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今もらえる1万円と、1年後の2万円、どちらを選ぶ?【行動経済学8】
今日は、時間割引という概念について学んでいきましょう.
この概念を学ぶ上では、こんな質問から始めてみるのがよろしいんじゃないかと思います。
(動画でも解説中!参考にしてもらえたら幸いです!)
【時間割引】
今日もらう1万円と、1年後にもらえる2万円。あなたなら、どちらを選びますか?
この問題に、あなたがどういう答えを出したのか。それが、時間割引という概念を読み解いていく上でのカギになってきます。
おそらく、多くの方が「今日もらえる1万円」の方を選ばれたんじゃないかと思います。
来年になって2万円もらえるなんていっても、来年どうなってるかわかんないし、「来年2万円もらっても、その時は覚えていないよな」「今1万円もらった方が嬉しいよな」と、多くの方が思われると思うんです。
ただ、ここで1回冷静に考えてみてもらいたいのです。
今もらった1万円を銀行に預けると、どうなるか。
銀行の利子率は、今が0.02%ぐらいですよね?ということですよ。1年後には10002円にしかならないんですよ。
証券投資しても、せいぜい10500円とかでしょうか。
だとしたら、来年の2万円って、圧倒的にお得なはずですよね。
そしてまた、従来の経済学の世界観でも「今の1万円と来年の2万円、どちらが得ですか?」と言ったら来年の2万円の方が得だ、と見るわけです。
それでも人は、目の前の1万円のほうを選びたがる。なぜなんでしょう?
これが、行動経済学の成果のひとつです。人間の心理を、経済学に応用する。私たちは、未来のことよりも、今のことを重視する。これが、時間割引という概念です。
【時間割引曲線】
人間は、時間に応じて心理的な喜びが下がる。心理的な喜びのことを、経済学では効用というふうに言います。効用は、得られるタイミングが未来に成程、ぐんぐんと下がることが、知られているのです。これを図示したものを、時間割引曲線と言います。
私達は、目先の幸せはすぐ頭にイマジネーションできる。しかし、10年後にこんな幸せが待っている、というのをなかなか自分ごととして理解できない。それをグラフ化したものが、この時間割引曲線と言われるものです。
ご覧の通りで、なるべく今に近ければ近いほど、時間割引というのは少ない。しかし、時間が先のことになるにつれて、急激な勢いで今から離れていく。1年先2年先3年先となると、ものすごく効用が下がってしまう。
これは、人間というもの、すなわち人間の脳というものが、一般的に持っている性質なんです。目の前の喜びに飛びつくように、私達の脳は作られている。それを表しているのがこのグラフなわけです。
【時間割引率】
時間割引は、1年先で0.4、というように数量化されます。ただしその割合は、個別にばらばらですし、問題の性質にもよります。
たとえば、今1万円もらえるのと、1年後に2万円もらうのでは、皆さんたぶん今の1万円を選ぶと思うんです。
でも、今、1億円もらえるのと、来年まで待ったら2億円だと言えば、皆さん待つのではないでしょうか?額が大きいと、時間割引は働きにくくなります。
時間割引率というものが存在していることは一般に知られていますが、それがどの程度作用するかは、状況によって違ってくるわけです。1万円/2万円のケースと、1億円/2億円のケースでも違えば。そのお金が、どういうふうに転がり込んできたかによっても変わってくる。
とはいえ、条件をコントロールしたうえで、様々な母集団に対して調査を行えば、この母集団はこういう時間割引曲線になりそうだ、という比較は可能です。
時間割引率で様々なことが証明される
この時間割引率の概念を使っていくと、人間の経済的に非合理な行動に、いろいろ説明がついてくるわけです。
例えば、テスト前でもゲームはやめられない。
例えばテストでいい点を取ったときの喜びと、今、ゲームをする喜びだと、今ゲームをする喜びの方が勝つ。
ということになるわけですね。
あるいは、体に悪いとわかっていても、タバコがやめられない。これは本当に政策的な議論の重要なポイントになるわけですけれども、「あなた、そんなことやってると寿命が何年縮んで、何年後に肺がんのリスクはこんなに高まりますよ」って言われても、この時間割引率ゆえにダメージがそんなに重く感じられないのです。
あるいは、翌日つらいとわかっていても、飲むビール。「今飲むビールめっちゃうまそうだな」っていう、この欲望に勝てない。明日つらくても、時間割引がきいて、明日のつらさってのは、あんまり現時点では自分事に感じられい。「ビールを飲むほうが美味しいな」ということが起こるわけです。
というわけで、まさにこの時間割引率という概念は人間のこの経済的に、あるいは、もろもろ非合理的な行動を説明する上で、大変有効な説明手段になります。行動経済学の最重要発見事実の一つです。
ちなみに、学説史をもう少し正確に言えば、従来の経済学の中でも、この時間割引率概念そのものはあったんです。その心理的背景を説明し、かつ、実験によって厳密に存在を証明したのが、行動経済学の貢献です。
皆さんが、意思決定を間違えないようにするためには。この、時間割引率という考え方を思い出すことです。今ここでやったことが、将来どれぐらいのダメージになるのか、あるいは、将来どれだけのプラスをもたらすのか。今はその未来のことをイマジネーションできないとしても、「時間割引率」の考え方を思い出し、最大限、未来をイメージして、意思決定を間違えないようにしましょう。
著者・監修者
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1982年生。経営学者/やさしいビジネススクール学長/YouTuber/経済学博士/関東学院大学 特任教授/法政大学イノベーション・マネジメント研究センター 客員研究員
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専門は、経営戦略論・イノベーション・マネジメント、国際経営。
「アカデミーの力を社会に」をライフワークに据え、日本のビジネス力の底上げと、学術知による社会課題の解決を目指す。
「やさしいビジネススクール」を中心に、YouTube・研修・講演・コンサル・著作等で経営知識の普及に尽力中。
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