ドラッカー最終回!トップマネジメントの仕事とは?【ドラッカー36 39】
中川先生と読むドラッカーのマネジメント、今回は実質的な最終回となりますが、最後の最後に、ドラッカーは、トップマネージャーとしてのリアルな仕事ってどういうものになるのか、という話を述べております。ここまで、理論的にはいろんな話をしてきましたけれども、実際のところ、トップマネジャーは、どういう仕事に携わることになるのかというお話です。
そんなわけで、今回はですね、クイズ形式でいきたいと思うんです。
皆さん、トップマネージャーがやるべき仕事ってどういう仕事があると思います?
皆さんなりに考えていくつかピックアップしてみましょう。細かくたくさん書ければいいっていうものではなくて、大きくまとめて言うとこれと、これと、これと、これなんじゃないのかみたいな形で四つ、五つぐらい、皆さんなりにまとめて見てもらいたいと思います。
事業の目的を考えることについて
では、順番に見ていきましょう。ドラッカーの整理した、結局トップとしてやるべき仕事って何なのかというもの。
第1は、事業の目的を考えることです。これがとにかく全ての始まり、この組織は何をやる組織なのか、これをカチッと定義して、仲間たちに向かうべき未来を示すとともに社会に向けては私達はこういうことをして、社会に貢献していくんだ。この事業の目的というのをクリアにするということ、これがとにかく社長として第一歩だと。
長年続いてる会社だと、なんとなくとしての方針や理念、創業の理念みたいなものがあるかもしれない。それでも、あなたはリーダーシップとしてまず最初にやるべきことが、これから先のわが社が向かう未来はこちらなのであるという事業の目的をパチッと定めるということ。これがトップとしての第1の仕事になります。
もちろんこれが第1の仕事だというのは、1回決めれば終わりだということではなくて、その後の言動も基本的にこれに照らして理にかなってるというものであることが必要です。あなたの人格がまさにこの事業の目的であると、これが一つ求められることになります。
事業の方針を決定することについて
そして第2には、事業の方針を決定するということ。
これはもう少し、いろんな言葉で言い直すこともできるでしょう。これを意思決定なのであると定義もできる。二つにわかれてる道のどちらを選ぶのかという、決定の問題であると。これは要するに戦略ですよねと、言うこともできる。あるいは中期経営計画など経営計画と呼ばれるものかもしれない。いろいろありますけども、ただ単にゆく道を定めて、こちらに行こうというだけではなくて、「どのように歩いていくのか」まで、方針を決める、大枠で決めておくということです。だからこそ、様々な瞬間で、枝わかれする道のどちらを選択するのかということも含まれます。
そのような意味で、意思決定だとか戦略だとか、そのような言葉で呼ばれる諸々をひっくるめて言えば、会社の次なる一歩、事業の方針を決定するというのが、トップマネジメントの役割になります。
組織をつくることについて
そして第3には組織を作ることです。これは単に人間のまとまりをこういうふうな組織構造でデザインしてというだけの話じゃありません。組織を作るというのは、人、物、金、情報を上手にミックスして、サステイナブルな形で物事は続いていくようにするということ。
この組織をつくるという言葉の中には、お金の配分の話もあれば、地理的にどういうところで実施していくのかということもありますし、その人々の横でのコミュニケーションの形、単に形を作ってお前が事業部長なと、こんなメンバーシップでこんなふうにやれというだけではなくて、さらにはそれを動かしていくエンジンとしての金、物、情報、それらのものを一括りにするということがオーガナイズをするということ、組織を作るということです。
これらをきちんと実装するような形にデザインをしていき、先ほどまで一番、二番で述べた、大きくこちらの方向に向かってこのような計画で進んでいく、そのための組織はこういう形でありますと、これを差配するのがリーダーのやるべきことです。
重要なステークホルダーとの対話について
ここまでが基本的な仕事であるとするならば、残り二つほどドラッカー述べているんですけど、この二つはリアリティベースで実際のところ、トップマネージャーといった他にどのような仕事をしなきゃいけないのかというもの。そのような意味で四つ目に、ドラッカーが挙げますのが、重要なステークホルダーとの対話です。
現場においては、取引先やお客さまとは現場の人が対話をしてくれているわけなんですけれども、それでも、例えば株主総会の場において、株主たちとコミュニケーションをするというのもあれば、政府機関の方と対話をするというのもある。
現地の自治体の人とも対話をするし、労働組合の代表とも対話をするし、お客様団体とも対話をしていく、そういう重要なステークホルダーに対して矢面に立って、面前と大衆の前に立って、社会の関わり合いというものを良き形に調和させていく。繰り返しますが、現場でもやってるんですけどもここも結局トップによる部分が大きいわけなんですね。
