顧客への提案技術の基本形と言われている「スター構造」。
スター構造を知ることで、顧客と共通理解を作りながら、無理なく一歩ずつ自社商品をすすめることができたり、議論をすることができるようになります。
スター(S.T.A.R)構造とは?
シチュエーション(Situaion)、ターゲット(Targe)、アクション(Action)、リザルト(Result)の4項目をこの順番で説明していくのが「スター構造」と呼ばれる論理的な説明説得議論の一般構造として知られています。
この順番の頭文字から『スター(S.T.A.R)構造』と言われています。
スター構造「S・T・A・R」について
- シチュエーション(Situaion・現状): 現状はどうなっているか
- ターゲット(Targe・目的):ゴール、目的地点、本来の形
- アクション(Action・行動):目的やゴールに辿り着くためには、どういう行動を取ればいいか
- リザルト(Resul・結果): アクションを起こして、どんな結果が得られたか。どんな結果が期待されるか。
スター構造はどんな場面で使える?
スター構造を使った「提案・説得」
例として、ある会社では、現状を変えたいと思っています。
それに対しての提案を、先のスター構造にあてはめてみましょう。
- シチュエーション わが社の「現状」はこうなっています
- ターゲット わが社はこのような理念を掲げているので、わが社の「あるべき姿」ってこういう状態ではないですか?
- アクション だとすれば、その姿を目指して、いまこういう「行動」をするべきではないですか?
- リザルト こういう行動をしたなら、こういう「結果」が得られるはずなので、そこをチェックしながら進めていきませんか?
という形で この順番なら相手も「うん、そうだな、そうだな。全くもってその通りだ」ということで共通理解を作りながら進めていけるのが、スター構造のいいところです。
スター構造を使った「人の相談にのるとき」
スター構造は「人の相談にのるとき」にも使えます。
コーチングの技法として教えられることもあります。
- スター構造をつかって人の相談にのるとき
- シチュエーション 今、何に悩んでいるか教えてもらえますか?
- ターゲット 本当はどうなりたいんですか?
- アクション そのためには、やるべきことは何でしょうか?
- リザルト うまくできたら、どうなっているでしょうか?
人の相談に乗る時のポイントは、既に頭の中で答えがあったとしても「先に答えは言わないこと」です。相手に「どうすればよいのか」、「どうしたいのか」を問いかけていきましょう。
スター構造を使うと、どんなことが起こる?
スター構造を使うと、相手(顧客)と自分とで共通理解を作りながら、無理なく一歩ずつ提案(議論)を進めることができます。
何度もスター構造での提案を行うことで、お客様の話を聞きながら(ヒアリングしながら)、課題やソリューションを把握し、柔軟な提案をすることができるようになります。
スター構造を知らなくても、なんとなくこの順で聞いていくといいなと思っていた方も多いでしょう。
これからは意識して使うといいですよ。相談の名手にもなれます。
次に、スター構造を使った成功例をあげます。
スター構造を使った事例
成功事例①ヤマト運輸「宅急便」 小倉昌男さん
当初、ヤマト運輸は、百貨店さんの荷物を受け渡す、商業配送だけの仕事(BtoB)をしていました。
小倉さんは「このままでは配送業に未来がない」と考え、 大きく会社を転換するための大きなビジョンと戦略構想の基に、日本で初めて個別自宅配送「宅急便」(BtoC)を成功させました。
ヤマト運輸・小倉昌男さんが実際にどう考えていったのか?
スター構造にあてはめてみたら?
