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インテルの巨額損失:垂直統合モデルの限界と半導体産業の構造変化

半導体業界の巨人、Intelが2.5兆円という巨額の純損失を計上しました。2024年7-9月期の決算で明らかになったこの衝撃的な数字は、3四半期連続の赤字であり、Intelの深刻な経営危機を露呈しています。報道では単なる業績不振として扱われがちですが、この問題はIntelのビジネスモデルそのもの、そして半導体産業全体の構造変化に深く根ざした、極めて経営学的に重要な事例と言えるでしょう。

  • 過剰投資した半導体製造設備の減損損失:159億ドル
  • 純損益:166億ドル
  • 赤字:3期連続
  • リストラに伴う費用:28億ドル(約1万5000人の人員削減)
  • 売上高:前年同期比6%減の132億8400万ドル

今回の巨額損失は、Intelにとって突然の出来事ではありません。

専門家の間では、Intelの業績低迷は数年前から指摘されており、今回の赤字は、長年蓄積されてきた構造的問題がついに表面化した結果と捉えられています。

  • ただし、24年10~12月期の売上高は133億~143億ドルになるとの見通しを示した。

この決算発表後、Intelの株価は上昇しました。これは、市場が既にIntelの不調を織り込み済みで、今回の発表を「底打ち」と判断したためと考えられます。しかし、楽観視は禁物です。

Intelを取り巻く経営環境は依然として厳しく、今後の見通しは不透明です。

参考)共同通信:インテル赤字2.5兆円 7~9月期、巨額減損響くhttps://news.yahoo.co.jp/articles/b40e2f86a341c0b61bc24d49e122c0d0439899af

目次

数年前から続く主な課題

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1. 技術革新の遅れ

  • AIチップ市場でNVIDIAやAMDにシェアを奪われている
    • 2023年のデータセンターAI向けチップ市場規模は177億ドル(NVIDIA:65%・Intel:22%)2024年の予測では、インテルのAIチップ市場シェアは1%未満まで低下する見込み
  • 半導体の微細化競争でTSMCに後れを取った
    • 3nmプロセスの量産でTSMCが先行しており、インテルは追随する立場に。
    • 1.5〜2.5年の技術的遅れが生じているとも言われた。

参考)Techinsights:Data-Center AI Chip Market – Q1 2024 Update
https://www.techinsights.com/blog/data-center-ai-chip-market-q1-2024-update

参考)日経クロステック:TSMCの独走はまだ続く、IntelやSamsungが追いつけない理由
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/02041/00008/

2. 事業構造の問題

  • 受託製造事業(ファウンドリー)での苦戦
    • 歩留の悪化による顧客からの信頼性の低下
    • 製品事業部門とファウンドリー事業部門の分離による独立採算制の導入して再起を図っているが黒字化には何年もかかると予想されている
  • PC市場の低迷による従来型半導体事業の不振
  • 垂直統合型ビジネスモデルの限界

参考)EETimes:Intel Years From Success in Foundry Business, Analysts Say
https://www.eetimes.com/intel-years-from-success-in-foundry-business-analysts-say/

Intelの不振は、複数の要因が複雑に絡み合っています。まず、主力製品であるパソコン向けCPUの設計ミスや、その後の対応の不手際により、市場シェアを失いつつあります。さらに、モバイル端末やデータセンター、AIといった成長市場への進出も遅れており、NVIDIAなどの競合他社に大きく水をあけられています。Intelは、自社の巨大な製造能力を活用した製造受託事業にも参入しましたが、TSMCの後塵を拝する状況で、苦戦が続いています。

つまり、既存事業と新規事業の両面で、Intelは苦境に立たされているのです。

垂直統合モデルのジレンマ:Intelの強みが弱みに

Intelの苦戦の背景には、「垂直統合」と呼ばれるビジネスモデルの問題点が潜んでいます。Intelは、半導体の設計・開発から製造、そして販売までを一貫して行う垂直統合型の企業です。

かつて、このモデルは、1970〜1990年代において自社内での一貫生産により、製品開発のスピードと品質をコントロールし、市場ニーズに迅速に対応できるという強みは、Intelに高い競争優位性をもたらしました。しかし、半導体産業の進化に伴い、垂直統合は大きな足かせとなってきています。

現代の半導体産業は、高度な開発力と最先端の製造技術の両方が求められます。AIチップのような高性能半導体の開発には、莫大な研究開発費と優秀なエンジニアが必要となります。同時に、微細化が進む製造プロセスにおいては、巨額の設備投資と高度な技術力が不可欠です。この両方を高いレベルで維持することは、一企業にとって極めて困難な課題となっています。

分業化の波:開発と製造の分離

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こうした状況下で、半導体産業では分業化が進んでいます。

NVIDIAやAMDは設計・開発に特化し、製造は台湾のTSMCに委託する「ファブレス」モデルを採用しています。これにより、各企業は自社のコアコンピタンスに集中し、資源を効率的に配分することで、高い競争力を維持しています。

一方、Intelは垂直統合モデルに固執した結果、開発と製造の両面で競争力を失いつつあります。TSMCには製造技術で、NVIDIAやAMDには開発力で後れを取り、いわば「各個撃破」の状態に陥っているのです。

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垂直統合の成功例とIntelの蹉跌:市場変化への対応の遅れ

垂直統合モデルが必ずしも悪いわけではありません。サムスンはDRAM市場で、Intel自身も長年CPU市場で成功を収めてきました。これらの市場は、製品のライフサイクルが比較的長く、ニーズの変化も緩やかでした。そのため、垂直統合モデルでも対応が可能でした。

しかし、Intelの主力市場であるCPU市場は、パソコン市場の縮小とともに成長が鈍化しています。同時に、モバイル、データセンター、AIといった新たな市場が急速に拡大しており、これらの市場では、技術革新のスピードが速く、顧客ニーズも多様化しています。Intelは、この変化に対応できず、垂直統合モデルの限界を露呈してしまったのです。

Intelの未来:変化への適応と大胆な改革

Intelの巨額損失は、垂直統合モデルの限界と市場変化への対応の遅れを浮き彫りにしました。Intelが今後、どのようにこの危機を乗り越えるのか、世界中が注目しています。

垂直統合モデルの見直し

現在、製品事業部門とファウンドリー事業部門の分離による独立採算制の導入して再起を図っていますが、黒字化には何年もかかると予想されてます。

成長市場への積極的な投資

データセンター、AIなどの成長市場にリソースを集中し、それら専用のプロセッサやソリューションを開発することで、新たな収益機会を創出するなどです。

大胆な事業改革文化改革など

スタートアップ企業や大学との連携を強化し、先進的な技術やアイデアを取り入れることで、技術革新のスピードを向上さたり、事業部制を推進することで、小回りの聞く迅速な意思決定と実行を可能にする組織構造への変更などが考えられます。

抜本的な対策が必要となるでしょう。

Intelの未来は、変化への適応力と改革への決断にかかっています。

著者・監修者

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