シリーズ:中川先生と読むピーター・ドラッカーの『マネジメント 基本と原則』
本日は第5節にあたる「戦略計画」です。
これは、わずかに3ページの極めて短い章です。なおかつ、非常にわかりにくく複雑に書かれているので、さっと流してしまったり、よくわかんないなってことで飛ばしてしまう傾向のある章なんです。
それでもやっぱりこの章からの学びは非常に大きいものなので、きちんと解説しておきたいと思います。
戦略計画について
この章に何が書かれているかといえば、戦略計画を具体的に立てるうえでの【原則】。
ドラッカーは3点を挙げる。第1のポイントは「リスクを伴う意思決定をする」ということです。
計画立てるなんて、売上目標がこれくらいかな、それに人員をこれくらい割いて、こんなこと実行すればいいだろうという形で、パパッと何ら悩みなくできる。ドラッカーは、計画を立てるとはそういうことではないんだ、と言う。
結局そういう可逆的な判断なんていうものは現場でもできる。ミドルマネージャーでもできるわけで、トップマネージャーとして決断をするというのは、【不可逆的な問題】に対してである。この問題、どっちに判断すべきなのか、そういう大きな組織の分れ目に差し掛かっている問題について、こちらであるんだと決める。このような意思決定をするということが、計画を立てるというところなんだと。
それ以外の自動的に計算が立ってしまうところなんていうのは、現場に任せておけばいい、ミドルマネジャーに任せておけばいいわけで。そこから上がってきた計画を承認することをもって、戦略計画とは言わないのだということです。そういうミドルマネジャーや現場から、大体こんな感じなんじゃないですか、と上がってきた中にも、不可逆的な重要な意思決定はいくつも潜んでいる。それに気づき、不可逆であることを認識して、道を示す。
この局面でどう判断すべきか、この局面でどう判断すべきか、そもそもそれ以外にも別の選択肢があるんじゃないのか、そのような不可逆的な問題に対して、我々はこちらに行くのだと、リスクを取って意思決定をする。ここでリスクを取るのはギャンブラーになるという意味ではなくて、この可逆性ということを深く認識した上で、人々が他の人にできない意思決定を、あなたが暮らすこれが戦略計画というものの本質だというわけです。
それで、決定をしたらじゃあこの方向で行こうと決めたからと、あとは君達が、信念をもってやってくれと。
これは決してエンパワーメント、裁量権を与えるというわけではないということも、よくよく理解しておくべき点です。実行のための必要な組織を編成することをもって戦略計画だということなんです。これが第2の点。
やれと言って後は良きに計らえ、というのは戦略計画を立てたとは言わない。それを実行するにあたって予算がどれくらい必要で、人員はどういう人が必要で、とりわけその組織のトップに誰を当てて、そこにサブで誰を当てて、そしてどういう拠点のリソースを使ってやるのか。こういうことを一塊できる条件を整えてあげて、じゃあこれで君達チャレンジをしてくれと。このリソースの投入を伴った意思決定というものが、戦略計画を立てる、実行するということになるわけなんです。
実行が可能な組織の編成まではトップマネジメントの仕事だということになります。
そして第3には、レビューと修正ですね。これで自分はやる方向を決めた、組織を編成した、じゃああとは好きにやれというわけではないのだということです。
なぜなら、現場の人たちは結局それであなたのリスクを伴う意思決定に向けて半信半疑で本当にこれでうまくいってるのかもわからず必死になって頑張っている状況というのを、あなたは逐一チェックして支援指導しなければいけない。
方向が間違っていたら、そういうことじゃなかったんだと、目指す方向はそっちじゃなかったんだということをきちっとレビューをしていく必要があるし、そして健全な干渉です。
修正を行うというのは要請リソースが足りてなければ追加的にリソースを補充する。あるいは今、リソースがジャブジャブでそんなにいらないということであれば、リソースをぐっと引き締める。このようなリソースの投入量の調整コントロール、このようなことを含めて、あるいは時には根本的に方針を大転換するといったようなことも含めて、健全に干渉すべきなんだと。決して現場の力を奪うのではなくて、現場の人は自分たちだけではわからない悩んでいる状況のときに、手を差し伸べ、必要ならば支援をしっかり行うと、この三つなんです。
つまり、リスクを伴う意思決定、きちんとそれをお金もつけて組織を編成する、かつその後も適切に干渉を続ける、この三つのセットで戦略計画というわけです。
どうでしょう、そう言われるとトップマネージャーの皆さんもあるいはミドルの皆さんも、確かに自分は戦略を立案実行する立場の人間として十分なことをしていなかったかもしれないと、そうお思いなられたのは、良いきっかけですよ。今ここで学んだことを活かしてもらえば良い会社、良い戦略になっていくわけですから。
実行計画を描く上でのポイント1
ドラッカーはさらに、この実行計画を描いていく上でのポイントというのをいくつか挙げています。
実はこれ本文中ではこっちの方が先に来るので、より一層この文章わかりにくくなっていると、そういう側面もあったりするんですけれども、なにはともあれドラッカーが、さすがにズバッと良いこと言ってます。読みにくいのだけが問題。
第1には、計画立案というのは、着実な実行方針を作ることだとこういうわけですね。ついついこのリスクを伴う意思決定だとか計画立案というと、もう奇抜なアイディア、奇策を考えてそれを実行するのが戦略計画なんだというふうに思いがちなんですが、決してそういうマジックを披露する場所ではない。
