一般的な求人採用は、求職者側は企業にどうやって「選ばれるか」を考え、企業側はエントリーシートなどからよい人材を「選ぶ」こととされています。
しかし、求人倍率の高い企業に就職することが求職者にとってベストな就職にならなかったり、企業に多くのエントリーシートが届くことが、必ずしもよい人材採用につながらなかったりがおこることがあります。
求職者、企業側どちらにも「よい出会い」、「精度の高いマッチング」があることがよい就職、よい採用に繋がります。
「制度の高いマッチング」が可能となる採用方法をご紹介します。
採用は期待と能力のマッチングを重視し、企業と求職者双方の正しい情報を基にした誠実なコミュニケーションが必要。さらにカスタマージャーニーのデザインと多層的な審査方法を活用することで、有益な採用が可能になります。
この記事は、「理論に沿った採用の実行戦術とは?【人的資本経営7】」という動画についてテキスト形式で読みやすくまとめたものです。
採用の基本概念 マッチングの科学
まず、採用は「よい出会いを創出すること」です。
一般的な採用で見られるのは、求職者は企業に選ばれるために資格を取得したり、技術を身につけたりします。企業側はよりよい人選ができる技術を磨いたりします。
しかし、求人応募者1万人の中から選ばれた1人と、1人しか求人応募がなかったけど企業にとって最適な1人というのは、同じ価値を持ちます。
採用は単にエントリーシートの枚数を競うものではなく、「期待と能力のマッチング」が重要です。
「期待」と「能力」をマッチングする
採用においては、2つの要素、「期待」と「能力」のマッチングが重要です。
企業が提供できるものと個人が企業に「期待」するものが一致しているならば、関係は長続きします。また、企業が求める能力と人材が持つ「能力」が一致していることも必要です。
これは単なる書面上の契約や数字ではなく、「こんな風に働いてほしい」、「こんな風に働きたい」という心理的な部分での約束、マッチングも大切になります。
働き手への価値提案「エンプロイ・バリュー・プロポジション(EVP)」
企業は求職者や従業員(働き手)に何を提供できるかを明確にする必要があります。
これを「エンプロイ・バリュー・プロポジション(EVP:Employee Value Proposition)」と呼び、働き手に対しての価値提案として整理します。
これには、「仕事の内容」、「キャリア形成」、「報酬」、「組織」、「労働環境」、「企業のブランド価値」などが含まれます。
これらを求職者や従業員に誠実に伝えることが重要です。この部分で変に見栄を張ったり、取り繕って飾ってしまったりすると求人側とのミスマッチが起こってしまいます。
求職者との正しいマッチング EVP例:データアナリティクスのできる若手の求人
求職者も「自分はどんなことができるのか」、「自分の能力や人物像を企業側に正直に伝える」必要があります。お互いに正しい情報を出し合ってマッチングすることが最も望ましい形です。
EVPの一例として、「データアナリティクスのできる若手の求人」を取り上げてみます。
データアナリティクス:企業データ(顧客情報など)を分析して、業務・売上改善などに役立つ情報を分析すること。データアナリティクスのできる人を、「データアナリスト」と呼ぶ
仕事の内容:データアナリティクス
キャリア形成:来年には自分でアナリティクス案件が実施できるようになる
報酬:330万/年
人・組織:相談しやすい上司/アットホームなメンバー
労働環境:完全裁量労働制/テレワーク
会社の価値:アカデミアの力を社会に提供する/安定は約束できない/夢を描くスタートアップ
このようにEVPを描くことで、
既に高いデータアナリティクス能力を持っている人より、データアナリティクスを勉強してこれから実務をしたい
いずれは独立も考えている人が希望であること
スタートアップ企業であるため、安定を希望する人は難しい
一緒に夢の実現を目指せる方に来て欲しいなど、
企業側が求める人材像がクリアになります。
ペルソナターゲティングとマーケティングメッセージ
先に描いたEVPを元に、企業に来て欲しい、ターゲットとする人物像(ペルソナ)を明確にし、その人物に合わせたマーケティングメッセージを考えます。
今回の例にある、企業で若手のデータアナリストを求める場合、その人物が関心を持つ媒体に情報(メッセージ)を発信し、ウェブサイトに詳細な情報を掲示します。
「カスタマージャーニー」と「AIDA」で考える
次に、採用におけるカスタマージャーニーをデザインし、求職者が企業にたどり着くまでのステップを考えます。
そのステップをAIDAモデルで考えてみましょう。
例えば、SNSやメルマガでの「アテンション」、ウェブサイト等で情報を掲載する「インタレスト」、説明会や面談で「デザイア」を高める、現社員からのフォローアップによる「アクション」などの方法があります。
カスタマージャーニー:顧客が商品を購入、利用、継続、再購入までの流れを分析して、それに至る流れ(道のり)を時系列で考えること。ここでは求職者が求人に応募するまでの流れを例とした。
AIDAモデル:消費者心理や行動パターンを表す、Attention(アテンション・注意)→Interest(インタレスト・興味)→Desire(デザイア・欲求)→Action(アクション・購買行動)の頭文字から名付けられたマーケティング理論のこと。ここでは求職者が求人に応募するまでの流れを例とした。
多層的な採用審査方法を用いる
求職者から求人にエントリーしたら、最後に人材採用には多層的な審査方法を行って、マッチングの確認を行います。
1つのマッチング方法だけでは、マッチングの精度は50%しかありませんが、複数の方法を組み合わせることで、より正確な人物評価が可能になります。
例えば、技能・ペーパーテスト、面談、インターンシップ、役員面談などを組み合わせることが有効です。
企業・働き手両者に有益なミスマッチのない採用方法とは?
採用戦略の基本は、期待と能力のマッチングを重視し、企業と求職者双方の正しい情報を基にした誠実なコミュニケーションです。カスタマージャーニーのデザインと多層的な審査方法を活用することで、ミスマッチのない採用が可能になります。これにより、企業と働き手の双方にとって有益な関係を築くことができます。
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著者・監修者
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1982年生。経営学者/やさしいビジネススクール学長/YouTuber/東京大学 経済学博士
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専門は、経営戦略論・イノベーション・マネジメント、国際経営。
「アカデミーの力を社会に」をライフワークに据え、日本のビジネス力の底上げと、学術知による社会課題の解決を目指す。
「やさしいビジネススクール」を中心に、YouTube・研修・講演・コンサル・著作等で経営知識の普及に尽力中。
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