中川先生と読むドラッカー2.企業とは何か『マネジメント基本と原則』【ドラッカー2】
ピーター・ドラッカーのマネジメント、本日は第2章「企業とは何か」を取り扱っていきたいと思います。第2章とは言いましたが、今回から(だけ)見ていただいてもすごく腹落ちして、わかったと言ってもらえる章なので、ぜひご覧いただけたらと思います。
この第2章は、企業って何なのか、利益って何なのか、ドラッカーの理論・哲学が最も色濃く反映された章です。この本の中で、一番大切な部分です。この部分の腹落ちがしっかりできると、現代社会のことが非常によくわかる。企業というもの、利益というものについて、誤解が解けるという本当に大切な章です。
利益についての章である
ドラッカーの『マネジメント』第2章の中心的なテーマは、「利益って何なの」という話です。企業とは何か。それは、営利組織である。では、利益を正しく理解できれば、企業も正しく理解できる、ということになります。
ドラッカーは、利益というものに対する、社会の根深い敵意を憂慮します。なぜ、こんなに利益というものを人々が敵視するのか。ドラッカーはその原因を、利益というものに対する大きな誤解があるからだとします。利益というものを追求するから企業が犯罪に走ってしまうとか、個人の人権よりも利益が優先されてしまっている…というような懸念をもたれる方も、いらっしゃるんじゃないかと思います。まさにこの利益追求ということが社会悪の源泉なんだと思われている方もいらっしゃるんじゃないかと思いますが、よくよく利益というものを理屈で読み解いていくと、その誤解がはれてくるそういう章になっているんです。
売上とは何か
本の中身に沿って、その論理を噛み砕いていきたいと思います。利益の源泉って何なのかといえば、まずもって、売上。では、どういうときに売上が立つかというと、ドラッカーは「顧客の創造」という表現を使っています。
人々の欲求を満たすこと。こういうことがしたい、こんな人生が送りたい、こんな困りごとがある。そんな思いに企業側が応えてあげることによって、お客様というものが創造される。人々に望まれている財、サービスを、滞りなくその人に提供することによって、売り上げがたつのです。
ドラッカーはこれをマーケティングである、と名付けていますが、これが誤解を生みやすい原因の一つなんです。マーケティングだけじゃなくて、製造活動とか開発活動とかあるでしょうというわけなんですけど、時代背景が影響しているんです。
当時のアメリカ企業は、作れば売れるんだろう、サービスを提供すればよいのだろう、と、生産者志向だったのです。顧客の悩みや願いにこたえるために事業をしているのではなく、「ものをつくるために事業をしている」「サービスを提供するために事業をしている」こういう考え方だったのです。
そうじゃないんだ。売上というのは、顧客の願いをかなえた時に発生するんだ。だから、企業には、これまで無かった概念として、マーケティングというものが必要なのだとするのです。こういう社会的背景で、ドラッカーは非常にマーケティングという概念を重視しています。
マーケティングという言葉のもとに、まさにお客さんが望むものを開発し製造し、物流で手元に届けるんですよ、と。一連の活動を、顧客視点で統合していくのがマーケティングだというふうに言っているわけです。かくして、こんにち一般的に言われるマーケティングよりも、もう少し広い意味合いの言葉として使っています。望まれている財、サービスを、お客様に正しく届けること。だからマーケティングが企業の社会的意義の第1ですよね、と。
そして第2には、イノベーション。同じものを同じ技術で滞りなく生産する。これも大切なことなんだけども、それを永続しても社会は何も変わらない。世の中に新しい価値を生み出していく、新しいサービス新しい財を作っていくことによって、人々をより豊かに幸せにしていく。ドラッカーはイノベーションという言葉を使い、これを企業の第2の使命だとしているのです。
かくしてドラッカーは企業の活動というのは大きく分けてマーケティングとイノベーションだと言っているわけなんですけども、そのドラッカーが意味する本質の部分、皆さんも腹落ちいただけたんじゃないかと思います。
こういう形で、人々の願いを叶えてあげた結果が売上になっているというのが、ドラッカーの売上の哲学なのです。
利益とは何か
利益の源泉の第2は、費用です。売上を作るために、どれだけ少ない費用で活動ができたか、が利益の水準を決定します。ということになるわけですよね。ドラッカーはこれについて、生産性という言葉から解説を行っています。費用というものは、まさにこの生産性を測るためのバロメーターなんだと。
どういうときに費用が最小化されるか、皆さん考えてください、とドラッカーは問いを発します。その結論、ドラッカーは、上手に知恵を使えたときに費用は減るよね、上手く時間を省略できたときに費用は減るよね、良い製品群を扱えたときに費用は少なく済むよね、と述べる。
