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プロトタイピングの重要性について解説【イノベーションマネジメント5-2】

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“プロトタイピング”の重要性について解説【イノベーションマネジメント5-2】

イノベーションマネジメント第5個目のテーマとして、製品開発をプロジェクトとしてどうマネジメントしていくのか、を議論しています。今回は、その中でも鍵を握ってくる、プロトタイピングという概念とそのやり方について、皆さんに説明したいと思います。

目次

プロトタイピング

プロトタイピングとは、「試作品を作る」「原型をつくって試す」ことを指します。イノベーション活動の中で何か新しいものを生み出そうとしていく中で、試作する過程は絶対に必要になる。

絶対作るからこそ、ときにその目的が見失われがちになる。何のために作るのかをはっきりさせる必要がある。どういう結果が得られれば満足なのか、それを先の活動の中でどう生かしていくのか。その辺をしっかり腹落ちしておくと、プロトタイピングを、もっとこのイノベーション活動の中で有意義に実行できるようになるはずです。

プロトタイピングは、私達学者の世界では、「検証」という言葉をあてたりします。もちろん直訳すれば「試作品を作る」なんですけども、むしろその狙いは作ること自体にあるわけではなくて、試作品を作った上で、それが機能的によくできているのか、顧客ニーズを満たせるのかどれくらいの値段で作れるのか、ありとあらゆるものを検証するためにこそ、プロトタイピングをする。

近年ではこれをPoCなんて呼んだりもします。POCで「ポック」と呼びますけれども、Proof of Concept、つまり概念が正しいかの検証なんです。自分が考えていたことが正しかったのかどうかを実証する。

プロトタイピングを行う上で大切なこと

そんなわけでこのプロトタイピングの目的は、製品とかサービスを実際に実機をシミュレーションして問題点を洗い出すことにある、といえます。

狙ってたことが達成できているのか、達成できてない部分がどこにあるのか、そういうことを明らかにするためにやるのが、プロトタイピングです。そうだとすると、プロトタイピングがうまくいったときって、どういうときなのかといえば、狙った成果が達成されなかったときなんですよ

どこが問題なのかが明らかになったときこそが、プロトタイピングの成功なんです。検証の成功とは、問題がないことを確認することではなくて、問題点を見つけること。うまくいったな、大体よくできてるじゃないか。安心を得るために、プロトタイピングをするのではない。そのまま突き進んでしまったら、見落としてしまった問題を、プロトタイピングを通じて顕在化することにこそ意味があるんです。

なんとなくうまくいったな、で終わらせてしまうと、問題点が解決せずに進んでしまいます。ですから、プロトタイピングでは、問題を明らかにすることをこそ証明するんです。ですから結果に関しては非常にシビアに目を配っていく必要があります。

プロトタイピングにはもう1つの側面もあります。それは、1回自分たちが考えていることを形にすることで、アイディアを具体化する作業になるということ。考えてることの、お互いのずれを解消する。ずれを埋めるための作業でもあるし、自分の考えてることっていうのが、机上の空論、単なるイメージの産物ではなくてちゃんと具体的な形になるのかを試してみることでもある。なので、考えをまとめるという効果がもう一つのプロトタイピングの狙いとなります。

最後にもう1つ、プロトタイピングの効果・目的を付け加えるとするなら、私達が考えているのはこういう製品サービスなんだ、というのを社内の人、社外の人、株主さんとか、支援者さんにお見せして理解を得るためのものでもあります。これらの目的のうちの、どれを強調するのかでプロトタイピングのありようも少し変わってくる。特に何が今回のプロトタイピングの目的で、それぞれの目的がどれくらい達成できたかっていう目線をしっかり持つことが、ここで重要になります。

プロトタイピングの方法

で、プロトタイピングの方法なんですけど、私がここで皆さんに強調したいのは、なにもですね、実機の実際の製品の80%、90%パーフェクトに近いものを作らなくていいんですよ、ということ。5%も実現できてればいい、10%も実現できてればいい、実際の製品の機能の本当にごく一部だけでも検証できればいいです。

実機に近いものを作ろうと思ったら、めちゃくちゃ費用と時間かかってしまいますよね。これでは問題をどんどん修正していくという今日の事業のスピード感に合いません。

ぱっと手早く、エンジニアさんや自分自身で、手早く作って検証してみる。そんなに時間もお金もかけずにぱっと作ってみたものがその機能についてちゃんと動いてるかどうかをチェックして機能していればGoを出し、機能していなかったら修正する。これをどんどん試すんです。鍵となる部分だけに絞り込んで、非常に安いコスト、ほとんど手間暇かけずに作ってチェックをする。もうとにかくここが重要です。

