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真のMBOとはいかなるものか:ドラッカーのマネジメント方法論【ドラッカー20-26】

中川先生と読む、ドラッカーのマネジメント。今回は、マネージャーはどのようにして組織をマネジメントするべきなのか、【マネージャーの仕事論】に行きたいと思います。

目次

マネージャーの仕事

まず、マネージャーの仕事って何なのかということについて、ドラッカーはこのように述べています。

投入されたインプット以上のアウトプットを創出する。それも単に一時的なものではなくて、ちゃんとその社会の中で、地球環境の中でサステナブルに生み出していけるような生産体を生み出すことだと、このように言ってるんですね。

ここでインプット、その生産体に対してインプットされるものとは何か。例えば、人材。人の人生をインプットするわけです。あるいは物質的なもの。知識や情報もインプットする。そしてお金。いわゆる、ヒト・モノ・カネ・情報ですね。このように多次元な、その社会から集めた多様なものが企業という生産体へのインプットとなる。

これらのインプットが、あなたが作り上げた生産体の中で加工され、上手に使われことで、より成長したかたちでアウトプットされる。より良く育った人間、より価値がある商品とかサービス、より成長した知識・情報、より増えたお金になる。このような意味において、様々なインプットを突っ込んで、それをより良い状態のものとしてアウトプットしていくような生産体を整えることが、マネジメントである―すなわち、マネージャーのやるべき仕事だということになるわけです。

ここで意味していることは、良い商品・サービスをたくさん産めばいいというわけではなく、マネジメントとはあらゆる社会からの借りものを、全て発展させてお返ししていくものなのだということです。

マネージャーの手段は限られている

その手段としては、実はマネージャーにできることは限られている。”残念ながら”限られているんだよって話じゃなくて、マネージャーの仕事って何やっていいかわかんないように見えるけれども、”やることってシンプルなんだよ”って話なんです。

マネージャーができることは、二つしかない。一つには、その預かったインプットを管理すること。もう一つは、そこから出力されるアウトプットとして出てくるものを管理していくこと。結局この二つしかない。

実はこれは、当時立ち上がってきたマネジメントに関する理論というものが反映されています。三隅二不二(みすみ じゅうじ)先生という日本の先生なんですけども、世界に名だたる三隅理論:PM理論というものがあります。これはまさに、Performance:アウトプットを達成することと、Maintenance:インプットを管理することという2つがリーダーの働きかけなのですよ、という理論です(元来はリーダーシップの理論です)。三隅先生以外にも、当時には様々な学者がリーダーシップとは何か、マネジメントとは何かを研究していますが、結論は概ね、このインプットを整えアウトプットを達成するという話に落ち着きます。

ドラッカーもこうした学術の動向はよく理解しておりまして、経営とは要するにこの二つなんだよとここで述べているわけです。結局、起業組織というものがインプットしてアウトプットを出すものである以上、やることはこのインとアウトの整理しかない。フォーカスすべきはシンプルにそこなんだということになるわけです。

マネージャーにできること

そして何度も強調しますが、それに当たって、マネージャーとしてできることは何かと言えば、ごくごく限られています。目標を定め、組織をつくり、個人を動機付け、コミュニケーションをつくり、評価し、育てる。概ねこの6項目だと。基本的には組織というのは、1人1人の自立で成り立っている。マネージャーはあくまで彼らのそのプライドといいますか、職業人としての専門性、誇り、彼ら自身が社会人としてなすべきことを理解しているという前提のもとで、マネージャーは彼らの方針決めをする、それを通じてインプットよりも遥かに増大したアウトプット、ここに集中すべきだということをとにかく強調したわけです。

第1には、どういう目標を設定するかが勝負だというわけですね。組織のメンバーにとって確かにあそこは目指すべきゴールであそこだったら自分も目標として目指せると、そういうような上手な目標設定ができたならば、仲間たちはそこに向かって走っていける。ということで、マネージャーが操作できる変数その1は、どこに目標を据えるのかということ目標難易度が高さ低さだけじゃなくて目標が質として、みんなが目指して行く方向として正しいかどうかということが第1。

第2には、じゃあそれをやるにあたって、誰に何を任命してどういうふうに進めていくのか、組織を作ること。究極的に働くのは現場の人だとして、誰をリーダーにして、誰を補佐として付けて、どういうメンバーシップでこの仕事に当たらせるのか。あなたの職場でやるべきことってたくさんあるわけですよね。その職場の中にある様々なタスクを、誰を任命して誰に割り当てていくのか、この組織を作るというのが、あなたがマネージャーとして操作可能な第2の変数です。

第3の変数は動機付けです。ただこの動機づけについては前回からも実はずっと続けているんですけど基本的には、その本人が自発的に働こうという動機を出さなきゃいけないわけで。だとすれば、マネジメントにできることというのはその個人の、自ら働こうという気持ちに火をつけてやることですね。その人自身が果たして自分は何のために働いてるのかどういうふうに働きたいと思っているのか、その発見を助けてあげるのがマネージャーの役割です。

