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「ゆっくり茶番劇」商標登録は、経営学的に、許し難いこと

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「ゆっくり茶番劇」騒動とは

2022年5月現在、日本でちょっとした騒動が起こっています。

YouTube上のコンテンツジャンルである「ゆっくり茶番劇」が、商標として登録されてしまったのです。登録者は、YouTuberの柚葉(ゆずは)さん。柚葉さんはこの商標の使用料として10万円を請求する姿勢を示していました(5月19日現在、使用料については保留中)。

今回は、この「ゆっくり茶番劇」の商標登録という出来事が、

経営学の観点からすると、許し難い経済行動であるということを解説したいと思います。

法的な問題については、法律家の意見を聞くとして、ここでは経営学の理論に沿って、商標というものの成り立ち、あるべき使われ方を説明し、なぜ今回のような使われ方が望ましくないのかを解説したいと思います。

(動画での解説はこちら!聞きながら解説を読むと理解が早いと思います!)

名前や記号は、本来、何の価値も持たない

まずは皆さん、以下の画像が、何に見えるかを考えてみてください。

正解は、私が適当に書いた3つのマルです。

ただのマルのはずなんです。

でも、違うものに見えた方のほうが、多いのではないでしょうか。

どうして皆さん、世界的に有名なキャラクターを連想されたのでしょうか?

それは、米国ディズニーや、日本のオリエンタルランドが、長年、企業努力を継続してきたからに他なりません。

文字列や記号それ自体には、本来、価値などないのです。しかしそれが価値を持つようになるのは、その名前や記号が指し示す対象が実在し、顧客がその対象を経験したり知ったりするなかで、前向きな感情を抱くようになるからです。

 実在する対象を経験・認識する中で、名前や記号の価値がつくられる

ここで要点を、整理しておきましょう。

  1. 名前や記号が価値を持つのは、それが指し示す、実在する対象があるから
  2. 企業努力によって、その実在対象が良い経験を与えるから、価値が高まる

世界中で登場したスターバックスの模倣店

価値の高い名前や記号が出来上がると、それを悪用しようとする人が現れてきます。

スターバックスが世界的なブームとなったときに起こった出来事は象徴的です。

世界中で、緑の円の中に白黒でキャラクタを書いた、Sから始まる店名のコーヒーショップが乱立したのです。

世界中で登場したスターバックスの模倣店

それはもちろん、スターバックスコーヒーのブランドイメージにただ乗りしようとしたからです。

スターバックスが、顧客に愛されるコーヒーショップを創ろうと経営努力をした結果として生じた名前・記号の価値を、そんな努力をしていない会社が勝手に利用したのです。

商標は何のために存在しているか

こうしたことが起こらないように制定されたものが「商標」というルールです。記号や名前に価値が出来上がった後に、その価値を創った人ではない人が、勝手に使うことを防ぐためにこそ、商標は存在しているのです。

これが経営学目線で見た、商標というものの社会的役割、意義です。

スターバックスの場合は、同社が取得していた商標に基づき、これらの会社を知的財産侵害で訴え、商標の利用をやめさせたり、賠償を支払わせたりしています。

ルールの隙をついた「商標ゴロ」

しかしながら、商標のルールが出来上がった当時から、将来的に価値を持ちそうな名前を先んじて取得し、その使用料を稼ごうという「商標ゴロ」と呼ばれる活動は行われていました。

今回の「ゆっくり茶番劇騒動」も、要するにそうした「商標ゴロ」です。

残念ながら現行法制では(日本のみならずどんな国でも)商標ゴロを完全に防ぐことはできません。まだ誰も知らない商標を登録し、その商標の価値を高めるべくこれから事業活動をする場合も多々ありますから、いま、事業としての実体があるのかどうかという基準では審査出来ないからです。

ですので、この問題は半ば「経済活動における私たちの倫理」に委ねられることになります。

「ゆっくり茶番劇」は、商標の社会的意義と真逆の使い方

ゆっくり茶番劇をはじめとした商標ゴロは、「記号や名前の価値を創った人ではない人が勝手に利用するのを防ぐため」という商標の本来的意義とは真逆の使い方です。「記号や名前の価値を創った人ではない人が、勝手に利用するため」に、商標制度を使っているのです。

人々が反発するのも当然で、ルールとして防ぐことが難しい以上、まずは私たちがこうした活動が望ましいものではないということを理解することが大切です。また、商標の取り下げの申請が誰でも出来るのだという法による解決策も用意されているということも知っておく必要があるでしょう。

かくして、経営学の観点からは、商標の意義が理解され、正しく使われることを願うばかりです。ましてや今回の件は、善意と暗黙の同意から誰もが商標登録を行ってこなかったパブリックドメイン(公有状態)の言葉だったのですから、今回の行為は、許し難いものだということができるでしょう。

(APS学長・中川功一)

著者・監修者

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