ビジネスパーソンのためのやさしい行動経済学「第1回目」
※YouTubeにて各シリーズ連載中!
いやもう大人気大ブームのこの科目ですよね。
YouTubeで、次に何の科目がいい?とアンケートをとった時も、本当にダントツトップでした。
いや皆さん興味関心スッゴイ高いと思うんですけども、実際のところ行動経済学ってどんな学問で、どういうふうに生かせるのか、そのあたり、結構気になっているんじゃないかと思いますから。
今回はまず、行動経済学って何なのか、果たしてそれがどういうふうに役に立つのかっていうことをお話したいと思います。
そして本日からはこの行動経済学をシリーズとして、ひととおりの中核部分をお話していきたいと思います。このシリーズをご覧いただけば、行動経済学が一通り全部わかるということになりますので、ぜひ、一緒に勉強していってもらえたら嬉しく思います!
行動経済学とは
いやもう行動経済学スッゴイ人気ですよね。若干、名前だけが1人歩きしてるような側面もあるんですけれども、学んだら、いろんなビジネスの悩みが解決するんじゃないか、そう思いの方も多いんじゃないかと思います。
そして、それは実際のところ、あながち間違いいではないんですよ。この科目を学ぶことによって一つ、ビジネスの真理に近づけるかな、というところがある。ただし、他の科目もそれは同じこと。結局、様々な理論を学んでいく中から、だんだんとビジネスとか経済を理解していくことが必要ですね。
行動経済学は、経済学+心理学
ざっくり言ってしまえば、行動経済学とは、経済学+心理学です。
今までは経済学というのは、人の感情・心理の側面には入らずに、人というのはものすごく利己的なもの合理的なもの感情を持たないものとして、数学的に定式化するということをしてきました。それによって、人々の経済行動、暮らしのすがたを明らかにしようとする。
でも実際のところ、人は心を持っている。そんなに、合理的にばかりは行動しない。
なので、心理学の知見をプラスして、実際に現実で起こっている経済活動のリアルに近づけていく、それによって経済活動社会活動というものの本質心理に近づいていこうというのが行動経済学なんです。
行動経済学が生まれた理由
どうして行動経済学なんていう科目が必要になったか。綺麗に数学的に定式化していく、この伝統経済学の方法というものが、経済たるものの本質に近づいていく上で、十分ではないだろうというのが、近年現れてきた見方だからなんです。
そう、かつての経済学ではですね、ホモ・エコノミカス(経済人)という前提を置いていたんですよ。
人間というのは極々、経済的に動くものなんだっていう仮定を置いて、その上で経済ってどういうふうに動いてるのかなっていうのを分析してきたのが、経済学なんです。
ホモ・エコノミカス(経済人)って、どういう存在か。人間は全知全能である全ての知識を手に入れることができ、そして瞬時に計算をすることができ、瞬時に何が一番儲かるのか、何が一番合理的な行動なのかというのを判断できる完全合理性というものを持っている存在。これを仮定するわけなんです。
それって、どういうことかというと、人生のあらゆるシーンで、何が一番儲かるのかっていうのをぱっと瞬時に比較検討した上で、最も儲かる行動をとるのがホモ・エコノミカスなんです。
しかしです。かつては、これは経済学の大前提として、こういう見方をすることから、何が見えてくるかを解明する学問とニュートラルに受け止められていたのですが、現在では、経済学ってのはめちゃくちゃなモデルで人を分析するんだねと、揶揄・批判されるようになってきたんです。経済学の限界はそこだよね、と。
人間は合理的ではない。
私達は決して合理的には行動はできない。
私達は全知全能ではないし、目の前にいろんな選択肢が与えられて、何が一番自分にとって利益になるかということを知ることはできない。未来に何が起こるのか、それを判断することはできない存在です。
また、仮にですよ、それらの選択肢が未来に何をもたらすのか?という選択肢について、ある意味で全知全能であったとしても、そこから自己にとって最善の判断だけをする存在でもない。私達は、相手の利益、社会の利益、そういったことを総合判断して行動を選択します。
このように考えていくと、ホモ・エコノミカスというふうに規定したものというのは、普通の人間の行動を記述していく上では、とっても制約が多い、とっても不都合な過程だった。というふうに見ることができるわけです。
ですから、この完全合理性の過程:ホモ・エコノミカスの大前提を外して、よりリアルな感情を持った人間としての行動を記述する。それに基づいて実際の経済活動モデル化していこうという発想から、行動経済学という科目が生まれてきたんです。
ホモ・エコノミカスとホモ・サピエンスの違い
従来の経済学のホモ・エコノミカスと、行動経済学で探求しようとする、ホモ・サピエンス(人間)。どう違ってくるのか、簡単な例を挙げてみましょう。それを通じて、行動経済学ってのがどういう科目なのかということを、皆さんに理解してもらおうと思います。
例えばこんな状況です。
皆さんが、パッとスターバックスに入ったとします。スターバックスには4種類のサイズがありますよね。ショート、トール、グランデ、ベンティ、という4種類のサイズがあるわけなんですけれども、それぞれ2021年5月現在で、このような容量と値段なっています。240・350・470・590mlというサイズで、値段は374・418・462・506円というふうになっているわけなのですけれども。
ここからがポイント。いいですか?ホモ・エコノミカスって、めっちゃヤバイやつなんですよ。
