著者 / 中川功一(やさしいビジネススクール学長・経営学者)
経歴 / 元大阪大学大学院 経済学研究科 准教授
専門 / 経営戦略論・イノベーション・マネジメント、国際経営
主著 / 感染症時代の経営学・戦略硬直化のスパイラル・他
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▷ 「やさビ」学長中川について
近況 /「アカデミーの力を社会に」を掲げ、誰もが気軽に学べる完全オンラインの「やさしいビジネススクール」創立。
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OEMとは
●Original Equipment Manufacturingの略で、製造委託をすること。あるいは、それを担う会社のこと。
●電機業界ではElectric Manufacturing Service:EMS、半導体ではファウンドリ(Foundry)とも呼ぶ。
●今日では生産だけでなく設計や調達、物流も行うことが一般化している。うちは設計もしますよ、という意味でODM(Original Design and Manufacturing)と名乗る会社もいる。
【注意】自動車産業など一部業界では、トヨタ自動車やVWなどの「完成品メーカー」のことを指してOEMと呼びます。語源は同じだが用法が異なっていることから、相手との会話の中では誤解を生まないよう注意しましょう。
OEMの概説
製造委託は1990年代から広がりをみせたビジネスモデルです。台湾がそれを先導しており、半導体のTSMC、iPhoneの全量を生産する鴻海、ディスプレイ生産のAUOなどの企業が代表的です。
OEMを利用する側にとっては、自社で生産能力を持たずともよくなり、生産能力分だけ固定費を削減できる。資産も軽くなる。つまりは、利益を出しやすく、利益率も高まりやすくなります。ブランド力があり、技術・開発を行っている企業からすれば、OEMを活用することで、製造を自社で持たずに済ませられれば、そのコスト効果は非常に大きいものとなります。工場を作るには莫大な費用がかかり、その後も固定費が、かかり続けます。それらのコストをすべてかけずに済むからです。
OEMで製造を担う側の企業にとってもメリットは大きいものとなります。多くの会社から製品製造を受諾することで、稼働率を高め、また、安定化させることができるからです。自社の持てる生産能力のなかで、受注をうまく調整していけば、高い稼働率を維持できます。
この意味で、OEMは合理的な分業体制であると言えます。
ただし、OEMは双方にデメリットももたらし得ます。まず、OEMを利用する側ですが、自社にものづくりの技術・能力がなくなるという課題に直面します。OEMで生産を担う側にとっても、いつまで経っても自社ブランドを確立できなかったり、自社の業務活動が限定的なものに留まり続けてしまう可能性があります。
事例:TSMC
- 半導体産業で製造と設計の分離を提案し、熊本に大規模な工場を建設しました。
- TSMCは、世界の半導体企業の製造を受託し、工場の稼働率を安定させました。半導体企業は、TSMCに製造を委託し、固定費を削減しました。
- 半導体業界では製造と設計の分離が進み、業界の構造が転換された歴史的事例です。
TSMC(Taiwan Semiconductor Manufacturing Company)は、台湾の国際会社として設立され、半導体産業ではじめてOEM(ファウンドリ)という事業モデルを導入した画期的企業です。2021年、熊本に8000億円の工場を建設することでも話題となっています。
それまでの半導体産業では、垂直統合、すなわち製造を自前で行う以外の形がありませんでした。そのため、半導体産業ではいかにして莫大な製造設備の投資を回収するかが、経営上の最大のポイントでした。
台湾の国際会社として設立されたTSMCは、この問題に対し、設計と製造の分離という事業モデルを提案することで、解決をはかったのです。
TSMCは世界の半導体企業の製造を受諾して、工場の稼働率を安定させます。一方、世界の半導体企業は、TSMCに製造を委託することで固定費を削減、黒字の出やすい体質に切り替えることができました。この合理的な分業モデルは、業界の構造を大きく変えます。多くの会社が製造をもたないファブレス(fab-less)型と呼ばれる設計専業となり、一方でTSMCのような製造だけを担うファウンドリ型企業も多数登場し、この分業モデルが業界で支配的な地位を確立しました。
ただし、現在でも垂直統合を続ける会社も存在しています。米国インテル、韓国サムスン、日本のルネサスなどが該当します。
ともあれ、TSMCは業界の悩みを解決し、産業の基本的な競争構造をも転換させた、歴史的事例となっています。
著者・監修者
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1982年生。経営学者/やさしいビジネススクール学長/YouTuber/東京大学 経済学博士
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専門は、経営戦略論・イノベーション・マネジメント、国際経営。
「アカデミーの力を社会に」をライフワークに据え、日本のビジネス力の底上げと、学術知による社会課題の解決を目指す。
「やさしいビジネススクール」を中心に、YouTube・研修・講演・コンサル・著作等で経営知識の普及に尽力中。
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