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「日本型雇用システム」はこれからも続く?能力開発・キャリア形成をめぐるKeyword【人的資本経営】藤本真先生(労働政策研究・研修機構 主任研究員)

目次

日本型雇用システムとは

中川 功一

日本型雇用システムについて、労働の観点からどのように捉えられるかを伺います。

キャリア自律とリスキリング、これらが日本の企業内で進展しないために、強く訴えられていると考えます。その背景として、日本の大手企業、特に製造業や伝統的な産業の企業に特有の雇用システムが存在します。これが「日本型の雇用システム」と呼ばれています。

このシステムは、明治から大正時代に発展しました。

その基本的な考え方は、企業が自社に適した人材を長期間にわたって育成することです。この考え方は、当時外部の労働市場から適切な人材を獲得するのが難しかったために企業は、自社のビジネスに必要なスキルを持った人材を長期間にわたって育てる必要があるためでした。

この記事は、【人的資本経営】能力開発・キャリア形成をめぐる3つのKey Word~(3)日本的雇用システム 藤本真先生(労働政策研究・研修機構 主任研究員)を元にした人的資本経営とキャリア自律に関する記事です。

自社に見合った人材を長期間かけて育成するという考えと、従業員の生活を長期にわたって保障するという考え方が組み合わされ①「従業員としての身分」(=内部労働市場のメンバーであること)を確定する雇用契約 と ②契約後の柔軟な業務への配置による、組織内キャリア形成 との組み合わせが、多くの日本企業に広がる。

この雇用システムの一つの要素は「年功賃金」です。
これは、従業員が経験を積み重ねるごとに給与が上昇する仕組みです。給与の上昇は、結婚や子供の誕生など、生活費が増加するという個人の生活段階に対応するためのものでした。つまり、長く勤めている従業員には、年齢とともに給与が増え、生活が保証されるというシステムです。

この雇用システムは、メンバーシップ型と呼ばれ、入社時に具体的な仕事や給与が確定されず、従業員は長期間にわたって組織に所属し、必要に応じて柔軟に配置されるという特徴を持っています。これにより、組織内でキャリアを発展させ、従業員は長期にわたって雇用され、生活が保証されます。

このような雇用システムは相互依存を促進し、個人と企業の双方がお互いに依存し合う関係を築く仕組みとして機能しています。企業は従業員を長期間にわたって育成し、従業員は企業に長期間の雇用を提供し、結果として能力や経験を積み重ね、生活が保証されます。このような関係は望ましいものとされ、企業と従業員の双方にとって利益をもたらすとされています。

しかし、近年、人的資本経営の変化に対応する必要性が高まっており、従業員のキャリア自律とリスキリングが重要視されています。個人が自己成長し、企業が選ばれる魅力的な雇用主であるために、双方が共に努力する必要があるとされています。この変化に向けて、企業と個人の協力が必要であり、人的資本経営の新しい方向性が模索されています。

「人的資本経営」に向けて

※「人的資本経営」に向けた変化の方向性

出所:経済産業省(2020)『持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会 報告書』,6ページ。

人的資本経営の人材版伊藤レポートでは、この雇用システムを変革すべきと提唱されています。特に、長期雇用による相互依存と、囲い込み方針に変化をもたらす必要があります。

キャリア自律に基づき、リスキリングを行うことで、個人としての人材価値を高め、選ばれる側に立つことが重要です。一方で、企業も従業員のスキルや能力の向上を支援する仕組みを整えることが含まれます。これにより、個人も選択の余地を持つことができます。このような変化の方向性が、人的資本経営において重要視されています。

中川 功一

日本的雇用システムは、打破すべき古いものであり、より望ましいのは個が自律する方向、つまり選び選ばれるものであるという見解は、産業界、雇用者側、アカデミアなどで共通の理解として受け入れられていると見てよろしいでしょうか?

