イノベーションマネジメントを第4のテーマは、アイディア創出。今回はその中でも、「アイディアの発散方法」、まったく新しいアイディアを獲得するための方法というものを議論してみたいと思います。
前回の復習
前回は、アイディア出しの基本形としまして、デザイン思考をお伝えしました。デザイン思考とは、デザイナーさんの仕事の仕方、すなわちアイディアを具体的な形にするやり方。それは、発散したアイディアをぐっと一つの形にするものです。アイデア創出において「収束」と呼ばれるものです。
今日お話しますのは、収束の反対となる、発散です。多様なアイディアを、ばっと広げる。その後で、ぐっと収束して、一つの形にしていく。で、そのアイディア発散のやり方にもポイントがあるわけで、これを皆さんにお伝えしたいと思います。アイディアを育てる、そして製品サービスのデザインを良くしていく、育てていくためには、十分なこの発散と収束の繰り返しが、どうしても必要なんです。
アイディアとかデザインというものは、育てるものです。ポーンと下りてくるものではない。ふいに降りてくるイメージを持ってるかもしれないんですけど、そうじゃないんです。製品のデザイン、製品やサービスのデザインというものは、少しずつ鍛えていく。
最初に作ったアイディアからだんだん良くしていく。でも、1回一つのアイディアを作ってしまうと、もうその一つのアイディアからなかなか離れられなくなるのが人間の性というものです。
だからこそ、このアイディアを飛ばすための技術っていうのは、技術として身につける必要がある。ある程度その業界について詳しくなってきたり、ベテランになってくれば、答えを出すのもそんなに実は難しくなかったりする。大体こんな形、っていうのは作れるわけなんですけども、一方で飛ばすのはそう簡単ではなくなる。だからこそ、飛ばすための固有の方法、技術を身につけると、飛んで発散して収束させて、再び発散して収束させて、このサイクルを回していけるようになるわけです。
アイディア発散の手法
この話っていうのを、ここまでのイノベーションマネジメントの科目の中でお話をしてきました。イノベーションのサイクルという話と組み合わせておくことにしましょう。そう、こちら私がデザインサイクルの名前で皆さんにご紹介したものなんですけれども、観察して、いろんなヒントを得て、そこからこういう商品が売れるんじゃないのかっていうような仮説立てをして、そしてそれを具体的な形にして、プロトタイピング、テストをしてみると試してみる、これがデザインサイクルというものでしたけれども、この中でまさに発散と収束をするわけなんですね。
観察する中からいろんなヒントを得る発散、そしてそこからこういう製品サービスがうまくいくんじゃないのか、発散ですね。ここでぐっと一つのアイディアに固める収束して、そのアイディアを試してみる、うまくいった部分をうまくいかなかった部分を吟味して、再び発散収束、これを繰り返していくことになるわけです。
それで、私はここで皆さんに発散のための手法として、自分の常識外のものに目を向けろということをここで強調しておきたいなと思います。
新しい発想は外からもたらされる
というのはですね、新しい発想って、外からもたらされることが多いからです。ニュートンが、リンゴが落ちるのを見て万有引力の法則に気づいた。これは実は何かの講義の時にニュートンが使ったたとえにすぎず、本当はそうじゃないらしいんですけども笑、ただそれが信ぴょう性をもつに十分なほどには、何か外部の刺激によって記憶が蘇ったりする、というのは科学的にある程度蓋然性があることらしいのです。
人間の脳は、普段、特定のところの情報にしかアクセスしない。ある問題に取り組むときには、ある引き出しを使う。それが習熟というもので、結果として習熟によって問題解決能力が高まるわけなんですけれども、同時に習熟によって飛ばすことが難しくなる。そんなときに、なんとなくふっと別の引き出しを開けるためにこそ、外の刺激が有効になる。
脳科学的に説明する
これをもうちょっとですね、脳科学に寄り添って説明をしていきます。私達の脳みそというのは、生物的本能で、危険を避けるようにできてるんですね。その本能的に危険を避ける思考法こそが、常識。常識が備わっているから、私達は種として繁栄できたんです。これによって、危険を排除できた。