このステージは、もうとにかく着々と現場が実行可能な条件を整えてあげるステージ。決してそこで、5%ぐらいしか成功しないような無茶苦茶なアイディアを、現場に任せるな、と。着実にできるようにしてあげる。
そしてもう一つ重要なポイントは、これって計画を立案するっていうのは、機械で自動化できる、あるいは現場から自動的に上がってくるものではないのだということですね。
先ほども言いましたが、そうやって自動的に作られたものには、様々な見えざるリスクが潜んでいます。そのリスクを明確に認識した上で、このリスクにどうやって対処するのかということで、それに判断を下していくというのが戦略を立案するということなので、計画立案は自動的に持ち上がってくるとは夢思うなかれ。
現場の人たちが、なるほどよしわかった頑張ってみようと思えるような、着実なプランニングをあなたが決定してくだしてあげるというものが、実行計画を描くということになるわけです。
実行計画を描く上でのポイント2
実行計画を描く上でのポイントその2は、自社で操作可能な範囲のディシジョンに集中しましょうという話なんですが、この計画を立てるというのは、やっぱり1年、2年、3年と長期的なスパンで物事を見ますから、その中についつい予測という行為が入ってしまいます。
ついついと言いましたが、普通は、未来の予測はやるんです。これから戦略計画立てるとなったら、コロナがどうなるのかとか、そういうことを考えますよね。政治がどうなるのかとか、景気はどうなるとか、そういうことを考えてから、判断をする。しかし、この予測というものは基本的に外れてしまうというのがドラッカーの立場。
世の中というのは極めて不確実なもの。
これからコロナが、いつ収束するか誰にも読めない、今後の国際情勢がどうなってしまうのか誰にも読めないような状況にある中で、楽観的希望的観測を持ってもいけないし、悲観的観測になってもいけない。
それに対して、リーダーたるものはどうあるべきなのかといえば、それらがどう変わろうとも、揺るぎのない、自分たちでコントロール可能なところのハンドルをしっかり握れというわけです。後世ではこれは理論化されて、パイロット・イン・プレイン、経営者は飛行機の機長である、という言い方をします。
乱気流の中で、あなたは飛行機のパイロットなんだ、あなたができることに集中するしかないだろう、と。楽観的、希望的観測を持っても、悲観的観測を持ってもしょうがなくて、自分が握ったハンドルで最善を尽くすしかないわけで、予測、予断を持って物事を見るのはやめよう。自分がハンドリングできるところで最善を尽くすように、ディシジョンすべきだというふうに言っています。
実行計画を描く上でのポイント3
そして戦略計画を立てる上でのポイント第3は、リスクを許容するんだということですね。
パイロット・イン・プレインで、あなたは操縦桿を握っている。そこに、様々なリスクが起こる。このリスクを排除することはできるか。どこまでリスク要因をつぶしても、それでもやっぱり、発生してしまう。乱気流を絶対に避ける、それはできない。確実に成功するところだけで上手く落ち着けようという、非常に縮こまった、未来の描きにくいよう矮小な戦略プランになってしまってはいけない。
リスクというのは必ず事業をする上で起こり得るものであって、最初に潰し切れるもんでもないんだ。むしろあなたがパイロットであるなら、様々な不確実な状況というのは必ず起こる。起こるということを許容した上で操縦桿を握りましょうというふうに言ってるわけです。
必ずしもこの計画立案段階で、最大限にリスクを潰しておくことが良いわけじゃない。そうやって、リスクのない形にしてしまったら、縮こまってしまう。だからこそ、リスクを許容する計画とする。
リスクを受け止められるような組織、あるいは能力というものをつけていくべきなのであって、計画、立案段階では別にリスクを排除しきれてないから、悪い計画だと思う必要はないんだということです。しっかりそのリスクがどのようなものなのかを認識できている限りは、リスクは内包したものとして計画は立てましょうと。
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かくして今回も、それなりに学びがあったんじゃないかと思います。
ドラッカーはさすが、トップマネージャーとしてどのような計画を立て、実行に進めていくべきなのか、そこのところまでよくよく議論をしてくれています。ここまで5回分がドラッカーの第一章ということで、「マネジメントの役割」という名前で語られてきた基本エッセンス部分。
ここで学んだだけでも、確かにそこにはマネジメントの基本、リーダーシップの基本というものが見えたんではないかと思います。ぜひ皆さん、それをあなたのビジネスに生かしてもらえればと願っています。
著者・監修者
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1982年生。経営学者/やさしいビジネススクール学長/YouTuber/東京大学 経済学博士
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専門は、経営戦略論・イノベーション・マネジメント、国際経営。
「アカデミーの力を社会に」をライフワークに据え、日本のビジネス力の底上げと、学術知による社会課題の解決を目指す。
「やさしいビジネススクール」を中心に、YouTube・研修・講演・コンサル・著作等で経営知識の普及に尽力中。
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