イノベーションマネジメント第7個目のテーマ、新規創業にまつわるお金の話をしております。本日は、企業の価値評価、俗にバリュエーションと呼ばれる、企業というものをどういうふうに評価するのかということに関して、本当に入り口の基本部分を解説しておこうと思います。
バリューというのは、価値という意味ですから、バリュエーションといったら価値がどれくらいかを評価することなんですが、このバリュエーションというのが実際のところどういうふうにやられて、何でそれが大切なのか、なかなかこの点あまりご存知の方が少ないと思いますので、皆さんにこのバリュエーションの意味とやり方というのを今日は解説したいと思います。
バリュエーションが大切なわけ
さて、このバリュエーションというものなんですけど、どういうときに行われるかというと、証券会社、ベンチャーキャピタルがあなたの会社に出資をしようとするとき、あるいは金融機関があなたの会社に融資、お金を貸してくれようとするとき、はたまたあなたの会社が上場しようとするときなど、お金にまつわる、外とのお金のやりとりをするときに必要になってきます。これが何で大切なのかというと、このバリュエーションによって、起業家はこのタイミングでまず努力が報われることになるんです。
たとえばですよ、あなたが最初100万円で会社を作ったとしましょう。
最初に100万円のお金を使って会社をスタートした。この100万円を元手にビジネスを始めたとすると、あなたの会社の最初の価値はこの100万円になるわけです。100万で作った会社、資本金100万の会社だからです。この会社が、とってもうまく成功して、めちゃくちゃお金を稼げるようになったり、その素地が整ったりしたところで、ベンチャーキャピタルとか証券会社が改めて会社の価値を評価するわけです。
この会社ってどれぐらいの価値があるのか、もしあなたの会社は1億円の価値があるとなったら、どういうことになるのか。最初に100万円で作った会社が、1億円の価値を持つ会社になるので、すなわち、あなたの会社の価値はなんと100倍に跳ね上がる。あなたはもしこのタイミングで会社を売却すれば1億円で売ることができるわけですから、なんと100万円で作った会社が1億円に大化けするということになるわけなんですね。
ですからこのバリュエーションということを行いますと、このタイミングでようやく起業家さんはこれまでの努力が報われ、大金持ち億万長者になることができるわけです。もちろんすぐに株を売れるわけではないのですが、理屈の上では、一億出してでも手に入れたい会社ということになるわけですから、それだけその会社のことが評価されたのだということができるのです。
ビジネスをやっていく上で重要なバリュエーション
このバリュエーションというのは、それ以外にもビジネスをやっていく上でとっても重要な意味を持ちます。単に億万長者になりました、よかったですねというだけじゃなくてですね、このバリュエーションというのは先ほども言いましたように、上場するときだとか、出資を受けるときなどにベンチャーキャピタルなどが行う作業です。何でやるのかといえば、その会社にいくら出資をするのが妥当かということをチェックするためにバリュエーションをするわけですね。
たとえばですよ、ここでもしあなたの会社が1億円の企業価値があるとすれば、1億円分の価値がある会社だというこの評価額をもとに、金融機関はあなたの会社にお金を出してくれます。たとえば融資をするとき。企業の価値評価をして、1億円の価値がある企業だということになれば、同じく1000万円貸し付けたとしてもこの企業は1億円を軽く産み出せるだけの価値があるんだからということで、お金を貸すときの基準になってくる。
何より、出資のとき。1000万円、2000万円、お金を投資する。資本としてお金を出資をするというときも、創業者が1億円分の株式を持っていて、そこに2000万、1000万投資をする。そういうことが可能になるわけですね。なんで可能になるのかといえば、先ほども言いましたが、創業者が最初100万円でスタートしたなら、ここにベンチャーキャピタルから1000万円投資を受けてしまうと、起業家の持分企業家の出資分というのはわずかに10%以下ぐらいになっちゃうわけですよね。100万円に対して1000万円投資されるわけですから、起業家の持分がめちゃくちゃ小さくなってしまう。これでは起業家さんはメリットが少ないし、会社を事実上乗っ取られてしまうことになるわけです。
