3C分析は、Company:自社、Customer:顧客、Competitor:競合の3つの目線から、基本的なマーケティング戦略、特にターゲット市場の選定において力を発揮する手法です。本記事では、知識として3C分析を学ぶのみならず、どうやって経営の現場で実践するのかに焦点を当てて解説します!
3C分析とは何か
3C分析は、正直、非常によくできた分析手法です。開発者は日本の著名な企業家・教育者の大前研一氏。氏が経営コンサルタント時代に使っていた手法がこの3C分析です。
3C分析は、知識として覚えるだけなら非常にシンプルなものです。
- Company:自社。
- Customer:顧客。
- Competitor:競合。
本当にこれだけのことです。マーケティング策を立てる上では、この3つの対象を分析して、最適解を見つけよう、というもの。学生さんが暗記科目として学ぶだけなら、話はここでおしまい。
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実践のコツ
しかし、3C分析を実施するとなると、固有のポイントがあります。それは、3つのCを、均質に、同じように分析してはいけないということです。
多くの人がここで間違います!
なぜなら、たいていの本は本当に3つのCは何かを書いて終わりにするからです。
経営戦略論には、この3つのCをそれぞれに「理論的に、ロジカルに、データに基づき、で分析していくための手法」が満ち溢れています。だからこそ、3C分析って、3つのCについて論理的に、ロジカルに、データを集めて分析していけばいいんだろうと短絡的に考えがちなのです。
×間違った運用法×
Companyについては、VRIO分析、バリューチェーン分析、7S分析などの社内の状況を検討する手法を用いて、社内状況をつぶさに観察する。次に、Customerについては、セグメント情報や、ペルソナ分析、共感マップなどを用いて顧客のデータを積み上げる。そして、Competitorについて、競合企業の財務情報や、製品データなどを集める。これらの膨大なファクトをもとに自社のマーケティング策を考える。
一見、合ってそうなのですが、これでは3度にわたって問う意味がないのです。わざわざ、自社、顧客、競合と3回にわたって、狙うべき市場はどこか?と「同じ問いを続ける」わけですよ。だとすれば、3回、異なる見方をしなければ、十分な問いの豊かさが担保できないのです。
従って、正しい運用法は以下の通りとなります。
〇正しい運用法〇
Company分析では、自社のパーパスを再確認し、自分たちがやるべきこと、作るべき製品を明確にする。次に、Customerについては、その製品を提供していくべき顧客を、データで明らかにし、十分な市場があるかを検討する。最後に、Competitorについては、競合と同じことをやっても有意義ではないので、競合の製品を把握したうえで、違いを作る。
今回は、3回、違う方法で問うていることが分かるでしょうか?
3度の問いが違う性質であれば、別の側面から問題を検討することができ、より多面的に問いの答えに接近することができるわけです。3度ともロジカルとデータで問うのではなく、1回目は心を問い、2回目はデータで問い、3回目は知略で問う…というように、3度、違う視点を与えてみるのです。
3度、異なる問いをしてくれれば、その問いの投げ方自体は私は色々あって良いと思っています。ここでは、私が日頃教えている問いかけのかたち「心、データ、知略で問う」を、紹介することにしましょう。
事例紹介
大塚製薬 ポカリスエット
■大手製薬企業ながら、消費者むけ飲料でも大きな成功を収めている大塚製薬。商品はご存じポカリスエット、1980年に発売しました。
■コカ・コーラやサントリー、キリン、アサヒといった大手飲料メーカーが多数存在する中で、当初「飲む点滴」という異色のキャッチコピーを付けられたスポーツ飲料という独自の商品として発売されました。
■製薬企業であるという自社の独自性(Company)と、缶コーヒーや炭酸飲料、茶系飲料、飲料水と幅広く手掛ける大手飲料メーカー(Competitor)との違いを明確に、大塚製薬は実質的に飲料分野はポカリスエット1本に絞りました。
■運動によって水分・塩分・糖分を消費するのは、もっぱら中高生(Customer)です。そうした顧客の特徴をつかみ、体だけでなく、心も潤すドリンクとして、中高生を応援するようなCMやキャンペーンを展開し、若い世代の心をつかみました。
Companyとは、心の問いである。
たとえば、スポーツ飲料を売っている会社として、マーケティング策・ターゲット顧客を考える状況を想定してみましょう。
必ず最初に問うべきなのは、Company:自社です。競合や顧客を見る前に、まず、自分たちをこそ問うべきです。