こういう色の食べ物は危ないから食べない方がいい、こういう色のは食べても安全だ、それを脳が知ってるわけですよね。青い色の食べ物は危ないから食べないけども、火がよく通って茶色黒く焦げているものっていうのは、安全だからおいしそうに見えるわけです。後天的に身につくものでもあり、先天的に遺伝子が記憶しているものもある。ともあれ、私たちは成長の過程において、さまざまに「常識」を身に着けることで、この社会でうまく生きていけるようになる。
…という、この人間の頭の基本の作りを理解してこそ、その基本形を逸脱したイノベーションが実現できるようになるわけです。私達の脳みそっていうのは、安全に生きる確実に成功を掴むためにこそ、常識というものをしっかり作り上げるんです。
だとすれば、あえて、これを否定することはない。人間っていうのは自然に常識というものを作ってしまうということを理解したならば、新しいアイディアが欲しければ、あなたの常識の外側に目を向けるべきなんです。常識というものは、安全の枠を作ってくれて、その中だけで思考するということ。その外側には、あなたの普段の安全圏の外側にあるものとして、いろんな新しい発想が広がってるんです。
常識に囚われるな!
自分にとって理解できないものを見つけたとき、それが常識を超えるチャンスです。Yahooニュース見ててもTwitter見てても何を見てても、皆さんの常識の外側のものって情報入れようとしないじゃないですか。見たくないものはクリックしない。この瞬間が、チャンスなんです。
ここで、今、自分の常識が受け入れられないものをパスしようとしたなと思ったときに、そこを一歩踏み出せるか。これが第一歩です。多くの場合、実際に見てみて、通常の人はそこで自分の常識の正しさを確認するんです。Yahooニュースを見てそんなことあるかよと思って、ヤフーコメントを見て、やっぱ世の人の常識と同じだと思って安心する、みんなそういう経験ありますよね。
そうなんです。私たちはそうして自分の常識の確からしさを確認していくのですけど、そこで、耳をふさいで情報をシャットアウトしなかったとしたら、どうなるか。
あなたの常識を超えることができる。新しい発想を得ることができるわけです。そこから思考が揺さぶられるかもしれないし、自分の常識をアップグレードできるかもしれないんです。
強調しておきます。常識にとらわれなかった人、常識の壁を越えた人たちが、これまでもイノベーションというのを起こしてきたんです。たとえば、丸いお掃除ロボット、ルンバですね。これを日本の家電メーカーは誰も最初は作れなかった。何で作れなかったのか。家の角、角ありますよね、角の四角い角の端の部分が丸じゃ吸えないじゃないか、丸じゃ掃除ができないじゃないか。という常識にとらわれて、「あんなものうまくいくはずがない」「日本の住宅事情や家庭事情に合うはずがない」と思っていた。
ロボットの愛玩動物も「そんなものが売れるはずがない」というのが常識だったけれども、ロボットだってかわいい仕草をするし、ロボットだって愛玩動物になる。たかだかこれだけの常識を超えたか超えないかで、イノベーションができたかできないかの境目になってるわけです。日本人には、ボタンがパチパチかっちり押せた方がよいという常識では、スマートフォンは作れなかった。
ただこれだけの壁を超えたか超えられなかったかで、スマートフォンに乗り出せて今世界トップシェア取れてるかどうかが変わってきてしまうわけです。そうであるとしたならば、金輪際あなたがあなた自身で作り上げてしまってる常識の範疇で、これからのビジネスなんて考えるべきじゃないんです。
常識は変化していく
もうこの10年ぐらいで今までの常識なんて全部どんどんぶち壊れているんです。
服はみんな、試着して買うものだった。そっち側の常識を持っていた人が99.99%だった。あの柳井正さんだって服をオンラインで売れるとは思っていなかった。服は、オンラインでも買えるもんなんだ、こちら側を信じれた人は、前澤友作さんくらいだった。そして、前澤さんは大成功を収めた。