業務プロセスが効率的にできた、自分たちの強みに立脚して活動できた、組織の形が正しく組めたとき、これらの条件が上手に整っていくと、費用はどんどん減っていって、企業はどんどんどんどん生産性が高まっていく。その結果が利益である。
だから企業は利益にコミットしなきゃいけないんだということになるわけです。
売上、費用、利益について
まとめてみましょう。売上高とは、社会にどれくらい貢献できたのか、人々の願いをどれくらい叶えることができたのか。社会に対して創造できた価値の総量が売上高となる。
費用は、社会にある有限の資源を、知恵を使いながら、高い生産性で提供できたときに最小化される。
良き財・サービスを、最善の効率へ届けることができたときに、利益が大きくなる。
この意味において、企業は利益にコミットしなければならないのです。
利益の使い道
では、この利益なるものは、何に使われているのか。
利益が上がって、最初にできることは、企業の次なる投資。企業活動をよりよくできる。
利益そのものだけじゃない。利益が上がってるということを前提に、投資家から資金を集めたり銀行から融資を引き出せる。それら莫大な資金力の原点が、利益。
さらに、企業が社会貢献的な活動を拡充するためも、利益をあげることがベースになってくる。
また、利益は何の源泉になってくるのかというと、そこで働いている人々に対しての分け前になっていく。投資家たちにも分け前を払う。その企業の活動のために投資をしてくださっている、何十万から何百万か何千万円かお金を入れてくださっている人に、少しずつでも分け前を払う。あるいは労働力を提供した労働者にも分け前を払う。取引先さんにも分け前を、物流業者さんにも分け前を、そしてそれらを差配した経営者さんにも分け前を。全ての分け前の源泉は売上と利益というものになっていくわけで、きちんと売上・利益が上がっていかないと、全ての人々にこの分け前が行き渡らなくなる。この意味でもやはり利益が大切になってくる。
そして第3には不測のリスクに対して対応しなきゃいけない、いかに企業が良い活動をしていたとしても…最善の効率で動いていたとしても、例えば今回のコロナみたいな事態が発生してしまったり、金融恐慌が発生してしまったりすれば企業活動が滞ってしまうわけです。
いかに良い企業活動していようとも、不測の事態というのは起こってしまう、あるいは残念ながら自分たちの工程でミスがあって不良品が出てしまったということもある。そういったときに対応する、保障する、しのぐ。従業員たちの生活を保障し、お客様の満足を保障していく、そういうときのためにも、お金はしっかり内部で溜め込んでおく必要がありますよね。その原資になるのも、利益なわけです。
最終的に利益の一部はどこに行くのかと言えば、税金として国にも納められる。そのお金というのが私達の公共サービスに使われたり、医療費に使われたり、あるいは様々な文化事業に使われたりという形で、私達の生活はその公共サービスの原資になってくるものもまさに利益なわけです。
あるいは、さらにその利益の中から企業が自らCSR活動を実践したり文化の育成をしたり、プロスポーツチームを持ったりもするわけですから、そういった社会に対してのまさにチャリティー的な活動、寄付的な活動を社会貢献的な活動の原資になるのも、利益なんだということになるわけです。
このような意味で、利益がどうやって出来上がってくるのか、そして利益というものが結局どう使われるのかということを、まずトップ経営者から末端の働いている人まで理解しておく必要がある。そして、その理解を社会全体に広げていくことができたならば、この社会は確かに営利組織というものを通じて良くしていけるはずだ―と、これがドラッカー哲学の真髄なわけです。
かくして、私達はこのドラッカーの魂を受け継いで、良き企業社会産業社会を作っていくためにも、私達は一人一人が正しく利益とは何なのかを理解する、これがまさに経営学の第一歩だと私も思うわけです。
というわけで、今日はドラッカーの中核的な精神であり、私が最も共鳴するところを説明させていただきました。どうですかね、皆さんやっぱりこのドラッカーきちんと読んでいくことの大切さ、おわかりいただけたんじゃないかと思います。ぜひ、引き続き一緒に学んでまいりましょう。
著者・監修者
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1982年生。経営学者/やさしいビジネススクール学長/YouTuber/東京大学 経済学博士
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専門は、経営戦略論・イノベーション・マネジメント、国際経営。
「アカデミーの力を社会に」をライフワークに据え、日本のビジネス力の底上げと、学術知による社会課題の解決を目指す。
「やさしいビジネススクール」を中心に、YouTube・研修・講演・コンサル・著作等で経営知識の普及に尽力中。
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