中川先生と学ぶピータードラッカーの「マネジメント 基本と原則」
第4回目の記事となりますが、今回から読んでも学べる内容になっていると思います。バランス・スコアカードと後年呼ばれるものになる、事業の目標設定とその進捗管理のメソッド。
今回も必読です。事業の目標数値として、どのような数値を設定すべきなのかという話です。実践的な内容が、非常によく腹落ちする内容になっておりますので、今回からでも全く問題ありませんので、ぜひご覧ください。
最大化ではなく最適化
事業の目標数値の設定というと、ついつい売上とか利益ということをまず設定して、それを達成するためにはどうやったらいいのかって、ブレイクダウンしていくと思いがちじゃないですか。
ドラッカーは、この全社としての利益・売上から入る方法を否定します。(これはその理念・理由だけ受け取っていただければOKです。皆さんの実践の現場では売上・利益からのほうが入りやすいかもしれない)
会社というものは、売上・利益のために存在しているのではない。何よりもまずお客さまにどれくらい貢献できたかである。ならば、会社のパフォーマンス指標としては、まずはお客さんへの貢献度指標を図るべきでしょうと。すなわち、どの市場でどのくらい製品が提供できたかというマーケティングパフォーマンスが、まずあるべきだということになる。
この意味で、全社の売上・利益ではなく、「各製品サービスの売上高、あるいはそれぞれの市場でのシェア」こういった数値を追求していくべきだというふうに言ってるわけです。
またもちろん、北米・中国・日本といろんな地域でどういうお客さんにアクセスしたいのか、こういったことだって会社の基本的な理念ビジョンと関わってくる部分ですから、各地域でのパフォーマンスも見ていくべきでしょうし、高級品市場なのか、普及品なのかも重要なパフォーマンス指標となる。これらの、マーケティング上のパフォーマンスをまず第1には設定すべきだということになるわけです。
そしてここでドラッカーはもう一つ非常に大切なことを述べている。
それが、これらの数値は、最大化ではなくて、最適化が求められているということです。
ついつい、企業経営においてはもう最大限を目指す、上を目指せということになるんですけども、あまりに行き急ぎ過ぎてしまうと、それで組織として破綻をきたしてしまったり、お客さんに迷惑をかけたりするかもしれない。
今の社内リソースを最大限有効活用し、お客さんに迷惑をかけず、きちんと健全に成長を遂げていくためには。最適数値をこそ、設定すべきです。社内リソース、社外の状況、それを汲んで、マーケティング成果としてどれくらいの水準にすべきなのか、これが腕の見せ所だというわけです。
イノベーション目標について
企業というのは、社会に、お客さんに貢献するためのもの。その意味でのマーケティングパフォーマンス。次には、マーケティングパフォーマンスを適切に高めるための「方法」って何なんだ、という点も大切になる。無理矢理、押し売りじゃ駄目ですよね。
いらないものを無理やりに手につかませるのでは駄目。確かに、お客さんに、良い品を、適正価格で届けることをもって、社会に貢献しなければいけない。すなわち、【商品サービスの競争力】というものを土台として、マーケティングパフォーマンスを実現すべきでしょうと。ドラッカーはこれを【イノベーションパフォーマンス】と定義する。製品・サービスをどれくらい改善できたのか、という目標値として設定する。
各種製品サービスの品質・機能の改善。またそれを提供するための一連のフローが、どれくらいスムーズかつ的確にお客様まで届けられるようになったか、の改善。このような意味において、製品イノベーション、サービスイノベーション、あるいはプロセスイノベーションがどれくらい実現できているかということが、その会社の第2の指標、長期的な意味での競争力の改善指標としてこれを見るべきであるというふうに言ってるわけです。
経営資源の確保について
そしてドラッカーは次のステップとして、どうやったらこのマーケティングとイノベーションのパフォーマンスを改善できるのかを議論していく。
それは、根源的には、経営資源の充実度である。
どういう人材が集まっているのか、どういった物的資産を持っているのか、また十分な資本力があるのか、それらをうまくミックスして、企業組織として良い形が作れているのかという意味で、問うべきは次は経営資源であろうと。
すなわち、良き人材が手に入ったか、あるいはそれらの人材がしっかり育ったか、人材の採用および育成そして配置これらのことについてきちんとパフォーマンス指標として管理をしていく。これにより、あなたの会社の基礎が出来上がっていく。
同じことは物的資産でも言えます。どういった地域にどういった事業所をもって、それぞれの事業所にどういう設備があって、これらの物的資産についてだって、きちんと目標通りに成長を遂げられているのかが問われる。
そして第3には、これらの事業活動を回していく上では当然十分な資本力が必要となる。資金調達も会社経営の重要目標となる。エクイティファイナンス:株式で資金調達をすることもあれば、銀行から融資をしてもらうこともある。そういった財務政策も、計画を立て、狙い通りに実践できたかも、チェックしなければならない。
オペレーション能力について
しかしながら、経営資源はそれ自体として「組織化」されているわけではなく、製品・サービスを生み出してはいかない。人・モノ・カネ・情報を組み合わせていって、組織をつくり、良いオペレーションを作らないことには、会社として良い商品を生み出していくことはできない。効率的でサステナブルなプロセスを作ることはできないわけです。
だとすれば、経営資源と、イノベーションとの間を繋ぐものとして、「オペレーション能力」がある。このオペレーション能力上の目標もきちんと据えましょうということになる。
