科学的管理法は、フレデリック・テイラーが提唱した生産性向上のための手法です。
数十年以上前に生まれた手法ですが、今でも科学的管理法は使われています。
今回の記事では、科学的管理法の原則から問題点、実際に取り入れている事例を紹介するので、ぜひ自社に役立ててください。
科学的管理法とは
科学的管理法(Scientific Management)は、効率的な組織運営と労働生産性の向上を追求するための管理手法です。
フレデリック・テイラー(Frederick Taylor)によって提唱され、20世紀初頭に広く普及しました。
科学的管理法が生まれた背景
科学的管理法が生まれた背景には、産業革命期の経済・労働状況の変化や課題があります。
フレデリック・テイラーが科学的管理法を提唱したのは、これらの背景の中で労働者と組織の両方の利益を追求する方法を見つける必要性を感じたからです。
テイラーは労働者の動作や手順を科学的に研究することで、最適な作業方法を見つけることを目指しました。
以下では、具体的な背景について、一つひとつ解説します。
労働者と労働条件の問題
産業革命期において、科学的管理法が生まれた背景の一つは、労働者と労働条件に関する問題が浮き彫りになったことです。
産業革命により、労働者の需要が増えた一方で、労働環境は厳しいものでした。
労働者は長時間労働や過酷な労働条件に直面し、労働の健康や安全に関する問題が顕在化してしまったのです。
労働者は低賃金や劣悪な労働条件に苦しみ、生活水準の向上と労働者の権利保護を求める労働運動が盛んになりました。
これにより、労働者の福祉や労働条件の改善への関心が高まります。
科学的管理法は、このような労働者の労働条件や福祉を改善する一環として発展したものです。
テイラーは労働者の健康や安全を重視し、労働環境の改善に取り組み、労働者が過度の負担や危険にさらされないような作業プロセスの設計や労働環境の整備に取り組んだのです。
仕事の複雑化と制御の困難さ
科学的管理法が生まれた背景の一つは、産業革命期における仕事の複雑化と制御の困難さです。
産業革命により、産業の発展が進み、組織の規模や業務の複雑さが増していきました。
従来の手工業から機械化や大量生産への移行により、作業プロセスが複雑化し、多くの人々が関与するようになったのです。
このような複雑な組織や作業プロセスを管理することは困難であり、効率的な運営を実現するためには組織全体の統制とコントロールが求められました。
科学的管理法は、仕事の複雑化と制御の困難さに対処するために生まれたのです。
科学的管理法の基本原理
科学的管理法には、基本の原理として以下の3つがあります。
- 課業管理
- 作業の標準化
- 最適な組織形態
以下で、それぞれの要点について解説します。
課業管理
科学的管理法における「課業管理(Task Management)」は、仕事を分析し、効率的かつ最適な方法で実行するための原理です。
以下に「課業管理」の要点を説明します。
仕事の分析と標準化 | 仕事を細かなタスクに分解し、各タスクごとに最適な手順を特定します。 |
訓練とスキルの開発 | 労働者に対して適切な訓練を提供し、標準化された手順を遵守するスキルを開発します。 |
労働者の配置と監督 | 労働者の能力やスキルに基づいて仕事を適切に割り当てます。 |
効果的な報酬制度 | 報酬制度が労働者の動機づけやパフォーマンスに影響を与えると考えられています。 |
「課業管理」の原則は、作業プロセスの最適化と効率化を通じて、労働者の能力を最大限に引き出し、生産性の向上を実現することを目指します。
作業の標準化
科学的管理法の原理の一つである「作業の標準化(Standardization of Work)」は、組織内の作業手順や方法を統一し、一貫性を確保するための原則です。
作業の標準化は、以下のような目的を持って行われます。
品質の向上 | 作業手順を標準化することで、品質の一貫性を確保します。 |
生産性の向上 | 標準化された手順により、作業の効率性が向上します。 |
教育・訓練の容易化 | 作業が標準化されていると、新たな労働者や研修生に対して効果的な教育や訓練を提供しやすくなります。 |
問題の特定と改善 | 作業の標準化により、問題や障害が発生した場合に原因を特定しやすくなります。 |
作業の標準化は、具体的には以下の手法やツールを用いて実施されます。
- 作業手順書やマニュアルの作成
- タイムスタディ(Time Study
- チェックリストや検査手順の導入
- PDCAサイクルの活用
作業の標準化は、組織や業務によって異なる方法で実施されます。
重要な点は、作業プロセスや手順を明確にし、一貫性と効率性を確保することです。
標準化された作業に従うことで、組織は生産性の向上や品質の確保、労働者の教育や訓練の容易化などの利益を享受することができます。
最適な組織形態
