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新事業の収支を計算してみよう!【イノベーションマネジメント7-1】
イノベーションマネジメントの講義の一環として、最後のトピックとして、収支をどうやって計算するのかを論じたいと思います。新規事業の収支の見立てというのが、なぜ大切なのか(そりゃ大切なのだけど、ちゃんとその理由を考えてみよう)、そして、どういうふうに計算すべきなのか、そんな話をしたいと思います。
金銭計算について
新事業をやるにあたって、やっぱり金銭計算ってめちゃくちゃ大切なんです。それでいて、大学でもどこでも基本的に教えてくれない。
私は教えてますけど、日本を見渡せば、なかなか教えられる大学教員がいないのは割と問題だと思っています。
まずは、なぜ事業の収支の計算が大切なのかということを確認しておきたいと思います。
第1には、どういうビジネスアイディアでいこうかを考える段階において、アイディア選別のために、金銭的な計算が力強い手段になってくるわけですよ。費用が極端にかかるビジネスというのはやっぱり回避すべきですし、黒字が出しにくい事業というのもやっぱり回避すべきです。アイデアの良し悪しの判断基準は、ここで間違いなく収益予測なのです。
第2に。事業戦略を立てていくとき。「どれくらいの売り上げを立てれば黒字になるのか」ということが計算できていれば、戦略が上手に立てられます。100人のカスタマーをとれば黒字になるっていうときと、1000人のカスタマーが必要なときとでは、ビジネスのやり方はまるきり変わってくるわけですよね。100人でいいのであれば、足で稼ぐ。もしこれが1万人規模になったら、上手なプロモーション、広告、そういったものが大切になってきます。この見立てがつけば、それによってマーケティング戦略、営業戦略が立ってくるわけです。その意味でもやっぱり収支計算は大切。
第3には、出資や融資といった形で他社からお金をいただくとき、お金を貸していただいたり出資をいただいたりするときにも、そのための判断材料として先方に出すためには、しっかりした黒字化の見積もりが大切です。ここがしっかりできていると、相手さんとしてもそこをよく読んで納得して、うん、これは確かに出資できそうだ融資できそうだと、その判断材料にしてあなたに資源がリソースが入ってくるわけですから、やっぱりお金を借りたり出資を受ける上でも、収支計算の力でとっても重要。
第4に、新規事業・ベンチャー企業では、自社・自分の部門にどれくらいお金が残っているのかが、残りライフなわけです。事業のヒットポイントは、残り現金、残り資産なんですね。日々どれくらい今自分のとこにお金が残っているのか、それは要チェックになってくるわけです。
このように考えていきますと、やっぱり、ある程度収支計算ができるっていうのは、起業家にとって必要なスキルだということになるわけです。
金銭計算を習得するには
ただ先ほども言ったんですけれども、この新規事業の収支見積もりを立てるっていうのは、大学の講義ではノウハウや知恵を体系立てて教えてはくれないのですね。基本的には、事業構造というのは多種多様、要するにケースバイケースだし、そのときそのときの企業の条件によって変わってきますから、金銭計算というのは基本的にビジネスをやる人が自分でそのセンスを磨いていく、そういう性質のものです。
もちろんこれをやっていくときに、会計の勉強は役に立ちます。なので会計しっかり勉強しましょうねってことは私はここで言えるんですけれども、それをやっていっても、それが直接的に事業の収支見積もりを教えてくれるかというと、そうではなかったりするわけです。
ビジネスを実際に立ち上げるために、お金の面で事業の概要を見る。そういうような取り組みをたくさんやってるほどに、自然とできるようになっていくハウツー、ノウハウとして、暗黙知的なものとして新たに身に付く力がこの収支計算の力です。
でもこれって悲しむことはなくてですね、シンプルに経験値を貯めてレベルアップしていくっていうそういう性質のスキルなんです。経験値を貯めていけばいいわけです。実際、私がお会いしたことのある成功した起業家さんというのは、おしなべてものすごく金銭計算能力が高いです。パーっと大体このビジネスってこういう売上構造になってるよなっていうのをぱっと見積もれるんですね。そして近道はないけれども、遠回りもなくて経験値さえ積めば、誰もができるようになると、そういう性質なものだと思ってください。
そうであるとするなら、基本を学んだ上で、あとは、やりまくることです。ちゃんと基本の考え方はあるので、ここの講義ではその基本をお伝えしていきます。皆さんはその基本を知ったうえで、ご自身で何度も何度もやって、自分の金銭計算能力を磨いていってもらいましょう。
収支見積もりの基本となる2本柱について
