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キャリアアンカーの理解と活用術

目次

キャリアアンカーの探求とその意義

キャリアアンカーとは何か?

キャリアアンカーは、個人が自身のキャリアを形成したり洗濯したりする際に最も重要で、他に譲ることのできない価値観や欲求のことを指します。それは、自己の内面で変わることのないものであり、根源的な自己認識の一部です。組織内の個々の人々が、自己の職業的アイデンティティと方向性を定義するための重要な枠組みとなります。

Will、Cam、MustでWCMなどとも呼ばれ、天職探しの基本モデルとして知られます。

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働く理由は人それぞれであるということは、前節で触れた通りです。であるならば、よい職業人生を歩みたいと思うならば、自分でそれをデザインするしかない、というのがキャリアアンカーの発想です。自らのやりたいことを問い、自分ができることを問います。しかし、それだけでは人に必要とされる仕事にはならないため、最後に「社会から必要とされること」を問います。この3つの問いの交点こそが、自分の天職となります。

天職は、時間と共に変わっていくでしょう。やりたいことも、できることも、社会にとって大切だと思うことも、変わってくるからです。その意味では、定期的にこの3つの問いを問い直すことが大切になります。ただし、「自分で気づく」から意味のあるものであることを強調しておく必要があります。他人にWCMをやることを強制され、少しでも「やらされ感」を感じた瞬間に、この手法は効果を失います。極めて主体的に、自己の軸を探すのだという意志のもとで使われるべきです。

例えば、「専門能力と職能:技術/機能のコンピタンス」をキャリアアンカーとする人は、新しいスキルの習得や専門性の深化を重視します。一方、「自立と独立志向:オートノミー/インディペンデンス」をキャリアアンカーとする人は、自分の仕事の方法を決定し、自己管理が可能な職務を求める傾向があります。

  • アンカーとは「錨」。キャリア(職業人生)という海原にあって、座標を見失わないようにするもの、それがキャリア・アンカー。
  • 自分の働く意味をさがす、あるいは自分の天職を探すた際に確認すべき点。
  • 自分にとって「Will(やりたいこと)」、「Can(できること)」、「Must(社会のために果たされるべきこと)」の3つの質問から考えていく。

「自分が働く意味」を確認するためのものであり、他人にやらされても効果は低い。

キャリアアンカー理論の発端:エドガー・シャインと彼の貢献

キャリアアンカーの概念は、組織心理学者であり組織文化とリーダーシップの研究で知られるエドガー・シャインによって初めて紹介されました。彼の理論は、個々の人々が自身の職業的な方向性を理解し、適切なキャリア選択を行うための枠組みを提供しています。

シャインによれば、キャリアアンカーは個人が経験を通じて発見する自己観念であり、その人が仕事において何を最も価値あると考えるかを示すものです。彼の研究は、個々の人々が自己のキャリアアンカーを理解し、それに基づいてキャリアパスを選択することで、より満足度の高い仕事と生活を送ることができると結論づけました。

キャリアアンカー3つの要素と問い

キャリアアンカーは、個々の人々が自己のキャリアを理解し、自身の働き方を形成する上で重要な役割を果たします。キャリアアンカーは大まかに三つの要素、すなわち、コンピタンス(能力)、動機、および価値観から構成されます。以下に、それぞれの要素を表現し理解するための問いを示します。

能力/コンピタンス(Can):コンピタンスを表出させる問い

自己の能力やスキルを理解するための要素。例えば、「私は何を得意とするのか?」、「私は何を成し遂げることができるのか?」といった問いに答えることで、自己のコンピタンスを明らかにします。

例えば、エンジニアリングやソフトウェア開発の分野で働く人々は、「技術/機能のコンピタンス」をキャリアアンカーとして設定することが多いようです。これらの人々は、自分の専門性を深め、新しいスキルを習得することを重視します​。

動機(Will):動機を表出させる問い

自己の行動や決定の背後にある推進力を理解するための要素。例えば、「私は何によって動かされるのか?」、「私は何に取り組むことで満足感を得るのか?」といった問いに答えることで、自己の動機を明らかにします。

例えば、独立して自分のビジネスを開始し、それを運営することを目指す人々は、「起業家的創造性」をキャリアアンカーとして設定することが多いです。これらの人々は、新しい事業を創出し、それを管理・運営することにより満足感を得ます​1

価値観(Must):価値観を表出させる問い

自己の信念や理想を理解するための要素。具体的には、「仕事について、あなたにとって最も重要な信念は何ですか?」「これらの価値観は、あなたのキャリア決定にどのような影響を与えますか?」「新しい仕事やキャリアを考えるとき、どの価値観を優先しますか?」などの問いを考えることで、自己の価値観を明確にします。

キャリアアンカーの具体的な種類:8つの分類を解説

キャリアアンカーは、個々の価値観や欲求を反映した、自己のキャリア形成における不動の価値観のことを指します。それぞれのアンカーは、キャリアにおける最も重要な優先順位や動機付けの源泉を示すもので、以下の8つの主要なタイプがあります。

キャリアアンカー特性職業の例
技術/機能のコンピタンス特定の技術や専門知識を磨き続ける欲求プログラマ、研究者
ジェネラル・マネジメント・コンピタンス組織全体の成功を達成する決定をする価値観CEO、マネージャー
セキュリティ/スタビリティ生活の安定と安全を重視する欲求公務員、大企業の社員
アントレプレヌール的クリエイティビティ創造性とイノベーションを追求する欲求スタートアップ創業者、発明家
オートノミー/インディペンデンス自分の決定を自由に行う欲求フリーランス、コンサルタント
サービス/大義への献身社会に貢献し、他人を助ける価値観医師、社会福祉士
ピュアなチャレンジ新しい課題や問題に取り組む欲求エンジニア、起業家
ライフスタイル仕事と生活のバランスを保つ価値観フリーランサー、リモートワーク可能な職種

