ドラッカーの『マネジメント』政府・公的機関マネジメント【6-8章】
中川先生と読むドラッカーのマネジメント
今回は第6項から第8項までを一気にやってしまいましょう。この区間が公的機関のマネジメントというテーマなんですけども、1項1項が分かれているわけじゃなくて、3つでなのひとかたまり。一気にざっと読んで、公的機関をどうマネジメントすればいいのか、そんな話をしていきたいと思います。
もちろん、今回の回も、決して公的機関にお勤めの方だけではなくて、私達みんなが、公的機関というものをどういうふうに捉えていけばいいのか、そのヒントにもなるので、ぜひご覧いただけたら嬉しく思います。
公的機関は絶対に必要な存在
ドラッカーの『マネジメント』は1970年代に書かれた本なんですけれども、当時において、公的機関がてどういうものなのか、その前提はこのように語られています。これは21世紀の現在でも、基本的に通用する話かと思います。
●公的機関というのは今日の社会で絶対必要
政府機関みたいなものもそうだし、NPOみたいなものもそうだし、あるいは第3セクターと呼ばれるものにしても、そういったものが今日あって、この社会はようやく成り立っている。必ずしも民間企業だけじゃなくて、そういう存在があって社会派出来上がっている。ここは認めなきゃいけない。
公的機関がちゃんと機能しているかどうかはともあれ、役割としては必要だということを、まず私達は認識すべきですよねと言ってるわけです。その上で。
●公的機関は社会の余剰資源で回っている
このこともまた認めなきゃいけない。民間企業が自分たちで上げた利益で自分たちで出資を募って、それでお金をサステイナブルに回す存在なのに対して、公的機関はそういった民間企業が上げた利益の中から分け前をもらう、国民が稼いだ所得の中から税金みたいな形で、分け前もらう。寄付をしてもらう。そういった社会の余剰資源で回っている。
この二つの点が意味することとは。これが大切。
公的機関は社会の余剰資源で回っているということを認めつつ、だからといって存在が許されていないわけじゃない。社会的な機能としては必要であり、社会からの余剰資源を頂戴して回っている。これを前提としてしまうことから議論が始まる。
そして第3には、この点はさっと行ける点ですね。
●公的機関も人が集まった組織であるわけだから、経営学が生きる。
結局、組織論・組織マネジメントは生きる。だが、上記のような前提を踏まえた上で、その特殊性を踏まえて公的機関をマネジメントする必要がある。
●キャッシュを生み出して自己存続を図るものではない
この点に注目するならば、公的機関マネジメントの鍵は事後的な利益を評価基準にするのではなくて、事前的に、手に入ってくる「予算」というものを、社会価値あるものに変換できているか、この機能性でもって、公的機関は評価すべきだと考えるわけです。
この点、現代でも非常に間違えられがちだと思います。
公的機関であってもきちんと利益が上げられるようにするとか、ビジネスの論理、営利組織の論理で、上手に利益を上げるように組織をデザインしたり、物事を考えたりしますが、それは根本的に間違っているというわけなんですね。
そうじゃなくて、公的機関というのは結局、その存在意義をきちんと結果で示す。貧民難民を救うのであれば、何人の人をどれくらい救えたのかって話ですし、医療系であれば、その頂戴した予算を使って、どれぐらいの人を救えたかである。その数字にきちんとコミットすること。何も、公的機関で利益を上げなきゃいけないわけではなくて、予算を使ってこれだけの人に貢献できたんだ、という点にこそコミットする必要がある。
利益ではなく、成果にコミットする
このような点に注目するなら、利益ではなくて、どれくらいの結果を実現できたのか、その成果にコミットするということを徹底することを通じて、公的機関はうまく回っていくようになる。
これがドラッカーの発想。私も、確かにそうだと納得のいくところです。
この意味で、公的機関が、目的が曖昧になりがちであることが問題視される。地域住民を幸せにする、みたいなのを掲げたときに、それが具体的な目標にブレークダウンされないときが公的機関のマネジメントの失敗である。なんだか、わちゃわちゃやって、何だかみんな一生懸命にやってました、こうなったら失敗。
明確な目的をもち、定量的に把握可能なものとし、その数値にコミットして、これぐらいの結果を出します、と。そして、その数値の実現に向けて組織のリソースを集中し、人々の思いを集中していく。これが、公的機関マネジメントの基本になってくる。
かくして第1にやるべきことは、フワッとした曖昧な目的なのではなくて、まずこの組織として何がしたいのか、地域住民なのか貧困問題なのか、動物なのか、どういうことがあるべき社会なのか、そのうちの何にコミットするのか、ということをまずクリアにすることです。
まず自発的に管理する。そして、外部から監査される。
この目標数値に基づき、まず公的機関がやるべきは内部に自発的に管理をしていける組織を育むこと。自分たちで、PDCAを回せるようにすること。内部組織の中で、現場の人も、ミドルマネージャーも、トップマネージャーも、同じ数字目標・同じ定性的ビジョンに向かって、動いているかを自分たちでチェックする。自走する体制を、作る。
その結果は定量的に外部に報告される。うちの組織は、今年度これぐらい活動して、こんな成果が出ました、と。皆さんから頂戴した社会の余剰資源たる予算でもって、これぐらいの結果を出しました、と。それを外部の人々に評価いただき、この組織に対してもっと予算が必要なのか、今の分で十分なのか、はたまた結果が出ていなければ予算は減らすべきなのではないのか、と外部からコントロールを受けるべきだということになるわけです。
公的機関こそ、明確なヴィジョンが必要である
ポイント、もう1回整理しておきましょう。
曖昧な存在だからこそ、公的機関はついついフワッとした目的を持ってしまいがちなんです。
そこに集まってくる人々も、いろんな思い、いろんな目的を持っている。この点、民間企業のほうが遥かに経営しやすい。みんなの意識を利益で統一できるからだ。目標が一つになっていないが故に、みんなの目線がバラバラになりがちになる。
だからこそ、公的機関には具体的なヴィジョンが必要不可欠で、うちの組織がやるのはこれなんだということをしっかり一つ明確にし、かつ、それを定量的に測れるようにする。それでもって、内部においても外部からの監査においても、その数字で議論できるようにする。これが公的機関のマネジメントの鉄則となるのです。
以上が、今回の内容となります。公的機関のマネジメントの話でしたが、民間企業のマネジメントにおいても、なるほどなと参考になった部分があるんじゃないかと思います。
ぜひ、今日のこの公的機関マネジメントの話、すなわち利益で測れないときには、代わりの定量目標で、みんなのリソースを一つにまとめていくという発想を、うまく皆さんのお仕事に生かしてもらえたらと願っています。
著者・監修者
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1982年生。経営学者/やさしいビジネススクール学長/YouTuber/経済学博士/関東学院大学 特任教授/法政大学イノベーション・マネジメント研究センター 客員研究員
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専門は、経営戦略論・イノベーション・マネジメント、国際経営。
「アカデミーの力を社会に」をライフワークに据え、日本のビジネス力の底上げと、学術知による社会課題の解決を目指す。
「やさしいビジネススクール」を中心に、YouTube・研修・講演・コンサル・著作等で経営知識の普及に尽力中。
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