ですけれども、バリュエーションをしてあなたの会社は1億円だということになれば、最初持ってた100万円が、1億円に大きくなったわけですから、そこに1000万円、2000万円投資を受けても、起業家さんはまだこの会社の持分の9割・8割近くを持ってるということになる。起業家さんとしても、出資を受けやすくなるわけですね。ですから、ベンチャーキャピタルはあなたの会社は大体バリュエーションこれぐらいの金額ですね、そしてそれに対してうちの会社は何千万円投資をします。これをセットで提案をしてくるわけです。
外からお金を入れるときには、バリュエーションというのはとっても重要な作業になるわけです。繰り返しますが、このバリエーションをすることによって企業の価値が高く評価をされて、これによって人生をかけた企業家のチャレンジというのはひとまず報われることになるわけです。…まだまだ、上場まで気は抜けませんけどね。
企業の価値とは
このバリュエーション、企業の価値評価というのをどういうふうにやるかなんですけども、この企業の価値評価の基本的な考え方というのは、その会社が未来永劫にわたって稼ぎ出す金額を、今の時価換算したらお幾らになるのかと、こういうふうに考えるわけです。
将来、1億円以上稼ぎ出す会社であれば、1億円で買っても安いわけですよ。
ですから、会社が将来にわたって稼ぎあげるであろうお金の見積りが、その会社の市場価格になる。
2億円稼げる会社なら2億で売れる。10億円稼げる会社なら10億で売れるわけです。ですから、「いくら稼げる会社なのか」を計算することが、理論上のバリュエーションの方法となるわけです。
そしたらこの箱、いくらで売れます?
この箱をオークションにかける。この箱は確実に1億円をあなたに届けてくれます。はい、オークションにかけます。いくらで競り落とされるのか、8000万円、そんなことはないですね。1億円稼げることはわかってるわけですから、他の人はいや、9000万円出しても買う、9500万円出しを買う、そういうふうにオークションをしておけば、この1億円を生み出す箱を買うためのお金は、ジャスト1億円くらいになるはずですよね。ですから、1億円稼ぎ出す箱があったとしたら、その箱の料金はお値段は1億円に相当すると、こう考えるのは自然なわけです。
箱って部分を企業に変えてみましょう。1億円稼げる企業が売りに出されてたとして、その企業いくらで買えます、1億円の値づけをして買うに決まってるじゃないすかと。ということで、企業の価値というのは、その企業が今後稼ぎ出せる金額、それの時価換算、現在時点での価値に換算した金額で、取引がされると、そういうふうに考えるわけです。というわけで、企業の価値というのはその企業がこれから未来にわたっていくら稼ぎ出せるのか、この値段によって決まってくるわけです。
金利について
ただですよ、ここで考えなきゃいけないのは、金利というものです。
もし、その企業が潰れないとして、未来永劫、毎年1億円稼ぎ出すような会社があるとしたら、その企業の価値は結局無限大だということになるのか。そんなことは、ないわけですよね。
世の中には金利というものがあります。今はそんなに高くはないですけど、仮にここで金利が10%だとしましょう。金利が10%だとしたら、今一億円持っていれば、来年には1億1000万円になるわけですよ。
これを逆に考えるわけです。来年1億円稼ぎ出せるとしたら、それの現在時点での価値というのは、金利10%分を引いた金額、すなわち9100万ぐらいになるわけです。来年の1億円は、現在の大体9100万円ぐらいになるとすると、ずっと先の未来に1億円というのはやっぱこの金利で割り引いていって、現代価値に換算していくと、ぐっと小さい金額になっていくわけです。この考え方を使う。金利というものがあるから、未来永劫、潰れずに1億円を稼ぎ出せるとしても、遠い未来では今時点に換算したらすごく小さくなるんだと、こういうふうに発想するわけです。
