破壊的イノベーションとは、新しい価値基準を市場にもたらすイノベーションです。
革新的なイノベーションという意味もあり、従来の常識を変えるような、大きな考え方になります。
今回の記事では、破壊的イノベーションの意味や定義、必要な理由について、事例を交えながら解説していきます。
破壊的イノベーションとは?
破壊的イノベーションは、クレイトン・クリステンセン(Clayton Christensen)によって提唱された概念です。
既存の市場や産業に対して、新しい技術やサービスを導入することで、従来のビジネスモデルを根本的に変革することを指します。
また、従来のビジネスモデルが陳腐化したり、需要が減退したりする場合にも、破壊的イノベーションで新たな市場を切り開きます。
インターネットの普及によるオンラインビジネスや、スマートフォンの普及によるモバイルアプリなども、破壊的イノベーションの一例と言えるでしょう。
持続的イノベーションとの違い
破壊的イノベーションと持続的イノベーションは、対義語にあたります。
例えば、既存の市場が飽和状態になった場合、新しい市場を開拓するためには破壊的イノベーションが必要です。
一方、競合他社との差別化を図るために製品やサービスの品質や機能性を改良する場合には、持続的イノベーションが適しています。
破壊的イノベーションと持続的イノベーションの大きな違いとして、5つの観点を以下の表にまとめました。
破壊的イノベーション | 持続的イノベーション | |
目的 | 新しい市場の開拓 | 競合他社との差別化 |
技術 | 既存の市場やビジネスモデルを根本的に変える | 製品サービスの品質や機能性の向上 |
リスク | 高い | 低い |
速度 | 短期間で市場の変革を起こせる | 長期的な競争優位を確保できる |
組織文化 | 企業文化の変革が必要 | 企業文化の変革が必要ない |
ディスラプティブ・イノベーションとは
なお、破壊的イノベーションは、ディスラプティブ・イノベーション(Disruptive innovation)とも呼ばれます。ディスラプトとは、非連続な変化を起こすという意味です。
従来の延長線上にない、非連続な変化こそが産業に破壊的なインパクトをもたらすという意味で、経営学者クレイトン・クリステンセンがディスラプティブ・イノベーションという言葉を使いました。
この概念が日本に入ってくるとき、「破壊的」という訳語が用いられたのです。
破壊的イノベーションが必要な理由
破壊的イノベーションが必要とされている理由は、主に以下の3つがあります。
- 新市場の開拓
- 技術の進歩による製品の陳腐化
- 社会における影響
それぞれの理由が、どのように企業や世の中に関わってくるのか、以下で解説します。
新市場の開拓
新しい市場の開拓は、企業の成長戦略にとって重要な要素であり、破壊的イノベーションは有力な手段となります。
既存市場においては、市場の成長が飽和状態に達していることが多く、競合が激化するため、企業は新たな市場を開拓しなければいけません。
ここで破壊的イノベーションが有効である理由は、既存市場における競合相手と異なる、新しい製品やサービスを提供できるからです。
例えば、スマートフォン市場は、従来の携帯電話市場に比べて破壊的な変革をもたらしました。
スマートフォンは、携帯電話としての機能だけでなく、インターネット接続やアプリケーションの利用が可能であり、新たな市場を切り拓いています。
また、新しい市場を開拓することによって、成長の拡大を促せます。
新しい市場においては、競合相手が少なく、市場が拡大しているため、企業はより多くの市場シェアを獲得できるのです。
市場が成長していく中で、企業は継続的なイノベーションによって製品やサービスの改良を行い、市場における地位を確立できるでしょう。
技術の進歩による製品の陳腐化
製品やサービスが陳腐化してしまうと、企業は市場における地位を失い、収益性の維持が難しくなります。
このような状況において、破壊的イノベーションは、企業にとって新たなビジネスチャンスになるのです。
技術の進歩によって、製品やサービスの陳腐化が進む理由はいくつかあります。
例えば、新しい技術や材料の開発によって、製品の性能が向上し、競合他社との差別化を図れたり、新しい製造プロセスやサプライチェーンの改善によって、製品の生産性が向上したりして、コスト競争力を維持できるのです。
しかし、技術の進歩によって製品の陳腐化が進む一方で、新たな技術や製品の開発が難しくなるケースもあります。
ここで破壊的イノベーションが有効である理由は、従来の製品に対する革新的なアプローチを提供できるからです。
社会における影響
新たな技術の登場や新しいビジネスモデルの開発によって、社会の問題を解決できます。
たとえば、医療分野では、破壊的イノベーションによって、より低コストでより効果的な治療法が提供されるようになりました。
また、再生可能エネルギーの分野でも、破壊的イノベーションによって、地球環境にやさしいエネルギーの供給が可能になってきています。
さらに、破壊的イノベーションによって、社会に影響を与えるもう1つの重要な点は、雇用の創出です。
