更新日:6月7日
あなたの”常識”は20年前で止まっている?! 賢い人こそ世界の真実を知らない
この10年で最も重要な本の1冊といえる。これは絶対押さえておかないといけない本、ファクトフルネスを取り上げたいと思います。
本当に現代人の基本教養と言っていい。基本必須教科書といえるようなものなので、これは本当にぜひ買ってくださいとプッシュできる本です。
事実よりも情緒や意見の方を優先してしまう時代にこそ、どこを確認すべきか、ちゃんとデータ事実にあたりましょうというのが「ファクトフルネス」。
ファクトフルネスの例題
ファクトフルネスがなぜ大切なのか、問題を出して、実際に皆さんに考えてもらって体験して頂きたいと思います。
Q.世界の人口のうち、極度の貧困にある人の割合は、この過去20年間でどう変わったでしょうか?
・1番、約2倍になった。
・2番、あまり変わっていない。
・3番、半分になった。
皆さんはどう考えますか?
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答えは、3番。半分になった、なんですね。
こういう社会問題が採り上げられるときというのは、私達は、世界はひどくなっている、悪くなっているということに、思い込みとらわれがちなのです。なぜなら、そちらの方が正義感を振りかざしていろんな意見が言えるからですね、世界にはこんな貧困な人たちがいるから、私達はそういうふうに行動しなきゃいけないんだ、と。
これは私たちの生物的なバイアスに依存する。世の中を良くしたいというのが人間のある種普遍的な心理であるからこそ、「世界は悪くなっている」という認識に囚われがちなのです。
著者は実際この調査を世界中で実施しているのですが、結果はこんな感じでした。
日本において正答率は10%、ドイツで6%、アメリカが5%。
著者はこんな状況を指して「人間よりもチンパンジーの方が正答率は高い」と言います。3つからランダムに1個選ぶほうが、まだ正答率が高い、と。
ここから私たちが学ぶべきは2つ。
- ・私たちは思い込みに囚われやすい生き物であるということ。
- ・私たちは、事実に基づいて世界を見るべきであるということ。
本の紹介
『ファクトフルネス』は、ベストセラー in The Worldの本です。日本のみならず、世界中のどこでも大ヒットした、いまのところ、21世紀に最も売れた本の一つと言っていい。日本でも100万部売れています。
著者ハンス・ロスリングさんは、スウェーデンの人。医師がベースのキャリアですが、大学でも教鞭をとっておりますし、より広く、小中高のカテゴリーの教育に対しても、その教育はどうあるべきかということを発信されてもいらっしゃいます。
また、国境なき医師団をスウェーデンで設立した人でもあり、人々に正しい世界の情報を知ろうという財団、GAPインター財団の創設者でもあります。
要するにアントレプレナーさんです。実に現代的な起業家さんでいらして、医者にとどまらず、世の中にいいことをたくさんしよう、という行動をされてきた。
その人が、ついに自分も死期が近づいてきたということを悟ったところで、自分の思いを1冊本に込め、息子や奥様の手を借りて仕上げたものがこのファクトフルネスという本です。
本書の3つの狙い
本書のメッセージは、先ほど説明した通り。「思い込みを捨て、事実に基づいて正しく現実を知ってから、物事を考えてください」です。もう少し分解すると、この本では3つのことを学べる。
第1は、世界の今を知れるということ。この本には、これでもかというほどファクトが満ち溢れている。ひとまず、この2020年頃の世界の現状をざっと知る上でも役に立つ。残念ながらコロナの前に書かれたもので、コロナのことは書かれていませんが。とはいえ、今、世界はどうなっているのかということについて知識を一気にアップデートできる、その意味でもめちゃくちゃいい本だと思います。
ただしこの本は、ただ単に今世界の実情がこうなってるっていうのをデータで示しているだけの本ではない。第2の、そして本書の主要なメッセージとなるのは、データって大切だよね、ということ。
そして第3には、私達がなんでデータに基づいてファクトに基づいて判断できなくなるのか、その理由を検討する。この部分は、心理学者や行動科学(行動経済学など)の観点からするとちょっと危ないのですが、私たちがどうしてデータの見方を誤るのか、経験則的に説明しています。
それらを非常に軽妙な書きぶりで、私達に何度も何度もクイズを出しながら、「ほら間違えたでしょ」と「なんで間違えたかっていうとね」と解説する。別段、悪口っぽく言うのではなくて、軽妙な調子で面白おかしく、しかし腹落ちするように書いてくださっている。教育者としても、本当に素晴らしい。
