ステルス値上げ、またはシュリンクフレーションとは、商品の値段を据え置いたまま、内容量やサイズを小さくすることで実質的に値上げを行う行為です。
まるで忍者のように気づかれないうちに値上げが実行されることから「ステルス」と呼ばれています。
世界的には「シュリンクフレーション」(Shrinkflation = shrink 縮小 + inflation インフレーション)という用語が用いられており、世界的な問題となっています。
セブンイレブンの社長の対応は、一部の消費者にとって納得のいかない内容となってしまいました。
参考)Yahoo!ニュース:セブン-イレブン“上げ底疑惑”報道めぐり、社長の“攻撃的回答”に利用者怒り
具体例として、「ドロリッチ」の事例は非常に示唆に富んでいます。当初220gで150円だった商品が、複数回のリニューアルを経て最終的には120gまで減少。価格は据え置きでしたが、結果として販売休止に追い込まれました。
参考)JCASTニュース:ドロリッチ生産終了は必然か 消費者離れの要因は「ステルス性」?
これらの事例は、消費者の信頼を失うことが、商品の存続自体を危うくする可能性を示しています。
なぜステルス値上げは行われるのか?
企業がステルス値上げを行う主な理由は、原材料費や人件費、輸送費などのコスト上昇分を消費者に気づかれにくく転嫁するためです。
価格を直接上げるよりも消費者の反発が少ないと考えられており、企業にとっては価格設定の変更という面倒なプロセスを回避できるメリットもあります。
注目すべきは、ステルス値上げがかつて経営手法として教えられていたという事実と、現在では時代遅れで逆効果であることが証明されているという点です。
なぜこのような手法が広まったのかというと、一部の経営学者やビジネススクールまでもが、消費者に気づかれにくい値上げ方法としてステルス値上げを推奨していたという背景があります。しかし、その後の研究で、ステルス値上げは企業イメージを悪化させ、長期的には損失につながることが明らかになりました。
消費者の反応と企業への影響
調査によると、約4分の3の消費者がステルス値上げに対して不快感を示しています。
ステルス値上げの告発は後を絶たず、企業の誠実な対応が求められています。消費者を欺くような経営は時代遅れであり、企業は物価高騰に対して誠実なアプローチを取る必要があります。
現代の企業に求められるのは
- 価格改定の透明性
- 消費者との誠実なコミュニケーション
- 適切な価格転嫁の実施
世界的な動向と法規制
世界各国でも、この問題への対策が進んでいます。
特に注目すべきは
- 一部の国での法的規制の導入
- 消費者保護政策の強化
- 企業の透明性向上への要求
アメリカの事例
バイデン大統領は、スナック企業に対してシュリンクフレーションを止めるよう呼びかけを行いました。
これを受けボブ・ケーシー上院議員は連邦取引委員会(FTC)にシュリンクフレーションを「不公正な取引慣行」として規制する権限を与える法案を提出。インフレ対策の一環として、消費者保護を強化する政策が展開されています。
While you were Super Bowl shopping, did you notice smaller-than-usual products where the price stays the same?
— President Biden (@POTUS) February 11, 2024
Folks are calling it Shrinkflation and it means companies are giving you less for every dollar you spend.
I’m calling on the big consumer brands to put a stop to it. pic.twitter.com/wL1NsEh78F
フランスや韓国では法的にも禁止されるようになっている。他の国でも似た動き。
韓国の事例
韓国政府は2024年から、内容量を減らした商品に対して、パッケージやウェブサイトでの通知を義務化。専門の監視部署を設置し、違反者リストを公表する取り組みを開始しました。ビールやウインナー、ギョーザなど様々な商品で内容量の減少が確認され、消費者からは「裏切られた気分」との声も。政府の透明性確保への取り組みは消費者から歓迎されています。
食品の「シュリンクフレーション」 韓国が対策強化
韓国、ステルス値上げをけん制 内容量が減った商品のパッケージに減らす前と後の量の明記を義務付けへ
By Timothy W. Martin and Dasl Yoon
2023年12月25日 06:58 JST
ウォールストリートジャーナルhttps://jp.wsj.com/articles/this-country-will-police-shrinkflation-at-the-supermarket-06ac5f6c
フランスの事例
フランスでは2024年7月から、内容量が減少しているのに価格が据え置きの商品に対して、小売店での警告表示を義務付けることを決定。既に大手スーパーのカルフールでは、対象商品の棚にオレンジ色の警告表示を実施。政府は消費者に監視役としての協力も呼びかけており、消費者保護アプリを通じて疑わしい商品を報告できる仕組みを導入しています。
‘Shrinking in size, but not in price’ – Everything you need to know about ‘shrinkflation’
May 13, 2024
World Economic Forum
https://www.weforum.org/stories/2024/05/shrinkflation-inflation-cost-of-living/
これからの企業に求められるもの
ソーシャルメディアの発達により、消費者は内容量の減少に敏感になり、企業の行為を監視するようになりました。ステルス値上げは消費者を欺く行為であり、経済問題や消費者保護の観点からも問題視されています。
ステルス値上げとシュリンクフレーションは、かつては有効な経営戦略とされていましたが、現代では逆効果となるケースが増えています。
消費者をだまして儲ける時代はとうに過ぎている。
こんな古い経営手法を使っているようじゃ経営が3流といわれても仕方がない。
必要なのは・・・
- 最新の経営知識の習得
- 消費者との誠実な関係構築
- 透明性の高い価格政策
- 社会的に望ましい行動
消費者との信頼関係を重視し、誠実な対応を心がける企業こそが、これからの時代を生き抜いていけるでしょう。
もっとわかりやすく動画で説明しました!
ぜひご参照ください。
著者・監修者
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1982年生。経営学者/やさしいビジネススクール学長/YouTuber/東京大学 経済学博士
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専門は、経営戦略論・イノベーション・マネジメント、国際経営。
「アカデミーの力を社会に」をライフワークに据え、日本のビジネス力の底上げと、学術知による社会課題の解決を目指す。
「やさしいビジネススクール」を中心に、YouTube・研修・講演・コンサル・著作等で経営知識の普及に尽力中。
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