なぜ今、イノベーションが叫ばれているのか【イノベーションマネジメント1-2】
イノベーションマネジメントへの導入の続きといたしまして、なぜ今、イノベーションという言葉がこれほど世の中を騒がせているのか、その理由を解説しておきたいと思います。
もう、どこ行ってもイノベーションって話聞きますよね。
社長は口を開けばイノベーション。現場の人も口を開けばイノベーション。学生もイノベーション。みんなイノベーションイノベーションを言っているわけなんですけれども、そのときに皆さんが言うのが、変化が必要だ、変わることが必要だ、今は革新の時代なんだ。
みんなこう言うわけですよ。
二言目には、AIだとかドローンだとか自動運転だとかそんなことを話し出してですね、テクノロジーの変化だ、社会の変革だと。こういうふうに言うわけなんですけども。
たとえば今から50年前の新聞を開いて読んでみると(ニクソンショックやオイルショックの時代ですね)、やっぱりそこに踊ってる文字も、変化の時代だ革新の時代だそんな言葉が新聞紙上に並んでいたりするんですね。
昔からずっとそうなんです。ビジネスをやってる人たちっていうのは、今も変わらず昔も変わらずどんな時代だって「変化の中を生き抜いてきてる」わけです。
にもかかわらず、こんにち、イノベーションだ確信なんだ変化なんだ、そういうことが語られるのは、ちゃんと背景があるんです。
その理由は、こんにちでは、もう良いものを作る、良いサービスを提供している、あとは愚直に頑張ればいつかお客様気づいてくれる…そういう時代ではなくなってしまってるんだということなんですね。
現代は「革新」の時代
こちらに挙げたような企業、Appleさん、サムスンさん、Googleさん、こうした今をときめくような企業はもはや、「いいものを作って愚直に頑張っていれば勝手に売れていく」そんな素直なビジネスはしてない。
皆さん、消費者をあっと驚かせるような革新的な物やサービスを生み出し、それを上手にプロモーションし、ユニークなビジネスモデルでお客さんに届ける。
その変化の力をこそ、武器にしているわけなんです。
武器とする手段、採用する戦略こそが、イノベーションになった。そういう時代だからこそ、今までと同じように愚直に物作りをして良いものを作れば売れていくはずなんだ、この戦い方ではなかなか勝てなくなってるんですね。
ビジネスの要点は、時代で変わる
一番レベル差のある要因が、成功を決定づける
実は、ビジネスの要点というのを、歴史的・大局的な見地から調べた研究があるんです。
1990年代に、フリグスタインという人が成した研究を紹介します。ここでは、その後に起こったことも含めて説明します。
この歴史家の目線で大局的に見ると、ビジネスの要点というのが、確かに、時代によって存在している。
一番古くは1920年代、1920年代ってどういう時代だったかというと、ヘンリー・フォードがT型フォードを作ったり、フレデリック・テーラーという人が、科学的管理法というものを生み出したりしている。
この1920年代という時代は、「もの作」りが最も重視された時代なんです。
フレデリック・テイラーという人は、どうやったら物作りが効率的になるかを考えた人。ヘンリー・フォードのフォード生産方式というのは、人類が初めて経験する大量生産方式だったわけです。
で、何でこれが重要かというとですね、「他の企業はそういう知識がなかった」というのがポイントなんです。
世の中一般の企業が、まだ新しい「もの作り」のやり方を知らない中で、フォードやテイラーのように、抜きん出て新しい「もの作りのやり方」を知っていた人が、他の企業に差をつけて成功したわけです。
1920年代、もの作りがブームになった背景には、知識のギャップがあったから。一部の人たちだけが、もの作りの知識を持っていて、他の人たちが持っていなかった。このギャップを埋めたいがために、もの作りというものに世間の注目が集まり、この時期に物作りのレベルがぐっと上がったわけです。
ビジネスの成功と失敗の差を生み出す要因とは、知識のギャップである。それが、もの作りだったわけです。
もう後の話の流れ、皆さんにはおわかりいただけましたよね。
1960年代には、同じことがマーケティングで起こったわけです。
この時代、マーケティングを駆使して成功した会社が、コカ・コーラさん、マクドナルドさん、ルイ・ヴィトンさん、ロレックスさんといった、こんにちグローバルブランドとして知られる企業です。何で成功したかと言えば、この1960年代にいち早くマスメディアの力を理解した。
他の会社がまだ上手にマスメディアを使えなかった中で、これらの企業は上手にテレビやラジオの力を使って効果的なCMを生み出し、キャッチフレーズを生み出し、このマスメディアの力を上手に利用してうまく消費者の心理に入っていけたから、21世紀になってもいまだにこれらの企業はメガブランドとして知られている。
この1960年代に起こったことというのも、一部の企業だけが上手にメディアを使ったマーケティングの手法を確立した一方で、他の会社がそれを知らなかった。だから、マーケティングがブームになった。コトラーやドラッカーがもてはやされる時代が来た。
突出して成功した企業との差を埋めようと、世界中でマーケティングということが大ブームになったわけです。
同じことは1990年代にも起こる。1990年代には、ファイナンスで。
この時代は金融資本主義という言葉がよく叫ばれた時代です。後にリーマンショックを引き起こすことになる、リーマンブラザーズ、ゴールドマンサックス、メリルリンチ、JPモルガン、そういった会社というのがこの時期にぐっと伸びたわけですけど、もう皆さんお分かりですね。
これらの企業だけがファイナンスの力を理解し、ファイナンスの技法を先に確立した。他の企業は、持っていなかった。
この差が、これらの企業が大躍進したきっかけになり、それゆえに1990年代には、みんながこのファイナンスの知識をつけようと努力をしてブームになったわけです。そして、金融の過熱によりリーマンショックを迎える。
金融資本主義が終焉したいま、業績のよい企業の共通特徴は?