①シチュエーション
小倉さんは「運用業の現状」をこのように考えておりました。
今のわが社、そして運輸業界は
「大口顧客にいいように使われている」
「 下請け業界であって、 利幅も小さいし、お客様に別の感謝もしてもらえない」
荷物の受け取り主さんは、 別にヤマト運輸と取り引きしていているのではなくて、百貨店さんと取引をしていて、配送業者さんは、単に荷物を持ってくるだけの仕事だと思っている。
運送業界は、いわゆる3K職場(きつい、汚い、危険な仕事)だと思われていて、就職の人気もない。
このままでは業界の未来はない。
②ターゲット
そこで、小倉昌男さんはヤマト運輸をこういう会社にしたいと考えました。
一般的なお客さまに会社名を知ってもらえて、胸を張って誇れるような仕事にしてもらいたい。
「明るい街の運送屋さん」として、お客様に感謝をしてもらえる。
「商品をお届けにまいりました」
「いつもありがとうございます」
と言葉を交わす関係が作れたらなと、このような未来像を抱きました。
③アクション
ターゲットを定めた小倉さんは、実際に世界中の事例を探してきました。
当時のアメリカでの最新の物流事例をチェックしながら 、これからは「ハブアンドスポーク*1」だと気が付きました。
スター構造以外のいろいろな分析手法も使いながら、
「どうやったら個別輸送ができるか」を考え、そのために取るべきアクションは「 商業輸送をやめる」ことだと宣言しました。
社内の全リソースを投入して、社員一丸で取り組んで「個別宅配事業」を成功させる。
その計画は当たり、ハブアンドスポークも取り入れていきました。
*1 ハブアンドスポーク 空港などの大規模拠点(ハブ)に貨物を集中させ、そこから各拠点(スポーク)に分散させる輸送方式のこと
④リザルト
もう一つここで注目すべきは、 街で愛される運送屋さんになるために「セールスドライバー」という役職の育成を行いました。
身なりもよく笑顔で、 信頼できる人としてセールスドライバーが立ち現れて「ヤマト運輸が配送にあがりました」 という形で、お客様に愛してもらえるような存在を作ったのです。
実際にヤマト運輸さんのドライバーさん、顔なじみの方で信頼がおける方ではありませんか?
これを考えたのも、このように業界を開拓したのも、 まさに小倉さんがこのように作戦を立てたが故なんですね。
そうして実際にはじめてみると、現場の人への指示が圧倒的だったということがあります。
そして現場の従業員が自分の仕事が誇れる仕事になって、お客さんから感謝してもらえたらこんなにいいことなんだ、自分たちはセールスドライバーなんだという認識が強まって行きました。
そのことで、現場の変革に前向きになり、会社の中で社員一堂みんなで一緒になって、 この小口宅配、個別宅配で商売を成り立たせて行こう、 そして社会インフラになっていこうと大きな絵図面を描いて、ヤマト運輸の戦略変更を実施していった訳です。
仮説をぶつけてみる ベネフィットトークの活かし方
営業に行かれてお客様とさまざまな交渉や提案をする中で、スター構造で話を進めるといいと言われても、状況によって難しいこともありますね。
さまざまな条件が絡んでくることなので、正解はこれとも言い切れない。むしろ正解は無数にあります。
その中の一つに、お客さまに「仮説をぶつけてみる」というやり方があります。仮説に沿って、「これをやった方がいいのではないか」という提案をしていきます。そこに至るまで「ベネフィットトーク」を行います。
営業には必須だと言われる「ベネフィットトーク」とは?
そもそも営業必須と言われる「ベネフィットトーク」がどういうものか説明しますね。
ベネフィットトークは「お客様にとっての価値提案」はどこにあるのか、そこを掘り出していく話し方です。
八百屋さんが一番売りたい「たまねぎ」が売れるのはどのトーク?
例として八百屋さんのベネフィットトークをあげます。
八百屋さんが一番売りたい「たまねぎ」が売れるのはどのトークでしょうか?
八百屋さんがお客様にかけた言葉
①お客様が欲しいものは何ですか?
うちに何が揃ってるか見ててくださいね
②このたまねぎ、淡島産ブランドのめちゃくちゃいい、たまねぎですよ。
良い品だから買うといいよ。
絶対損させないから
③ 今日の夕飯決まってる?
まだ決まってない?
カレーなんてどうですか?
今日本当に良いたまねぎが入ったんで、この玉ねぎ使って作ったカレーだったら絶対美味しいですよ
この中で本当の意味での「ベネフィットトーク」ってどれだと思いますか?
お客様の課題に迫れていて、それに対するソリューションが示せているのは、一番下の提案③になりますね。
八百屋さん(営業)が共感や傾聴をしているだけでは、一番上の①のアプローチになります。
定型のフォーマットで価値提案をしているという形では②になります。
八百屋さん(営業)がやるべきことは
「お客様が悩んでいるのは こういうことなんじゃないですか ?それに対してうちの会社の商品は お客様の課題を解決することができるんですよ?」と、
この③の提案の形をしなければいけないはずなんです。
この③によくよく気づいていたのが「iPhone」を作った、アップル社のスティーブ・ジョブズさんです。
成功事例2:アップル社「iPhone」 スティーブ・ジョブズ
スティーブ・ジョブズさんは、こういうコメントを残しています。
「多くの場合、人は実際に形にして見せてもらうまで、自分が本当に欲しいものというのは分からないんだ」
だからメーカーサイドで
「みんなが欲しいのは、こういうスマートフォンでしょ?」とお客様に提案すると
「そうそう!欲しかったのはこれなんだ」と言ってくれるんだというわけなんですね。
「仮説をぶつける」 スティーブ・ジョブズのスター構造を使った戦略
実際2005年ぐらいのスマートフォンが出る直前のマーケットに関する調査をした結果、当時ガラケーを使ってた人たちは、こう言ってたわけです。
- バッテリーのもちがいい
- 映像が綺麗な方がいい
- テレビが見えた方がいい
- プリペード機能があるがいい
- 可愛い形がいい
でもそれに応えていたらiPhoneなんて作れやしないわけなんですよ。
これらの情報をどんだけまとめていったところで、お客様が欲しい形には行きつかない。
長時間もつバッテリーとか、映像の綺麗さとか、テレビが見れるものを提案したとして 「うーん、本当に私が欲しいのこれだったかな?」となってしまう。
そこでスティーブ・ジョブズさんは仮説を立てたのです。
皆さんが欲しかったスマートフォンは、こういうものとは違います?