第一歩は、この2本柱です。二つの考え方まずこの二つをしっかり区別すること。初期投資がいくらぐらいなのかということと、それから、単月での収支構造。もし、月での計算が当てはまりが悪ければ、四半期であったり年であったりしてもいいかもしれません(プロスポーツチームなどは月単位の計算をしても意味がないですね)。そのビジネスを区切るのに適切な期間での、その中での売上と費用の見積もりを立てるということ。
初期投資と単月収支、この二つを明確に区別することです。
ついつい、ビジネスを始めるときってのは初期投資と、それから日々かかってくるお金を全部どんぶり勘定でざっとこのくらいかかるかなと、どんぶり勘定しがちなんですけれども、最初にかかってくる費用はこれぐらいだ。毎月の収支はこれぐらいだ。この二つをはっきり分けるというのが、第一歩です。
その上で、どっちが大切かといえば、後者の方です。単月売上、単月費用こちらの方が重要なんです。というのは、単月で黒字にできてる限りは、いつかは初期投資を回収することができるわけで、単月で黒字である限りはこの会社は潰れないわけですから、そうなってくると、単月黒字の見立てができていれば、出資や融資を受けられる状態にもなってくるわけです。
ぱっとご覧いただきましょう。こんな感じですよね。
オレンジ色で書いた部分が初期投資になるわけですけど、ここで最初に会社としてはぐっと赤字を背負った状態からスタートするわけです。最初のうちは単月短期で見ても、このブルーで書いた線のように赤字なんですけれども、これが何期か過ぎて単月黒字になっていったら、そこから累積ではグリーンの線ですね、最初は下がっていくんですけれども、あるタイミングから上がってくるわけです。となってくると、新規事業で最初に目標にするのは、短期黒字ですね。
この単月黒字、短期黒字を目指していくというのが基本的な新規事業を立てていくときの最初の目標地点になってくるわけです。この単月黒字を満たしてしまえば、あとはそのビジネスは基本的にキャッシュを産んでいくだけのビジネスになってきますから、繰り返しますがこの状態になれば出資や融資を受けられる。あるいは今のは単月黒字ができていなかったとしても、ここを超えれば単月黒字なんですっていう見積もりが立ってるだけでも大きいわけです。
見積もりさえしっかり立っていれば、そこを目指して投資家さんたちに今から数ヶ月後には単月黒字が実現できますと。
こういったような材料をもとに出資融資を受けられるようになるからです。
例題
そんなわけで、1ラウンドやっていきながら、皆さんも経験値をここで積んでいただきながら、初期投資と単月での収支というものを学んでもらいたいと思います。お題として出すのはこんな感じ。ラーメン屋さんの収支の中で考えてみましょうか?
今できなくても、問題ないですよ。大切なことは経験値を積んで収支計算の能力を積んでいくこと、さあ練習問題、皆さんまず考えてみましょう。まずは初期費用からいきましょう。ラーメン屋を始めるにあたって、初期に必要になってくるお金ってどれくらいでしょうか?
ちょっとですねここで止めて考えてみてもらってもよろしいかと思います。
初期投資について考える
こちらの見積もりというのはですね、梅田の真ん中、渋谷の真ん中であるというわけではなくて、郊外型で店舗を持ったときぐらいな感じなんですけれども、居抜きという形式でやった場合にはこんな感じになります。居抜きというのは、業界用語です。外食をやってる方ではよく使われる用語なんですけども、既に設備や備品がある程度ついた状態で賃貸させていただく形を居抜きといいます。
この居抜きでやった場合なんですけれども、それでもやっぱり内装をリニューアルということで、内装や設備を整えていくのに200万から300万ぐらいかかると見込まれております。また、こういった事業運営をしようという形で不動産を借りる場合には、不動産の礼金や仲介手数料、保証金というのが一塊固まってかかってきまして、これが200万円ぐらいかなという見積もりがあります。それから、食器等の備品を揃えるのにも数十万かかってきて、ここで50万円ぐらいと見積もっていますが、これらを合わせると以上550万円が初期投資になってくるのではないかと、概算されるわけです。
ただしこの初期投資というのが、ビジネスを始めるときに必要なお金の総額、というわけではないということをちょっとここで追加で申し上げておきます。運転資金だって、ある程度必要なんです。通常こういった店舗を借りるときっていうのは、家賃を半年分ぐらいまず先に前納するというのが一般的だったりします。また日々の食材とか人を雇っていくのにもお金は必要ですから、初期投資が550万だとして、事業を始めるにあたっては1000万円ぐらいあった方がいいというふうに考えられています。
ちなみにこの1000万という数字なんですけれども、どうでしょうかね、学生の皆さんとか、普段生きてる皆さんからすると、とんでもない大金だよなと思うかもしれませんが、実は新規事業をやろうというときに、銀行さん等から融資を受けるときの基本的なパッケージ基本的な金額感としては、この1000万からという感じなんですね。最小限の金額という感じです。
