バンドワゴン効果・スノッブ効果・ヴェブレン効果…私たちは他人を意識する生き物である。【行動経済学9】
行動経済学シリーズも第9回目。今回は、私達が意思決定をするときに、他人の目がどう影響しているのか、そこのところの科学を行っていきたいと思います。
私たちは他人を意識する生き物
私達は集団的に生きる生き物なわけで、どうしても他人の目というものを気にせずにはいられないように、生物的に出来上がっているわけですね。それゆえに、現代社会での生活の中では、いろんな独特な心理効果が働いて、固有のメリットや嬉しさを覚えたり、固有のデメリットやストレス・不満を感じたりするわけです。
そこのところ、原点になっている根源的な理屈をしっかり押さえておいた上で、どういうことが私達の心理が起こっているのか、皆さんに知っておいていただきたいと思います。
まずは、この他人の目が気になるというのが、どういうふうな理屈で説明されるのか、そこからスタートしたいと思うんですけれども、これ自体は、多くの生物にインプットされている特徴です。
集団的に生きることによって、個体としては楽ができる。だから、なるべくなら集団を作り、集団を維持しましょう、というのが生き物としてインプットされている。そして、人間はその機能が他の生物よりも強く働いてきたからこそ、私達は繁栄した。家族、もうちょっと大きいコミュニティ、そして社会全体として輪を作ることの大切さということを、生まれながらになんとなく腹落ちして生きてるわけです。
これが、逆に現代社会においては「あなたが何かをしようとするとき、ついつい他人の目を気にしてしまう」というような、非常に厄介な脳の構造にもなってしまっているわけなんです。
この点がポイントです。心の弱さとか、見栄っ張りだとか、人の目を気にし過ぎとか、それはもう生物としての本能に組み込まれているもの。私たちは、他人の目を気にする動物なのです。
自分がいて、他人がいるのではなくて、他の個体がいるから、他と区別された自分がいる。
グループシンク
集団の内部では、個体として、そしてその集団として固有の思考様式を行うことを、グループシンク(groupthink)と言います。集団浅慮、などと呼ばれることもありますが、原語の通り訳した集団思考という言い方がより妥当かな、と個人的には思います。まあ、結論としては、集団になると一人一人が浅慮になる、ということなのですが。
これは心理学の研究の中で20世紀のうちに明らかにされていたものです。人間のみならず、イワシの群れや、蟻の群れ、羊の群れ、ありとあらゆる動物の群れに観察される現象です。脳は一番エネルギーを使う機関であって、生命の危機のときにこそフル活用するために、平常時は脳は怠けようとする。では、どうやれば怠けられるかというと、何も考えずに他の固体と同じ動きをしていればよい、とこういうことになるわけですね。
生命というものは、基本的には生存確率を高めたいと思えば、「エネルギーの消費を減らしましょう」となる。要するに怠けるということも、私達の体にインプットされてる。で、思考についてどうやって怠けるのかといえば、他の人たちがみんな右に行ってるから、私もそれについていけば大丈夫なんだろうと、他人に行動を合わせるわけです。イワシの大群で、羊の群れで見られる現象ですね。
で、だいたい合ってるわけですよ。大多数の、他の個体がやっている行動というのは。それを個体の脳は学習していくから、ますます他人の行動を見て、それに合わせるようになるんです。
みんながiPhone持ってれば、女子高生は絶対iPhone買うんです。だってわざわざ違っている方が、コストがかかるわけですからね。みんなが持ってるなら安心なわけです。
そこをあえて自分で考えて吟味して、要するにそこでエネルギーと時間を消費して別のものを買うよりは、みんなと思ってるのと同じものを買った方が楽。分からなきゃ教えてもらえばいいわけだし、他の人が良い品であることを証明してくれているのであれば、考えなくて済む。このグループシンクというものは、現代人間社会でも当たり前のように発生しているわけです。
バンドワゴン効果
そんなわけで、「他人がやっている行動に、同じように乗っかれば安心だし、嬉しい」という心理がはたらく。これを、バンドワゴン効果と言います。
バンドワゴンは、音楽バンドを乗せたワゴン。ひもでつないで、引っ張っていく。というわけで、みんなで一緒に同じ方向に動いていく様子から、バンドワゴン効果と言われるようになりました。
グループシンクと、バンドワゴン効果で、何が違ってるのか、ちょっとこんがらがると思って整理しておきます。グループシンクというのは、生き物に埋め込まれた、他の個体に合わせようとする思考様式のこと。そして、グループシンクによって同調することで、喜びや、嬉しさを感じる心の安全を得る、こうした心においてプラスの効果を受けるのがバンドワゴン効果。同じ行動をしてしまう理由と、それがもたらす精神的安寧、という違いです。
人は他人と同じことをすることを通じて、安心をしたり喜びを得るような生き物である。
これをまず第1に認めないといけません。
もっと詳しくバンドワゴン効果を知る!