その点は難しいですね。1990年のバブル崩壊以降から、このような声が持続的に聞かれますが、企業は従業員の長期安定雇用を維持しようと答えています。

2016年の調査では、7割から8割の企業がこのように回答しており、現在でも5割を下回ることはないでしょう。

日本的雇用システムは、長期に渡って人を雇用し、企業が望む仕事をさせるという仕組みで、経営がしっかりしている企業にとっては非常に便利です。

ポテンシャルのある人材を育て、成長した際には企業が望む通りに活用できます。しかし、その人材を保持するための生活保障のコストがかかります。

このコストに見合ったパフォーマンスを上げられる企業にとっては便利な仕組みです。逆に、日本の企業のパフォーマンスが相対的に低下していることが、このシステムへの批判や変化への動きを促していると考えられます。

中川 功一

ありがとうございます。業績悪化の一因が日本の旧来の雇用システムにある可能性があり、その見直しが進んでいると考えられますが、まだ完全に検証されていない状況で、様々なシステムや業績の異なる企業が存在する現状があるということでしょうか。

私も同意見です。現在、日本の企業の中には、伝統的な日本型雇用システムを取り入れている企業がありますが、一方で個別化や分権化、早期キャリア形成を進める企業も存在します。後者は少ないとはいえ、かなりの数が存在します。中川先生が仰ったように、因果関係は不明ですが、古典的なシステムを維持する企業、またはそれを良しとして続ける企業と、業績や従業員の考え方により、自立や個別化へと進む企業が増えています。しかし、完全に新しい形へと移行したかというと、古典的な日本型雇用システムを維持している企業もまだ多く存在し、それぞれがメリットを感じていると思われます。

「人的資本経営」と「日本型雇用システム」

●経済産業省のレポートが提唱する「人的資本経営」は、企業価値の増加につながる人材活用を実現することが目的であるが、もう1つ、コーポレート・ガバナンスや資本市場を活用して、日本企業にある「従業員共同体」的・「イエ」的特色を「脱色」することも目的と考えられる。

●日本企業にある「従業員共同体」的・「イエ」的特色の「脱色」は、平成年間に様々な場面で試みられたことであり、人材活用という点からは肯定的に評価できる。

●ただ、日本企業にある「従業員共同体」的・「イエ」的特色は、明治後半以降100年以上営々と(積極的に)築き上げ、存続させてきたものでもあり、中途半端に残って(人材として十分に活用はできないが、雇用機会や生計費に見合った賃金は維持する)、働く人々の能力開発・発揮を阻害することが懸念される。

経済産業省と厚生労働省は、それぞれ異なる視点で人的資本経営と雇用システムを捉えています。経済産業省は革新的な人的資源管理に焦点を当てていますが、厚生労働省は雇用維持や待遇改善に重点を置いています。しかし、企業価値の判断は株主や資本市場に委ねられており、これが従業員共同体や家族主義的な雇用システムの見直しを促している可能性があります。

日本型雇用システムは、明治時代以降に形成され、日本文化的な要素も含んでいますが、必ずしも文化的なものだけでなく、当時の環境に対応した形で構築されました。現在も、企業環境や内部関係を考慮して、このシステムを選択する企業があります。ただし、完全に変革するのは難しく、中途半端に残る可能性があります。人材を十分に活用しきれていない現象や、雇用機会と報酬に見合った賃金体系の問題は、このシステムの遺産と言えるかもしれません。人的資本経営を徹底するためには、賃金の調整や調整機関が必要になるかもしれませんが、それが可能であれば良い方向に進むと思います。

中川 功一

藤本先生は、日本的雇用システムの変革に向けて、働き手にとって厳しい政策を打ち出すことが必要となるとお考えですか?この変革は過渡期として必要なステップでしょうか?

はい、その通りです。目標や行き先だけでなく、その目的を達成するための仕組み、制度、労使のコミュニケーション方法などを整備することが重要だと思います。

中川 功一

ありがとうございます。雇用システムに関しては、様々な要素が複合的に機能しているため、変更を提案する際には、単一の要素ではなく、総合的なシステムとしての提案が必要となりますね。

はい、その通りです。整合性や再生に関しても検討することが必要でしょう。

中川 功一

大変勉強になりました。視聴者の皆様も、日本型雇用システムがどの方向に進むべきか、その大きな分岐点にいることを理解していただければと思います。

ありがとうございました。

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