科学的管理法における「最適な組織形態(Optimal Organizational Structure)」は、組織内の役割や責任、コミュニケーションの流れなどを適切に配置することで、効率性と効果性を最大化する原則です。
最適な組織形態を実現するためには、以下の要素が考慮されます。
専門家と分業 | 組織内のタスクや業務を適切に分割し、各人や部門に専門的な役割を与えます。 |
権限と責任の明確化 | 各人やチームの役割、権限、責任を明確に定義することが重要です。 |
階層性と上下関係の明確化 | 柔軟性と適応性の確保…最適な組織形態は、環境の変化や業務の変更に適応できる柔軟性を持つ必要があります。 |
プロセスの最適化 | 組織内の業務プロセスを分析し、効率化や改善の余地がある部分を特定します |
情報共有とコミュニケーションの促進 | 組織内のメンバー間での情報共有と効果的なコミュニケーションは、最適な組織形態の実現に不可欠です |
チームの設立と役割の明確化 | 適切なチームの設立と役割の明確化は、組織内の協力とコラボレーションを促進します。 |
教育とスキルの開発 | 最適な組織形態を実現するためには、メンバーの教育とスキルの開発が重要です。 |
最適な組織形態は、組織の目標や環境に合わせて適切に構築される必要があります。
科学的管理法のメリット
科学的管理法が提唱され広まったことで、生産性の向上だけには留まらないメリットが生まれました。
とくに現代にも繋がっているメリットは、以下の2つです。
- 大量生産が可能になった
- 産業を近代化させるきっかけになった
なぜそれぞれのメリットが生じるようになったのか、以下で解説します。
大量生産が可能になった
科学的管理法によって、大量生産が可能になりました。
なぜ大量生産を可能としたのかについては、以下のポイントが関係しています。
作業の標準化 | 標準化された手順に基づいて作業を行うことができるため、一貫性があり、品質の安定した製品を大量に生産することが可能になった。 |
タイムスタディの活用 | 作業の改善や効率化が図られ、生産性が向上した。 |
専門化と労働分業 | 各工程やタスクが最適な役割分担に基づいて割り当てられ、労働者は自身の専門性や得意分野に集中し、効率的な生産に貢献した。 |
機械化と自動化の導入 | 適切な機械や装置を導入し、人の手による作業を機械に置き換えることで生産速度や品質の向上が実現し、大量生産が可能となった。 |
品質管理の徹底 | 品質の一貫性と安定性を確保することで、大量の品物を高品質で生産することができるようになった。 |
これらの要素が組み合わさることによって、科学的管理法は大量生産を可能にしたのです。
産業を近代化させるきっかけになった
科学的管理法が産業の近代化にきっかけを与えた理由は以下の通りです。
- 効率の向上
- 労働者の能力活用
- 標準化と品質管理
- 技術革新の促進
以上のように、科学的管理法は効率化や標準化、品質管理の徹底などを通じて、産業の近代化を促す効果を持っています。
科学的管理法の問題点
科学的管理法には、いくつかの問題点も指摘されています。
- 創造性や柔軟性の制約
- 従業員のモチベーション低下
- 長期的な視野の欠如
- 個別ニーズへの対応の制約
- 人間性の軽視
上記のような問題があるため、科学的管理法に取り組む際は、注意も必要です。
それぞれの問題点について、具体的に解説します。
創造性や柔軟性の制約
科学的管理法は効率性や効果的なプロセスの確立を重視しますが、一方で創造性や柔軟性を制約する可能性があります。
作業プロセスや手順が厳密に定められているため、従業員の自由なアイデアや独自のアプローチが制限される場合があるのです。
従業員のモチベーション低下
科学的管理法では作業の細分化や標準化が行われ、従業員は単調な作業を繰り返すことを求められることがあります。
これにより、従業員のモチベーションが低下し、仕事に対する満足度や意欲が減少する可能性があるのです。
長期的な視野の欠如
科学的管理法は生産性や効率性の向上を追求するために設計されていますが、長期的な視野や戦略の欠如が生じることがあります。
短期的な目標の達成に重点が置かれるため、将来の市場変化や新たなニーズへの適応が困難になる可能性があります。
個別ニーズへの対応の制約
科学的管理法では標準化や効率化を追求するため、個別の顧客ニーズに対応することが難しくなる場合があります。
顧客の多様性や個別要求に対応する柔軟性が制約されることで、顧客満足度の低下や競争力の低下が懸念されます。
人間性の軽視
科学的管理法では効率化や生産性の最大化が優先される傾向があり、従業員の人間性や個々の能力や特性が軽視される可能性があります。
人間関係や働き方の質、個々の成長や発展に対する配慮が欠けることで、従業員の満足度や組織文化の形成に影響を及ぼす可能性があります。