スノッブ効果
バンドワゴン効果というのが第1に働くがゆえに、このバンドワゴンから、逃れようという意識も働いてくるのです。これは、より高度な思考の働き方です。他の人がみんな無思考に無分別に同じ行動をしている。そういう状況がなんだか嫌だなあと、なんでみんな何も考えもせずにあれとってんだろうと、そこに嫌気を感じる人というのが、この人口比において何割かいるわけですよね。
私も多分どっちかっていうとそういう感じです。他の人がやってることってちょっと嫌だな、自分は違うよって思いたい。これなんです。自分は違うよ、違う自分でいたいんだ、というのも、これまた人間に仕込まれたDNAなんです。別個の個体でありたい。優越の追求と言われる脳の働きなんですね。優越した個体が生存して、種としてより強靭になるために。自分は優れているんだ。ということになれば他の個体から注目されて、他の個体から尊敬されて、その社会においてよりよく生きられる。
なので他の個体と違っていたいというふうに振る舞うのも、これまた人間の心理だけです。
どっちが強く働くのか、という話ですね。人によって、状況って違ってきます。
「違っていたい」ところでは「違っていようとする」。これは、スノッブ効果と言われます。スノッブ、俗物というやつですね。俗物というのは本当に大衆的な、みんなやってるからみんなと同じことやっとこう。という、”思考をしない無分別な連中”のことを俗物とみなす。自分はスノッブじゃない、違っていたい、という心理。
そして、極論すればまさに、このバンドワゴン効果とスノッブ効果によって、市場競争というのは作られているのかもしれない。
メジャーブランドはみんなこのバンドワゴン効果を醸し出そうとして、みんなこっち使ってるよ、この商品がメジャーだよね。という言い方をして、バンドワゴン効果によって「これを使って安心だから」ということでメジャーブランドが出来上がります。
それに対してライバルブランドというものは、「あんなの使ってるのはスノッブだよね」ということで、自分たちは違うんだ、違いがわかる人たちはこっちを選んでくる、ということになります。これがバンドワゴンとスノッブ。まあ極論ではありますが、産業競争というのは、この2つの動きで説明できるように言えなくもないかな、と思います。
ちなみに、両方を上手に利用したのがAppleという会社で、「Apple使ってないやつらとは違うよね」「他の使ってるやつなんて信じらんないよね」っていうようなスノッブ効果を出しながら、「自分たちは違っている」という優越感を出しながら、しかし、Appleを使ってる集団だということで、バンドワゴン効果をも醸し出しています。うまいなあ。
ヴェブレン効果
そして最後にもう1個、ヴェブレン効果というものを紹介したいんですけど、ヴェブレンというのは、これは人の名前です。ヴェブレンさんは有閑階級の理論・有閑階級の消費の理論というものを研究した人です。
金持ちっていうのはどういう思考で消費をするのか?というと、「金を持っている」ことを見せびらかすことを通じて(優越性の追求)、それによって優越感・効用を高める。高級車に乗ったり高級時計を買ったりというのは、他人に見せびらかすことを通じて自己の満足度を高めている。
ところで上図のこの写真は何なのか?というとですね、つり革バトルとかって呼ばれるものがあるんだそうです。山手線とかで起こるらしいんですけれども、何か高級時計をつけて、つり革をつかんで「俺の方がいいやつ持ってんだ!」ということで、ズラーっとつり革に並んだやつで「俺の時計が一番だな」と、そういうような現象です笑。
でも、不健全じゃないですよ。繰り返しますが、これは人間としての本能なんです。なので、そういうサラリーマンたちを見かけても、かわいいな、と思ってやってほしいわけなんです。つり革バトルみたいに象徴されるように、他の人よりも俺の方が秀でているんだ。というような行動を示すことを通じて、人は効用を高めるわけです。
ヴェブレン効果は、スノッブ効果のさらに先。違っていたい、だけじゃなくて、違っている私が好き、という効果。
