MENU

バランス・スコアカード【BSC】の論理と使い方を経営学者が解説!

目次

バランス・スコアカード

Balanced scorecard

  • 企業の状態を、財務、顧客、業務プロセス、成長と学習の4つの視点から定義して評価するマネジメント方法。
  • 4つの視点のそれぞれを、戦略目標と結びつけて、中長期的な目標と短期的なアクションプランを設定する。
  • 目標の実現の程度をスコア化(KPI)して課題を発見し、全体のバランスをとる。

4要素が繋がり合っていることを理解し、一貫した方針を与える

関連ワード

バランス・スコアカード【BSC】とは何か

バランス・スコアカード(Balanced Score Card/BSC)とは、企業の状態を財務だけで評価するのではなく、財務、顧客、業務プロセス、成長と学習という4つの視点から総合評価し、それぞれに目標を設定、改善を図っていこうとする管理手法です。バランスド・スコアカードなど呼び方に揺れがありますが、指しているものは同一です。

古い手法とされることがありますが、それは完全なる短見。経営者目線で、戦略目標をどう現場へとブレイクダウンしていけばよいのか、その基本発想となるものです。ただし、手法をそのまま使うというよりも、頭の使い方、思考の組み立て方を、自社向けにアレンジしてこそ、力を発揮するものではあります。

その意味で、本記事では、手法をそのまま細大漏らさず解説するのではなく、BSCでの「考え方」を伝えて、皆さんなりに応用できるようにすることを狙っていきたいと思います。

バランス・スコアカード(BSC)が生まれた背景

バランス・スコアカード(BSC)は、米国ハーバード・ビジネススクールで管理会計の教鞭を執り、よき実務者リーダーの育成にも熱心であったロバート・キャプラン教授により1990年代に開発された手法です。ただし原型自体はドラッカーにみることができます。

この手法は、管理会計分野での問題意識から生まれました。管理会計は、企業のオペレーションを会計指標からコントロールして、よき経営を実現することを目的としたものです。しかし、会計情報として挙がってくる数字だけではどうしても経営の中枢的な部分にタッチできず、企業の質的な状態の改善に資することができない。数字を取り繕おうとするインセンティブも発生させてしまうことになる…といった課題感が管理会計学者に広まったのです。

そこで、会計情報が顕れてくるまでの企業のオペレーションにまで観察対象を広げて、会計情報以外のKPIを設定してやることで、管理会計の弱点を補い、企業を総合的に管理できるようにしようと改良を加えて提案されたものが、バランス・スコアカード(BSC)なのです。

そうして出来上がったものが「企業の会計的目標を達成するために、各オペレーションがどうなっているべきかにまで細かく目を光らせた総合管理システム」たるバランス・スコアカード。管理会計、経営戦略、オペレーションズマネジメントなどにまたがる総合的な管理手法です。

律義に使おうとするよりも「理屈を理解すること」

バランス・スコアカードで画像検索すると、非常に細かい表が出てきます。BSCを学び、使おうとするときの失敗原因がそこに転がっていることに、実務家・コンサル・学者の誰もが気づくべきです。表を丸暗記したり、表にはめ込んだりし始めたら、機能しない手法だからです。

ロジカルに考えて、自分で納得しながら自社向けの管理システムをデザインしていった先に出来上がるものがバランス・スコアカードです。なので、はよ全貌を見せろやと焦る方もいらっしゃるかと思いますが、大切なのは考えながら理屈を追っていくことだという私の言葉を信じてもらって、一緒に考えていってもらってもよいでしょうか。理屈でわかれば、確かに便利な手法だということが分かるからです。

BSCを作成する

最初にやるのは、自社の今年度のヴィジョン&実現したい財務成果をもとに、そこに至るためのフローを描くことです。

最初に会社のビジョンを描き出してみましょう。その上で、今年達成できる(すべき)レベルにそれを分解してみる。「発達障がいの子どもたちのための英語スクール」を掲げるなら、それを具体的にどれくらいの規模間で実現するか…といったイメージを創ります。

そのヴィジョンたるものを目標数値に落とし込んだものが財務成果ですね。売上がいくらか、利益がいくらか…といった財務成果としてどれくらいを年度のゴールとするかを決めます。

必然、あなたはその財務成果を実現するための、マーケティング上の目標も見えてくるでしょう。顧客は何人か、その顧客数に達するためにはどういうチャネルで何件くらい成約する必要があるか、離脱率は何%か…実情に沿って組み立ててみます。

今度はこれを実現するためにどういう社内オペレーションを行うか、です。営業部門にどういう活動をさせるか、顧客満足を高めるためにどんな施策を実施するか。また、長期的な視野からは、社会的責任あるオペレーションのためにも、社内の業務がどうあるべきかも考えるとよいでしょう。

最後に、経営資源のインプットを考える。オペレーションを支えるのは資源です。会社のインプットとなる人・モノ・カネの質・量を担保するためにはどうしたらよいかを考える。

どうでしょうか、こんな絵が書けたならば、確かにこれは目標実現のための手法として結構便利なものだな、と実感いただけるのではないかと思います!