直感的な操作ができて、サクサク動いて。
気持ちいい操作ができて、楽しい。そういう体験が欲しかったんでしょ?
このように提案すると「そうだった!私たちが本当に欲しかったのはこれだ」という形で、iPhoneのヒットにつながったわけです。
では、最後にスター構造を使って、演習にチャレンジしましょう。
【演習課題】某社営業部門のケース。スター構造を使って提案を考えてみよう
自分がコンサルタントだとしたら、某社営業部の課題をどう設定して、どういう提案をするのか。
スターの枠組みに沿って、皆さんならどんな提案をするのか考えてみましょう。
某社営業部門の課題
営業部門として営業成果が中々ついてこない。
分析すると、お客様がどういうニーズを持ってるのかの発掘が弱く、 なかなか提案が刺さりにくく、クロージングに至らない。
某社営業部門の状況
- 大人数の営業部門
- 営業の6ステップ(事前準備・オープニング・ニーズ把握・価値提案・面談の獲得・面談後の分析)を導入。営業のロールプレイは徹底して行っている
- 特に、潜在ニーズの把握は大事と認識し「傾聴・共感・質問」は手厚く研修を行っている
- 事前準備で用意した質問に固執しがちな傾向
- 質問が定型化しすぎて、柔軟性が足りていない
【演習課題】中川先生の回答
営業部門の社員に「真の商品理解のための教育」を行う
某社営業部門の社員さんは、定型の営業の形にちょっと固執してしまっているかなと思いますが、よくよくお客様から何が欲しいかっていうのを聞き出そうとしています。
この部分は、よくできていると思います。
ですが、本当の意味でお客様に必要なこと、お客様が必要としているのは「課題を解決してくれた。 確かにこの商品なら悩んでいたことが全部スッと解決するんだ」このことを実現してあげることではないでしょうか?
そうであるとするならば
「お客様が今悩んでいることは、こういうことではないでしょうか?」という課題感を指摘してあげて、それに対してソリューションまで提案するっていうのが、本来あるべき形なのではないでしょうか ?
そうであるとするなら、営業部門の社員に足りてないのは「真の意味での商品理解」なんだと思います。
顧客にとってのどういうメリットがあるのかという意味での「真の商品理解」に至っていないため、お客様の課題をいくら聞いても、それに対して有効なソリューションの提案ができていないのではないでしょうか?
ですから、今やるべきことは
営業部門の社員に真の商品理解のための教育をしっかり行うこと。
この商品の説明能力や、お客様にとってどういうベネフィットがあるのかという意味での商品価値の理解ができているのか 。
これらのところをKPIとして測定して人材育成を行い、それが実際に営業成果につながったかどうかというところを、次のサイクルでチェックしてみるのはどうでしょうか?と提案したいと思います。
このような形で、お客様にとってのあるべき姿はどんなものなのかを考えながら、このスター構造の形の提案に落とし込んでいくことによって、お客様の課題感を指摘し、それに対して改善するための方法というのが提案されてきます。
まずはスター構造のフォームに沿って、お客様の前でプレゼンができるようになるのが、 コンサルティングの第一歩です。
初めのうちはまずはしっかり型を学んで、 スターの構造を身につけると有効です。
著者・監修者
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1982年生。経営学者/やさしいビジネススクール学長/YouTuber/東京大学 経済学博士
詳しい講師紹介はこちら website twitter facebook youtube tiktok researchmap J-Global Amazon
専門は、経営戦略論・イノベーション・マネジメント、国際経営。
「アカデミーの力を社会に」をライフワークに据え、日本のビジネス力の底上げと、学術知による社会課題の解決を目指す。
「やさしいビジネススクール」を中心に、YouTube・研修・講演・コンサル・著作等で経営知識の普及に尽力中。
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