経済学の定義
人々を幸せにするための学問
経済学は、お金儲けを目的とする学問ではなく、世の中の仕組みを理解し、人々を幸せにするにはどうすれば良いのかを考える学問です。
経済学は、効率的な資源配分や市場の動向、経済政策の効果を分析し、結果として社会全体の効用を増大させることを目指しています。
多くの場合、経済学者は「お金儲けの方法」を探求していると思われがちですが、実際には、社会の仕組みを解明し、人々の幸福を追求することが経済学の真髄と言えます。
経済学の語源
経済学は「経世済民(けいせいさいみん)」という言葉が由来です。
これは「世の中の仕組みを理解し、人々を幸せにするにはどうしたらいいのか」を考えることを意味します。お金の儲け方そのものは経済学の範疇ではないんですね(経営学の範疇ではありますが、経営学もお金儲けだけを扱う学問ではありません)。
英語の”economy”の語源である”oikonomia”も、家計や課税を意味し、お金や仕事、消費をうまくやりくりすることを指します。
このように東西の知恵が示すように、経済学とは、社会の仕組みを解明し、より良い方向へ導くための学問なのです。
経済学の歴史
経済学は、「国家を豊かにするためにはどうすればよいのか」という素朴な疑問から始まりました。17〜18世紀、人々は重商主義や重農主義という考え方で模索を始めます。そして、アダム・スミスが『国富論』で経済学を体系化しました。
その後の歴史は、より良い社会を目指す情熱に満ちています。リカード、マルクス、マーシャル、ケインズ…。これらの経済学者たちは、それぞれの時代の課題に真摯に向き合い、解決策を探り続けました。
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重商主義と重農主義
この初期段階では、国家の繁栄には商業を優先すべきか、農業を重視すべきかが議論されました。
古典派経済学とアダム・スミス
18世紀後半にアダム・スミスが登場し、自由競争が社会を豊かにする鍵であると主張しました。スミスの「神の見えざる手」という概念は、各人の利己的な行動が最終的に社会全体の利益に貢献するという考え方を示し、経済学の基礎となりました。
19世紀の分化
19世紀には、経済学が「ミクロ経済学」と「マルクス経済学」に分化しました。
ミクロ経済学
個々の消費者や企業の行動を数学的に分析し、現象を解明しようとする学派です。マーシャルの限界革命を経て、現代のミクロ経済学の基礎が築かれました。
マルクス経済学
政治、哲学、歴史を総合的に考察し、資本主義社会における階級闘争や搾取の問題に焦点を当て、社会構造の矛盾を批判的に分析しました。
20世紀とケインズ経済学
20世紀初頭、世界恐慌を受けてジョン・メイナード・ケインズが登場し、国家や金融といった大規模な単位で経済を分析する「マクロ経済学」が誕生しました。ケインズは、政府による経済政策が必要であると主張し、現代経済学に大きな影響を与えました。
歴史的に重要な論文
経済学の発展に大きな影響を与えた歴史的に重要な論文がいくつか挙げられます:
- アダム・スミスの『国富論』(The Wealth of Nations)
- デヴィッド・リカードの『経済学および課税の原理』(Principles of Political Economy and Taxation)
- カール・マルクスの『資本論』(Das Kapital)
- ヘンリー・ジョージの『進歩と貧困』(Progress and Poverty)
- アルフレッド・マーシャルの『経済学原理』(Principles of Economics)
これらの著作は、経済学の基礎を築き、後の研究に多大な影響を与えました。
近年の経済学研究においても、多くの重要な論文が発表されています:
- ロバート・J・バローの「Economic Growth in a Cross Section of Countries」は、経済成長に関する重要な研究として広く引用されています。
- フリードリヒ・ハイエクの「The Use of Knowledge In Society」は、経済学における知識の役割について重要な洞察を提供しました。
- モディリアーニとミラーの「The Cost of Capital, Corporation Finance and the Theory of Investment」は、企業財務理論に大きな影響を与えました。
多様化する現代経済学
計量経済学
統計学の手法を用いて、経済現象を分析する学問です。
行動経済学
心理学の知見を取り入れ、人間の非合理的な行動も含めて分析することで、従来の経済学では説明できなかった現象を解明しようと試みています。
このように、経済学は時代とともに発展し、様々な学派に分化してきました。それぞれの学派は独自の視点から経済現象を分析しており、現代の経済学はこれらの多様な学派の研究成果の上に成り立っていると言えます。
経済学に対する誤解
経済学に関しては以下のような誤解が多く見られます
- 経済学者はお金持ちになれる
- 経済学者は為替や株価の予測ができる
- 経済学の理論は現実離れしている
- 経済学者は偉そうだ
これらの誤解は、経済学の本質である「社会の仕組みを解明し、人々の幸福に貢献する」という目的が十分に理解されていないことが原因と言えます。経済学は単なる金銭的な利益追求の手段ではなく、社会全体を幸福に導くための道具であることを理解することが大切です。
経済学は、為替や株価を予測できない?
