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損益分岐点を経営学者が解説!起業にも、収支改善にも!

損益分岐点は、あなたが事業に何らかの形で携わるならば、必ず把握しておくべき事項です。商売の基本が、そこに詰まっています。ここでは、損益分岐点とはそもそも何なのか、ということから話を始めて、それを実際にどう活用していけばよいかを説明してゆきたいと思います。

目次

損益分岐点

Brake-even point

  • いくつ以上販売すれば黒字になるか、その赤字と黒字の境目となる販売量のこと。
  • 現場レベルの売上と費用の構造を把握するもの。1品あたりの売上と変動費、そして部門としての固定費を算出し、そこから損益分岐点を割り出す。
  • 現場を会計面から管理するときの第一歩。

トップダウンでの売上・費用目標と、現場積み上げの売上・費用とをすり合わせる

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損益分岐点とは

現場レベルでの、財務的な管理の基本的な考え方となるものが損益分岐点です。各事業について、製品1単位あたりの売上と、1単位当たりの変動費、そして部門として発生するコストを計算し、どういう収益・費用構造になっているかを把握します。これが分かれば、どれくらい販売すれば黒字になるのか、また目標とする利益水準に達するためには販売目標をどれくらいにすればよいのかが定まります。

収益性改善のためには、この3要素:1単位当たり売上、1単位当たり変動費、そして固定費を改善していけばよいのです。小さな改善を積み上げるのも大切だが、インパクトの大きいものから改善していくのがセオリーです。

どれだけ売れ行き好調でも、変動費が大きすぎれば利益は決して出ません。固定費が高すぎると、すこし売れ行きが鈍ればすぐ赤字になります。そして、1単位当たり売上が小さいと、売れども売れども自転車操業になります。さて、あなたの事業を改善するにはどこから?

損益分岐点を詳しく

損益分岐点とは、事業が黒字になるか、赤字になるかの分かれ目となる売上数量のことです。ラーメン何杯売ったら今日は黒字とか、月間でどれくらい受注が取れれば黒字、という販売量ですね。まさに、持続可能な事業をつくるための原点がここにあります。

ご注意いただきたいのは、これは会計学の手法ではあるものの、財務諸表を用いて分析するものではないということです。現場の生の数字を使って、現場の状況を知るために用います。財務諸表をどう作り、どう読むかという「財務会計」ではなく、現場の売上・費用を把握し、どう改善するかという「管理会計」分野の概念になります。※財務会計と管理会計の違いを簡単にまとめたものがこちら。

営業現場でも、製造現場でも。もちろん管理部門でも、トップマネジメントでも。そして強調しておきたいのが、起業をするときにも。思考のスタート地点とすべきは、事業を継続できるかどうかですから、その意味でも損益分岐点が全ての基本になるのです。

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損益分岐点の算出方法

それでは、損益分岐点の算出方法をご紹介します。健全な意味で、まずはどんぶり勘定からです。詳細に、本当のところ何個売ったら儲かるのか、ということをはじき出すのではなく、まずは「ざっくり言ってどういう売上・費用構造になっているのか」を知ることが大切なのです。

最初にやるべきことは、製品の単価、固定費、変動費を算出することです。あなたの事業に合わせて、月次で計算すべきか、4半期とすべきか、年次とすべきかといった区切りは決めてください。

製品単価の算出

製品・サービス1件当たりの単価。ある事業の中では複数の製品・サービスを取り扱うのが一般的かと思いますが、さしあたってはここでは「1件当たり平均単価」を計算してください。新事業の場合は、あなたが想定している製品価格or1件当たり単価を用います。

固定費の算出

製品の売上に関わらず発生する費用。月当たり、四半期あたり、年あたりいくら、というかたちで区切りに合わせて計算。正社員の人件費や、事務所の家賃、システム使用料、設備償却費などが該当します。

変動費の算出

製品・サービスを1つ提供するたびに必要となる原材料、稼働コスト、システム使用料など。

まあ実際に数字をはめてみるのが、分かりやすいですよね。ここ数十年、日本での起業の最多数の一角を占めるラーメン屋で考えてみましょう。

こんな感じですね。東京中心部でお店を開いた場合を想定しています。製品単価800円、固定費としては賃料20万円、人件費50万円、光熱費10万円。そして、ラーメン1杯の原料費が300円。本当にザックリであることを認めますが、それでいいんです。だいたいの構造が分かればいい。これより費用が小さくなるはずがない、あとプラス何割か増えそうだな…という感覚を持てていればOKです。

これをね、グラフ化するわけです。エクセルという神ソフトがあるので、今日では簡単に売り上げと費用のグラフが書けます。もちろん、あっという間に損益分岐点も出る。

このグラフのイメージを、頭に描くことが大切です。1杯売るごとに利益(粗利益)は500円出る。月間、80万円の固定費がかかるから、毎月1600杯を売れば黒字になる…ということが分かります。

損益分岐点は事業を考える時の起点

ちなみに、25営業日でラーメン1600杯を売ろうと思うと、一日当たり64杯という数字が出てきます。これを、楽勝だと思うか、エグいなと思うかは人次第でしょう(私も判断は保留します。この損益分岐点についての解釈が、ラーメン屋で起業するかどうかの判断基準ですね。…そして、それはつまり、あらゆる事業への参入の判断基準は、この損益分岐点だということなのです。

全ての事業を徹底的に単純化すれば、売上単価、固定費、変動費の3つの関係になる。これらの関係から算出される損益分岐点こそが、事業としての採算性の判断基準。

あたらしい事業を始めようと思えば、絶対に損益分岐点を考えるべきです。もちろん、既存事業についてだって、まずは損益分岐点を皆が理解することから。その数字をみて、ここからどう改善していけばよいかを考えていくことになるのです。

たとえば、ラーメン屋さんの損益分岐点構造をみて、皆さんがすぐにも気づくのは「固定費が高いな」だと思うんです。固定費が高いって、何を意味しているか、考えてみてもらえますか?