第1には生産性ですよね。どれくらいの効率性で作れているか。どれくらい生産的に活動できているか。どれくらいの頻度で新しい商品が生み出されているのか、どれくらいの効率で物流ができているかなど。この生産性もきちんと見る。
でも、生産性だけ追求すれば良いわけじゃない。なんと、ドラッカーは現在から50年近く前の段階から、企業が効率性に走っていってはおかしくなると警鐘している。企業犯罪を行ってしまったり、下請けをいじめたり、そういった弊害が起こってくることを問題視している。
なので、【社会的責任】も重要な内部オペレーションパフォーマンスとしてチェックする必要がある。ということで、あなたの会社がもたらす様々な社会的影響をきちんとリストアップした上で、それに対してどれくらい対応しましたか、というこの社会的責任もきちんとオペレーション指標として管理をしてあげることによって、結果としてあなたの会社はより長く、長期存続できるようになっていくわけです。
利益目標について
で、最後の最後に利益の話が出てくるんです。
これらの活動を総合的に、順に一番下から見ていく。どういう経営資源をどれくらい集めたか。それを、どのように、どれくらい効率的に編成することができたか。結果として、製品・サービスの競争力は、どれくらいになったか。そして、マーケティングパフォーマンスはどうなったか。それらを見通したうえで、全社としての売上と、利益の最適解が見えてくる。
こうして、ドラッカーは利益は最後に来るものなのだとしているのです。
またドラッカーは、利益というものは単なる目標・ゴールではなくて、実は費用なんだよね、ともいう。
何のこっちゃと思うかもしれません。利益が費用だというのは、結局この上がった利益というものは、再びマーケティングパフォーマンスの改善や、イノベーションパフォーマンスの改善、オペレーションの改善、そして経営資源の獲得状況の改善へと、配分されていく。だとすれば、この利益っていうものは、結局、必要経費はいくらなのかというとこからも算定される。今後の事業活動を見据えていけばどれくらい内部に資金が必要になるのか、その意味でどれくらい必要かという利益水準としても設定されると。この意味で必要経費が利益になるともいえるわけです。
一方では、活動の結果・ゴールとしての利益。他方では、活動を改善していくための経費としての利益。この二方向から擦り合わせて、利益目標が定まってくるわけなのです。
というわけで、今回の話も非常に大切な話だということを腹落ちしていただけたんじゃないかと思います。本当にこれぜひ実践していただきたいです。
利益からブレイクダウンをしていくんではなくて、順番にそれぞれの企業活動のそれぞれのステージで、どういうパフォーマンスを出していくのかを算定していった先に、利益目標を決める。これらの数値目標がそれぞれに担当責任部門におりていったとしたら、あなたの会社はきちんとあなたが狙った方向性で動いていってくれるということになるわけなんです。
ちなみに、この話っていうのは、ドラッカーよりもさらに後年になって、ハーバードビジネススクールで会計学を教えておりました中核人物・キャプラン教授により、バランス・スコアカードという手法に結実しています。
実はドラッカーさん、この管理会計の重要手法であるバランススコアカードの基本発想をも、60年代70年代に確立していたりするわけなんです。
重要なこと
ただし、最後に注意すべき点は、実行ありきですよということ。
あれらの目標数値をバシバシに決めていったとしたら、どうなるでしょうか。人によっては、いや、こんながっちり決まっていったら、身動き取れなくなるよねと思われる方も結構いらっしゃるんじゃないかと思います。
その批判は実はまったくもってごもっともでありまして、これらのことが重くのしかかって、人々の心を苦しめる可能性もある。うちの会社、窮屈だな、やりにくいなとか、なんかスッゴイ高い目標を与えられてもう本当ブラック労働だよねと、こういうふうな形で使われてしまっては最悪なんです。これは避けなきゃいけない。
目標は、決して人々を縛るためではなくて、人々を健全にこちらに向かっていくんだよと方針を示すためにある。うちの会社はこういう戦略で、こういう方向に向かっていくから、それを数字にブレークダウンするとこうなる、というもの。そういう形で組織のメンバーに腹落ちさせることが大切。すなわちそれを、通じて実行を促せるようにデザインすべきものっていうのが目標数値設定なのです。
これは非常に重要でかつ難しいポイントであり、そしてビジネスの一番の要かもしれない。数字は人を縛るために使うのではなく、数字をもって人々の行動の方針を示してあげるように使う。そこんとこ、非常に微妙なところですね。
ちょっとでも人々に、これは苦しいなと思わせちゃうと、つらくなってしまう。これは頑張り甲斐があるぞと思ってもらわないといけない。あくまで現場を見ながら、現場の人たちの実践を後押しするようなものとして、どういうふうに数値が設定されるべきなのか、こういう視点が最後にこの事業目標の数値設定で求められています。
著者・監修者
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1982年生。経営学者/やさしいビジネススクール学長/YouTuber/東京大学 経済学博士
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専門は、経営戦略論・イノベーション・マネジメント、国際経営。
「アカデミーの力を社会に」をライフワークに据え、日本のビジネス力の底上げと、学術知による社会課題の解決を目指す。
「やさしいビジネススクール」を中心に、YouTube・研修・講演・コンサル・著作等で経営知識の普及に尽力中。
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