中川先生の優しいビジネス研究。高齢者用の水着をデザインせよということで、本日はですね、立命館の学生諸君が考えてくれた高齢者用の水着のデザイン案というものを皆さんに紹介しながら、そこからビジネスをやる上で大切になってくる、デザイン力って何なのかっていうのを皆さんにお届けしたいと思います。
デザイン力
実際のところ、ビジネスをしていく上で、デザインってすごく大切な力なんです。あなたが考えていることを具体的な形にして人に見せる、説明することができるようになる力。これっていうのはですね、ビジネスやってく上で本当に大切な上に、そしてこれがとっても大切なことなんですが、実は訓練すれば誰しも、デザインの力というのは磨くことができるんですね。であれば、やっぱりビジネスパーソンの皆さんにはデザイン力を身につけてもらいたい。
そのためにどうやったらいいのかっていうのを、この立命館の学生諸君の答案から学んでいただきたいと思います。
ここでポイントになってくるのは、「理由があって、形がある」んだっていうことです。
これがとにかく重要。全てのデザインされた形には、ちょっとしたくぼみだったりちょっとした出っ張りだったり、全てにその理由があるんです。なんとなく見た目がいいんじゃないかな、そんなことのためにわざわざそういう変わった工夫はしないんですね。デザインというのは、全て理由があってその形になってるんです。
前回、概要欄で紹介したような動画で説明したときには、社会ニーズを、ニーズをきちんと理解してそのニーズを形にしましょうって言ったんですけれども、その例をまたこの場でもう一つ紹介したいと思います。
社会ニーズに答えたデザインの例:コップ
皆さんこのコップなんですけれども、なぜかコップの口が半分切れてます。なんでこんな形になったのでしょうか。皆さんぜひ考えてみてください。
ちなみにこれが優れたデザインだと言って取り上げて、ここに製品開発の極意を見出したのはですね、専修大学の三宅秀道先生という方です。日本を代表する製品開発論の先生のネタをここで借りてお話をしてるので、ご興味がある方はぜひその先生の方もご覧いただきたいです。ともあれ、この形、どういう意味があるんだと思いますか?
答えは、鼻に当たらないようにするためです。この世の中にはですね、例えば首を痛めてしまっているとか、病気で寝たきりであるとか、それでぐっと起き上がってるとか、首辺りに首周りの筋肉が弱いとか、そういった問題があって、自由に首を曲げられなかったり姿勢が自由に取れなかったりするような人というのはいらっしゃるのです。
そういうときに頭を反らせることなくコップを傾けるためには、鼻が口に当たってしまうので、鼻のところがなければいいわけです。というわけで、頭を反らせずに、飲み物を飲むことができる。病気やけがで姿勢を変えられない、首を曲げられないときに飲み物を楽に飲めるためにデザインされている介護、病院で利用されているコップだったりするわけです。
このように、形には全て理由があるんです。ですから、デザイン力を高めようと思ったら、皆さんはモノを手に取ったら、形が何でこの形なんだろうっていう理由を考えてみる。そうするとその形に埋め込まれた理由、すなわち社会ニーズが見えてきますから、そんなことを繰り返してると、皆さんもう製品デザイン商品をデザインする力というものが身に付いてまいります。
そんなわけで、実際にこういうニーズがあるから、だからこの形なんだよねって上手に社会課題、理由を見つけてもらって、それを形に落とし込んだわけです。
さてお題はこれでしたね、高齢者用の水着、果たして学生たちはどんなものを考えてくれるのか。
●学生のアイディアその1
こんな感じですね。理由があってこんな形になってる。ぱっと見どうですか、皆さん絵にしてもらうとすぐわかるでしょう。なかなか良い商品かもしれない良いアイディアかもしれないなって、皆さんお感じになられるはずです。
これが絵にするっていう力ですね。
口で、こういうふうにして、と語るよりも、絵で一発で語っていただいた方がわかりやすい。この学生さんがどういったところに注目してこの形にしたのか、ご高齢者になったら体のラインが浮き出るのが恥ずかしいのではないのか、なので体のラインが浮きでないような、少し余裕のあるシルエットにする。それから、体が冷えると病気になる原因になるので、保温のために上半身を全身覆って、素材も保温性の高い素材にする。
第3には、滑って転んでしまうリスクも高いので、滑らないように、足にはしっかりシューズやソックスになるようなラバー製のそういったものを履くなどして、滑らないようにする。さらに、トイレが近くなってトイレで脱ぐのが大変であるので、トイレをしやすいような上下セパレート型で脱ぎやすくする。さらにはその着脱が容易なファスナーにする。
そしてこれも大切ですね。かっこ悪くならないようにする、どうしてもこういった要素を満たすとなんだか野暮ったいデザインになるので、なかなかこの学生さんお上手じゃないですか、野暮ったくないスマートなデザインにする。
というわけで、こういった社会ニーズ、こういった理由を念頭にじゃあ形をどうやってすればいいのかな、というふうに、こうやって形にしてもらうと一目瞭然じゃないですか。この形、正解だなって思える方結構いらっしゃるじゃないですか、というわけで、形にすることはとっても大切ですし、理由をしっかり押さえて、すなわち社会ニーズがどういう社会ニーズなのかをしっかり押さえて形にすること、これはとても上手な一つの典型的な解答例ではないかと思います。
