中川先生と読むドラッカー1.マネジメントの役割『マネジメント基本と原則』
今回からは、ピーター・ドラッカーの『マネジメント』の解説をやっていきたいと思います。いや、この本、実際いい本なんです。なので、この本の真価を皆さんに届けたく、全力で解説してみたいと思います。
本の概要
簡単にこの本どういう本なのか説明しておきますと、要するにマネジメントの基本が、この本に1冊収まっているという本です。
事実として日本で最もよく売れているマネジメントの本で、過去の累計発行部数は数百万部を超えています。
永遠のトップセールスでして、2020年も2021年もこの本はTop10に入ってくるというすごい勢いで売れてる本なんですけれども、実はこの本は既に発刊されてから半世紀ぐらい経つんです。
元は英語版で出されたマネジメントという本で、これはもう本当に世界的なベストセラーなんですけれども、そのエッセンスの部分、重要な部分を抜き出して収録したものが、この日本語版の『エッセンシャル版マネジメント』というふうになってます。
こちら自体も1975年に発刊されまして、それから長らくずっとベストセラーになってる本です。
本の評価
この本、あるいはドラッカーを巡っては、いろんな毀誉褒貶があるので、学界ではこのように評価されているということを最初に皆さんに伝えておきたいと思います。この本はですね、学術的なエビデンスに満ちている本ではないんです。
必ずしも厳密なエビデンスがあって、だからこういうことが言えるんだという本ではないんです。しかしですよ、実は過去の偉大な研究とは、概してそうなんですね。
アダム・スミスもそうだし、マックス・ウェーバーも、マルクスにしたって、ケインズにしたって、厳密なエビデンスに依拠なんて、していない。
そういう系譜にある本だと思っていただいた方がいいです。観察してきたこと、経験してきたことをぐっと煮詰めてご自身の頭の中で、これが真理原則なんじゃないのか、それをまとめたものがこの本です。
ですから、位置づけとしては、学術書ではない。ある種の思想書と言えるかもしれません。だが、そうした方法を採用したことで、マネジメントの黎明期の、ドラッカー自身の類まれな経験に基づいた記述が、ある種の普遍性をもつマネジメントの原則となって、そこに収まってる。そういう本になってます。
確かに半世紀ぐらい前の本なので、現代の感覚とはずれるところは少なからずあります。
また、この本を若いうちに手を取っていただいたとして、真価がわかったとは、言えないかもしれない。これも事実なんです。
実際この本はすごく抽象的に書かれてありますし、率直に評価して、ドラッカーさんも必ずしもわかりやすい文章を書ける人じゃないです。英語は第2言語だし。
現代の目線から見て、20世紀半ばの英語が難しいということはあるんですけれども、とにかく内容的に理解しにくい文章もあって、決して文章がうまくもなくて、それゆえに非常に難解に感じてしまうところはある。
またこの日本語版でピックアップされている箇所が、本当にこれでいいのかなと思うところもあったりするので、こういったところがあっていろいろ毀誉褒貶がある本なのは事実です。
なんですけど、これは強調したい。本当にわかる人にはわかる。経験を積めば積むほど、この本の中には確かに大切なことが全部書いてあったねと、そのような評価を受ける本です。
ここで私は思ったんです。私のミッションって何なのか。私の社会的使命って何なのかといえば、アカデミーの力・経営学の力を社会に活かし、この世界をもっと良くすること。そのために経営スクールやYouTubeを始めたんだろうということで言えば、マネジメントの基本原則がしっかり収まっている、気高い倫理感のもとによく書かれている、この本の真価を届けるというのは、私のやるべき使命の一つではないかと思った次第です。
このドラッカーの思想を学んでいただいて、それをあなたのビジネスに反映させていただく。あなたのビジネス人生をよりよいものにしていただくためにこそ、皆さんに全力で伝えていきたいと思うんです。
マネジメントの役割について
まずは、ドラッカー『マネジメント』の第一章、最初の3ページをだけに絞ります。ドラッカーはまずこの3ページを使って、マネジメントとはこういうことなんだ、というのを定義します。
第一に、マネジメントとは何をすることなのか。組織というのは、そもそも何かしら社会に対して貢献する役割を果たすことを通じて対価を得て存続しているのであれば、マネジメントがまず最初にやるべきことというのは、その組織固有の使命を明確化し、それを遂行するための仕組みを整えること、企業でいえばこの事業を作るということですね。
第2に、結局その組織というものは多くの人々が集って、そこで人々に何十年と働いていただいて、社会に対して機能させていくのであるとすれば、組織は人々の集まりなのだから、その中で人間が生きられるようにしなければいけない。
