中川先生と読む、ドラッカーのマネジメント。
ここは完全にひとかたまりのセクションなので、一気にいきたいと思います!そのテーマは、【企業の社会的責任】です。実はドラッカーの研究上の最大の業績は、この企業の社会的責任論の基礎を作ったことです。
ドラッカー経営学の真骨頂
かくして、このセクションこそがドラッカー経営学の真骨頂です。実はドラッカー、コンサルタントとしてビジネスをどうやってうまく回すかという仕事をしつつも、自身の思考エネルギーの多くは、企業というものが今日、社会と共存していくためにどうあるべきなのかに割かれたのです。
そんなわけで、ぜひドラッカー経営学の真骨頂を学んでいただきたいと思います。
企業の社会的責任
企業の社会的責任:コーポレート・ソーシャル・レスポンシビリティは、CSRという略称で日本でも海外でも知られている概念です。平たく言えば、企業というのはただ利益を上げれば良いだけではいけないのだという話です。
企業と社会とは、長期的にずっと関係を取り結んでいく、相互依存関係にある存在である。お互いに影響を与え合っている。このような関係にあるのだから、社会に対して責任ある行動というのを企業の側が取っていかなければ、社会の方が崩壊してしまいます。
だから企業はきちんと利益だけではなくて、社会にとって責任ある行動をしなければいけません。これが企業の社会的責任という概念の基本的な説明になります。
ドラッカーは、いち早くこの企業には社会的責任があるんだということに気づきます。なぜ企業は社会的責任を果たさなければいけないのか、そこのとこの理論的基盤を整え、実際に企業はどのように行動していくべきなのか、ここのところの方法論を整えた方として知られます。このドラッカーから企業の社会的責任論は始まっていき、発展をしていきました。
企業の社会的責任の大枠:going concern
最初に、このドラッカーの提唱した、企業の社会的責任論の大枠を伝えてしまおうと思います。
ドラッカーの論理の軸は、企業は「going concern」(ゴーイング・コンサーン)なのだということ。concernというのは、関係がある、関わりがある、影響を与え合っているというような意味です。そしてgoingは、継続的に、です。すなわちゴーイングコンサーンとは、継続的に影響を与え続ける存在、お互いにケアし合っていかないといけない存在を意味する言葉です。
企業は、何にとってのゴーイングコンサーンなのかといえば、社会というものにとってのゴーイングコンサーンなんだというわけです。
企業がどうやって出来上がっているかといえば、その社会というものから人を預かり、その人の人生の1日8時間以上預かるわけです。人材を預かり、あるいは社会からお金を預かり、天然資源を預かり、あるいは電力とか水なんかを預かり、あるいは地域社会から場所を預かって、さらには国から様々な恩恵をこうむって、こういった様々なものの支援の上に、企業は成り立っている。
そして、企業というのは何をしているのかといえば、その社会に価値ある財、サービスを提供している。
これが企業と社会の基本的な関係です。
だとすると、企業の側が社会に対して、あくどいことを行う。
人をブラック労働で使い潰してしまったり、社会から預かったお金を浪費してしまったり、地球資源をめちゃくちゃにする、地球環境をめちゃくちゃにしてしまったり、あるいは世話になったらその地域社会や国に対して悪事を働いたりしてしまっていては、もう社会の側から、どうかこの社会が出てってください、というようになってしまうわけですよね。
はたまた、社会に悪い財やサービスを提供し続けていたら、どうでしょうか。企業の製品やサービスが、社会に悪影響を与えて社会を破壊してしまったとしたら、これも社会からすればたまったものではない。社会の側からは、もはや十分な資源を得ることが難しくなる。だからこそ企業は社会に対して責任ある行動をしなければ社会の側がもたない、それって結局企業も存続できないよねということになるわけです。
かくして、商品サービスで貢献するのみならず、その企業活動も持続可能で、社会の発展に資するような活動でなければいけないのだと、このようにドラッカーは論じたわけなんです。
社会に対する貢献
それでは、具体的にどのようにして社会に対して貢献をしていけばいいとドラッカーは述べているのか。