あんまり中身に触れてしまうと商売の邪魔になってしまうので、ざっと、この本でどんなことが書かれているのか、ということを伝えていきたいと思います。
世界は着実に「良くなっている」
データからこの本が明らかにしてくれていることというのは、一つには、世界は着々と20世紀から21世紀にかけて良くなっている良くなってきたのだということです。
私達は世界がめちゃくちゃ悪い状態にあるんだとつい思いがちだし、そう言いがちなんですね。
実際そちらのほうが人気が集まるから困る。諸々の環境活動家や、政治家は、とにかく世界は悪くなっているのだと主張して、支持者と金を集める。
実際のところはもう、この世界中の人々の努力によって、この世界はどんどん良くなっている。例えば、乳幼児生存率。もう紛争地帯でも貧困地帯でもそういったところを含めても、世界中どこでももう9割を超えている、ほとんど世界でギャップはない。
また、紛争や戦争での犠牲者というのも(直近のロシア情勢で残念ながら少し変わりましたが…)今、10万人に1人ぐらいまで減っている。環境問題について言えば、二酸化硫黄の排出量は、ピーク時の半分以下になっている。その他の汚染物質の量というのも、ものすごく減っている。
男女の教育機会もほぼ均等になっているし、また世界中の8割の人々に電気が届くようになっている。
という形で皆さんが思いこんでるよりも、実は世界は良くなっているのです。この事実をちゃんと受け入れましょうよ、ということが著者が最初に主張していること。
なぜ私たちは、間違えるのか
世界は悪くなっているという論を唱えた方が、正直、楽なんです。人間生きていて、自分は優れた方のグループだとか、あるいは劣っている方のグループだとかって、立場を明確にしてしまうほうが楽。どちらのグループに属してると考えるにせよ、人の心にとって居心地がよいものなのです。
かくして、著者は、間違うことについて、「本能」という言葉を使います。
せかいは2つに分かれている、というのは「分断本能」と名付けられます。世の中というのはある種のグループに分断されていて、そのうちのどこかのグループが何かを独占している。そういうふうに見た方が楽なのです。
この他には、たとえばネガティブ本能。世の中悪くなっている、悪いところがあるんだというふうに思い込みたい。
直線本能。ある種の事象というのは直線とか曲線とか、単純な法則性に従って変化をしていると考えたい本能。こういうふうに増えているから、その後もずっとこういうふうに増え続けるはずなんだと、法則性に当てはめたくなるということ。
単純化本能、何か世の中の現象というのを、この原因はこれなんだという形で、一つの原因だとか一つの理論一つのゲームのルールだけで物事を説明ができるんだというふうに思い込んでしまうということ。
学術的に定義された言葉ではないことに注意が必要ですが、著者は自分の経験に即して、なんで私達が、どうして人々は間違えてしまうのか、ではデータはどう見る必要があるのか、ということを論じています。
どういうふうにして、私達はこの世の中を見るべきなのか
そして私達にこういう思い込みがあるんだとしたら、どういうふうにして、私達はこの世の中を見るべきなのか、処方箋はもう、もちろん皆さんわかりますよね。
何が大切かといえば、きちんとデータにあたりましょうということになるわけです。
このシンプルなメッセージ。世の中に、データはもう溢れている。きちんとデータに当たっていけば、今何が起こってるのかは、正しく理解ができる。
ファクトフルネス。きちんとファクトに当たっていきましょう。
こんな時代、情緒や意見、正義感、そういうものが先走ってしまって、ファクトが軽視されがち。
このシンプルなメッセージを人々に届けるために自分の人生の最後の時間を投じた、素晴らしき労作。皆さんもぜひ、手に取ってみてもらえばと思います。
(APS学長・中川功一)
著者・監修者
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1982年生。経営学者/やさしいビジネススクール学長/YouTuber/東京大学 経済学博士
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専門は、経営戦略論・イノベーション・マネジメント、国際経営。
「アカデミーの力を社会に」をライフワークに据え、日本のビジネス力の底上げと、学術知による社会課題の解決を目指す。
「やさしいビジネススクール」を中心に、YouTube・研修・講演・コンサル・著作等で経営知識の普及に尽力中。
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