固定費が高いとはつまり、売り上げが落ち込むと赤字になりやすいし、赤字になるとダメージがでかい、ですよね。だとすれば、一般的に、固定費が小さいビジネスの方が儲かりやすく、リスクも小さいと言えます。

同じように、考えていきましょう。もし、変動費がめちゃくちゃ高いとしたら、どうなるでしょうか。ラーメン800円に対して、もし、原材料費が600円もしていたら。

変動費が高いと、いくら売っても薄利多売になりますね。自転車操業になりやすい、と言えるでしょうか。どれだけマーケティングをして、どれだけ必死に売り回っても、まったく事業が好転しない

最後に、売上単価ですが、これも話は同じですね。単価が低いと、やっぱり自転車操業になる

かくして、あなたが良い製品・サービスを提供し続けたいと願うならば、この損益分岐点構造を改善していくことが求められるのです。お客様のために、自分たち自身のために。

損益分岐点を見たうえで、どう改善を行うのか

改善のポイントは、①固定費を減らす、②変動費を減らす、③販売数量を増やす、④製品単価を上げる、です。

固定費を減らす

日本では固定費はもっぱら人件費です。あとは賃料。設備の償却費負担もかかってくる。これらを削減すれば、構造的に儲かりやすくなります。その意味では、一時的に費用がかかっても、合理化投資をすることも有効でしょう。

固定費は事業のそもそもの「儲かりやすさ(損益分岐点を超えやすいかどうか)」を決める要素ですから、固定費の費目が高ければ、最初に手をつけるべきはここです。

変動費を減らす

製品単価を上げることは難しくても、調達はあるタイミングですぐに切り替えられますから、黒字転換を果たしたければ調達を見直す、は鉄則です。たとえばラーメンで言えば、味を落としたとか、手を抜いた、明らかに安くしてきた、と思わせないようにしつつ、購入具材から、同じくらいの顧客満足を得られる別の具材に切り替えるなどの工夫をするわけです。エビを乗せてた部分を、チャーシューにするとか。

販売数量を増やす

逆に積極策で状況を打開する策もあります。新市場の開拓や、営業リソースの増強により売上アップを目指す。

ただし、売上アップには一定の不確実性、リスクが伴います。ですので、管理会計的には/損益分岐点分析的には、数量アップというのは選択肢に入れてはいけない、という主義・立場の人もおられます。コストはやれば確実に削れるけど、売上アップは不確実である。

ともあれ、現実には経営状況の改善のための4手段のうちのひとつであるのは間違いないので、経営者目線で言えばこれも考慮事項の1つにはなるでしょう。

販売単価を上げる

一般に、モデルチェンジのときに価格の見直しをします。新機能や新商品導入にあわせ、値段を上げる。

また、支払い能力の高い顧客市場に集中していく、というアプローチもあります。単価の低い商品を停止し、高級品をハイエンドセグメントに売るようにしていけば、製品単価は改善していくことになります。

事例紹介

キーエンス

■工場のオートメーション機器メーカーであるキーエンスは日本でも突出した収益力を得ています。この高収益の第1の秘密は、徹底的に抑えられた固定費です。製造設備を持たず、外部に委託することで製品原価のほとんどを変動費化しています。損益分岐点が非常に低いコスト構造となり、非常に儲かりやすくなっています。

■第2の秘密は原価積み上げではない製品価格です。通常、製品はその製品を作るのにかかった原価に利益を上乗せして価格を決めていますが、キーエンスは製造原価(変動費)に依存しない価格で販売できるのです。なぜこんなことが可能なのでしょうか。

■キーエンスでは膨大な顧客データを集め、その上で顧客自身がまだ気づいていない潜在ニーズに応えることでオンリーワンのソリューションを顧客に与えます。こうしてできた新規製品の7割が業界初、世界初と言われています。他にはない製品のため顧客は高くても購入するためこのような価格設定が可能になっているのです。

楽しく、管理会計を実践しよう

以上が、損益分岐点の基本です。

もし皆さんが、ここまで読んで「面白いな」「簡単だな」と思って頂けたならば嬉しいです。会計学とか、数字が絡む経営理論って、それだけで嫌気されがちじゃないですか。でも、実際に触れてみれば、面白いものなんだということがわかると思います。

今回の記事を受けて、楽しそうだし、簡単そうだし、ちょっとやってみるか、と思って頂けたなら本望です。ぜひ、そこをスタート地点に、あなたの事業に経営学の知を入れていってください。

著者・監修者

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