専門能力と職能:技術/機能のコンピタンス

専門技術/職能タイプの人々は、特定の技術や職能を深く理解し、そのスキルを磨くことに強く価値を見いだします。彼らは自己価値をスキルレベルと直接関連付ける傾向があります。例えば、エンジニアや医者などはこのタイプに該当する方が多いようです。

管理志向:ジェネラル・マネジメント・コンピタンス

管理志向のアンカーを持つ人々は、組織全体の成功を達成するために役立つ決定をすることに価値を見い出します。CEOやマネージャーなど、人々をまとめ上げ、リーダーシップを発揮するポジションに向いています。

保障と安定性:セキュリティ/スタビリティ

保障と安定性タイプの人々は、安全で予測可能な職業生活を求めます。彼らはリスクを避け、一貫した給与と職業の安全性を重視します。公務員や大企業の長期雇用者は、このタイプに該当する方が多いようです。

起業家精神と創造性:アントレプレナー的クリエイティビティ

起業家精神タイプの人々は、新しいアイデアを形にすること、そしてそれを成功に導くことに価値を見いだします。彼らはリスクを取ることを恐れず、成功を追求します。スタートアップの創業者や投資家はこのタイプに該当する方が多いようです。

自立と独立志向:オートノミー/インディペンデンス

自立と独立性タイプの人々は、自分自身のボスであることを望みます。彼らは他人に指示されるよりも自分で決断を下すことを好みます。フリーランスのデザイナーやコンサルタントは、このタイプに該当する方が多いようです。

奉仕と社会貢献:サービス/大義への献身

社会貢献タイプの人々は、自分の仕事が社会的に意味のある影響をもたらすことを強く望んでいます。彼らは、個人の収入や地位よりも、自分の行動が他者に対してもたらす影響を重視します。NGOの職員や社会福祉の仕事をする人々はこのタイプに該当する方が多いようです。

チャレンジ精神:ピュアなチャレンジ

純粋な挑戦タイプの人々は、困難な問題を解決したり、競争に勝つことに価値を見いだします。彼らは成功よりも達成感を求めます。科学者や競技スポーツの選手はこのタイプに該当する方が多いようです。

ライフスタイル志向:ライフスタイル

仕事と生活のバランスを保つことに重きを置く人々がこのキャリアアンカーを持っています。彼らはフレキシブルなスケジュールやリモートワークなどを選好し、仕事と個人生活の間の調和を求めます。

キャリアアンカーをビジネスに活かす方法

個人の視点からの活用:自己理解とキャリアの方向性

自分のキャリア・アンカーを理解することで、内発的な動機や個人的な価値観、プロフェッショナルなコンピテンシーを明確にすることができます。これはキャリアの意思決定の指針となり、仕事の満足度を高める手助けとなります。たとえば、「純粋な挑戦」というキャリア・アンカーを持つ人は、刺激的で挑戦的な職務を求め、迅速な問題解決が求められる環境で成功する可能性があります。

企業の視点からの活用:人材配置と育成

キャリア・アンカー・フレームワークを活用することで、従業員のモチベーションをより良く理解し、個人の価値観に合った職務に効果的に配置することができます。また、組織内の不適合者を特定するツールとしても機能し、彼らが業績不振者とレッテルを貼られるのではなく、彼らのキャリア・アンカーに合ったより適切な職務を見つけることができます。

キャリアアンカー活用における注意点

診断結果は絶対ではない

世の中にはさまざまな診断方法がありますが、キャリアアンカー診断の結果は絶対的なものではないことを理解することが重要です。診断結果は個々の価値観や欲求を一部反映しているものの、すべてを網羅しているわけではありません。たとえば、「専門技術能力」がキャリアアンカーと診断された場合でも、他のキャリアアンカー「経済的安定」や「創造性」を全く重視しないわけではありません。単に、「専門技術能力」がその人のキャリアにおける最も重要な価値であることを示しているだけです。

「良い」「悪い」キャリアアンカーの分類は存在しない

キャリアアンカーには「良い」または「悪い」の分類はありません。

すべてのキャリアアンカーは、個々のキャリアにおいて重要な価値を持っており、どれが「良い」または「悪い」かを決めることはできません。たとえば、「生涯学習」をキャリアアンカーと持つ人は、新しい知識やスキルの習得を重要視します。一方、「経済的安定」をキャリアアンカーとする人は、定期的な収入と安定した雇用を優先するかもしれません。これらは異なる価値観ですが、どちらが優れているとは言えません。

私たちとしては、それぞれが個々のキャリアに適した選択をすることを望みます。

事例紹介

クリント・イーストウッド

■クリント・イーストウッドは若い頃は俳優として名を馳せ、中年期には映画監督としても有名になりました。また、プロデューサーを務めることもあるばかりか、ピアノの腕もプロ級であるため作曲や作品の音楽全般を担当したこともあります。さらには1986年から1988年にかけてはカリフォルニア州のカーメル・バイ・ザ・シー市の市長も務めました。年をとるにつれ、本業の映画以外の領域にも挑戦し、様々なことを手掛けていますが、その取り組みは一貫しています。

■彼は自分が獲得した知識・技能(Can)のもとで、その時に自分がやりたいと思うこと(Will)を、社会にとって望ましいこと(Must)をメッセージを投げかけるかたちで実践しています。キャリアアンカーのバランスを充足させた活動をしているといえます。

■その結果が『許されざる者』『ミリオンダラー・ベイビー』でのアカデミー賞監督賞の受賞などに結実しているといえます。

著者・監修者

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