「経済学者が100人いれば100通りの予測が出る」と言われるように、経済学者の予測は往々にして異なります。
これは、経済学が社会の様々な側面に焦点を当て、それぞれ異なる仮定や枠組みを用いて分析を行うためです。
個々の経済学者は、特定の問題設定における結論を提示しているに過ぎません。
経済学者はお金持ちになれるのか?
経済学者はお金持ちになれるという考えは、よくある誤解です。 経済学は、お金を稼ぐこと自体を目的とする学問ではなく、世の中の仕組みを理解し、人々を幸せにするにはどうすれば良いのかを考える学問です。
経済学を学ぶことで、お金の流れや市場のメカニズムなど、経済に関する知識や分析能力を身につけることができます。しかし、それらの知識や能力がお金儲けに直結するわけではありません。 経済学者は、社会全体の幸福を追求することを目的として研究活動を行っており、必ずしも個人の金銭的な成功を目指しているわけではありません。
むしろ、経済学者の中には、社会貢献を重視し、経済学の知識を活かして貧困問題や環境問題など、社会的な課題の解決に取り組んでいる人もいます。 例えば、ムハマド・ユヌス氏は、バングラデシュの貧困問題に取り組むためにマイクロクレジットという仕組みを開発し、ノーベル平和賞を受賞しました。
経済学は、お金儲けのための学問ではなく、社会全体の幸福を追求するための学問であるということを理解することが重要です。
経済学の理論は現実離れしているのか?
経済学の理論が現実離れしているという意見は、確かに存在します。現実の経済は複雑で、様々な要因が絡み合って動いています。一方、経済学の理論は、単純化された仮定に基づいて構築されることが多く、現実の複雑さを十分に捉えきれていないと感じる人もいるでしょう。
例えば、ミクロ経済学では、数学を用いて人間社会の現象を分析します。この分析を行う際、数学的に扱いやすいように、現実を単純化する必要があります。例えば、「すべての経済主体は合理的である」という仮定を置くことがあります。しかし、現実には、人間の行動は必ずしも合理的ではなく、感情や心理的な要因に左右されることも少なくありません。このような単純化された仮定に基づく理論は、現実の経済を説明するには不十分であると感じるのも無理はありません。
このように、経済学は常に現実社会の問題を解決したり理解しようと、時には現実を単純化して分析する手法は、複雑な経済現象を理解するための第一歩として重要ですが、「経済学の理論は現実離れしている」といわれる原因かもしれません。
経済学との付き合い方
経済学は社会の様々な側面に光を当て、それぞれの問題に対して適切な枠組みを設定し、分析を行っています。経済学は、社会の仕組みを理解し、人々を幸せにするという目的を持った学問ですが、ある特定の経済学者の意見だけを鵜呑みにするのではなく、様々な経済学の考え方を知り、自分自身で考えることが重要です。
そして、その理解に基づいて、より良い社会を築き上げていくために、私たち一人ひとりが積極的に考えていく必要があるでしょう。
経済学者はなぜ偉そうに見えるのか?