●学生のアイディアその2
こちらは絵が上手だった人なんですけれども、ぱっと見て、これ素敵なデザインかも買いたいかもって思える人もいますよね。
でも、これも先ほどの商品案とアイディアとしては近いんですよ。脱ぎやすく、着脱が容易になるようにファスナーになっていたり、後ろ側がスリットになっていて、こう開くのでとっても着やすい。この着やすさっていう要素に注目しながら、それをスマートなデザインに落とし込んでるってことで、なかなか上手じゃないですか。
しかもこの体の体型を隠すような、末広がりなこの辺が広がっているので、腰回りがみっともなくならないという形で、スリムに見せながら、綺麗なシルエットにしながら、着脱が容易ということを実現するものということでかなり上手なデザインだと思います。
さらに言いますよ、やっぱりこの学生さんも、見た目をすごく重視して綺麗なデザインにまとめてくれている。例えば経営者さんやプロジェクトリーダーから、自分が作りたいのはこういうもんなんだけどっていうのをぱっと出していただいたら、たちどころに仲間たちは自分たちのゴールを見出すわけです。これを作るんだ、これを作るためのプロジェクトなんだって、それを理解できますから開発チームとしてはとっても動きやすくなるわけです。
このわかりやすく表現できれば伝わりやすく、仲間にも、クライアントさんにもみんなにとってはわかりやすくてとっても良いということが起こるわけです。やっぱりこのデザインの力はとっても大切ですね。
●学生のアイディアその3
でも、それっていうのは、絵が上手いっていうことを意味してるわけじゃないんです。絵が上手いからえらい、下手だから駄目ってわけじゃなくて、この絵でいいんです。この絵にこんな感じに説明文が書かれれば、皆さんもこの商品はたちどころにわかりますよね。
普通の水着って、片足で立って履かないといけないのでどうしてもふらついてしまったりして危ないとお子様だったりあるいは私達普通の成人のあの健常な男性女性であったとしても、やっぱ片足で必死になんとか履きようとするのがすごい難儀しますよね。
そこで、側面ジッパーでぐってあげれば側面でパチッて止めてぐっとジッパーを上げれば履けるということで、あのこの子のアイディアはとってもわかりやすくていいですね。
そして、ご覧の通りです。私が強調したいのは、絵の上手い下手じゃないんだということ。伝わればいいんです。
彼の絵は、しっかり人に伝わる内容になっています。これでいいんです。ですから、どうか皆さん、社会人の皆さんにもこのスキルを身につけてもらいたいんです。絵がうまくなってほしい。まあ、やっていくうちに絵もうまくなりますよ。でも絵がうまくなったからいいのではなくて、自分なりの伝え方の技術を磨くわけです。
絵なんてこれぐらいの感じでいい。ごめんね、下手って言ってるわけじゃないですよ。絵なんてこんな感じでいいので、文章も含めて、ぱっと相手に自分が考えてることを伝えられる。これってとっても大切な力です。
まとめ
そんなわけで、もう皆さんおわかりですね。わかりやすく伝えるって、確かなビジネススキルなんです。そのためにぜひ皆さんにはこのデザインの力、デザインってどうやってやるのかそれをぜひ皆さんには学んでいただきたいです。
やり方はいたってシンプル。その製品の形を決めるための社会ニーズ、どうであるべきどうでなければならないどうであってはならないというような理由をしっかり集めて、その理由を形に落とし込んでいくということです。
これっていうのは、度々練習していく、あるいはいろんな商品を見たときにここの形の理由は何なのかなって考えていく中でどんどんどんどん磨かれていくスキルです。決して先天的なセンスではなく、練習によって身に付く力です。
それを通じて皆さんは、美的に何が美しく、何が美しくないのかっていうモノを見る目線も磨かれてくるはずです。ですから、ぜひチャレンジしてほしいんですけども、まずは最後にもう1回この原点を押さえておきましょう。
理由があって、形があるのです。理由のない形はデザインではない。それは単なる余計な装飾になってしまう。
というわけで、製品デザインによって大切なこと、理由を形にする。すなわち社会ニーズを形にするという点を、しっかり押さえておいてください。
著者・監修者
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1982年生。経営学者/やさしいビジネススクール学長/YouTuber/東京大学 経済学博士
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専門は、経営戦略論・イノベーション・マネジメント、国際経営。
「アカデミーの力を社会に」をライフワークに据え、日本のビジネス力の底上げと、学術知による社会課題の解決を目指す。
「やさしいビジネススクール」を中心に、YouTube・研修・講演・コンサル・著作等で経営知識の普及に尽力中。
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