破壊的イノベーションによって新たな産業が生まれるため、新しい雇用が創出されます。
破壊的イノベーションの種類
破壊的イノベーションには、大きく分けて2つの種類があります。
- ローエンド型破壊的イノベーション
- 新市場型破壊的イノベーション
それぞれがどのような破壊的イノベーションであるのか、以下で解説します。
ローエンド型破壊的イノベーション
ローエンド型破壊的イノベーションとは、既存の製品やサービスよりも優れた機能を持っているかつ低価格で提供することにより、市場のシェアを奪い取る破壊的イノベーションです。
特に、市場の下位層に位置する消費者や、新興国市場などの価格感度が高い市場において方法になります。
新しい市場を開拓することができるため、競争力のある企業にとっては、重要な戦略です。
新市場型破壊的イノベーション
新市場型破壊的イノベーションとは、従来の市場には存在しなかった新しい市場を創出し、市場シェアを奪い取る破壊的イノベーションです。
既存市場への参入が難しい企業や、新規参入企業に向いています。
ただし、新しい市場の開拓は、市場の変化や顧客ニーズの変化や予測力が求められます。
そのため、企業のリサーチ能力やマーケティング能力が必要です。
破壊的イノベーションの成功例
実際に、破壊的イノベーションで成功した企業の例を紹介します。
主な成功例は、以下の3社です。
- Uber
- Airbnb
- NetFlix
成功要因も合わせて、解説します。
Uber
Uberは、スマートフォンアプリを介して、ドライバーと乗客をマッチングし、タクシーや車両の利用を提供するサービスを展開しました。
Uberの成功には、以下のような要因が挙げられます。
- 新しい市場の創出…既存の市場に参入することが難しいとされていたニーズを満たすことで、新しい市場を創出
- 顧客ニーズの把握…顧客ニーズに合わせたサービスを提供することで、顧客の満足度を高め、サービスの利用率向上
- テクノロジーの活用…スマートフォンアプリを駆使したドライバーと乗客とのり合ルタイムマッチング・GPSを利用した乗客とドライバーの位置を把握
Uberの成功は、新しい市場の創出、顧客ニーズの把握、テクノロジーの活用など、破壊的イノベーションの要素が組み合わさった結果と言えます。
Airbnb
Airbnbは、破壊的イノベーションによる新市場の開拓によって実現された事例です。
従来の宿泊業界において、ホテルや旅館が中心でしたが、Airbnbの登場により、一般人が自分の家や部屋を貸し出し先として提供できるようになりました。
旅行者は安価で快適な宿泊施設を利用することができ、家や部屋を持つ人は、余った空間を活用することができるようになったのです。
これらの結果に繋がる要因として、以下の2つがあります。
- 新しいニーズの発掘
- 斬新なビジネスモデルの採用
既存の宿泊業界に対して革新的なビジネスモデルを提供することで、新しい市場を作り出し、急速な成長を遂げています。
Netflix
Netflixは、独自コンテンツを制作することで、テレビ業界を変革しました。
当初はDVDレンタル業者としてスタートしましたが、やがて映像配信サービスにシフトし、映画・ドラマなどをストリーミング配信する形態に変化します。
最大の特徴は、独自のコンテンツ制作です。
自社で制作したドラマ「ハウス・オブ・カード」は、テレビ放送やケーブルテレビ局に独占放送権を売ることなく、自社配信にこだわりました。
また、定額制の料金プランを採用することで、利用者にとってコストが抑えられると同時に、自由な視聴スタイルを実現。
これにより、従来のテレビ放送のような時間帯や曜日による制限を受けず、自由な視聴スタイルが可能となったのです。
Netflixの成功は、テレビ業界に大きな影響を与え、新たなビジネスモデルを提示することに成功しています。
破壊的イノベーションの失敗例
破壊的イノベーションは、失敗に終わってしまうケースもあります。
失敗例のほとんどの理由は、市場ニーズの見誤りです。
以下で主な失敗例を、2つ紹介します。
Kodak
Kodakは、長年にわたって世界的な写真フィルムメーカーとして成功を収めてきた企業です。
しかし、1990年代後半にデジタルカメラ市場が拡大するにつれ、Kodakは新しいテクノロジーを無視していました。
結果として、Kodakは競合他社に遅れをとり、デジタルカメラ市場での存在感を失ってしまい、 2012年には、破産手続きに入ってしまいます。
この失敗は、Kodakが「革新的な新製品の開発」に対する不注意さや、市場ニーズの変化を見逃したことが原因と言えるでしょう。
Blockbuster
Blockbusterは、かつては世界最大のビデオレンタルチェーンであり、2000年代初頭までに世界中に数千の店舗を展開していました。
しかし、2000年代中頃には、インターネットを介して映画をストリーミングできるサービスの人気が急上昇し始めます。
この新しいテクノロジーに対して、Blockbusterは遅れをとり、自社の店舗を維持することに焦点を当てました。
結果、Blockbusterは新しい市場に対する遅れから、全ての店舗の閉鎖までに追い込まれてしまいます。
