カスタマージャーニーマップとは
かなり新しい部類に入るマーケティングの手法です。顧客が、自社サービスを知り、それを購買するまでに、どういう経路をたどってくるかを視覚化したものです。
世の中では、高度なテンプレートによるやたら複雑なカスタマージャーニーマップが出回っていますが、ハードルを上げて誰も使えない手法にするのは正しいアプローチではありません。下図くらいの、めちゃくちゃシンプルなチャート図からスタートすればOK。本来はシンプルな発想法なのですから、難しくしていくのは本末転倒。まずは、あまり難しく考えずにまずは自社について、パッとやってしまいましょう!
カスタマージャーニーマップの理論的背景
カスタマージャーニーマップの背景理論は、消費者行動論という学問領域になります。消費者行動論は、心理学・行動科学の成果を用いて、消費者に固有の心理・行動を明らかにしていこうというものです。その最大の成果が、人は商品を買うまでの認知のフェーズがいくつかに分かれていることを明らかにしたこと。
代表例にして科学的にも妥当なものと考えられているものが、AIDAモデルと呼ばれるものです。
Attention:注意 商品・サービスの存在を認知する
Interest:興味 商品・サービスに興味をもつ
Desire:欲求 商品・サービスを欲しいと感じる
Action:購買 商品・サービスを購入する
この理論が意味することは、知ってもらうためのマーケティングと、興味をひくためのマーケティング、欲求をかきたてるマーケティング、そして購買を決定させるマーケティングは、媒体もメッセージも違っているということです。
まずは知ってもらうこと。拡散性のある媒体で、存在を知らしめることを念頭にしたメッセージを流していく。このタイミングで買ってもらおうなどとしなくてよい。まずは存在を好意的に知ってもらえればよいのです。
存在を知った人の何割かは、あなたの商品・サービスにより強い興味を持つでしょう。その時、たとえば検索をかけたりします。だとすると、検索によって自社商品・サービスを調べたい人が次に目にするのは、比較サイトだったり、記事情報だったりするわけです。調べて能動的に訪れてくれる媒体で、より興味を持ってもらえるようなメッセージを出していくのです。
それでもまだ、購買には結び付かない。自分事として、自分の問題を解決してくれる商品・サービスだという認識をもってもらう必要があります。次にユーザーが訪れるのはどういう媒体でしょうか。ここでは自社オウンドメディアなどを訪れることが想定されるわけで、そこで商品・サービスについてかなり具体的な説明を行い、欲求を高めるのです。
それでもまだ顧客は購買しないと思っていた方がいいです。最後の一押しをする必要がある。キャンペーンを打ったり、メルマガに登録してもらって、そこで最後の一押しをしたりする。
顧客の立場にたって、一歩ずつ、次の媒体、次の媒体と誘導をしていくことが、必要となるのです。
既に自社のカスタマージャーニーマップが書けていましたら、それが、AIDAモデルにはまっているか、一度確認してみましょう。「入口がなかった」「最初から膨大な情報を投げ過ぎていた」「途中が切れてる」「最後の一押しがなかった」「最後まで深い情報を提供しておらず、購買意欲を掻き立てられていなかった」―こうした問題が見つかったならば、成功です。これがカスタマージャーニーマップの正しい使い方。理論に照らして、いま足りていないものを見つけ出し、自社のマーケティング施策を是正するのです。
その他の消費者行動理論でもOK
AIDAモデル以外にも様々な消費者行動モデルがあります。AIDAモデルに「記憶する:Memory」というステップがあるだろう、としたAIDMAモデル。最後にはシェア「Share」をするよね、というのを特徴としたAISASモデル。コトラーが提唱するインターネット時代の5Aモデル(Aware, Appeal, Ask, Act, Advocate)などがあります。これ面白そうだな、参考になるな、と思ったものを使えばOKです。どれが正解、ということはありません。
マーケティングカンパニーでの高度な使い方
私は「マネジャーの意思決定に資すればよい」という立場から、各種経営理論はその理論的骨子を学び、現場で活かせればOKだという立場におりますが、より現場に近いレベルではもう少し緻密なカスタマージャーニーマップの使いこなしが要求されることがあります。
下記のような表にまとめ、ときにKPIを測定するなどしながら、マーケティング策を緻密に立てていくのにもカスタマージャーニーマップは使えます。
KPIを設定する
広告代理店などで効果を測定し、クライアントに示す必要がある場合には、各ステップでKPIを詳細に設定し、それを測定していくことが必要になります。Attention段階では、どれくらいクリック数があったとか、SNSのインプレッション数、いいね数などをKPIとします。Interest段階では、どんな媒体にどれくらい記事を出し、その総閲覧数などを測定する。続くDesire段階は自社サイト訪問数や商品ページの滞在数、そしてActionでは購入数を測る、といった具合です。細かく数値を取っていくことで、どこが弱いのかが見えてくるはずです。
顧客目線から課題を抽出・解決案を立案
コンサルタントの腕の見せ所としてはこの辺りになります。顧客目線で、カスタマージャーニーマップ上の、どの部分にどのような問題があるかを丁寧にリストにしていき、それぞれへの解決案を立てていく。
事例紹介
諌山創・講談社 進撃の巨人
圧倒的な力をもつ巨人に対して、人類が、絶望的な状況のなかで決死の挑戦をする―進撃の巨人はそんな「王道の少年漫画」でありつつ、ショッキングな表現と、魅力的なキャラクタたちで、誰もを惹きつけるような特徴を備えていました。広告やSNSでも、そうした王道的な特徴が強調され、幅広い認知を得ることに成功しました(A)。
しかし、ストーリーが進むと、話は思いがけない方向へと進んでいきます。幾重にも張り巡らされた伏線、舞台装置をひっくり返すような展開が続きます。そうした「謎かけ」を、本誌や各種記事として仕掛けていき、「あの漫画は単なる王道ものじゃない」と話題を作ります(I・D)。ブログや動画で考察が行われるようになります。
こうして「あの漫画は何か凄いらしい」という感情が潜在顧客の中で育ってきたタイミングで、新刊を大々的に書店店頭に並べたり、コミックアプリ「マガポケ」で既刊分を無料公開するなどして、丁寧に購買につなげました(A)。
ワンピースや、鬼滅の刃なども同様です。近年の漫画作品は、十分なAttentionと、そこからInterestをかきたてるような2段構えの構成を土台に、それを広告戦略=カスタマージャーニーに落とし込むことで、ヒットを生み出しています。
あらゆるレベル感で使える、マーケティングの新定番
カスタマージャーニーマップは、とにかく便利で使いやすく、起業時から成熟事業のマーケティングまで、どんな場面でも使える手法です。ざっと自社のマーケティング策を概観して、課題点を発見、改善をするうえではもっとも効果が上がりやすい手法の一つでもあり、私としては「怖がらずに、面倒くさがらずに使ってほしい手法」です。
そうした視座から、とにかく難しくしないを念頭に、あっさり目の記述をこころがけてみました。どうか気楽に自社のマーケティングをマップ化して、改善の糸口を見つけてみてください!
著者・監修者
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1982年生。経営学者/やさしいビジネススクール学長/YouTuber/東京大学 経済学博士
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専門は、経営戦略論・イノベーション・マネジメント、国際経営。
「アカデミーの力を社会に」をライフワークに据え、日本のビジネス力の底上げと、学術知による社会課題の解決を目指す。
「やさしいビジネススクール」を中心に、YouTube・研修・講演・コンサル・著作等で経営知識の普及に尽力中。
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