リーマンショックによって金融資本主義が終わった今、この21世紀、特に2010年代にどういう時代が訪れているかと言えば、それが「イノベーションの時代」なわけです。Google、Apple、トヨタもアマゾンも。台湾のTSMCも。こういった会社が何をしたかといえば、他の会社よりも先んじて、新しいものを生み出し、新しいビジネスモデルを確立し、この新しいものを世に提供していく技術を確立した。これが、他の会社にはない、知識ギャップ。
他の会社が必死に、この新しいものを生み出す技法を確立しようとしているから、イノベーションというものがこの21世紀においてブームをもたらしているわけです。
そんなわけで、20世紀を振り返ってみれば、
・ある時期には物作りが大きな差だった。
・ある時期にはマーケティングが大きな差だった。
・ある時期にはファイナンス金融が大きな差だった。
そしてこの21世紀、今は新しいものを生み出す力、イノベーションが大きな差として今ここに登場しているわけなんです。
だからこそ、今、いち早くイノベーションの技法を、これらの企業にキャッチアップした人は成功するでしょうし、それに遅れた企業はこのタイミングで大きく、それらの先んじる企業に遅れをとってしまうことになってしまうはずです。
そんなわけで、私はそのイノベーションの知識の普及ということを本当に大切なものだと思って、皆さんにぜひこのイノベーションの方法を学んでもらいたいと願っている次第なわけです。
幸いなことに、このイノベーションの知識というのも、かなり確立されてきている。
平等にチャンスがある時代
そして私は、このイノベーションの時代というのはとってもいい時代になったとも思っています。
というのはですね、皆さんがもの作りで勝負をしようと思ったら、何十億か必要です。フォード自動車と戦うためには、何千人の人を雇用して、長い生産ラインを作らなきゃフォードとは戦えなかった。
マーケティングの時代。コカ・コーラと戦おうと思ったら、ルイ・ヴィトンと戦うと思ったら、何十億かお金必要ですよねそれでマスメディアを使って莫大な広告投資をしなければ勝負にならなかった。
金融資本主義の時代。話は同じで。今度は何十億で済まないです。何兆円ぐらいのお金を用意しなければ、ゴールドマンサックスやリーマンブラザースとは戦えなかった時代。
そして今、イノベーションの時代。インドの片隅で、バングラデシュの片隅で、日本の片隅で、アメリカの片隅で。どんな人にでもチャンスは広がっていて、お金は別にいらない。
何が必要かといえば、アイディアと、それを事業化するためのノウハウ、知恵が必要なわけです。
別段、莫大な費用が必要なわけではなくて、そしてアイディアを持った人が即座にそのアイディアでチャレンジができる時代。
とっても平等だと思いませんか?そして、誰にでもとってもチャンスが開かれている時代だと思いませんか?そしてそれっていうのは、チャンスがある人が誰でも成功できるっていうのは、とても人間のあり方として自然なことだと思いませんか?
今までは、お金を持っていなければ勝負の土俵には立てなかった。それって、とっても不自然でとても悲しい状況。でも、こんにちでは、アイディアさえあれば人が出資をしてくれて、そのアイディアをもとに世界と戦っていける、とっても平等で、そしてとてもナチュラルな自然な経済状況になったんじゃないかと私は思ってます。
だからこそ、私は皆さんにこうしてイノベーションの知識というものを大学からお届けしたいと思っていますし、皆さんにはぜひこれを手に入れて、皆さんのアイディアで社会に新しいものを生み出し、挑戦していく、そんな力に変えてほしいと願っている次第です。
著者・監修者
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1982年生。経営学者/やさしいビジネススクール学長/YouTuber/経済学博士/関東学院大学 特任教授/法政大学イノベーション・マネジメント研究センター 客員研究員
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専門は、経営戦略論・イノベーション・マネジメント、国際経営。
「アカデミーの力を社会に」をライフワークに据え、日本のビジネス力の底上げと、学術知による社会課題の解決を目指す。
「やさしいビジネススクール」を中心に、YouTube・研修・講演・コンサル・著作等で経営知識の普及に尽力中。
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