そして、自分たちについて投げかける問いの中でも、最も大切なものが、自社のミッション、ヴィジョン、パーパスです(ミッション・ヴィジョン・パーパスについての解説はこちら!)。
もちろん、自社の強み、固有技術なども問うべきですが、今日、顧客が何よりあなたの会社について問いかけることは、「あなたの会社の存在理由」です。どういうことを目的にしている会社なのか。そこが問われているわけです。
結局、そこからズレた商品を出しても、誰もが同じ疑問を口にします。
顧客・従業員・経営陣・株主・取引先「「「「「なんでこの商品出したの?」」」」」
それに対して、明確な答えを出せないならば、もうそこでマーケティングは失敗なのです。自分たちは、何をするためにここに集っているのか。ヴィジョンをこそ、最初に問うべきです。それが、ブレないマーケティングの基本方針になります。
Customerは、データへの問いである。
しかし、「自分たちはこれをやりたいんだ」と思ったとしても、そこに需要がなければ事業は成立しません。その意味では、心だけでは決定的に不十分。次にあたるべきは、データです。そこに市場性があるということを、必ず数値で把握しなければなりません。
顧客市場を分析するときには、ファクトを見る。思い込みを捨て、希望的観測を捨て、「きっと売れるんだ」などという不要な信念を一度捨て、市場があるかどうかという数字が示す事実をきちんと把握すべきです。
今日、市場データはきわめて簡単に得ることができます。ネットで検索すればいくらでも出てくるし、データ会社も豊富です。もしデータが無かったとしても、アンケートなどは数万円から実施できますから、自分たちでデータを集めることだって容易なのです。だとすれば、今日の経営においては、データにあたらない理由などない、と断言できるでしょう。
Competitorとは、知略の問いである。
データでもって、狙うべき市場が確かに十分な規模がある、ということが分かったとして、次にやるべきは、その市場で活動している競合との違いを明確にすることです。
競合と同じことをする、ということは、もちろん商売においても値下げ競争や性能競争のレッドオーシャンになってしまうという意味で避けるべきですが、経済学的にも非合理です。消費者に、多様な選択が与えられていることが自由主義経済の要です。自社の人員を使って、競合他社と同じものをつくる…などということをしても、社会的な資源の無駄遣いです。
こうした観点からすると、競合との違いを作るというのは、そちらのほうが事業として成功しやすいという以上に、経済的により充実した社会をつくるために大切なことなのです。
ですから、競合分析は、「調べておしまい」というものでもないですし、競合の財務情報を調べて「勝てる!」とか判断するものでもありません。他社との間に、どういう差をつけるのか、という具体的戦術まで考えて完了するものです。上図のポジショニング分析などはその最たるものです。市場で空いているところを埋めることができれば、事業として成功しやすいばかりか、顧客にはかつてない新しい価値が提供できるのです。
この意味で、私は、Competitorの分析は知略で行うべきだ、と言っています。データを見て合理的に考える…という以上に、戦略的思考を働かせて、相手のいないスペースを探し、取りに行くわけです。
まとめ
かくして、3度の異なる視座からの問いを重ねていくことで、自分たちがやるべきことを明確にしていくのが、3C分析の正しい使い方なのです。
どうでしょうか、すぐにでも、使いたくなってきたのではないですか?
そんな風に感じてもらえたならば幸いです。経営学の各種理論・手法は、知っているだけでは何の意味もありません。それが使われてこそ、意味をなすものです。
私は、皆さんが日常的に使えるものとして経営学を広めていきたいと考えています。
ぜひ今後も、経営学と「使える」お付き合いをしてもらえたらと願っています!
著者・監修者
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1982年生。経営学者/やさしいビジネススクール学長/YouTuber/東京大学 経済学博士
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専門は、経営戦略論・イノベーション・マネジメント、国際経営。
「アカデミーの力を社会に」をライフワークに据え、日本のビジネス力の底上げと、学術知による社会課題の解決を目指す。
「やさしいビジネススクール」を中心に、YouTube・研修・講演・コンサル・著作等で経営知識の普及に尽力中。
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