売り上げの計算方法について
続いて、単月収支のほうにいきましょう。
まずは、売上。単月で見ていったときは、売上と費用を、バラして順番に考えていく必要があります。売り上げの計算、まず最初にやるのは、【計算式】をあなたなりに考えてみることです。(※売り上げや費用の考え方は、一般に「フェルミ推定」と呼ばれるものに近いです。)
ラーメン屋の場合は、よく使われるのは大体こんな感じですね。
単価×人数×営業日。
これはずっとコンスタントにお客さんが朝から晩まで一定の数が入ってくると見込まれるタイプの店舗の場合は、この形です。
あるいはこういう計算式もある。
単価×席数×回転率×営業日。
これはランチタイムとか夕食どきとか、特定の時間にお客さんが殺到してその時間には行列をなすという、いわばオフィス街にあるタイプ。こういうようなタイプの場合はとにかくランチタイムの回転率が勝負なので、席数×回転率という形で計算したりします。
これはですね、本当にケースバイケースなんですけども、皆さんもうその店舗の形によって、どっちの場合は上がはまればいいのか、どっちの方が下の方がはまればいいのか、いろいろ考えてみてください。先ほど言ったランチタイム営業の場合というのもあるし、やっぱり行列ができるタイプの場合は、席数×回転率が良いでしょう。
一方で、安定してずっとお客さんが入ってくるタイプの場合は、単価×人数×営業日、の方が、当てはまりがいいかもしれません。
とにかくまず皆さんが最初にやるのは、実際に数字をいきなりイマジネーションし始めるのではなくて、計算式を準備するというのが第一歩です。
その上で、続く第2ステップとして、この計算式に数字をはめていくことになる。妥当な見積もりを出していきます。客単価が、大体800円ぐらいかな。ラーメン1杯700円に、餃子とかをつける人つけない人、餃子の卵をつけるとつけない人がいて、800円ぐらいかなという感じでしょうかね。そして、1日100人お客さんが入ったとして25日営業するとなると、200万円、これが郊外型の店舗の一般的な数字かなと思います。これが繁華街になってくると300と400とかそういうような数字になってくるかなと思います。
ここで重要になってくるのは、特に客数の見積もり。ここは今度別の講義でもお話しようと思いますけども、ここは三つぐらいの方法で見積もるというのが妥当だと考えられています。一つには、現地調査をして現地でどれぐらいの人が実際にその店舗の前を通っているだろうか、実は外食産業ではそのそれに対して掛け算の式があったりするんですね。
大体店舗前を通る人数がこれぐらいだったとしたら、ある定率をかけると、お客さんが何人ぐらいそれがエリアによって住宅街なのかオフィス街なのか繁華街なのかによっても変わってくるわけですけど、エリアごとにこのお客さん計算のための定率があるんですね。それは実際に皆さんの商売を始めるときには、いろんなところから入ってくるので大体は分かると思います。そんな感じで、実際にその店舗前を通ってる人数から、大体これぐらい来るかなって見積もりが立ったはずです。
二つ目の方法としては、類似の条件で営業している店舗の観察だとかそういったとこからヒアリングをするとか、そういった形で、類似の店舗、類似のビジネスからの推定をする。競合分析というふうに考えてもいいかもしれない。そういった類似店舗競合店の分析、これが第2のやり方。
そして第3のやり方としては、エリアの総需要を総店舗数なんかで割ってみるなどといういフェルミ推定型のアプローチですけれども、あるエリアにどれくらい昼食需要がある、どれくらい需要があって、そしてその地域で同じビジネスをやってる店舗が何店舗ぐらいあるから、そうするとざっくり見積もってランチどきに何人ぐらいの昼食需要があるのかと、こんなふうに計算してみる。こんな形で、フェルミ推定だとか、現場でのフィールドワーク、競合分析、そんなことをやりながら、売上高の水準を見積もっていく。そんな感じになるかと思います。
費用構造の計算方法について
一方、費用構造の計算はというと、やはり式を立ててそこに数字を入れていく。この2ステップでやることで精度の高い分析になります。
ここで重要になってくるのは、費用は、ちまちま計算するのじゃなくて、大きな費目から大体そのビジネスの概算としてどういう費用構造になっているのかをつかむことです。細かく正確に出すよりも、おおよそで、このビジネスってこういうところで大きいお金が発生していくんだよねというのを掴んでいくほうが大切。ざっくり、このビジネスの毎月のオペレーションコストがどれくらいになるのかってのは見積もれるんです。その意味で、大きな費目から特定していくというのが大切なことです。それによって、ビジネスの大局観が養われていきます。
ラーメン屋さんの場合の式、こんな感じでしょうかね。
賃料+人件費+材料費+水道光熱費に広告キャンペーン費ぐらいな感じでしょうか?
