シリーズ・イノベーションマネジメント第6のテーマとしては、事業の全体像の設計、ビジネスモデルっていうのをどうやって作るのかっていうお話をしています。もちろん今回単独でご覧いただいても、学びになる内容になっておりますのでご安心ください。今回紹介するのは、CVCAという、事業の全体フローを描き出す手法です。
前回は、ビジネスモデルキャンバスを紹介しました。あなたのビジネスの価値ってなんですか。お客さんってどういう人ですか、あなたは何をやって、パートナーには何をお願いしますか、売上費用の見積もりはどんなふうになりますか―という、ビジネスモデルをパーツに分けて分析するやり方をお伝えしてきました。
今回のCVCAは、ビジネスモデルキャンパスなどの「細かく分析していく手法」と非常に相性がいい、大きな形を視覚的に表現する手法です。
ただね、CVCAという名前はそんなに重要じゃないんです。Customer Value Chain Analysisなんですが、まあ覚えなくてよいです笑。実は、やっていることもすごくシンプルで、事業をチャート図で表現してください、というだけ。それでもこのCVCA、実際のところ非常に有効なので、皆さんにはぜひ手法として身につけてもらいたいと思います。
良いビジネスモデルの条件1
まずはここで1回、良いビジネスモデルって何なんだろうっていうのを、冷静に一度押さえておきましょう。良いビジネスモデルの第1の条件は、効率的であることです。少量のインプットでなるべく多くのアウトプットを生み出す。人、物、金、情報をなるべく節約的に用いて、お客様に最大限価値のあるものを提供する。この変換効率の良さこそが、ビジネスモデルの良さの第1条件になってくるわけです。
インプットを少なくして最大限のアウトプットを得ようと思うと、二つここで方法があるわけなんですけども、第1の方法はシンプルにやる作業の効率性をアップすることですね。しかし、これはややもするとブラック労働になりかねません。
賃金払う賃金は少なめで、しかもめちゃくちゃ仕事をさせようとなると、これはブラック労働に繋がりかねません。そうならないように業務効率を改善するためには、その働いてる時間を最大限、その人のスペシャルが働く形で、その人がすっと集中できるような物事に集中させてあげることです。
それから効率性改善の第2の手段としていたしましては、社外のパートナーを積極活用することです。自分たちで全部抱え込んでやろうとすると、自分たちが得意なことも不得意なことも全部を全部自分たちのお金を出してやらなきゃいけなくなる。
でも宣伝は広告代理店に、生産は委託生産先に、部品もやっぱり委託生産先に、あるいは販売についても販売代理店にという形に、得意なスペシャリストたちに業務を委託していけば、自分たちは本当に自分たちの得意なことだけに集中して効率的に業務をすることができる。
この二つのことを、両方同時に達成しようと思ったときには、答えは一つです。自分たちの中で働いてる人たちが自分たちをメインの強みが生きる部分に集中する。そして、それ以外のことをパートナーたちにアウトソースをしていくということになるわけですから、これらの効率性を達成しようと思ったら、最大限パートナーたちとの良きネットワークを作ること。これが最も大切なことになります。
良いビジネスモデルの条件2
そして良いビジネス条件の第2は、そこに関わっている人たちみんながハッピーになる、みんながウィンになることです。誰かを悲しませながらでは事業というのは長続きしないのです。ここに関わる人全員が笑顔で仕事ができる。みんながハッピーになるもの、それだけがサステナブルに物事ができる条件です。
良いビジネスモデルを考えるときは効率性とともにもう一つこれを考えなきゃいけない。共存共栄関係、お客さんにとって価値があるのはもちろん、パートナーたち、自分の事業を支えてくれパートナーたちをみんなにウィンがあること、そして忘れちゃいけない、自分自身、自分たち自身もやりたいことをやって、しっかり食いぶちを稼げて利益を出せているということ、この三つを同時達成しなきゃいけないそういうことになります。
以上、まとめますと、効率性の達成、そして良きWin-Winの関係、そういうことを見ようと思いましたら、やっぱり自社を中心としまして、どういう関わり合いになっているのか、それを俯瞰して見てみる必要があるわけです。これをやる手法がCVCAというものです。
気をつけなきゃいけないのは、マイケル・ポーターさんとか戦略論の方で言われるバリューチェーンとの違いです。そこで言わていれるバリューチェーン分析というのは、自社の業務フローを分析すること。CVCAというものは、お客さんに向かって連綿と自社とパートナーを繋いでお客さんに向かっていく価値の連鎖の繋がりを分析する。どこかでそれが切れていないか、非合理的な流れになっていないか、みんながそれをハッピーに続けられるのか、これをですねチャート図にして分析してしまいましょうという手法になるわけです。
Volvicについて
典型的な、上手に作られたCVCAというものを一つ紹介したいと思います。
