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シャープ、液晶主力の境工場生産停止。終焉となった原因を経営戦略論で分析

シャープは、かつて「液晶のシャープ」として知られていましたが、ついに液晶の生産を停止することになりました。主力工場であった堺工場が2024年9月での生産を停止し、シャープ液晶の歴史が終焉を迎えることになります。
この決定に至るまでの経緯とその背景には、経営戦略の観点から多くの学びが詰まっています。

2012年前後から、シャープが経営危機に陥っているというニュースを何度も聞く機会がありました。
それから約10年以上の時間があった中で、シャープは「液晶のシャープ」という立ち位置を変えられなかったことや、次の事業を育てることができなかったことが、今日の状況を招いてしまいました。

このケースから得られる教訓は、企業経営においては、一本足経営ではなく、次の事業の種を育てることが重要であるということです。

日本企業にとって、イノベーションや新規事業の創出が求められています。

詳しく見ていきましょう!

この記事は、「シャープ、液晶主力工場の生産停止。どこで道を間違えたのか。経営戦略論による分析!【時事解説225】」という動画についてテキスト形式で読みやすくまとめたものです。

目次

シャープの液晶生産停止の報道

シャープがテレビ向けを中心とした大型液晶パネルをつくっている堺工場の生産を停止する方針を固めたことが5月13日、分かった。赤字が続いており、継続は難しいと判断した模様。5月14日に発表する中期経営計画に盛り込む可能性が高い。
堺工場は、シャープの子会社「堺ディスプレイプロダクト」(SDP)が運営する。SDPは中国メーカーなどとの価格競争で採算が悪化。設備の減損などを迫られた結果、シャープは2023年3月期に2608億円の最終赤字に転落した。
(朝日新聞デジタル,2024年5月13日)

堺工場停止の背景~シャープの赤字と液晶事業~

総工費5000億円超 堺工場の建設

堺工場の建設は2007年に決定されました。
この決定は液晶技術のスター開発者であり、「液晶のプリンス」と呼ばれていた、5代目社長・片山幹雄さんの元で行われ、総額5000億円を超える大規模な投資が行われました。当時売上高で2兆円~3兆円規模のシャープにとっては巨額の投資になりました。
その後、シャープは2022年3月期に2000億円以上の赤字を計上し、2023年も液晶事業は赤字でした。これ以上の損失を避けるため、液晶の生産を停止することになりました。
堺工場はシャープの輝かしい歴史と、同時にその没落を象徴する工場になりました。

液晶技術のコモディティ化と価格競争

液晶技術はコモディティ化が進み、世界中で巨大な生産能力が整備され、シャープは価格競争に勝てなくなりました。
堺工場から出荷される液晶ディスプレイは他社との競争に敗れ、堺工場の赤字に苦しむことになりました。

コモディティ化
コモディティ化とは、市場参入時は価値の高かった商品が、他社参入などで市場が活性化した結果、商品の市場価値が低下して、一般的な商品になること。
「一般化」とも言われる。

堺工場の赤字と価格下落

堺工場はSDP(堺ディスプレイプロダクト)として別会社化されましたが、赤字は続きました。
液晶パネルの価格は年率数十%で下落し、約5年で1/3になるペースで値崩れが進んでいました。
こうした背景から、液晶ディスプレイを作っている企業は軒並み厳しい経営状況に陥っていました。

なぜ、シャープが堺工場を手放せなかったのか?

シャープがなぜ、赤字が続く堺工場を長期間持ち続けたかについては、様々な説が出されていますが、いずれも正しくないとされています。

シャープが堺工場を手放せなかった理由は、財務諸表を見れば一目瞭然です。

シャープは売上の多くをディスプレイとテレビに依存しており、他の事業は規模が小さく、利益を生むことができませんでした。

「プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント」でシャープの事業を検証

1970年代から使われている、さまざまな事業群を持つ企業の経営管理手法として知られている「プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント」の図にシャープの事業を当てはめてみました。

プロダクト・ポートフォリオ・マネジメントの図解

縦軸事業の「成長率」を表します。
どれくらい将来有望か、成長率が高ければ有望でこの成長率がマイナスだったら、この事業は衰退産業だということになります。
横軸「シェア」を表します。左側がトップシェア(シェアが高いもの)で、右側はシェアの2位以下となります。

企業として投資すべきなのは、成長率が高くて、トップシェアであるような商品。
「左上の枠」にはいるものが1番有望な商品になります。

「左下の枠」はトップシェアだけど、マイナス成長の事業になります。この事業はなるべく稼いで、早く次の事業にシフトしていく。ここで稼いだお金を別事業に投資すべきと考えられています。

「右上の枠」は、成長率が高く、これからの有望事業です。しかし、2位以下の事業なので、これから投資をして事業が育ち、トップシェアになれば、会社の花型事業、次世代の主力事業になって欲しい事業が入ります。

「右下の枠」は成長率もマイナス、シェアも大きくない。あまり将来の見込みがない事業となります。

シャープの事業は右の枠側に集中。そして右下の枠に多くの事業が入っています。

成長率が高いのはディスプレイテレビだけ
テレビは日本国内ではトップシェアの一角を占めています。
しかし、ITCや電子デバイスなどは競合と比べてシェアも狭く、成長率も落ちてきている事業です。

経営戦略の問題点~液晶ディスプレイ事業への依存

プロダクト・ポートフォリオ・マネジメントの図からも明らかなとおり、シャープの売上の約半分がディスプレイとテレビ事業から成り立っており、他の事業は小規模で成長が見込めない状況でした。
そのため、経営者の意識はディスプレイ事業とテレビ事業に向かざるを得ませんでした。

シャープの経営戦略の問題点は、ディスプレイ事業の競争力を維持できなかったことではなく、次なる成長事業を育てられなかったことにあります。
シャープの経営危機は、液晶事業に依存し続けた結果、他の事業が成長できなかったことに起因しています。

シャープは太陽光発電事業などを目指していましたが、これも激しい競争にさらされ、成功には至りませんでした。経営者としては、次の成長事業を育て、そちらにシフトすべきでしたが、液晶事業への依存から抜け出せなかったことが、今日の状況を招いています。

経営戦略論から得る教訓

2012年前後から、シャープが経営危機に陥っているというニュースを何度も聞く機会がありました。
それから約10年以上の時間があった中で、シャープは「液晶のシャープ」という立ち位置を変えられなかったことや、次の事業を育てることができなかったことが、今日の状況を招いてしまいました。

このケースから得られる教訓は、企業経営においては、一本足経営ではなく、次の事業の種を育てることが重要であるということです。
日本企業にとって、イノベーションや新規事業の創出が求められています。

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