トップがそうした場でどのような振る舞いを見せるのか、どのような発言をするのかによっても、この企業というものの評価、評判というものが決まってくる。皆様ですからトヨタの社長ですとか、もろもろの会社の社長さんがいろんな場で話した一挙一動というのは結局その会社の毀誉褒貶に大きく影響してくるという事態を目の当たりにしているはずです。
このような意味において、実質的な役割としてこの対外的な会社のイメージ、印象、社会との関わりというもののかなり大きな部分が、社長にのしかかってくるわけで、この重要なステークホルダーとやはり首尾一貫した対話をしていくということが、トップマネージャーのやるべき大変重要な一部になってくるわけです。
社内外での儀礼的な役割をこなすことについて
そして第5には、これも大切な社長の仕事だということです。
皆さん理解してあげましょう。社内外での儀礼的な役割をきちんとこなしていくこと、〇〇式というようないろんな式典においては、会社を代表する人物として利害関係の代表者として演壇に立つ、席に着座する、そしてその場で述べるべきことを述べる。このような、儀礼的なセレモニーあるようなことをきちんとこなしていくということも、やはりトップとして求められていることなんです。
その地域のロータリークラブとか青年会議所とかそういう場で喋るようなこともあるでしょうし、組織の中で例えば入社式ですとか、もろもろの式典において喋るという役割、いわばこのシンボリックな役割として、この人があんな重い役割の人が時間を割いて今日この場に来てくださっていると、これはこれでやはりこのポジションのもたらすものとしてやるべきことになってくるわけですね。
その間、戦略を練ったり会社の未来を練ったりだとか組織を差配するということを実施をするということ、そういった仕事に割いた方がいいですか、バリューにはなるかもしれません。お金としては儲かるかもしれないけれども、それがトップマネージャーとしては全てではないのです。この儀礼的なもの、セレモニアルなものに対してしかるべき役割を果たしていくというのも、社会のリーダーとして組織のリーダーとして必要になってくることなんです。
トップマネジメントに求められる能力について
もちろん、だからって社交パーティーみたいな場合に出て、いろんなところで何か景気よく酔っ払っているというだけでは、内外の人々にリスペクトはされないので、あくまでもバランスなわけですけれども。そんなわけで、トップマネージャーに求められる役割って、めちゃくちゃ多いわけなんですよ。
先ほど述べました、まず第1が考える力ですよね。会社をどちらに導いていくのかめちゃくちゃ考える必要があります。
誰よりも考える必要がある。そしてそれと同時に、誰よりも行動する必要がある。実行する力というものもあなたには必要だと。ただしここで言う社長の実行する力というのはワンマンで自分が出ていって物事を解決するのではなくて、組織を作る力のことをむしろ指します。
上手にその実行するためには、こういうメンバーにこれくらいの予算をつけてあげて、それでこういった管理をしていけば、実行できるのだということで、これを実行力というふうに言います。勘違いしないように、若い方はよく勘違いしがち。実行能力、行動力があるというのは、自分がどんどん動いていけることだと思いがちなんですけど、違うのです。
社会のリーダーたらんと願うのであれば、トップマネージャーたらんと願うのであれば、人々が実行できるような状況を整える技術のことを実行力と言います。
そして第3には、人間的な魅力ですね。多くの人と対話をしていく、社内の人々と対話する、社会の人々と対話する、それらを上手に繋ぎ合わせていくためには、その人物が人として魅力的であるということ、人間的側面としても豊かであるということ。単に機械的に考える力と実行力があれば、トップマネージャーとしてOKなわけではなくて、それらを包む器としての人格というもの、別に何も人格と言ったからといって倫理的、規範的にピシッとした人格者であれ、ということではなくて、あなたなりの人間的な魅力というものを失わずに持ってるということが大切だということになります。
そして第4には、しかるべきポジションとしてしかるべき場に立ったときに、しかるべき振る舞いができるのだということ。
あえてここで外してくるなんていうことをする必要はないわけです。代表者なんですあなたは。何十人の何百人の人々の代表者として、地域の代表者として、社会の代表者として、そこに立つのであれば、そういう人物はどのような振る舞いが求められているのか、この表に立つ人としての振る舞いもまた求めらてれることになるわけです。
ビジネスの成功はトップマネジメントチームを編成すること