第1のステップはまず、わが社に、企業に求められている社会貢献、解くべき社会課題は何なのか、問題を整理することからだと言います。どういう影響を与えているかを、整理しないといけないよね、と。もう何でもかんでも社会貢献的な活動をやればいいというわけではなくて、わが社として背負うべき責任はどこまでなのか、これを明確にすべきだというのですね。
重要なことは、故意であろうとなかろうと、自らが社会に与えている影響を分析すること。製造業であれば、様々ないろんな汚染物質を垂れ流してしまったりとか、そういった地球環境上の配慮もありますし、労働者を使っているのであれば、一般的にどんな会社も働き手を使うわけですよね。その人にとって継続的に働けるような環境になっているかどうか、あるいは地域社会に対してどういう影響を与えているのか、自らの活動において、繰り返しますが、故意であろうとなかろうと、我が社はどのような影響を社会に与えているのか、それを総合的に分析するのです。
社会に提供した商品やサービスだって、いろんな影響を及ぼしますよね。例えその商品がどれだけ良い商品だと思って出したとしても、その悪影響が出てしまうかもしれない。たとえば、すごく面白いゲームを作ったとして、ゲームに飲み込まれて日常生活がうまくいかなくなってしまう人が続出してしまったとする。これっていうのも背負うべき責任です。かっこいい自動車、良い自動車を作りました。でもその自動車が垂れ流してしまう排気ガスとか、交通事故はやっぱり自動車メーカーとして背負わなきゃいけないことなんです。
ということで第1には、故意であろうとなかろうと、自らが社会に与える影響の分析をする。
または、自らのありようと関わりなく、社会のリーダーとして、社会全体の問題として生じるものもケアしなければいけない。例えば人種差別の問題。人権の問題。そういったような問題というのは、結局、人を雇ってる分には責任をもって意見をだし、行動しなければいけない。わが社として今は問題なかったとしても、社会として一緒に解くべき課題として取り組めというのです。経営者は、今日の社会のリーダーです。であれば、自らのありようと関わりなく、社会として問題提起されたことに対して、あなたは明確に私達はこのように考えこのように行動するのだ、ポリシーを持って動かなければいけないんだということになります。
第2のステップとしては、解決策を考える事。それぞれの問題を整理した上で、わが社として優先的に解くべき問題を選定する。そして、次にはその問題に対して解決策を考えていく。
ただし、ここで大切なのは、いきなり具体的な解決の方策を考えるのではなく、優先順位を決めること。トップマネージャーとして、大きい方針として「我が社として取り組む」のか、それとも委託をして「他の会社に解決をしていただく」のか、あるいは「解決を諦める」のか、どのようなポリシーを取るのか、大きく方針決めをするのが第1です。
ここにおいて、四つの大きな方針のあり方というのが提示されています。
第1は、止めても問題ないものであれば、ば即座にやめる。当たり前なんですけども、言うても、事業活動の中では気がつかないうちにこれを継続してしまってる可能性がある。なので問題をリストアップした上で、これもうやめてもいいやと、パチッと止めたところで全く問題ないというものであれば、パチッと止めて悪影響ある取り組みを一気にゼロにしましょうと。ゼロにするのが一番ですよねということなんです。たとえば男女差別。止めればいいだけの話。明日からやめましょう。
しかし、事業プロセス上、どうしてもやめることが困難な活動については、どうするか。こちらのが大半なわけです。第2のアプローチは、悪影響をどうやって減らせるのか、減らすための具体的な方策の検討に進みます。排ガスを出してしまうとか、製造活動の中でいろんな廃棄物が出てしまうとか、そのようにどうしても業務プロセス上、生じてしまうことが避けがたいようなものであれば、それをどうやって減らせるかこそ、考えるのは企業の経営者としてやるべき義務だということになるわけです。
そして第3。もしその解決プログラムが、経済的にサステナブル、すなわち収益を上げられる事業として回せるのであれば、それは必ず事業化しなさい。その廃棄品をうまく使ってビジネスをすることができたら、あなたが起こしてしまったそういう社会的な悪影響のあることを上手に経済的な仕組みの中で解決する手段をもしあなたが作ることができたならば、それは非常に優れたイノベーションだろうというわけですね。