科学的管理法を導入している企業
科学的管理法は、大手の企業も導入している方法です。
とくに有名な企業の例として、以下2つの事例を紹介します。
- マクドナルド
- トヨタ
それぞれの事例を参考に、自社にも管理的管理法を導入してみましょう。
マクドナルドの科学的管理法の事例
マクドナルドは科学的管理法の一つである「フォードの生産方式」を導入している企業の一つです。
以下に、マクドナルドの例を挙げて説明します。
効率的な作業プロセス
マクドナルドはファーストフード産業において効率的な作業プロセスを確立しています。
具体的には、作業の分業化や標準化です。
たとえば、バンズを焼く担当、パティを焼く担当、具材を盛り付ける担当など、各作業は分担されています。
作業手順や時間制限も明確に定められ、迅速かつ効率的な製品提供が可能となっているのです。
顧客志向のサービス
マクドナルドでは科学的管理法を通じて顧客志向のサービス提供を実現しています。
オーダーシステムやキッチンの配置などが最適化され、顧客の注文から提供までのスピードを追求しています。
また、標準化されたメニューと一貫した品質を提供することにより、顧客は安定した味やサービスを期待できるようになりました。
徹底したトレーニングと品質管理
マクドナルドでは徹底したトレーニングと品質管理が行われています。
新入社員はマクドナルド独自のトレーニングプログラムを受け、作業手順や品質基準を学びます。
さらに、定期的な監査や品質検査が実施され、品質の一貫性と安定性が確保されているのです。
メニューの統合とシンプル化
マクドナルドは科学的管理法の一環として、メニューの統合とシンプル化を進めています。
複数のメニューアイテムを効率的に提供するため、一部の商品が削除されたり、似たような商品が統合されたりしています。
これにより、オペレーションの複雑さが減り、効率的な生産と提供が可能としているのです。
トヨタ生産方式は科学的管理法の進化形
日本でトヨタ自動車が発達させたトヨタ生産方式(TPS)は、科学的管理法を高度に進化させた事例として知られています。
以下に、トヨタの例を挙げて説明します。
ジャストインタイム生産(Just-In-Time)
トヨタは生産においてジャストインタイム(JIT)の原則を重視しています。
在庫を最小限に抑え、需要が発生したときに必要な部品や製品を適切な数量・タイミングで供給することを目指す生産方式です。
JITにより、トヨタは在庫コストの削減と生産効率の向上を実現しました。
カイゼン(改善)の推進
トヨタではカイゼンと呼ばれる継続的な改善活動が重要視されています。
従業員は自らの業務において問題点を見つけ、改善策を提案する文化が根付いています。
このようなカイゼンの推進により、生産プロセスの効率化や品質の向上が実現されているのです。
ポカヨケ(防止・見える化)の導入
トヨタではポカヨケと呼ばれる防止策やエラープルーフの導入が行われています。
生産現場でのミスや問題を事前に防ぐため、装置や手順に工夫が凝らされています。
さらに、問題が発生した場合には見える化され、即座に対処できる仕組みが整えられているのです。
チームワークと相互協力
トヨタではチームワークと相互協力が重要視されています。
従業員は個々の役割に留まらず、他のメンバーとの連携やコミュニケーションを通じて生産プロセスを最適化します。
さらに、異常や問題が発生した場合には、迅速かつ効果的に解決するためにチーム全体で取り組むことが求められます。
科学的管理法は多くの場合メリットになる
科学的管理法は、多くの従業員を抱えるような企業であれば、ほとんどのケースでメリットになるでしょう。
生産性の向上も期待できるので、売上アップにつながる手法と言えます。
ただし、科学的管理法を行うにあたっての問題点と指摘されている部分もあるので、実際に取り組む際には、十分に注意してください。
こちらの動画でも「科学的管理法」について説明しています!ぜひご覧ください。
著者・監修者
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1982年生。経営学者/やさしいビジネススクール学長/YouTuber/東京大学 経済学博士
詳しい講師紹介はこちら website twitter facebook youtube tiktok researchmap J-Global Amazon
専門は、経営戦略論・イノベーション・マネジメント、国際経営。
「アカデミーの力を社会に」をライフワークに据え、日本のビジネス力の底上げと、学術知による社会課題の解決を目指す。
「やさしいビジネススクール」を中心に、YouTube・研修・講演・コンサル・著作等で経営知識の普及に尽力中。
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