あなたはそれでもまだ、あなたが生きてきた常識にしがみついてビジネスをしますか。それとも常識をアップデートします?どっちの方が妥当なのかっていうのは、もう皆さんおわかりですよね。
そんなわけで、皆さんにどうかお願いしたいのは、日常、あなたの情報源にタッチするときに、そこからもう一歩二歩踏み出して情報を得るようにしてください。「自分には関係のないことだな」そう思ったならばそれがあなたをアップデートする第1のチャンス。そしてそれを見たときに、やっぱり自分に関係なかったなと確認してしまうか、自分に関係のないことに見えるからこそ、新しい時代の息吹なんだというふうにしてみるかどうか。ここが大きな違いです。
たとえば皆さんこれをご覧ください。「サンダルに靴下履き?、なんでサンダルで靴下履きすんねん!」と思うでしょうけれども、ここが境目ですよね。「サンダルに靴下履き、そんなもの流行るわけがない」と、そっち側の常識に欠けていいでしょうか?そこに理由があるとしたらどうですか?なぜ女の子たちがこんなスタイルをとるのでしょうか。
サンダル履いてると足が痛くなるか臭くなるからです。サンダルはかわいい、ぜひ履きたい。夏に履きたい。でも汗で蒸れると足が臭くなっちゃうし、汗でズレて歩いていて痛くなっちゃう。だから、痛くも臭くもならないように靴下を履いて、サンダルと靴下でコーデができたら素敵だよなと。
次の例はこちら、昆虫食です。ユーグレナ。東大発ベンチャーで話題になりましたけれども、この和名ミドリムシですね。虫なんて食うかというふうに賭けますか、でも、虫を食べる方に賭けるか、虫なんて食うはず無いよね、こちら側に賭けます?それからこちらのジャングルバーというのは、コオロギです。コオロギを砕いて潰してバー状にしたもの、棒状にしたものですけれども、この背後にどんな理由があるでしょう。
理由があるから昆虫食が出てきている。世界的な食糧問題ですよね。食糧問題が起こっている中で、最も手軽に最も素早く最もエネルギー効率よく蛋白源が手に入るものというのは、昆虫なんです。ゆえにこれらが注目されており、世界の食糧事情を改善するものとして注目されてるわけです。
アイディアが欲しいときには
もし皆さんがアイディアが出ないアイディアが欲しいと願うのであれば、あなたの常識というものを、一歩外側に出てみることです。そのための方法っていうのは、普段目をそらすようにしているものを見てみること、そしてそこにある情報を、ちょっと吟味して、なんでそんなのが出てきているのかを考えてみることです。
ですから手法としてはステップとしてはこんな感じになってます。
まずはあなたの身の回りや世の中の出来事、実際にぱっとニュースサイトを見てみるといいかもしれません。自分には理解できないなと思った瞬間からあなたはアップデートするチャンス、その情報を手に取ってみましょう。
そして第2節、それが未来の新常識のヒントであるとしたならば、その背後にはどういう社会的事情があるのか、なんで人々がそういう行動を始めているのか。それをぜひ考えてみるようにしましょう。
まとめ
というわけで、皆さんが多様なアイディアが欲しいと願うならば、自分の常識外のものを目にして受容しようとすることです。この精神を育てていく限りにおいては、あなたたちはいつまで経っても自分自身をアップデートできる常識をどんどんどんどん新時代に更新できるイノベーターとして、これからの時間を過ごしていけることになるでしょう。
著者・監修者
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1982年生。経営学者/やさしいビジネススクール学長/YouTuber/東京大学 経済学博士
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専門は、経営戦略論・イノベーション・マネジメント、国際経営。
「アカデミーの力を社会に」をライフワークに据え、日本のビジネス力の底上げと、学術知による社会課題の解決を目指す。
「やさしいビジネススクール」を中心に、YouTube・研修・講演・コンサル・著作等で経営知識の普及に尽力中。
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