ダノンという会社が提供している、ボルヴィックという商品なんですけども(残念ながら日本では撤退が決まってしまったんですけれども)、実はヨーロッパ中心に非常に強いブランドであったりします。なぜヨーロッパで強いブランドなのかといえば、このボルヴィックという水はただの水ではないということが、お客さんに知られているからです。
と言ってもですよ、中身は普通の水です。普通の、美味しい水、品質が良く、安全な水。なんですけれども、しかしお客さんは知ってるのです。この水はただの水ではない、この水を飲むことが社会貢献に繋がるのだと知っているわけです。
実はボルビックの売り上げのうちの何割かは社会貢献に使われます。ヨーロッパの地元の森林の保護みたいなものにも使われますし、そして何より象徴的な出来事といえばこれで、ユニセフさんに寄付をしてるんです。しかもこれはこういう用途で使ってくださいと用途が決まっている。
アフリカに井戸を作るためにお願いします、このお金を使ってくださいということになってるんですね。ユニセフさんはこのお金を使って、アフリカ、マリ共和国に井戸を作っています。こんな取り組みっていうのを、ボルヴィックは有力な広告代理店さんにお願いして、ヨーロッパを中心としたお客さんに広く知らしめているということが、ボルヴィックとしてなされているわけです。こんな流れになってるわけですが、ここで注目すべきは、このフローは本当にみんなにとってハッピーだということですね。
ボルヴィックとしては、お客さんに良い水を届けたい、それだけじゃなくて、自社の理念、自社の精神からすれば、ユニセフやアフリカの人々にも良い水を届けたいと思っているわけで、まさにボルヴィックの企業理念として、よき水、ヘルシーな水を世界中の人々にという活動からすれば、ヨーロッパのお客さんに売るのも、アフリカに井戸を作るのも、まさにボルヴィックの理念に沿った活動、自分たちがやりたいことができているわけです。
加えてユニセフとしてはアフリカの人々に井戸を届けるということがやっぱりできていて、ユニセフとしてもやっぱり嬉しい。アフリカ、マリの人々は綺麗な水が飲めるようになって、ありがとう助かりましたと。
広告代理店さんはと言えば、それはもちろんね、莫大なお金をもらって仕事ができるんだからそれが嬉しいわけでもありますけど、単に金で繋がってるだけじゃない、これキーワードですね。
単に金で繋がってるだけではなくて、広告代理店としてもやっぱり嘘をつかずに、いい活動だから知らしめましょう、これができてるわけですよ。広告代理店としても心苦しいことなく、こういう活動はぜひ世界に知られなきゃいけないということで、広告代理店さんがアフリカの人々にボルヴィックは水を届けてるということを、胸を張ってお客さんに上手な伝え方で届けてるわけです。
1リッター for 10リッター、1リッターあなたが水を飲むとアフリカに10Lの水が届けられます。そんな名前のキャンペーンをされています。そしてお客さんはといえば、やっぱり水を飲むにあたってもうここに付加価値を返すわけです。自分は今、自分の喉を潤してるだけじゃなくて、この1Lがアフリカの人たちの10Lになる。それだけでお客さんも心がハッピーになりますね。ということで言うと、お客さんとしても快く、他の企業よりも大きいお金を払ったり、ボルヴィックを優先して買ってくれという状況が出来上がってる。まさにボルヴィックを中心にその円の中にいる人たちがみんなウィンウィンなわけです。
そしてこのフロー、見事に無駄もなく綺麗に整ったフローになっているわけですね。というわけで、ボルヴィックの競争力の源泉はまさにこのアフリカの方で繰り広げられています。井戸を作り届けるという活動は、バックヤードのうしろの活動のようでいて、これがあるから全体が綺麗なサークルにデザインされてるんです。
どうですかね、なかなか上手なビジネスモデルじゃないでしょうか?そしてこれっていうのはビジネスモデルキャンバスではなかなか描ききれないものです。だからこそビジネスモデルキャンバスのように整理する活動も必要だし、こうして全体の繋がり合いをデザインしてみる。これをチェックしてみるというのも、とっても大切な活動になるわけです。
UberEatsの例
このCVCAという手法を使いますと、既存のビジネスモデルが何でうまくいってないのかっていうのもやっぱり分析で期待するわけですね。ここで皆さんとシェアしたいのはですね、最近日本でUberEatsが始まっていろいろトラブルを起こしてんすよね。
いや私UberEatsの中で働いていた人も知っていますし、なかなか理念がしっかりしていて良い会社よく頑張っていらっしゃるってことは理解するんですけども、それでもなかなかうまくいっていないのは、仕組み、まさにビジネスモデル上にどこかしらに問題があるのかもしれない。
ちょっとそれを、このCVCAなんていうのを使って分析してみたいと思います。このUberEatsを巡る関係性を描き出してみますと、UberEatsとしては、その都市の人々にその都市にある素敵な食事をデリバリーで届ける。その都市に住んでる人にはですね、どうしても外に出れないような生活をしている人、ご病気だったりとかですね、忙しくてなかなか外食ができないという人もいる、あるいはこんなコロナの状況下であって、外出を控えるということもあります。そんなお客さんたちに料理が届けられる。