郊外型店舗を想定して、数字を推定していくと、賃料として20万円ぐらい。人件費は(日本は人件費がとにかく高いです)50万円、材料費としては大体ラーメン一杯3分の1ぐらい定価の3分の1ぐらいが材料費として考えられていますから、800円の単価の3分の1ということで240円と見積もると、240円の先ほどの人数×営業日で60万円ぐらいの材料費なってくるかな。水道光熱費10万円ぐらい、広告キャンペーンに5万円ぐらい出したとして、費用としては145万円という計算になるかと思います。先ほどの売上との差分を見れば、利益は55万円と、そういう計算になるかと思います。
収支計算の必要性について
このようにラーメン屋さんを計算していきますと、うまくいけば、要するに毎月55万利益が入ってきて、初期費用が550万なわけですから、うまくいけば10ヶ月ほどで初期投資を回収し、2年目以降ぐらいからずっとキャッシュを産んでいく、とっても美味しいビジネスだということになります。
そう世の中、上手くはできてないですよね。実はこのラーメン屋というのは、1000万円ぐらい融資を受けてチャレンジできることから、新規創業としては夢がある業態だということになります。何だろうな、高度な技術、高度な知識というものがなくても、新しいスープの味、新しい工夫を思いついた、それでチャレンジができるということで、日本において起業の最も多いジャンルの一つがラーメン屋だったりするわけなんですね。その中で、この飲食店の開業をする人が多い理由というのは皆さんおわかりいただけたんじゃないかと思います。
世の中そうそううまくはいかないわけで、今回のコロナのような事態もありますし、いろんな問題が起こり得ます。食中毒みたいな問題もあったりとか、狙ったように客が集まらない、いろんな問題も起こり得ますから、完全な失敗となってしまうことも多いんです。ハイリスクハイリターンと、そういうような性質のビジネスかというふうに思います。
ともあれ、皆さんもう既に理解いただけたはずです。ここまでの話で十分に理解いただけましたように、やっぱり新しいビジネスをやっていく上で、初期投資がいくらか、売り上げはどういうふうに計算できるのか、費用はどれくらい計算できるのか。これらのことができると、ものすごくパワフルなわけです。
これができるできないでは雲泥の差がありますから、皆さんにはぜひこの収支計算の技術というものを身に付けてもらって、今私がお話したようなやり方で、会社を巡るお金の動きというものを計算できるようになってもらいたいと思います。
これは皆さんの本当に未来を拓くための力になります。
たくさん知ることが大事
幸いにもですね、このYouTubeでもたくさんありますし、インターネット上にはですね、たくさんのいろんなビジネスの収支の計算が出回っています。なので皆さんそれらを教材にしながら、自分の金銭計算の力をどんどんどんどん磨いていってほしいと思います。
毎度毎度、まずは自分で計算を立ててみて、そしてそれらのサイトとかYouTubeなんかを見ながら正解例と対比していくことで、皆さんの収支計算のレベルというものはどんどんどんどん上がっていきます。そうやって世の中のお金の流れが見えてきますと、皆さんは世の中のことをより一層理解できる。そして、それは結局のところ、皆さんのイノベーションの力になっていく。ぜひ、この収支計算の力、皆さんの新しい武器に育てていってもらいたいと願っています。
著者・監修者
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1982年生。経営学者/やさしいビジネススクール学長/YouTuber/東京大学 経済学博士
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専門は、経営戦略論・イノベーション・マネジメント、国際経営。
「アカデミーの力を社会に」をライフワークに据え、日本のビジネス力の底上げと、学術知による社会課題の解決を目指す。
「やさしいビジネススクール」を中心に、YouTube・研修・講演・コンサル・著作等で経営知識の普及に尽力中。
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