この失敗は、新しいテクノロジーに対して遅れた反応や、競合企業の先を追うことができなかったことが原因であると言えるでしょう。
破壊的イノベーションの課題と課題解決の方法
破壊的イノベーションの考えを取り入れる上では、いくつかの課題があります。
主な課題は、以下の3つです。
- 従業員の失業問題
- 投資とリスクの問題
- 破壊的イノベーションの社会的責任
それぞれの課題解決方法について、解説します。
従業員の失業問題
破壊的イノベーションがもたらす最大の課題は、従業員の失業問題です。
新しい技術やビジネスモデルの登場により、従来の市場が縮小すると、従業員が不要になるケースがあります。
特に、ローエンド型破壊的イノベーションが登場した場合、低賃金労働者が最も影響を受けてしまうでしょう。
従業員の失業問題を解決するためには、以下のような方法があります。
- 教育・訓練の提供:従業員に対して、新しい技術やスキルを習得するための教育・訓練を提供して、転職や新しい職種への就職をサポートする。
- 再雇用の促進:従業員に対して、他の企業への再就職支援や、創業支援を行うことで、新しいキャリアの選択肢を提供する
- 社会保障の充実:失業した従業員に対して、一定期間の生活費や再就職支援などの社会保障を提供し、失業期間中の生活を安定させる
- 社員の参加:従業員に、新しい技術やビジネスモデルに関するアイデアを出すように促すことで、企業の成長に貢献できるようにする
これらの方法を組み合わせて、従業員の失業問題に対処しましょう。
投資とリスクの問題
破壊的イノベーションを追求する企業は、新しい市場を開拓するために多額の投資が必要になる場合があります。
しかし、新しい技術やビジネスモデルを採用することで、市場が拡大する可能性がある一方で、失敗するリスクも高まってしまうでしょう。
そのため、破壊的イノベーションを追求する企業は、資金調達に苦労する場合があります。
また、破壊的イノベーションを追求することは、既存のビジネスモデルや製品を置き換えることになるため、既存の投資家や株主から反発を受ける場合があります。
これらの課題に対応するために、以下のような方法を検討すると良いでしょう。
- リスクマネジメントの強化:事前に市場調査や顧客のニーズ把握を徹底し、失敗を最小限に抑えるための戦略を立てる
- イノベーションの経験を活かす:過去に成功したイノベーションの経験を活かして、次のイノベーションにつなげる
正しい戦略とリスクヘッジを考えた上で、対処しましょう。
破壊的イノベーションの社会的責任
破壊的イノベーションがもたらす社会的影響についても、十分に考慮する必要があります。
例えば、新しい製品が既存の製品を置き換えることで、既存の企業や産業が衰退し、従業員が失業する可能性、また、新しい製品やサービスが社会的に望ましくない行動を促進する場合もあるでしょう。
これらの問題に対処するために、以下のようなアプローチが考えられます。
- 従業員の転職支援や再教育の提供
- 投資先の選択における社会的責任の考慮
- 社会的ニーズへの対応
- 規制や自主的な規律の導入
以上のようなアプローチを取ることで、社会全体にとってポジティブな影響を与えられます。
破壊的イノベーションの将来展望
破壊的イノベーションは、テクノロジーの急速な進歩により、今後ますます重要になるでしょう。
AIやブロックチェーンなど、新たなテクノロジーの登場により、ビジネスモデルは大きく変化する可能性があります。
これらによって考えられる未来として、以下の3つが挙げられます。
- 技術の進歩による破壊的イノベーションの増加
- 従来の産業の衰退
- 従来ビジネスとの共存
メリットがある反面、デメリットになる場合もあります。
企業は、これらのバランスも考慮した上で、破壊的イノベーションを検討していかなければいけません。
まとめ
破壊的イノベーションは、企業にとって大きなビジネスチャンスになり得る考え方です。
失敗事例でも紹介したように、多くの失敗は市場の見誤りなので、常にアンテナを立てて社会の変化と向き合う必要があるでしょう。
しかし、破壊的イノベーションが進む中で起こるリスクや課題についても考えておかなければいけません。
ぜひ企業は、今回の記事を参考に、自社にどのように破壊的イノベーションの考えを取り入れるか、検討してみてください。
著者・監修者
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1982年生。経営学者/やさしいビジネススクール学長/YouTuber/東京大学 経済学博士
詳しい講師紹介はこちら website twitter facebook youtube tiktok researchmap J-Global Amazon
専門は、経営戦略論・イノベーション・マネジメント、国際経営。
「アカデミーの力を社会に」をライフワークに据え、日本のビジネス力の底上げと、学術知による社会課題の解決を目指す。
「やさしいビジネススクール」を中心に、YouTube・研修・講演・コンサル・著作等で経営知識の普及に尽力中。
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