ヴェブレン効果というのは、人間社会において、富というものが人間社会のすごく重要な尺度になってきている中で生じた、新しいタイプの人間心理パターンだと言うことができます。
幸せに生きる秘訣
さて、今回は、「人と比べる」ということに関する人間の固有の心理という話をしてきました。
こうした人間の複雑な心理がわかってくるにつれて、21世紀に入った現時点においては、人と比べないことが、究極的には最も幸せに生きる秘訣なのではないのか、そういうような考え方が出てきてます。
これを言い出したのはですね、まさに皆さんもお名前ご存知でしょう。
アドラー(Adler)さんです。
「嫌われる勇気」とかで話題になったやつ。アドラー心理学というのは、人間はどうしても他人と比較してしまう、集団心理というものがある。それが人間の本質であるとするなら、最も幸せに生きようと思えば嫌われることですよ。すなわち人と比べない、相手がどうしてようが、自分は全く関係ないねということで、他人がどうであろうと、我が道を行くというのが、とても幸せに生きる秘訣なんじゃないのかな?、とこんなようなことがアドラー心理学からスタートしてきているわけです。
そして実際、産業カウンセラーさんとかも、基本この発想なんですね。
メンタルやばくなってきたら、とりあえず何をしろと言われるかというと、まずSNSやめろ!って言われるんですよ。SNSってのは、どうしても他の人のすごい頑張ってる様子とか、他の人がうまくいってる様子。なんだって、その見てみて自分こんなにできてんだからっていうのを見せたいのがSNS。SNSは、めちゃくちゃ精神状態に悪影響なんだということは実証されているわけなんですけど、それは他人の様子が見えてきちゃうから、羨ましくなったり、自分がはがゆくなったりして、ゾワゾワしてきちゃうから。他の人がどうっていうのが見えないように、隣の庭が見えないような生活を始めてみましょうというのが、アドラー心理学のひとつの大切な教えです。
他人との比較をやめると、あなた自身の心理というものを、あなたの自己を、取り戻すことができる。ようやく、自分らしく生きられるようになる。こういう考え方も、あるわけです。
どうして、他人の生きざま、他人の成功が、私たちにとってストレスになるかといいますと、私達には自己愛という感情があるからです。
それ自体は本当に健全な感情です。私達が個体として生命を保てているのは、自分のことが好きだから。それゆえに、自己の優越性が揺さぶられると、すごく落ち着かない心理状態になる。それが現代社会ではストレスになってしまうわけです。
全ての原点はここにあるわけですね、バンドワゴン的な現象、スノッブ的な、ヴェブレン的な現象というのも、基本的には全部この自己愛ということを起点にしている。
そうであるとするならば、です。
現代社会において生きづらさを感じていらっしゃる方がいるとすれば、その原因の一つというのは、他人の目ではないでしょうか?
この現代社会をうまく生きる秘訣は、他人の目が自己の心理にどういう影響を与えるかを理解して、最大限、他人の目から自由になることなのかもしれませんね。
著者・監修者
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1982年生。経営学者/やさしいビジネススクール学長/YouTuber/東京大学 経済学博士
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専門は、経営戦略論・イノベーション・マネジメント、国際経営。
「アカデミーの力を社会に」をライフワークに据え、日本のビジネス力の底上げと、学術知による社会課題の解決を目指す。
「やさしいビジネススクール」を中心に、YouTube・研修・講演・コンサル・著作等で経営知識の普及に尽力中。
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