一方で、料理店としてはやっぱりこのコロナの状況で外出が自粛とかいろいろ人が密になるのを避けましょうという中で非常に厳しいビジネスを強いられている。そんな中で、デリバリーで売り上げが立ってられる、自分たちが丹精込めて作った料理がお客さんに届くということであれば、料理屋さんにとってもハッピー、さらに言えば、それを配達する人は、自分の空き時間に配達をすることで、お給与が得られるアルバイト代が得られるということになるわけですから、配達にとってもハッピーなはずで、ぱっと見るとウーバーイーツを中心にみんながハッピーハッピーハッピーだし、業務の無駄もなさそうだ。
よくできてるCVCAだな、そういうふうに見えるわけなんですけども、ここにはどんな問題があるんでしょうか、皆さんよく考えてみてください。
winwinな関係を作る
ここで見るべきポイントというのはですね、自社を中心にウィンウィンを作っていくにあたっても、思いが一つになっていなければ、なかなか物事はうまくいかないのだということです。
先ほどのボルビックのケースでは、皆さんに良い水を世界中に、綺麗な水を飲みたい届けたいということで、一致団結できていたわけですけども、今回のケースを見てみましょう。UberEatsさんとしては、この都市の全ての人にあらゆる食事を届けたい、そういう思いでやっているビジョン、理念は大変素晴らしいものです。お客さん消費者としても自宅にいながら外食、応援できますし、自分たちも素敵なものが食べられるこの点では、理念に合致してますよね。
料理屋さんはどうか、やっぱ理念に合致している。いろんな人に、私達が丹精込めて作った料理を食べてほしい。しかし、配達人はどうか、配達人をみるとこういう状況になります。彼らは料理にコミットしないんです。素敵な料理を作って届けたい、お客さんの間にも料理屋さんの方にもう全然気持ちの面で、共感する部分はないわけです。彼らは何のために働いてるかというと、たくさん運んで稼ぎたいという思いで働いている。ここにずれが生じているわけです。
ウーバーイーツとしては料理を届けたい、料理人も料理を届けたい、消費者は料理を食べたい、しかし配達人は、たくさん運んで稼ぎたい。ここの思いのずれがビジネスモデルの弱点となり、今、この現在において、ウーバーイーツを弱点として配達人の品質が悪い、配達エラーが起こるそういった問題を起こしてしまっているわけです。
問題のポイントについて
問題のポイントは、金で繋がるだけの弱い関係だということです。ウィンウィンを最もイージーに作る手段は金を払うことです。お金を払って金で繋がり合えば、お金払ってんだからあんたにもウィンだよねということで、ウィンの関係を作ることができる。しかしそれだけだったらもっといいお金を払ってくれる人がいたらそっちに流れてしまうし、働く動機も金だけになってしまう。金で繋がるだけの弱い関係になってしまうんです。
というわけでもう1回整理しておきますね。料理を届けたい、食べたいという目線からしますと、料理や消費者、ウーバーイーツは綺麗に繋がっているが、配達人の目的だけは違う。金を稼ぎたい、たくさん仕事をすることを通じてということになってるわけです。
問題の原因は、ライドシェアのUberだったとき、元々のタクシーみたいな配車サービスですよね。私の車に乗ってくださいという、ライドシェアのサービスUber。母体のときには、この配達は運転手さんが主役なんです。ぜひ乗ってください、載せてくれてありがとう。ここでは何も問題はなく、しっかり歯車がかみ合ってるんですけども、これがウーバーイーツになったとたん、この配達をする、運転する人というのが、サブキャラ、脇役になってしまうんですね。
そこがビジネスの中心から外れてしまうんです。それゆえにここが目が行き届かなくなり、どちらかというとサブの役割、金払ってんだからちゃんと仕事したよねというだけの関係になってしまうがゆえに、こうした問題が起こってるのかもしれません。
…というわけで、こんなふうに扱うのがCVCAです。皆さんこのCVCAという手法の使い方と意義をご理解いただけたのではないでしょうか?あなたのビジネスを取り巻く関わり合いというのが、綺麗な円になっているか、みんながみんな思いを一つにウィンウィンになっているか。そういう目線で分析するのがCVCA。ぜひ使いこなして、あなたのビジネスをより良いものにする力に変えてもらえたら嬉しく思ってます。
著者・監修者
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1982年生。経営学者/やさしいビジネススクール学長/YouTuber/東京大学 経済学博士
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専門は、経営戦略論・イノベーション・マネジメント、国際経営。
「アカデミーの力を社会に」をライフワークに据え、日本のビジネス力の底上げと、学術知による社会課題の解決を目指す。
「やさしいビジネススクール」を中心に、YouTube・研修・講演・コンサル・著作等で経営知識の普及に尽力中。
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