第4には、コミュニケーションを作るということで、その結果、職場で様々な問題が起こったり、様々な新しい情報が入ってくるわけで、それらの情報を、全部一元的に自分で吸い上げなくてもいいんですよ。それをやろうと思ったらパンクしてしまうしそれらの情報をこなし切るだけで手一杯になってしまいますから、じゃあどうするのかと言えば必要な情報が必要な人の間で交換されるようなコミュニケーションのフローを作ること。

これができていれば、あなた自身が全部の情報を処理しなくてよくなるわけですから、しかるべきコミュニケーションのフローというものを社内にデザインしていくこと、これが第4の変数になるわけです。

そして第5には、評価ですね。どういうふうにして評価を測定し、それぞれの人物をどのように評するのか。これによって、結局その人が来年もこの組織に居よう、来年もより一層頑張ろうと思えるかどうかも決まってくるわけですから、1人1人の状態をどう測定するのか、測定の部分はきちんとデザインしておきましょうねと、どれくらいの頻度でどういうふうにして状況を管理するのか、これを必ずデザインしておきましょう。

最後には、能力を育むことですね。人材を育てるというのはマネージャーの大切な仕事。ただし繰り返しますがこれも基本的には個人個人、1人1人に委ねられるわけですこの勉強をやりなさいと言われても、そうそう勉強できるもんではなくて、自分としてこれを学ぶって大切だと思えたならば、勉強するわけですから、だとすれば、人材を育てる上での鍵になってくるのもいかにして自立心、自発性を育てるかになってくるわけですから、どういう技能が必要で、なぜそれがあなたにとって必要なのか、そこのところの気づきを与えてあげるのが鍵です。

マネジメントに変化球はいらない

あえて、ドラッカーはこれだけだということをひたすらに強調するわけなんです。それは、良い意味でマネジメントに変化球はないんだということなんですね。

何か特殊な手法を使って無理矢理に人を動機づけたりだとか、人をその気にさせてやる気にさせるというのは、違うんだということ。そもそも職場において、人が自発的に働くような環境を作っていくという意味では、上司の働きかけというのはできるかぎり最小限であるべきであって、その最小限のレバーを通じて、社会からお預かりしたインプットがより大きくなるように工夫する。そこにこそ、マネージャーの力は集中すべきなのです。

変化球を使ってそれがうまくいったとしても、その変化球の仕事がどんどん増えていってしまっては、やっぱり組織は持たない。あるいは、あなたが別の人物に入れ替わったとしたら、機能しなくなってしまう。あくまでマネジメント=マネージャーとして、握るべき操縦桿は限られているということを理解した上で、その限られたツールをきちんと操作できるようにするっていうことがマネジメントの基本スキルを磨くということなんです。

裏返して言えば、多くの部分を結局、現場の人々に権限委譲することが肝心になる。今日的に言えば、エンパワーメントですよね。既に半世紀前のドラッカーですら、コントロールしようとし過ぎるなと言ってるわけなんです。

当時からして、鍵を握るのは、個人の自律だということは分かっていた。厳格に管理をしたところで個人がアウトプットを高められはしない。それが、既に経験則としてわかっていた。たとえ、いかにめちゃくちゃ厳しい目標を設定し人々の動機を必死に焚きつけたとして、人材開発をめちゃくちゃに頑張って、いろんなレバーを全力で握って必死に握りしめたとしても、他律の形で人は結局完全には動機付けられないし、自ら成長していこうという自らのモチベーションエンジンを動かしはしない。あなたが背負えば背負うほど、あなたの二つの肩にだけ、責任がのしかかってくる。

これでは結局組織は自立しない。一人前の人々が集った、一人前の大人たちによって動かされる組織にはならない。究極的に、結局1人1人が職業人としてプライドを持って理性を持って行動しくこと。それを通じてあなた自身が成長し、社会にとって価値あるものを産んでいければ、これに越したことはないわけなんです。

このような意味で、先ほど私が皆さんに紹介したマネジメントのレバー、マネージャーとして操作可能なものというものはなるべくなら、それらのレバーを操作することを通じて、最大限の自由度、すなわち自立の仕組みを作っていくということが鍵になってきます。

MBO

かくして、ドラッカーがこの社会に根づかせたマネジメント手法として有名なManagement by Objective:MBOというものが現れてくるわけです.ドラッカー開発による、いわゆる部下管理の手法として知られているわけなんですけれども、今のこの文脈の中においてMBOというものは使うべきなんです。MBOって会社の中での管理の仕組みとしてよく使われていると思いますが、まず機能していないのではないかと思います。

実は、これはドラッカーの失敗のひとつ。実際のところ、世界的にMBOはうまくいかなかったんです。何でうまくいかなかったのかというのは、ここまでの話「上司が管理しようとし過ぎても決して個人は自律できない」というところをすっ飛ばして、MBOの仕組みだけ入れようとするからなんですね。