それぞれのKPIを考える

次には、それぞれの活動のKPI(Key Performance Indicators)、要するに数値目標を定めます。上手では既に売上や新規入会など数値目標になっているものもありますが、あんまり前段までは厳密に「ここは定性目標だけ、数字は使わない…」とか、こだわらないことです。自分の自然な思考を邪魔しないのが一番だからです。

ともあれ、前段階で数字になっていなかったものについて、その活動の成果を具体的な数字として把握できるKPIを設定していきます。

こうして、目標達成のための各種レベルにおいて、何を実現すべきかのKPIを設定したものがバランス・スコアカードとなるのです。

事例紹介

キリン

■キリングループは経営改革を進める中で,売上など財務指標のみを目標としたシステムでは経営改革が進まないと気付きました。そこで、2004年に顧客満足度や業務プロセスなど非財務指標も戦略目標に組み込むキリン版BSC(バランスト・スコアカード)を導入しました。

■財務目標からブレイクダウンし、「お客様にとってどうあるべきか」「業務プロセスはどうあるべきか」「人材はどうあるべきか」、さらには「環境負荷面ではどういうことをすべきか」など細かな方針が立てられ、具体的な数値目標にまで落とし込まれました。

■組織が巨大になると、現場の業務が全体戦略とどのようにつながっているか実感しにくくなってしまうリスクがあります。そのため、大企業では現場の一人一人にまで数字と訂正目標の両方が与えられた方が従業員にとっても働きやすいのです。安全・衛生を必要とし、環境等にも配慮しなければならないキリンのような企業にはよく向いた管理システムであるといえます。

注意点

4層モデルにこだわる必要はない

キャプランのこの基本モデルでは、財務、マーケティング、オペレーション、経営資源の4レベル区分となっています。ロジカルによく考えられた階層構造だと思います。ただし、あなたの会社の状況によっては、この4層モデルにこだわらなくてもOKです。自社の状況にあわせて使いやすい形をこそデザインすべきなのです。

数字は目的意識を持たせるためのもの、モティベーションのためのもの

数字はメンバーの行動を縛るためのものではありません。メンバーが数字で辛くなってしまっては元も子もありません。数字はメンバーに「何をすればよいかの指針を与えるもの」であり、メンバーにモティベーションを持たせるためのものであるということを理解しましょう。

その先のto doまでデザインするかどうか

キャプラン先生や、世のコンサルタントは、BSCではさらにその先のto doまで事細かに設定せよとするのですが(それゆえに、画像検索かけるとやたら細かい表が出てくるのですが)現代社会の状況に照らすと、これはいわゆるマイクロマネジメント(細かいところまで指示し過ぎ)と捉えられてしまい、現場が動きにくくなる原因ともなります。細かい指示までくれ、という会社/人もおりますので一概にここの答えは出せませんが、KPIを与えたら、それをどう達成するかは自分(たち)で考える、というのが近年のトレンドです。

書いて満足しない

もちろん皆さん分かってはいると思いますが笑、きれいなBSCが書けることと会社が成功することには決定的な違いがあります。実行ありきであり、実行を促せるなら必ずしも細かいBSCじゃなくたっていいのです。

要するに言いたいことは、現場を動かすためにこそ、ベストな粒度・ベストな自律度で作るべきだ、ということです。BSCは一時期、下火になりましたが、その理由は「細かすぎて、作るのにヒーヒー言う割には、現場が理解せずついてこない」ためでした。そうした問題意識から、本記事では「難しくしない、細かくしない、現場で理解できるレベルに留める」を念頭に、誰もがわかりやすいチャート図を書くところまでに重心を置いてみました。

そのあたりの歴史的経緯と、利用上のポイントも踏まえて、あなたの事業のためにこそ、BSCを「バランスよく」使ってほしいなと願っております。

著者・監修者

新着記事

  • URLをコピーしました!

コメント

コメントする

CAPTCHA


目次