プロトタイピングの例

実際に自動車の開発活動の中でのプロトタイピングの一例ですけれども、これはですね、世界で最も売れたライトウェイトスポーツカーに位置づけられるギネス記録を持っております。マツダのユーノスロードスターという名車があるんですけども、もうだいぶ古い車なんですが、このユーノスロードスターの初代の車、これを作っていったときに、その開発の責任者を任された平井さんという方は、まず最初そのアイディアを人馬一体という文字で表現した、私が作りたい車は人馬一体なんだと。

このアイディアが刺さるかどうかっていうのをまずこの言葉にして、仲間たちや外の人たちに確認をしました。

「人馬一体」のコンセプトで作ろう、これが納得できたら次にはこういうクルマを作りたいんだよっていうイメージ画像を集めた。流鏑馬の画像だとか、茶室の画像だとか、そういう映像、画像を集めて、こういうものを自動車で表現したいんだ、そういうイメージ映像で、さらにプロトタイピングをしたそのイメージに合ってるかどうか。次にはデザイナーさんにデッサンをしてもらってこういうクルマというものをデッサンし、そしてその次のステップでは、小型クレイモデルを作って小さい粘土で作ったモデルを作って、こういう商品なんですっていうのは、プロトタイピングする。さらにその後にはリアルスケール、実際の実車サイズのクレイモデルを作って、実際にぱっと見た外観がどんな感じになるのかをシミュレーションする。その先のステージは実際に走れるようなモデルで、エンジンを積んでみて写真を作ってみて、実際に走るモデルを作ってみて、これを繰り返していって、完成車へと少しずつシミュレーションの精度を高めていって、完成車に近づいていくんです。

こんな感じで、ステージによって方法は変わるわけです。最初から完璧なものを作ろうとしなくていい、最初はとにかく軽いものを作ればよくって、それを繰り返して課題を洗い出して、基本コンセプトが間違ってないかを確認していきながら、磨き抜いていく。ですから、製品開発プロセスの鍵を握ってくるのが、プロトタイピングを的確に実施していくということになっていくわけなんです。

実際のプロトタイプ①

ここから先は、皆さんに、実際にどういうプロトタイピングの方法があるのかということをお伝えしたいと思います。

しっかりした完成品に近いようなモデルを作ろうとなったら、その時にはエンジニアさんを外に委託することもありえますけども、ぐっとそこで一気にコストをかけて作るわけですけれども、もっともっとその初期段階においてはどういう方法があり得るのか。アイディアが正しいかどうかをチェックしてみようと思えば、実証実験をしてみればいいわけですよね。

これは実際に実は、私の研究室で学生たちと一緒にやった件なんですけれども、この水中にいるマグロの群れの魚体をチェックするようなシステムって開発できないだろうかということで、船からカメラを水中に落として、それで水中でマグロが撮影できるかどうかプラスそこにAIを使って魚体の体長とか体重を測定するようなことができるだろうかと、そういうような製品サービスを開発してみようかなとそういうふうに思ったときに、これを検証するのに私達の研究室でどれくらいお金をかけたかというと、せいぜい10万円ぐらいです。

マグロのいけすのある会社さんにお願いして、そこに出張しましてそこで何をしたかといえば、こんな感じに塩ビのパイプの先に水中カメラを取り付ける水中カメラってなんて言ったって、高いもんじゃないですよこれ先端に付いてるカメラなんて5000円で、それにせいぜい1000円2000円の塩ビのパイプを縦にピーッて10メーターぐらいのパイプを垂らしまして、その先にカメラを取り付ける。本当にただこれだけです。

試作品としてはせいぜい本当、4万5万円ぐらいで組み立てられます。出張費含めて10万円ぐらいでできてしまう。そんな仕組みで、実際にこのマグロが撮影できる、マグロを撮影してAIで体長を測定する、そんな仕組みが作れるのかっていうのをやってみたんです。

結果はこんな感じ。

これ実際に私達も研究して撮影したものなんですけれども、ぱっと撮ってみた30秒一分ぐらいの映像で、ちゃんとマグロの体の形状を測れるじゃないか、それで体長どれくらいか測定できるじゃないかということで、たかだか数万円の費用でこのカメラを使って水中カメラを使って、いけすの中ののマグロの状態ってのを測定することができるんだというアイディアを検証できたんです。