ホモ・エコノミカスが全知全能で、合理的で利己的な存在だとすると、どういうふうにするかというと、ぱっと1ml当たりの値段を瞬間的に計算します。
そうすると、ショートは1ml当たり1.55円もかかっている。トールだとこの値段・・・グランデとこの値段・・・ベンティだと、なんと0.85円ということで、遥かにショートよりもお得だね。という計算をパパパって脳内で計算するわけです。
そして次は、合理的ですから、ベンティサイズを買う。ベンティを買って2杯分に分ければ合理的じゃん、と考えるわけです。
そしてさらには、利己的ですからね。いや2杯手に入ったんなら、1杯浮いた分を店の前でショートの値段で自分で商売しちゃえばいいじゃん。転売すればいいじゃんと、こう行動するわけです。
ということで、自分は安い値段で本当に欲しかったショート分を安い価格で飲み、かつ、もう1杯自分が飲みきれなかった分を転売して利益にする。ホモ・エコノミカスの過程って、本当にこうなんです。マジでやばいやつですよね。周りにいたらちょっと怖いやつです。
一方、私達人間は、そんなことはしないわけです。
ホモ・サピエンス、人間はスターバックスのお店に入ると、なんとなく・・・その日の気分で、今日はたくさん飲みたいな。グランデにしようかな?トールにしようかな?ということで、全くそんな経済計算を立てないで、なんとなくの気分で飲むわけです。
どれが一番お得だなんて、そんなことは気にしない。あるいはですよ、お得なのはベンティだとわかっていても、私の胃袋のサイズにちょうどいいのはショートだよね。ということでショートを買うのが人間。
もちろん、余った分を転売もしません。
気分をマネジメントできれば消費者を誘導できる
これが伝統的経済学と行動経済学の大きな違いなのです。
伝統経済学では普通の人間ではない特殊な人間像を想定して経済モデルを記述しようとしたけども、それでは問題だということで、ホモ・サピエンスに近いものとして自然な人間の感情行動を記述していこうというのが行動経済学のです。
そして行動経済学を学んだとすれば、じゃあどういうことが可能になるかといえば、よりリアルな人間の行動の本質を私達はつかむことができるわけですから、それに合わせて上手に商売をしたり、より良く、経済社会の中で活動ができるようなっていくわけです。
商売という観点からすればですよ、先ほども言ったように、結局私達はスターバックスの店頭で、そのときその瞬間の気分・感情で商品を買ってるんだとすれば、経営者側としては、この、「そのときその瞬間の気分」を演出すればいいんだ。ということになるわけじゃないすか。
だからスターバックスの店頭では、上手なメニューの見せ方をして、消費者の感情を喚起するわけですよね。なんだか素敵だなあっていう感情のなかで、そのときその瞬間の気分で、素敵だと感じた商品を買ってもらうんです。
あるいは立て看板なんか置いて、そこで店員さんが一生懸命に書いた新しいメニューなんかを見ると、なんか店員さんもその努力に心を打たれるな。店員さんこんな商品を売りたいんだな、と気分が演出される。
あるいは、コーヒーの匂いがフワッと漂ってくる。すると、人の脳は錯覚する。私もコーヒーが飲みたかったんじゃないかな?と。小粋な音楽や素敵なムードがそこで演出されていれば、すすすぅっと、おびき寄せられてしまうのが人間というものの自然な行動だったりするわけです。
そこには、本当に私達は経済合理的にコーヒーが欲しいかどうかなんていう合理的な計算全知全能な判断なんて存在していないわけです。自分自身の真なる欲求かどうかすら、自分自身で認識することはできず、いつの間にかコーヒーを買っているのがホモ・サピエンスの自然な行動。
ですから、これを学べば上手に人々にやってほしい経済行動に誘導することも可能になるわけです。
ただし、悪用現金です。経済学の基本というのは、あくまでその経済の本質を理解して、社会をよりよく編成していくこと。リアルな人間像を理解することを通じて、社会の仕組みを良くするために人々を上手に導いていく。それが行動経済学です。
行動経済学とは?
かくして、お分かりいただけたでしょうか?行動経済学というのは、自然な人間の自然な経済学を、心理学の力を使って素直に理論化しようとするもの。これが行動経済学です。
ですけれども、その自然な人間の経済活動っていうのは、今お伝えしたように、純粋な数学の世界から見ると、とっても不思議。なんでこんな行動するのか、私達がとっても不思議な生き物だからこそ、注目されているのが行動経済学です。
そんなわけで、行動経済学を学んで、人々の経済活動の本質に迫っていき、それを皆さんが明日からのビジネス明日からの生活を生かす知恵にしていただきたいと、そんなふうに願って。ぜひ、これから一緒に、行動経済学を勉強していきましょう!
著者・監修者
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1982年生。経営学者/やさしいビジネススクール学長/YouTuber/東京大学 経済学博士
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専門は、経営戦略論・イノベーション・マネジメント、国際経営。
「アカデミーの力を社会に」をライフワークに据え、日本のビジネス力の底上げと、学術知による社会課題の解決を目指す。
「やさしいビジネススクール」を中心に、YouTube・研修・講演・コンサル・著作等で経営知識の普及に尽力中。
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