経済的にサステナブルな形で解決を図っていくことを通じて、社会はちょっとずつ良くすることができるのだ。これがドラッカーの考え方です。かくして解決プログラムの商業化というのは積極的に考えていく。なぜならそれでお金が回っていけば継続的に解決が可能になるからです。
そして第4にはですね、これらのアプローチのいずれもが困難だよな、となるならば、解決能力を持った他者の協力を仰ぐ。その他者に対して委託料を支払ってでもいいし、あるいは政府であるとかボランティア機関としてそれを行っているようなところがあれば、そういったところの協力を仰ぐ。寄付をしたっていいし、税金を出したっていいわけです。いろんな形があり得るでしょうと、このような形も、もう一つ責任のとり方なんだということですね。自分たちの力で上手に解決できないことなら、より上手に解決が可能な人に託す。
このような形で、決してドラッカーはその問題から目をそらすことなく、この四つの手段のいずれかを通じて必ず企業は、その企業体としてなすべき、果たすべき責任をこなしていかなければいけないというふうに述べているんです。
ドラッカーからのメッセージ
そして、ここでドラッカーの名言が出てくるんです。これ知っといて損はない名言です。本当にドラッカーのオリジナル名言で、これは知っておきましょう。
最後の最後、この一連のセクションの最後にドラッカーはこのように述べています。
知りながら、害をなすな。not knowingly to do harm.という言葉。まあ実はですね元にしているギリシャ哲学の言葉があるんですけども、それを現代ふうに修正して、not knowingly to do harm.なかなか日本人がぱっと見てどういうふうに読めばいいかわかんないと思うんですけども、not to doですよね、何々するなという命令文が軸です。not to do harm.決して害を出すな。それを、knowingly 知りながらということで、あなたが気がついているのに知っているのに、害をなすなんていう、そういう人になるなと言ってるわけです。
企業の社会的責任がどうだとか、企業として倫理感を持つべきだとか、そういうことの前があるだろうと、あなたは人間なんだと、あなたはあなたとして人格を持った、あなたとして倫理感を持ったあなたが社会の責任を負っている1人1人が責任を負っているこれからの未来をつくる1人なわけでしょうと。そういう人間としてあなたとしての人間性を回復してください。
1人1人がこの社会のリーダーなんだから、あなたが自分の信念に沿ってこの社会にとってどうあるべきなのか、そのように考えていけば、何も先ほどまで述べてきたような複雑な脳に何かを展開する必要もないでしょうと。決してマネジメント手法がうんたらかんたらではない。あなたは一、一人の人間としてあなたとして気がついた問題に対して、知りながら害を出さないことです。このような気高い人間性こそが問題解決の本質なんだと、このようにドラッカーは述べているんです。
そんなわけで、このドラッカーのメッセージをどうかしっかり受け止めていただいて、未来を作る一員として、ぜひあなた自身が企業のなんて言わずに、社会的責任ある行動をとっていくようにいたしましょう。
著者・監修者
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1982年生。経営学者/やさしいビジネススクール学長/YouTuber/経済学博士/関東学院大学 特任教授/法政大学イノベーション・マネジメント研究センター 客員研究員
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専門は、経営戦略論・イノベーション・マネジメント、国際経営。
「アカデミーの力を社会に」をライフワークに据え、日本のビジネス力の底上げと、学術知による社会課題の解決を目指す。
「やさしいビジネススクール」を中心に、YouTube・研修・講演・コンサル・著作等で経営知識の普及に尽力中。
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