中川功一
“If we teach today as we taught yesterday,
we rob of our children of tomorrow. “
“昨日までと同じような教育をしたならば、
子どもたちの未来を奪うことになる。“
―ジョン・デューイ(哲学者,教育学者)
やさしいビジネススクールは、2023年5月より完全無料で、『特別セミナーシリーズ 人的資本経営の最前線』と銘打ちまして、産学官、国内の人事分野のキーマンの講演を毎月実施していくことといたしました。
初回は、5月11日(木)20時より、同志社大学・太田肇先生による『「何もしない方が得」から「何かした方が得」な日本へ』です。無料の会員登録だけでご参加可能ですので、ぜひ、皆さん特設ページをチェックしてみてください。
さて、この「特別セミナーシリーズ 人的資本経営の最前線」をスタートするにあたって、私の心にあったのが、20世紀初頭、米国で活躍した哲学者で教育学者のジョン・デューイの言葉です。デューイは、子どもたちの教育の変革こそが、人と社会の未来を切り開くと考え、研究と実践のなかから新しい教育を作り上げていきました。
「人事のセミナーシリーズなのに、なぜ、子どもの教育の話?」
―とは、恐らく多くの人が思わなかったのではないでしょうか。人事分野に携わる人なら、多くの方が、これは「私に向けられた言葉だ」と、捉えてくださったのではないかと思います。
デューイたちが、米国の教育システムを作り変え、そして何より、変わり続けるというエンジンをこそ導入したことで、米国は20世紀の科学、技術、人材開発、そして産業競争力において優位を得られるようになりました。
いま、彼のこの言葉は、日本の人事にこそ当てはまるはずです。
日本の未来を担う人々とは、未来に希望を抱いて日々を過ごし、自分の使命感を理解し、時代に合致したスキルを磨き、成長の機会を活かす人々。
そんな人材を育むには、未来に希望を持たせることができ、日々の仕事にやりがいを感じることができ、教育訓練の機会と、成長の機会が十分に与えられ、正しい福祉をも提供することが求められます。
1日のうちの、実に3分の1までが労働である以上、人と社会の未来を拓くのは、人事の仕事であるはずです。
日本をめぐる実情
いくつかのデータにあたりながら、日本の「働く」をめぐる現状を確認していきましょう。
大人が学ばない国、日本
出典:経済産業省 「未来人材ビジョン」
こちらは、経済産業省「未来人材ビジョン」(2022)で発表された、日本の労働者が、社外学習・自己啓発を行っているかどうかの割合です。実に46%、およそ2人に1人までが、日本では自発的な学びを行っていません。ご覧の通り、アジア14の国・地域で行われた調査において、日本は圧倒的な数値での最下位となっています。
こうしたデータを見せたときに、よく頂戴する反論は「日本の教育はOJTが中心だから」というものです。この点については、きちんとデータを見ておく必要があるでしょう。
日本のOJT-は、もう古い
こちらは、厚生労働省「労働白書」(2012)で発表された、OJTをめぐる国際比較のデータです。
出典:厚生労働省「労働白書 2012」
https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/roudou/18/backdata/2-1-10.html
2012年時点で、日本のOJT割合は既にOECD平均より低く、女性になるとその平均からの乖離はさらに低くなります。
2023年現在においても、この状況が改善したと考えることは難しいでしょう。
日本人は、現状に満足しておらず、未来に希望も持てていない
人々が生きていくにおいて、未来に希望を持ちにくくなっていることも課題です。
内閣府:「子ども・若者白書」平成26年度 データは13歳~29歳のもの
https://www8.cao.go.jp/youth/whitepaper/h26honpen/tokushu_02.html
こちらは内閣府「子ども・若者白書」(2014)による16⁻29歳までの人々の意識を調べたものですが、諸外国に比べ自分自身への満足度が、これも他国と比べて群を抜けて低く、同様に将来への希望も群を抜けて低い結果となっています。
普通に生きることも難しい日本の収入状態
最後に、平均年収も見てみましょう。
出典:年収ラボhttps://nensyu-labo.com/heikin_nenrei.htm
元データは国税庁(2014)民間給与実態統計調査
こちらは、「年収ラボ」に掲載されている、国税庁調べによる賃金労働者の年収分布です。
経営者・自営業者は含まれないことに注意は必要ですが、私たちはここからも様々な問題を読み取ることができます。女性であり、自然なライフコースをたどっているに過ぎないのに、年齢が上がるほどに微減していく給与。一方、男性はというと、年齢が上がるというだけで急速に年収が上がっていきます。いまの50代男性は平均600万円以上の給与をもらっている一方で、20代の男女は300万円程しかもらえていないことになるのです。
かつ、50代の婚姻率は90%近く、また共働きになっています。50代世帯は世帯年収が850万円程度になる一方で、単身20代女性は多くの方が300万円を切るような世帯年収で暮らします。
自然なライフコースをたどっているだけで、今の若年層、特に女性は非常に厳しい生活をしていることになるのです。
これらの問題を踏まえて
こうした問題の多くは、私たちの「働き方」に依存しているのだとすれば。
すなわち、問題の多くが平成(ときには昭和)から維持されてきてしまった人事の形にあるのだとすれば。
私は、今すぐにでも、日本企業の人事制度は見直されなければならないと考えています。
草の根から、変革の機運を作っていきたい。
そんな中で、私たちにできることは何か。
なるべく正しい学術知と、実態理解をもって、向かうべき方向を議論していくこと。
草の根から、変わってゆく機運をこそ、作ってゆくこと。
知識と意識をアップデートしながら、連帯して、変革をめざす。
かくして、この「特別セミナーシリーズ 人的資本経営の最前線」を、発足することとしたのです。
これから、月に1回、注目の研究者・実務家を招いて、人事のあるべき形を様々な側面から検討していきたいと思います。また、週に1回、最新の人事の研究・実務におけるキーワードについて、解説をしていくブログも展開させて頂きたいと思います。
私たちが知っているべき、考えなければいけない、人事のトレンドは実に多岐にわたります。
ジョブ・クラフティング、1on1、タレントマネジメント、コーチング、戦略人事、人事改革、採用学、ウェルビーイング、組織開発、ファシリテーション、健康経営、HRTech、DX人材、越境学習、リテンション、賃上げ、レジリエンス、キャリアデザイン、ワークショップ、ダイバーシティ、クリエイティビティ、CHRO、人事評価、副業・兼業、社会人教育…
そのうちの、なるべく多くを取り扱っていきたいと思いますので、ぜひ、これから一緒に道を進んでいただけましたらと思います。
著者・監修者
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1982年生。経営学者/やさしいビジネススクール学長/YouTuber/東京大学 経済学博士
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専門は、経営戦略論・イノベーション・マネジメント、国際経営。
「アカデミーの力を社会に」をライフワークに据え、日本のビジネス力の底上げと、学術知による社会課題の解決を目指す。
「やさしいビジネススクール」を中心に、YouTube・研修・講演・コンサル・著作等で経営知識の普及に尽力中。
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