この印象が生まれる背景には、歴史的な背景と現代的な事情が関係しています。
歴史的な背景:知力の高いエリート集団
経済学は、古くから高度な知的能力を必要とする学問とされてきました。
特に日本では、東京大学などの難関大学を卒業し、さらに海外の有名大学で研究を積んだエリート層が経済学者になる傾向があります。
海外の大学で研究を行うために、留学費用や生活費など、多額の資金が必要となります。そのため、経済的に裕福な家庭出身者でないと、経済学者になることは難しいという現状があります。
結果として、経済学者という職業には、選民意識が生まれやすい環境があると言えます。
彼らは、一般の人々には理解できない高度な知識を持っているという自負から、時に傲慢な態度を取ってしまったり意図せずそのように見えてしまうことがあるのかもしれません。
経済学者の意識改革:ムハマド・ユヌスの例
しかし、すべての経済学者が偉そうであるわけではありません。
例えば、バングラデシュの経済学者ムハマド・ユヌス氏は、貧困問題の解決に尽力し、グラミン銀行を創設し、マイクロクレジットで貧困層の生活向上に寄与したことから、2006年にノーベル平和賞を受賞しました。彼は、経済学の知識を社会貢献のために活かし、人々の生活向上に貢献しました。ユヌス氏のように、社会全体の幸福を追求し、人々に寄り添う姿勢を持つ経済学者も存在します。
経済学は、社会の仕組みを理解し、人々を幸せにするための学問です。
今後、経済学者がより多様なバックグラウンドを持つようになり、社会貢献を意識した研究活動が促進されれば、経済学に対するイメージも変わっていく可能性があります。
経済学の新たな方向性
経済学はこれまで、社会の仕組みを理解し人々を幸せにするための学問として発展してきました。 しかし、その過程で、数学的モデルや理論に偏重し、現実社会から乖離した側面や、エリート主義的な傾向も見られるようになりました。
今後の経済学は、これらの問題点を克服し、より社会貢献に繋がる、包括的な視点を持つ方向へ進むべきだと考えられます。
社会問題解決への貢献
ムハマド・ユヌス氏の例を挙げ、経済学の知識を貧困問題解決に活かし、バングラデシュの暫定政権トップとして社会改革を牽引し経済学の知識が貧困問題解決に繋がり、社会改革を推進する力となることを示しています。
未来の経済学は、この方向性をさらに発展させ、貧困や格差、環境問題といった、現代社会が抱える複雑な問題に、より積極的に関与していくことが期待されます。 経済学は、単なる理論や分析にとどまらず、現実社会の課題に具体的な解決策を提供できるポテンシャルを秘めているのです。
多様な学問分野との融合
従来の経済学は、数学を中心とした分析に偏っていましたが、経済現象は人間の行動や心理、社会構造、政治力学など、多様な要因が複雑に絡み合って生じるものです。
未来の経済学は、心理学、社会学、政治学、歴史学など、より幅広い学問分野との融合を図ることで、複雑な社会現象をより深く理解し、より効果的な解決策を導き出すことが求められます。
持続的な社会の実現の後押し
経済活動は、人々の生活、社会の基盤を支えるものです。 未来の経済学は、効率性や利益追求だけを重視するのではなく、倫理観や社会正義を中核に据える必要があります。
持続可能な社会、すべての人々が尊厳を持って生きられる社会を実現するためには、公平性、公正さ、人権などを考慮した経済システムの構築が不可欠です。 経済学は、その実現のために重要な役割を果たすべきです。
市民への分かりやすい情報発信
経済学は、専門家だけのもの、難解な理論の世界に閉じこもるものであってはなりません。 未来の経済学は、社会と繋がり、市民が理解し、社会参加に活かせるものへと進化していくべきです。
経済学者が、研究成果や政策提言を分かりやすい言葉で発信することで、市民の経済リテラシー向上に貢献し、より良い社会を共に作り上げていくことが期待されます。
これらの要素が統合されることで、経済学は、人々の生活に寄り添い、社会の幸福に貢献する学問として、更なる発展を遂げることが期待されます。
著者・監修者
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1982年生。経営学者/やさしいビジネススクール学長/YouTuber/東京大学 経済学博士
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専門は、経営戦略論・イノベーション・マネジメント、国際経営。
「アカデミーの力を社会に」をライフワークに据え、日本のビジネス力の底上げと、学術知による社会課題の解決を目指す。
「やさしいビジネススクール」を中心に、YouTube・研修・講演・コンサル・著作等で経営知識の普及に尽力中。
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