サウジアラムコ、時価総額で世界1位に
2022年5月、サウジアラビアの国営石油生産・販売企業、サウジアラムコの株式時価総額が日本円で315兆円に達し、アップルを抜いて世界1位となりました。株式時価総額とは、いわば、その企業がどれだけの経済的価値を備えているのかを、世界中の投資家が評価したバロメーターです。つまり、今、世界で最も価値がある会社は、サウジアラムコだということになったのです。
これは非常に重いニュースなのですが、日本ではほとんど話題にされることはありません。そもそも、サウジアラムコという会社のことも、ほとんど知られていないのが実情です。
そこで今回は、サウジアラムコとはどういう会社なのか?と、そこから現代社会がどう読み解けるのかを解説していきたいと思います。
(動画解説はこちらです!聞き流しながら解説を読むと理解度アップ!)
サウジアラムコとは
アラムコという名は、アラビアン・アメリカン・オイル・カンパニー(Arabian American Oil Company)の略です。1930年代は米国資本でしたが、その後、資源ナショナリズムの高まりの中で1980年代に国有化、「サウジアラムコ」となります。今も昔と変わらず、サウジアラビア国内での、石油の生産・販売を手掛けている会社です。
サウジアラムコは、昔から巨大な会社でした。何といっても、世界を動かすエネルギーである石油の生産・販売のうちの10%以上をこの会社が担っているわけです。後述しますが、その売上高も利益も莫大な金額になります。
そんなサウジアラムコが近年注目されるようになったのは、2019年12月に株式市場に上場(IPO)を果たしたためです。市場に流通した株式はわずかにサウジアラムコの保有株式の1.5%分でしたが、それだけの株式で同社は2.8兆円の資金調達に成功します。それまで記録を持っていたテンセントの2.6兆円を超える、史上最高額の資金調達となりました。
なお、2.8兆円は奇しくもトヨタ自動車の2022年3月期の利益と同額です。世界最大の自動車メーカーが、カイゼンの積み上げや、ハイブリッド車・EVなどの技術開発、ブランドマーケティングの限りを尽くして必死に稼いだ利益と同額を、株式の販売によって同社は手にしたのです。
その後、株価は上昇を続け、ついに2022年5月、アップルを抜いて世界最大の時価総額となりました。
どれくらい大きいのか?
時価総額
この時価総額315兆円という金額が、どれほど大きいのか?2位となるアップルは、2022年5月時点でおよそ307兆円です。では、日本最大最強の企業、トヨタはどうか?というと、40兆円です。40兆円も決して小さくない金額ですが、トヨタの8倍近い時価総額をこの2社が保有していることを考えれば、日本企業は世界的にはもう少し評価されなければいけないかもしれません。
この時価総額315兆円があれば、なんだって変えます。任天堂でも、ソニーでも、買えてしまいます。
売上高
現時点での最新のデータ(2021年)で、トヨタが31兆円、アップルが35兆円に対し、サウジアラムコはなんと80兆円。これも世界最大です。
利益
トヨタ2.8兆円、アップルが4兆円。これに対し、サウジアラムコは13兆円です。もちろんこれも世界最大。
時価総額、売上、利益のすべてで、サウジアラムコは世界最大となったのです。
ここから読み解ける、世界経済の今
大切なことは、果たしてここから私たちは何を読み解けるか、です。サウジアラムコの株式がこれほど評価されている背景には、何があるのでしょうか?まずは皆さん、考えてみてください。
ロシア・ウクライナ情勢の泥沼化の懸念
第一に言えるのは、ロシア・ウクライナ情勢の泥沼化・長期化の懸念です。
資源国ロシアからの石油等の輸出がしばらくは停滞するだろうとの観測から、サウジアラムコへの現代社会の期待が大きく高まっているのです。
化石燃料が依然として重要であるということ
様々なクリーンエネルギーが登場してきていますが、投資家たちは、まだまだしばらくは石油経済の時代が続くだろうと見ていることを意味します。希望的観測を排した、リアルな株式市場の評価が、そこに見えるのです。
しかも、サウジアラムコは株式市場で莫大なお金を手にしたわけですから、今後はさらにこの化石燃料経済を活性化させるために資金が使われていくことも意味しています。
クリーンエネルギーの成長が停滞している
ハイテク・スタートアップでも、クリーンエネルギーでもなく、創業からもうすぐ100年を迎えようとしている石油関連企業が株式市場で評価されているという事実に、私たちは目を向けるべきです。世界はまだ、変われていないのです。
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こうした現代社会情勢を読み解くうえでも、このサウジアラムコのニュースは大いに注目すべきだと思います。そしてまた、ニュースを読み解くための基礎能力という意味でも、経営学や経済学を学ぶことは有意義なことだと言えるかもしれません。
(APS学長・中川功一)
著者・監修者
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1982年生。経営学者/やさしいビジネススクール学長/YouTuber/経済学博士/関東学院大学 特任教授/法政大学イノベーション・マネジメント研究センター 客員研究員
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専門は、経営戦略論・イノベーション・マネジメント、国際経営。
「アカデミーの力を社会に」をライフワークに据え、日本のビジネス力の底上げと、学術知による社会課題の解決を目指す。
「やさしいビジネススクール」を中心に、YouTube・研修・講演・コンサル・著作等で経営知識の普及に尽力中。
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