実際にこのシステムを組み上げようと思ったら最終的には数百万円数千万円なんですけれども、アイディアが機能するかを試すだけだったら、わずかに数万円でできてしまうわけなんですよ。これでいいわけですよ、本当にホームセンターで売ってるものだけかき集めて、ぱっと言ってぱっと試して1日ぐらいで試して、アイディアが機能するかを試す。数百万円で巨大なシステムを作って試していくよりも、まずはこれで手早くやってみることがリスクも少なく、プロジェクトを前に進めることができるわけです。

もちろんここでは様々な問題点が明らかになりました。ちょっとその詳細というのはいろんな事情があって、ここでお伝えできないんですけども、こういうとこを直す必要があるこういうとこ直す必要がある。そういう問題点が見えてきたので、次にやるときにはそれらの問題点を直せばいいだけのことです。

実際のプロトタイプ②

こちらもですね、もう1個ぐらい私達の研究室でやってみた例なんですけど、これは新しいデジタルサイネージで、日本家屋とかの古めかしい家屋なんかにパチンコ屋さんみたいなギラギラしたあの電飾のデジタルディスプレイを置いたらちょっと目立っちゃうでしょということで、さりげない感じで、田舎の家屋なんかにマッチするような感じのさりげない小スクリーンに映すようなデジタルサイネージへのアイディアを実際に検証してみました。

これで実際にその日本家屋の中にこのデジタルサイネージの試作品、これもですね研究室がプロジェクター持ってきてそしてパソコンでスクリーンに投影したものを日本家屋の中に置いたというそれだけの仕組みで、実際のところ全然お金かかってないです。

これの場合は本当に1円もかけずに手元にある資源だけで実際に試作をしてみたわけなんですけども、これを実際に田舎の日本家屋の中に置いてみた結果、ちゃんとこのデジタルサイネージを見て行動に移す人っていうのが現れるということが検証できたわけです。

結構多くの人に気づいてもらえて、そして面白いじゃんそれってことで興味持って近づいて来てくれた人ってのがこれぐらいの割合いたんですね。そしてそういうサービスあるんだ、そういう観光地があるんだということで、実際に行動した人ってのも一定数現れたという形で、やっぱり1円もお金をかけずにアイディアの正しさを検証する。そしてどの辺に問題があったか機器の中でこういうところが問題なんだねっていうことも洗い出すことができたわけです。

アンケートでも

あるいはもっと簡単にアンケートでもいいです。

その簡単に作った試作品だとか、アイディアを詰め込んだこういうアプリなんですよっていうののプロモーションビデオ30秒一分ぐらいのものを用意して、タブレットの中に入れておいてYouTube中に入れておいて、お客さんに見せて、そのタブレットでこの動画見てくださいと見せて、このプロダクトどうですか、欲しいですか、どういう機能があったらいいですか、どんなとこに不満があるんですか。

こんな感じでアンケートをやるっていうのもプロトタイピングの一つ。それによって製品、サービスの問題点を明らかにしてブラッシュアップすることもできますし、そしてそのアンケートの結果、数字でこんな多くの人が欲しいと言ってますというのは、プロジェクトを前に進める上でとっても有効なデータになりますし、もちろんこれが大切なんですよね。

そのアンケートの中でこんな商品いらないよっていう反応こそが重要なんですよね。このいらないよっていう反応が得られたならば、そこを修正すれば確かにあなたのプロジェクトの成功確率は高めることができるわけです。

まとめ

というわけで、プロトタイピングの方法はいろいろあります。このプロトタイピングをうまくやっていくことで、どんなものでも精度を上げて、プロジェクトの成功確率を上げていくことができるわけです。そしてここまでお見せしてきたように、このプロトタイピングなんていうのは、大学のゼミで数万円のお金を使ってひょいとできてしまうぐらい簡単なものなんですよ。

そしてそれを通じて、狙ったお客さんターゲットが妥当かどうか、どれぐらいの売り上げ見込みが立つだろうか、このアイディアがそもそもお客さんにとっていいアイディアなのかどうか、お客さんが求めている機能性能って何なのか、値段はいくらがいいのか、どういうチャネルがいいのか、どんなポイントが顧客に訴求されるのか。こういった、いわゆるビジネスサイドのこと、マーケティングサイドのことに至るまで、なんだってプロトタイピングで、あなたのプロジェクトを磨き上げていくことができるわけです。

だからこそ、どんなイノベーションプロジェクトの中でも、いろんな形で頻繁にプロトタイピングをしていって、確実に検証をしていく、問題点を洗い出していくわけです。そんなわけでこのプロトタイピングの大切さと、そしてそれを手早く軽く費用を安くやるということの重要さを皆さんに理解してもらえたならば、皆さんぜひ、これを実際に皆さんの事業活動の中で生かして成功確率の高い新事業立ち上げに繋げていってもらえればと思っています。

著者・監修者

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