この金利の10%というのは、大きい数字だとさっき私は言いましたけど、実は違うんですね。ベンチャー投資においては10%ぐらいというのは標準的な計算で使われる金額です。これは知っておくといいです。マジックナンバーで10%か20%で計算されます。なぜかと言えば、いいですか、銀行って皆さんは潰れるイメージが湧かないですよね。銀行みたいな、ほとんど潰れないところだったら潰れるリスクがない代わりに、ローリスクな代わりに、ローリターンなわけです。銀行さんみたいなとこは確実にリターンが見込めるところにお金を貸し付けて確実なリターンを得て、そしてそれを私達の預けているお金の金利としてお金をくれるわけです。銀行は貸し付けるときにも非常に厳密な審査をして、確実にリターンが取れるところにお金を貸し付けて、その分だけの確実な金利で相手に融資をするわけです。
これに対して、ベンチャー界隈では、潰れるリスクが高いわけですね。潰れるリスクが高い分、ハイリスクハイリターンな金利が設定されます。
うちの会社に出資をしてくれたら投資をしてくれたら、潰れてパーになっちゃうかもしれない、ゼロになっちゃうかもしれない、そういうリスクがあるけども、お金を預かるからには、潰れなかったときには、もうちょっと高い金利でお金を返してあげます。だからうちの会社にお金を貸してください。という形で、銀行金利よりも高い利子率を設定することで、お金を借りることができるわけです。
これを俗に、リスクプレミアムと言います。リスクの分だけプレミアムの価値のついた金利になっている。
そういうふうに考えるわけですね。
近年では、一般的に日本でベンチャー企業を評価するときに始まったばかりのスタートアップが非常にリスクが高いので、20%とか、時には50%、そんなリスクプレミアムで評価をします。これがもうちょっと成熟してきて潰れなくなってきたら、リスクプレミアム10%とかそういった%で評価をします。ざっくりいってこの10とか20という数字を、マジックナンバーとして知っておくといいでしょう。
これに基づいて考えると、現在時点での1000万円はこの10%で利回りのところに投資をしたら、来年は1100万円、その次の年は1210万円と増えてきますから、10年後には2357万円にも増えます。逆に計算していくとですよ、10年後に1億円稼げるというのはグーッと目減りしていって、今年の時点で計算すると4240万円まで圧縮されるわけですね。このリスクを考慮したリスクプレミアム付の要求リターン率で割り引いていって、未来の1億円、未来の◯◯億円を割り引いて計算をしていくわけです。
実際にこれを計算するときには、積分という方法を用いて、計算をするわけなんですけども、この中川先生の講義では1回そこをすっ飛ばします。もし、数学的にどうやって計算するということに興味がある方がいましたら、そういう動画を用意してみたいと思いますが、この動画はあくまで概論として、バリュエーションをどうやってやるのかということを行いますので、積分の結果をすっ飛ばしてゴールに向かいますと、こういう計算結果になります。
企業価値について
結論に行ってしまうと、なんと、こんな簡単になっちゃうんですね。実はですね、この利子率とリスクプレミアムののせた割引率で割ってやると、企業の価値、現在価値というものが計算されるんです。今期の利益を今期1億円稼げたとして、その後ずっと1億円稼げ続けるんだとすると、このリスクプレミアム付きの10%の利子で割ってやると、その企業のバリュエーションになるんですね。
これは全くこの企業が成長がないときの計算なんですけども、今のまんまいったらコンスタントに1億円ずっと稼ぎ続けるとしたらそれを、リスクプレミアムの10%で割ってあげると、1億円割る0.1ということでどうなるかというと、0.1で割るというのはすなわち10倍をするというのと同じ意味になりますから、今の上げた利益の10倍分がその企業の企業価値だということになるわけですね。10億円の価値がある企業だということになる。
もちろんですよ、実際のバリュエーション、もうちょっと緻密に綿密にいろんな要素を考慮しながらやっていきますが、あくまで基本の考え方はこれらです。
割引率が20%だとしたならば、この場合は20%で割るわけですから、5倍になる。今稼げる利益の5倍が企業価値になる。このあたりの数字は体感的にも概ねそんな感じです。スタートアップで、毎年2000万円稼げる会社だと、企業価値で1億円から2億円の間くらいの評価となる。