  • MBOは、経営学者ピーター・ドラッカーが提唱した、現場が仕事を自分ごとにするための、現場のメンバーが自分で目標を決める制度。
  • 自律性を尊重された部下はモチベーションが高まり、生産性が向上しやすい。
  • 数値目標の達成だけに偏らず、数字の背景にある顧客の喜びや社会課題の解決を部下に理解させることが重要。

メンバーのモチベーションを高めるためには、絶対に上から数字を決めない

関連ワード

MBOの仕組み

MBOってどういう仕組みかを説明します。
①マネージャーと部下が一緒に今季、あなたの目標を数字で厳密に据える。
②部下が行動計画を自分で立てる。必要な技能学習計画も整える。
③マネージャーはその進捗状況というのを、定期的に管理をしながら指導、助言を行う。
④期末にはそれで明白な結果で公正に評価をする。

このサイクルを回していきましょうということなんですけれども。いいですかね、この仕組みって仕組み自体として回そうとすると、とにかく上からコントロールする手法になっちゃうんですね。そういう仕組みにしてしまったのはドラッカーの失敗。マネージャーがひたすらチェックをして、君こんな計画じゃ駄目だよ、計画書き直し、という調子で、マネージャーがコントロールする仕組みとして、Management by Objective、目標管理制度というのは使われがちになってしまうんです。これは間違い。

ドラッカーも、そういうふうに運用されるとは思ってもいなかったということで、正直彼が世に成してしまった功罪両面あることの一つがこの目標管理なんですが、ここまでの話を聞いていただいた方なら、ここの一連のグリーンのフローの背後にある、より大切なことに気がついたはずです。

これまでの管理手法が「組織レベル」であるなら、MBOは「個人レベル」での管理手法です。組織としての管理が緻密になるほど、個人としては窮屈になっていくし、「人にやらされている」感覚が育っていきます。現場の一人一人が、仕事を自律的なものとし、自分が自分の管理者になることで、他人の支配から解放され、自分の人生を歩んでいけるようになる…そんな願いからつくられた手法です。

しかし、その基本理念とはうらはらに、MBOもまた「やることが義務付けられている、やらされ感のある管理システム」になりがちであることが知られています。

会社から管理の方法を「与えられた」瞬間に、それは「やらされ仕事」になります。その意味で、MBOを機能させるためにこそ、その背景となる理念を理解し、自分自身のために能動的に手法を活用することが求められるのです。

MBOの主体

すなわち、主体は部下の側にあるのだということ。なので一見するとマネージャーが厳密に管理するようなんですけども、この手法を使う上でのポイントは、主体が部下にあるんだということです。

マネージャーと部下が、対話の中で、対等な目線の中で、部下の方が自らイニシアチブをとって、私は今季これをやります、を設定する。そしてやはり部下の方が自発的に、私はそれをやるにあたってこのような方法でこのような技能を身につけた上で実行しようと思います。これを部下の側がイニシアチブをとって決め、上司はそれを承認するだけ。

活動の中においては、言っても、今こういうふうに状況が未達でありますが、それに対して自分はこういうふうにやろうと思います、と、やはりイニシアチブは部下なんです。上司は、うんそうだねと頑張りたまえと、干渉はするわけなんですけども、最大限相手を一人前として評価をしてあげた上で、決して半人前として評価をしてどんどんどんどん干渉していくということはしないわけです。

このように基本的にプロセスが全部部下がイニシアチブを持っているとするなら、その結果が未達だったとすれば、自分がいけなかった自分ができなかったんだということで評価が低くなったとしても、納得感があるわけですね。逆に自分が達成できたんだとしたら、自分はできるんだということで、自らのエフィカシー、自己肯定感を高めながら、今回よく頑張れたな、来季も頑張ろうよというふうに思えるわけなんです。

事例紹介

花王

■花王のような大きな組織においては、「上から降りてきた目標に向かって働く」ことが一般化してしまう傾向にあります。そこで花王では2020年にマネジメントの大改革に取り組み、その中でMBOの発展形と位置付けられるOKR(Objectives and Key Results)という手法を導入しています。この手法はGoogleやメルカリでも導入されていることで知られています。

■OKRでは、一人一人が目的・目標意識を持つため、経営陣から与えられた全体戦略を踏まえ自分で挑戦的な目標とその実現計画を立て遂行するという形に変更しました。また、従来的なMBOが達成率100%を目指すものであったのに対しOKRでは達成率は必ずしも100%を目指すものではありません。

■こうした目標管理方法を取り入れることで、花王では社員のモチベーション向上や組織全体の生産性向上を狙いとしています。

まとめ

かくして、このMBOという仕組みドラッカーがこの説の一番最後の方で結局これを実現するためには、目標管理制度によって部下が自発的に自らを管理することが大切なんだという境地に行き着くわけなんです。けれども、この手法が機能するかどうか、もう皆さんお分かりですね、ポイントはどこにあるかと言えば、マネージャーによって他律的なコントロールメカニズムとして導入するのではなくて、部下の側が自らのセルフマネジメントの手法としてMBOを運用していく。これこそがMBOが会社の中でうまくいくかどうかを大きく分けるポイントなんです。

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