人々は生活の糧を与え、そこで暮らしていくコミュニティを与え、地位を与え、かつ自己実現を与えながら、その人々のポテンシャルを引き出していく。人々の人生にしていく。それがマネジメントの第2の役割だと。
そして、ここでドラッカー、この二つでいいのかと思うわけです。
この社会に何かの貢献をしながら、人々で暮らしを営んでいこう。そのとき、いろいろ副産物が出るよね、と。公害を起こしてしまったり、世の中に迷惑をかけてしまうようなこともある。
そのような主目的以外の部分で発生してしまった副産物的な悪影響を減らすこともマネジメントの使命だ。すなわち、社会に対して様々な善悪両面の影響を及ぼしてしまうものが組織であるとするなら、この社会に与える影響というものを総合的に把握し、最大限それを適切に処理するための術を実行する。
これらの三つを同時に実現することが、マネジメントの役割だというわけです。
マネジメントのバランスについて1
そしてマネジメントというのは、短期と長期のバランスも大切なんだと述べます。あなたの視界の中で、長期・短期の両方を視野に収めるべし、と。
もちろん、短期的な利益ってとっても大切なわけです。お客さんをしっかり獲得して利益を獲得して事業を存続可能なものにして、それができて仲間たちを食わしていくことができるし、取引先さん関係者さん株主さん全ての人にちゃんと還元していくことはできるわけです。
しかし、企業というのは存続していくべきものなわけですから、短期の顧客獲得、利益獲得だけではなくて、長期的にどう発展させていくのか、どう成長していくのか、そしてそれを通じて、総じてどう存続させていくのか、この長期目線も必要となる。その両者のバランスをうまくとっていくというのも、マネジメントの役割であると、このように言うわけです。
マネジメントのバランスについて2
そして第3には、マネジメントというのは、管理的活動と企業家的活動の両方をやる必要があって、そのバランスをとるというのも、マネジメントなんだというわけですね。
ついついマネジメントというと、管理のことだと思って、今の取り組みをどうやって守っていくのか、どうやってそれを存続可能にしていくのか、そこにだけ視野を集中しがちなわけなんですけども。…私達の社会は、イノベーションの積み重ねによって出来上がってるわけです。
イノベーションを果たしていくことによって、新しい商品が生まれ、より効率的な手段が生まれて、社会が発展していく。それをきちんとやっていかないと、企業も競争に勝てなくなってしまうという意味で、起業家的な活動、アントレプレナーシップというものを発揮して、社会に新しい価値を提供できるようにも取り組んでいかなきゃいけない。
この新しいことに挑戦するということと、今の取り組みを守っていくという活動、この二つのバランスをとっていくのもまたマネジメントの役割だというわけです。
ここまで、わずかこの本の中で最初の3ページだけです。
もう、おわかりいただけましたね。皆さんこの本がいかに大切なのか既に伝わったんじゃないかと思います。この後も、この濃度で大切なことだけが書かれている。
これを1冊読み切ったときには、なるほどマネジメントってのはこういうものなのか、という腹落ちが非常にできるわけです。
またそれが実践できるようになったならば、まさにあなたは名経営者だ、ということになるわけなんです。そんなわけで、私はこのようなドラッカーの残した言葉の大切さを皆さんに伝えて、皆さんに実践に落とし込んでもらえるようにする、それが私の一つの使命ではないかと思ってます。
そんなわけで、私ちょっとこれからこのドラッカーの内容について、これから毎回解説していきたいと思いますので、ぜひ一緒に学んでいってもらえたらと願っています。
著者・監修者
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1982年生。経営学者/やさしいビジネススクール学長/YouTuber/経済学博士/関東学院大学 特任教授/法政大学イノベーション・マネジメント研究センター 客員研究員
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専門は、経営戦略論・イノベーション・マネジメント、国際経営。
「アカデミーの力を社会に」をライフワークに据え、日本のビジネス力の底上げと、学術知による社会課題の解決を目指す。
「やさしいビジネススクール」を中心に、YouTube・研修・講演・コンサル・著作等で経営知識の普及に尽力中。
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