ただし、これは会社が一切成長しない場合。もしあなたの会社が、今は1億円、来年は1億何百万円、次の年は1億1300万円という形でちょっとずつ成長できるとする。1円の追加投資も行わずに、という前提がつくんですけども、お金をさらに追加的に投資することなく、今のまま続けても着々と少しずつ成長するとしたら、この成長見込みというのを、割引率から引いてあげて計算する。という形で、バリュエーション企業価値というのは、今期の利益を割引率、リスクプレミアム付きの利子率から成長率を引いた割合で割ってあげると計算できるということになるわけです。
詳細はぜひファイナンスの授業で学んでもらって教科書で学んでもらったり、リクエストがあったら、私も解説したいと思います。
DCF法について
というわけで、めちゃくちゃ簡単に説明してまいりましたが、こういうような計算というのを、もちろん金融機関なんでもうちょっと緻密に行うんですが、基本の考え方はこれなんですね。今の利益、今挙げられている利益の金額を基にリスクプレミアムで計算をしてそこに成長の度合いなんかを計算を加味して計算をして、大体これぐらいの企業価値があるという計算を行うわけです。
あといくつか他にも違う計算方法があるので、それはまたちょっと時間がある、また別のときにご説明をしていきたいと思います。まずは、この基本となる考え方をマスターしておきましょう。ここまで説明してきたものが、割引現在価値法、DCF法という方法なんですね。これが企業価値評価の最も理論的に正しい方法として知られているものです。
倒産のリスクを考慮して高めに設定されたリスクプレミアム付きの利子率あるいは割引率としますが、その割合で現在時点でどれくらい上げられるのかの利益から、将来稼げるどれぐらいまで、未来永劫にわたって稼げるのか、その総額を計算してみる。これを割引現在価値法、ディスカウントキャッシュフローということで、DCFという言い方をしますが、これがその評価の最も基本となる考え方です。
もちろんですよ。他に二つ三つぐらい方法はあるんです。企業のバリエーションの方法はありまして、実際に金融機関の中ではそれらの方法をいくつか複合しながらバリュエーションをしていくことになりますが、さしあたってはこの講義では皆さん、まずここをしっかり押さえておきましょう。
あなたは最初すごい小さい金額で事業を始めたんだけども、実はそれが何ともう数十億ものバリエーション、数億、数十億、数百億のバリエーションになったとしたら、その時、あなたは一気に億万長者の仲間入りなわけです。これぐらいの夢があっていいじゃないですか。
人生を懸けてチャレンジして、誰かのために新しい事業を立ち上げようとした、そんなチャレンジャーさんが報われる瞬間というのがこのバリュエーション。だから大切なんです。
ぜひこのバリエーションの考え方と、なぜ大切なのか、ベンチャーにまつわるこのファイナンスと言われるものお金にまつわるものってあんまり皆さんよくよく勉強しないとこだと思うんですけど、とっても大切なことってのが今日でおわかりいただけたんじゃないかと思うので、今回の話ぜひですね、もし皆さんが将来ベンチャーを試みるとき、あるいは今ベンチャーを志しているとき、ぜひ頭の中に入れておいてください。
著者・監修者
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1982年生。経営学者/やさしいビジネススクール学長/YouTuber/東京大学 経済学博士
詳しい講師紹介はこちら website twitter facebook youtube tiktok researchmap J-Global Amazon
専門は、経営戦略論・イノベーション・マネジメント、国際経営。
「アカデミーの力を社会に」をライフワークに据え、日本のビジネス力の底上げと、学術知による社会課題の解決を目指す。
「やさしいビジネススクール」を中心に、YouTube・研修・講演・コンサル・著作等で経営知識の普及に尽力中。
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