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セキュアベース・リーダーシップ論とは何か?最新論文を踏まえて経営学者が解説!(池田・縄田・青島・山口,2022)

書いた人

著者 / 中川功一(やさしいビジネススクール学長・経営学者)
経歴 / 元大阪大学大学院 経済学研究科 准教授
専門 / 経営戦略論・イノベーション・マネジメント、国際経営
主著 / 感染症時代の経営学・戦略硬直化のスパイラル・他
▷ 中川功一 研究業績リスト
▷ 「やさビ」学長中川について
近況 /「アカデミーの力を社会に」を掲げ、誰もが気軽に学べる完全オンラインの「やさしいビジネススクール」創立。
経営学講義&時事解説をYouTube配信中!

人は幼少期に、養育者との間で愛着のかたちを形成します。その愛着のかたちにはいくつかのパターンがあり、これがその人物の、他人との関わり合いの基本的なスタイルに影響するとされます。これを愛着理論といいます。愛着理論は、社会心理学や組織行動論に応用され、組織のリーダーとフォロワーとの関係について、お互いの愛着のパターンによって何が起こるかが分析されています。

セキュアベース・リーダーシップは、この愛着理論をもとに、「リーダーはフォロワーの養育者として、安全基地(secure base)となるべきである」とする理論です。安全な場、安全な関係であることを保証してあげることで、心理的な安息と、挑戦とを可能にするのです。

Combe(2010)は、セキュアベース・リーダーシップを3つの要素からなるとしています。

  • メンバーに対して価値を認め、受け入れ、感謝することで安全を提供する
  • 成長や発達、ポテンシャルを強調することで探究心を促進する
  • 前向きな方法で課題や状況に対処する

出典:Combe, D. D. (2010) Secure base leadership: A positive theory of leadership incorporating safety, exploration and positive action. Doctoral Dissertation, Case Western Reserve University.

メンバー(フォロワー)たちが、ここは安全基地だ、と思えることでパフォーマンスが発揮できることは、皆さんも違和感なく受け入れられることではないかと思います。

目次

他のリーダーシップ・スタイルとの違い

あくまで一介の経営学者としての個人的見解・学術的立場として読んでいただければと思いますが、セキュアベース・リーダーシップは、他のリーダーシップと概念的にどう違っているのかという点において未解決の課題を抱えている概念だと思われます。とりわけ、仲間たちが気持ちよく働けるような下支えをすべきというサーバント・リーダーシップとは、その活動内容において少なからず重複があり、何がどう違っているのかという点について理論的に解決すべき部分が残っていると評価します。(統計的には尺度として弁別可能であるとする研究もありますが、理論的には混乱が残っている)

とはいえ、提供しているものが、セキュアベース・リーダーシップは「安全基地」(根の部分は「愛着」)であり、サーバント・リーダーシップが「気持ちよく働ける場」という点に、明確な違いはあります。リーダーがフォロワーに与えているものは本質的に愛情なのではないのか、それがフォロワーの安全につながり、成果を出せるようになっているのではないか、というのがセキュアベース・リーダーシップの核です。愛情も与えつつ、サーバントでもあり、あるいは変革型リーダーでもあるというように、他のリーダーシップスタイルとの重複もある、とみるのが妥当でしょう。

別の言い方をすれば、セキュアベース・リーダーシップの理論からリーダーが学ぶべき事は、新しいリーダーシップスタイルを身に付けよ、というようりは「フォロワーに愛情を注ぎ、安全な場を与えてあげることで、その人は心理的安定を得て、挑戦を行うようになる」ということだろう。

最新の研究紹介 

経営学を中心とした社会科学の総合学術誌『組織科学』に掲載された池田浩(九州大学)先生たちの論稿では、セキュアベース・リーダーシップが実際にどういう効果をもたらすのかを検証しています。3社107のチーム(847名)をサンプルとした検証では、セキュアベース・リーダーシップの構成要素が、「探索の促進」「安心・安全の提供」「リーダーへの対人的信頼」の3要素からなるとしたうえで、このうち「探索の促進」の要素がチーム成果を高めることに寄与し、また「安心・安全の提供」が、チームのいわゆる心理的安全性:忖度なく率直に相手に発言できること・尋ねられることに繋がっていることを明らかにしています。一方、リーダーへの対人的信頼は特有のチーム活動への効果はみとめられませんでした。

この結果からすると、改めてリーダーがチームにおいて行うべきことは、安心を与えることと、心置きなく挑戦ができるようにすること―その土台として、リーダーが愛をもってメンバーに接することが大切だということになるでしょう。

結論はとても一般的なことだと思います。対人関係の基本かもしれない。改めて、その基礎をリーダーとして見つめ直すべき、ということがセキュアベース・リーダーシップの議論から学ぶべき事かもしれません。

著者・監修者

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