにある問題を見つけてくる、これがイノベーションの第一歩になります。

共感の力の真髄

ただしですよ。ここで本当に共感の力の真髄というのは、本当にお客様目線になって、お客様が真にここで抱えている痛みが何なのかということに気がつくことです。

こちらをご覧ください。とある架空の求人情報誌の資料なんですけれども、皆さん、またエクササイズですよ。ここにどんな問題があるか、共感の力でお客さん目線で感じ取ってください。

ちょっと読み上げてみましょうか。

「従業員募集したい、求人を出したいと思ったらぜひ当社にお願いします。まずはお電話してください。お電話をして、それでご希望の掲載の雑誌の号数をご予約ください。そしたら私どもの編集室から原稿用紙をFAXします。」

FAXは困っちゃうかもしれないですね。今日はもうFAXがないかもしれない。だから「ご記入後折り返し私達の編集室宛にFAXしてください」だと、困っちゃうかもしれないですね。で、FAX24時間受け付けてます。

そしていただいた原稿を入力し、FAXで返送します。掲載料金をこのタイミングで銀行に振り込んでください。入金を確認しましたらご掲載します。料金はこんなふうになっております。さて、皆さんは私に騙されずにそこにあるお客さんの悩み、真の悩みが何なのか、お気づきになられたでしょうか?

もちろん正解はないですよ。いろんな正解があっていいんですけども、皆さんだったらここにある問題なんだと思いますか。

電話やFAXが面倒くさい。そこが問題ですかね。うん、実際お客さんはそういう痛みも感じますよね。電話せんといかんの。FAXせんといかんの。やりとりが細かい、こんなこと、いちいちやってらんないよ、という問題を感じる人もいるでしょう。広告のイメージが湧かない。5万円払って広告の枠を押さえたとして、それがどういう枠になるのか全然わかんない。広告のイメージがわかんない。お客さんにプロダクトのイメージが湧かないこれが問題なんじゃないのか、そう思った方は比較的いいとこついてるかもしれない。でも、ここで本当にお客さん目線に立ってみましょう。

お客さん目線で見たときに、真の問題って、それだと思いますか。お客さんにとってあるべき姿、望ましい状態は何なのか。

そんなことをよくよく考えて、閃いた優れた企業の事例を一つ紹介したいと思います。

●共感力の成功例

こちら、ジョブセンスというサービス、会社名はリブセンスですね。ご存知の方も多いんじゃないかと思いますけども、これはですね、東証マザーズの最年少上場記録を持っております。村上さんという方が25歳で上場した。そのサービスがジョブセンス、会社名はリブセンスというものなんですけれども、ポイントはこの気づきです。

世の求人情報誌の何が問題かって、求人をしたい人の喜びはどこにあるかと言えば、「いい人が雇えた」ことですよね。「良い求人情報が出せた」じゃない、安く求人情報が出せた、でもない。やりとりが簡単だった、でもない。そうじゃなくて、ここでお客さんの喜びというのは、「良い人が雇えたこと」じゃないかと。そしてお客さんの痛み悲しみ、そこにある本質的な痛み悲しみは、5万円の広告料を出しても求人が来なかった、そこじゃないですか。5万円のお金をドブに捨てた費用対効果が出ない、なんで求人だけギャンブルなんだと、全てのものはリターンを得てから対価を払うのに求人だけ対価を払っても、人が来るかわかんない。どうして求人だけ、ギャンブルなんだ。

そこに目をつけて、このジョブセンスというサービスは、マッチングができたとき、いい人が入ってきたならば、その成功報酬を払ってください。こういう形に切り替えたんですね。もちろんですよ、皆さんがお気づきになられたような細かい問題点を全部解消してる、電話だFAXだのやりとりをシンプルにして、お客さんが好きなタイミングで自分で画面を見ながら求人情報をいじれるようにもした。自分で求人情報を編集できるんです。

でも、一番肝心なポイントは、それでちゃんとマッチングができて良い人が求人できたなら、それに対して対価を払う。この形に切り替えることによって、今までにないサービスを実現したわけです。

これが共感の力なんです。本当の意味で、お客さんの、そこにある喜び痛みって何なのか、表面的なことに惑わされない。確かに面倒くさいですよ電話してFAXして確かに面倒くさい、それもお客さんの悩みだけども、よくよく観察しよくよく考えると、本当にこの状況で求人という状況でお客さんが悩んでるのって、本当の意味で言うと何なんだろうか。この意味で、直感じゃないんですよ。共感というのは後天的に身に付ける能力であり、分析的に考えて、何が痛みなのか何が喜びなのかをつかみ取る力なんです。

まとめ

そんなわけで、最初は自分は共感が下手だな、共感できないな、でも構いません。全ては後天的な訓練で身につけられるのです。イノベーションを志す皆さんはぜひですね、この、その場にある痛み、そこにある喜びを感じ取り、考え抜いて分析して理解をする。そういう後天的な力として共感の力を育てるようにしてみてください。

著者・監修者

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