そのように考えるならば、トップマネージャーとしてやることって、めちゃくちゃ多いんだということになりますね。かくしてドラッカーは、実質的な最終メッセージの一つとして、このビジネスの成功はトップマネジメント”チーム”を編成することにあるということが出てくる。たとえ1人めちゃくちゃ目立つスポークスマンがいるとしても、そこの周りをしっかり固める仲間たちがいて、初めてマネジメントチームとして機能するわけです。
考える力、実行する力、人間的な魅力、そして表に立って社交的に振る舞えるということ、正しく振る舞えるということ、それらを何も一つの人格の中でパーフェクトにこなしきるというのは、しなくてもいいし、おそらくは無理だろうという話なんですね。
実際のところ、会社というもの、すなわち大きな組織というものを差配して成功した人のエピソードというのは、たとえ1人の松下幸之助さんが稲盛和夫さんとか安藤百福さんとかそういう方がいたとして、その周りに必ず仲間たちがいたというエピソードに満ちています。それは何もその人は人格があって、その人の周りには自然、人が集まってきたというエピソードではなくて、ここに本当に成功の秘訣があるんです。
仲間たちがいたから成功するんです。仲間たちを惹きつけられる人だったから成功したのではなくて、仲間たちと一緒に成功を掴んだんです。
ラリー・ページとセルゲイ・ブリン。スティーブジョブズとウォズニアック。本田宗一郎と藤沢武夫。ヒューレットとパッカード。井深大と盛田昭夫。
ソニーの井深大と盛田昭夫は、非常にわかりやすい先ほどの四つの仕事を分け合っている仕事かもしれません。
考える仕事、会社をこちらの方に持っていってどういう未来を作っていきたいのだ。ここの部分においては井深大さんという、ソニーの創業者さんは非常に力があったわけですけども、それをじゃあどういう組織でどういう財務で実行するのか、という部分において森田昭夫さんという人がいたから、井深大のどんどん豊かに膨らんでいくアイディアが具現化していった。
この考える人、実行する人という意味でも井深大さんと盛田昭夫さんのコンビがソニーを成功に導いたと考えられています。
また人間的魅力、井深大さんの人間的魅力はものすごく豊かであって、この井深大さんに惹かれて多くの人が集まってくるわけなんですけども、と同時に、表に立つ人としては井深大だっていろんな場に出ていくんですけども、その多くの部分を森田昭夫さんがソニーという会社の代表者として、どのように振る舞いどのように社会と付き合っていくのか、表に立ってこうやって行動しましょうという部分では盛田昭夫さんの力による部分も多いわけなんです。
かくして、それぞれの足りないものをきちっとトップマネージャーに求めるものを補い合って成功した会社の一つがソニーだったりするわけなんです。こんなシンプルな分業構造になることってあんまりないわけなんですけれども、そしてもちろん井深大さんが実行力あるし盛田昭夫さんだって人間的な魅力ある方なんですけれども、このような形で、補い合う、トップマネージャーとしての必要な資質、組織のリーダーとして必要な資質というものを補い合って、会社というものは成功します。
最後のメッセージ
そんなわけで、今回一連のシリーズとしてドラッカーのお話を続けてまいりました。言っても、この後もうちょっとだけ戦略的な話が続くんですけども、ここで一通りのドラッカー解説するものをひと区切りにしたいと思うのですけれども、このドラッカーのこのメッセージを受け取って、私としてもこのシリーズ、区切りにしたいと思います。
あなたがもし、良き人生を歩みたいと願うならば、良き社会を作りたいと願うならば、人生に挑戦してみたいと願うならば、大切なことは良き仲間との出会いです。この良き仲間との出会いというものが、あなたの人生を彩り、良き方向にあなたの足りないものを補ってくれて、仲間と一緒にゴールを目指していけるようになるわけです。
そんなわけで、このメッセージを受け取っていただきまして、ぜひ、このドラッカーのマネジメント論、あなたの人生の中の大切な一部にしてもらえたらと願っています。
著者・監修者
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1982年生。経営学者/やさしいビジネススクール学長/YouTuber/東京大学 経済学博士
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専門は、経営戦略論・イノベーション・マネジメント、国際経営。
「アカデミーの力を社会に」をライフワークに据え、日本のビジネス力の底上げと、学術知による社会課題の解決を目指す。
「やさしいビジネススクール」を中心に、YouTube・研修・講演・コンサル・著作等で経営知識の普及に尽力中。
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